2025年7月15日火曜日

小学生の時の記憶と臨床


専「もともとアロプリノールとか、レバミピドとか、オパルモンとか、

  メチコバールとか、ファモチジンとか、

  色々入っていますけど、入院中は続けた方がいいんですかね?」


T「そうだね、不要な薬は整理整頓してあげるといいかもね。


    外来だとどうしても症状に応じて、対処療法的に薬が足し算されてしまうから、

   ポリファーマシーになる傾向があるよね。


  患者さんも薬が多くなってきて、何のためにのんでいるか分からないけど、

  「一応ください」って、お互い薬のやめ時が分からなくなってしまう。

  外来あるあるですね。


  自分は、

  入院した時よりも、退院する時の方が整っていること

  を心がけています。

  

  もちろん、病気によっては難しいこともあるけど、

  この意識は大事だと思います。


  例えば、


  人生の終末期にいる超高齢者に対して本人、家族とACPを行う

  ポリファーマシーで薬が余っていた人は、薬を整理する(分3→分1へ)

  誤嚥性肺炎を繰り返している人に嚥下リハビリを行い適切な食形態を見極める

  さらに退院後もそれを継続できるようなシステムを整える


  フレイルでADLが落ちてしまっていた人にリハビリをしっかり行う

  外来では分からなかった人となりを入院中にじっくり聞く

  実は便秘で困っていたら、便秘に対する薬を調整する

  HTやDMにどんな食事がよいか分からない人がいたら、栄養指導を行う

  吸入がうまくできていない人がいたら、吸入指導を行う

 

  みたいな感じで、


  入院した時よりも退院時の方が、むしろ整っている!

  という状態を目指します。


  入院した病気をよくすることは当たり前で、

  それがしっかりできたら合格点ですが、

  せっかくの入院をそれだけで終わらせるのは勿体無いです。


  入院は、患者さんにとっては普段接しない医療に濃密に接する時間です。

  その時間は実はとても貴重なのです。

  

  ただ、病気を治すだけではなく、

  入院してよかったと思ってもらえるように、できることをやりましょう。



  小学校の遠足で登山の時に口酸っぱく言われていましたよね。 

 

  遠足に行く前よりも、

   行った後の方がきれいな山になるように・・・と」


専「え?

  言われたことないです。先生のところは田舎だからですかね?」


T「・・・・・。」

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専「DNARはとったことは何度もありますが、

  ACPをちゃんとできる自信がありません。どうしたらいいですか?」


T「そうだね、ACPの本はたくさん出ているけど、

  あなたのACPはなぜうまくいかないのか?っていう本知ってる?

  


専「あー知ってます。途中まで読みました。」


T「この本は今までのACPの本の中で、ずば抜けて素晴らしいです。


  自分の実践していたこととも重なりますし、

  自分がやってこなかったこともたくさん書かれていて、

  ACPはこうやればいいんだ〜ってなる本です。


  現時点でのACPの答えみたいな本だね。」


専「そうなんですね、読みます」


T「でもね、教育的にはどうなんだろう・・・っていつも思うんだ。


  学びって、答えを知ることじゃないよね?


  よく分からないけど、試行錯誤して失敗して、

  自分なりに何が失敗の原因か考えて、

  違う方法を試して、また失敗して・・・の繰り返しが学びだと思うんだよね。


  小学校の夏休みの宿題の問題を解く前に、いきなり答え見たら怒られたでしょ?


  答えを見る前に自分で考えなさいって


  それと同じような構図なんだよね〜


  自分はACPの本なんてない時代から実践して、

  ようやく自分なりのやり方に辿り着いた!と思ったら・・・

  あの本が出て衝撃を受けました。


  同じようなこと言っている先生がいると。 

 (もちろん中川先生のレベルには遥かに及びませんが)


  だから自分はこの本の内容が腹落ちできるまでに15年かかりました。

  でも、今の先生達はあっという間に同じレベルに到達できる。


  それが学びとしていいのか、よくわかりません。

  もっと失敗した方がいいんじゃないかな〜って思う時もある。


  ある先生は初めてACPをしたら、

  「なんでお前にそんなこと聞かれなきゃいけないんだ!」

  ってキレられたことがありました。

  

  そしたら、じゃあ、なんでその患者さんは怒ったんだろうって考える。

  その次は同じ過ちは繰り返さなくなる。


  そうやって失敗は成長へとつながっていきます。

  

  ACPのいいところは、失敗したとしても生死に関わらないことです。

  そして何度でもやり直せる。


  何度も失敗しては、振り返り、自分なりの話し方を身につけていくのが、

  学びだと思うんだけどね。

  

  その到達点に至ったと思ったら、

  あの本を読んで答え合わせするのがいい気もするね。」



H「でも・・・


  現時点で最もいいと思われる方法を実践して、

  さらに自分なりにいい方法にブラッシュアップすればいいんじゃないですか?」



T「確かにそうだね。  

 

  ACPは知識ではなく、技術や態度領域の問題だから、

  知っていることと、実践できることには大きな隔たりがある。



  あの本の内容は、空手でいう型ですね。球技でいうと綺麗なフォーム。


  変な癖を最初からつけると、修正するのが大変だから、 

  まずはしっかりした型やフォームを叩き込んで、

  そこからさらに改良すればいいんだね!


  よし、読んでいいよ!」  


専「読む本いっぱいあるなぁ・・・」


  

  

2025年7月13日日曜日

アルコール離脱 〜予防すべきか、早期発見で対応すべきか?〜

アルコール離脱症候群


一度、起こされると大変なので予防したくなるのが、医療者の本音ではないでしょうか


そこそこの量のアルコールを常飲している方が入院した場合、毎回予防していますか?

それとも、離脱を早期に発見して、セルシン打てばいいんじゃないですか?派でしょうか


up to dateではroutineの予防は推奨されておりませんが、
多くの医師がroutineで予防してるよねって書かれています


セッティングにもよりますが、メリットとデメリットを考えた上で選択したいものです




アルコール多飲の習慣のある人が
何らかの病気や状態で入院した場合に考えることは

①離脱を起こしそうな人か?

②あらかじめ予防するか?

③予防するなら何をどのくらい、どうやって予防するか?

④すでに離脱が起きているか、どのくらいの重症度かどう判断するか?

⑤離脱したらどうやって治療するか?




離脱を起こしそうかどうかは、アルコールの量だけで決まるわけではありません

飲酒量なんて、いい加減です 笑


アルコールに関しては、病歴が当てにならないことを知っておきましょう


先日あった事例をご紹介します

独居で意識障害で運ばれてきた人がおりました

近所の人や家族から話を聞くと、あの人はもともとお酒は飲めない人で
お酒を飲んでいるところは見たことがないという情報でした


ですが、いざ目が覚めて確認してみると、
数年前から不眠になり、
眠るためにお酒を毎日飲むようになったとのことでした



ですので、病歴だけで飲酒の有無をスクリーニングしてはいけません
γGTPやMCVのデータも総合して考える必要があります





離脱を起こしやすいかどうかのツールとしてPAWSSがありますが、
多くの医師は直感で決めているのではないでしょうか


離脱される可能性が高いかどうかだけではなく、
離脱された場合の状況を想像することも大事です


離脱によって原疾患に多大な悪影響を与える場合は、
閾値低めになると思います


一方でBZPが入ることによるデメリットも考えます

誤嚥性肺炎やせん妄、傾眠によって食事が取れなくなる可能性もあります

入院が長引くというデータもあります


不要なBZPは避けたいものですね


予防する場合は、ワイパックスの定時内服(fixed schedule)が多いです

予防をしない場合は、symptom triggeredやfront loadingを用います



ところで、なぜワイパックスなんでしょうか?

アルコール多飲の人は肝機能が低下している症例が多く、
ワイパックスが肝代謝ではないためです

セルシンと比較してみます



こういったfixedではなく、離脱が起き始めたら治療をする方法が
symptom triggerです


離脱が起き始めたかどうかは、CIWA-Arで点数をつけます

バイタル測定時にCIWA-Arもつけるイメージです 

離脱やせん妄は火をイメージして、
治療は火の強さに応じて消火活動する感じです




CIWA Arが高くなってきたら、セルシン使ってCIWA Arを目標の点数まで下げます

最初から「がつん」と抑えこむ戦略は
Front loadingと呼ばれます


どちらもメリット、デメリットがあります




たまに盛り上がってしまった離脱の場合、
セルシンをいくら打っても効かない人がいます

途中でセルシンが水に見えてきます 笑


その場合は難治性のDTとしてBZP以外の薬を使います



呼吸抑制が少ないので、プレゼデックスが使いやすいです

一方で難治性DTではなく、他の病態の可能性も考慮します



まとめ

多量のアルコール常飲者が入院した場合、
離脱予防をするかを検討する
→メリット、デメリットを考えて最初から予防するか、症状に応じて消火活動をするか考える

離脱を早期に発見しないと、なかなか治らない
→CIWA Arスコアを治療目標として治療する

難治性の場合はBZP以外の薬を使う
→呼吸抑制に注意


2025年6月13日金曜日

TSSの診療の3つのポイント

今日の國松の内科学は「TSS」の会でした

TSSについては、ついつい語りたくなってしまうので
こちらで語らせてください 笑


TSSは非常に稀かと言われると、あまり稀という印象はないです
TSSは見逃されていることが多く、診断がされていないだけだと思います


TSS含めた毒素病態はグラデーションがあるので、
軽症例では典型的な症状が揃わないことが多々あります

例えば落屑が来ない症例もよくあります



TSSは臨床診断であり、
診断したことがあれば容易に診断できますが、
診断したことがないと自信をもってTTSと診断することは難しいでしょう


原因としてはタンポンが有名ですが、
典型的なタンポンからのTSSを見ることはあまりないです(経験では一例のみ)

歴史的な文脈としては大事かもしれませんが、
臨床では月経関連と非月経関連型を分けることは意味がありません



ありとあらゆるfocusのブドウ球菌感染で
TSSが起こり得る

ことを知っておくことの方が意味があります



よくあるのは蜂窩織炎や術後感染からのTSSですが、

こんな場所の感染でもTSSでも起こりうるんだという事例を紹介します


・乳腺炎として内服の抗菌薬をのんだ後から、全身が赤くなり、
 アナフィラキシーショックとして対応されたが、改善なく血圧低下あり
 乳汁のグラム染色にてGPC cluster あり
 緊急乳房マッサージで感染乳汁をドレナージ
 →乳腺炎からのTSS

・お尻を焚き火に近づけ過ぎてしまい、お尻を火傷してしまった若年男性
 2度熱傷であり、毎日洗浄して対応していたが、
 日に日に腎機能が増悪し、やや血圧が少しずつ下がってきた
 よく見ると全身がうっすら赤い・・・
 緊急で熱傷の黄色壊死組織をきれいにデブリしたら、血圧はスッと上がり、
    創部から黄色ブドウ球菌が検出された
 →熱傷からのTSS

・副鼻腔炎で入院した中年女性
 夜中にショックとなり、全身がうっすら赤くなっていた
 夜間ではあったが耳鼻科Drに来てもらい、緊急副鼻腔のドレナージ
 →副鼻腔炎からのTSS

・発熱、全身の筋痛、下痢で入院し、レジオネラ疑いだった高齢女性が、
 夜中にショックになった
 太ももの痛みを最初から訴えており、USを当てると筋肉内に膿瘍形成あり
 →化膿性筋炎からのTSS

・インフルエンザ感染後に原因不明の敗血症性ショックで転院搬送された中年女性
 当院到着時、喉の痛みとstridorあり、全身赤く充血あり
 アナフィラキシーとしてアドレナリン筋注したが、改善なし
 挿管した際に喉頭蓋腫脹あり
 挿管後に喉頭蓋のぬぐい液のグラム染色にてGPC cluster
 後日、手指の落屑も出現
 →喉頭蓋炎からのTSS


このようにどんな場所でも毒素産生するタイプの黄色ブドウ球菌が感染していれば、
TSSは起こりえます


TSSの探し方のポイントは、
うっすら赤い全身の皮膚に気づけるかどうかです


「White Island in the red sea」と教えていましたが、
これは本来、デング熱の皮疹を示唆する皮疹です


デング熱の皮疹は、
真っ赤なの海の中にぽつりぽつりと、小さな白い抜けた島があるように見えるため
White Island in the red seaと呼ばれます



IDCases Volume 38, 2024, e02072



TSSの場合は、全身が真っ赤ですが、その赤さが「うっすら」なのです


例えばこの皮膚赤いと思いますか?





うっすらなので、赤いことに気がつけないことが多く、
よくわからない敗血症として治療されていることがあります



「何となく赤いかもしれないが、本当に赤いのか?」と思ったら、
皮膚を指で押してみます




皮膚を押すと、押した部位が白く抜けることで、
赤い海に白い島が現れます






なのでこの白い島は自分が作りだす「人工島」です


というわけで、
White Island in the red seaではなく、
White Artificial island  in the red seaなのです!


この所見があると、TSSを自信を持って診断できるようになります



TSSは臨床診断なので本当にTSSだったの?と後世に言われること必至な疾患です

そのため、証拠としてWhite Artificial island  in the red seaを動画で残しておくことが重要です



そして、もう一つの証拠としてブドウ球菌の存在証明をします


普段の敗血症診療では、検体を取らないような部位からも
TSSを疑った場合は、ブドウ球菌の存在証明のためにグラム染色や培養を行うことがあります

例えば、咽頭ぬぐい液、膣分泌液、皮膚切開部位からの滲出液、創部培養


TSSの本態は毒素であり、菌が身体中に飛び散り悪さしているわけではありません
悪さしているのは、毒(スーパー抗原)です

そのため、血培はほとんど生えません



TSSの証明のためにも、ブドウ球菌の存在証明をしておきたいところです




TSSの診療に関して2つピットフォールがあります

1つ目は、アナフィラキシーとの鑑別が難しいことです


アナフィラキシーもTSSも見た目は同じです
全身赤く、下痢をしていて、充血していて、ショックバイタルです


何か投与された後に発見された場合は、
もはやアナフィラキシーとして対応するしかありません

TSSとアナフィラキシーの鑑別はその時点では不可能です
アドレナリンの反応性と時間経過でしか分かりません

大事なのは、TSSだと思っても
最初はアナフィラキシーとして対応することです


当院ではTSSが有名になり過ぎていて、
普通にTSSが鑑別で出てくることは素晴らしいのですが、
アナフィラキシーだった症例がTSSとして対応されていたことがあり、
危ない事例がありました


TSS疑いでICUに入り、MEPM、VCM、CLDM、輸液負荷、
NAdが投与されていましたが、いまいち改善が悪く、

暴露源は不明でしたが、アナフィラキシー疑いでアドレナリンを筋注したら、
すぐに赤みはひき、血圧は上がりNAdも終了できました

もちろん、次の日も何の症状もなく退院となりました
TSS疑いで治療していたら、
この人は何日、入院と抗菌薬投与されていたことでしょう・・・



TSSをアナフィラキシーとして対応することは仕方ありません

というよりむしろそうするべきですが、

アナフィラキシーをTSSとして対応してはいけません


なぜなら、アナフィラキシーはアドレナリン筋注1発で治癒が可能だからです

TSSとして対応し始めると大量の輸液負荷やNAdが投与され、
抗生剤が大量に入り、CVやAラインが入り、がっつりICU管理となります


そして、アドレナリンの投与が遅れることで、
アナフィラキシーが難治化して治りにくくなります



一番難しいのは、
救急車でやってきたアレルゲン不明の謎のアナフィラキシー疑い症例です

アドレナリンの反応性が悪い場合、難治性のアナフィラキシーなのか、
TSSなのかの判断が難しい時があります


その場合は、両睨みで診療を進める必要があります

TSSかもしれないので、ドレナージやデブリができるところはないかを探します
ブドウ球菌がいそうな場所から培養やG染色を行います
連鎖球菌を疑うなら、ASLOも出します
アナフィラキシーの傍証として、トリプターゼを測ったりもします
病歴でアナフィラキシーが起こるような暴露がなかったか確認します
蜂に刺されていないか、髪の生え際を探します


というわけで、TSS診療の1つ目のピットフォールは
アナフィラキシーとの鑑別が難しいことです


極論ですが、TSSの診断基準の参考に、
「アナフィラキシーとの鑑別が難しいことが多々あり、
 アドレナリン筋注の反応が悪いこともTSSを疑う根拠になる」
 という記載があっても良いのではないかと思ってしまいます


それくらいTSSが発見される状況の前には、
何かしらの暴露(多くは抗菌薬や造影剤、輸血)が多いのです



TSS診療の2つ目のピットフォールは、

「こんなちょっとした傷や膿でショックになるかな〜」と
 ドレナージをためらってしまうことです

TSSを知らないDrだと、こんな小さな傷や膿ではショックにならないと言って、
ドレナージをしてくれない人もいます

正直、とても困るので文献見せたりして何とか説得しましょう 


上記の症例のように、緊急乳房マッサージや緊急で熱傷部分の壊死組織除去、
緊急副鼻腔ドレナージ、外科手術後の創部感染の緊急ドレナージ、緊急タンポン除去が
必要になることがあります


問題になるのは、菌量ではなく菌の存在です
菌量を減らすというより、消し去らないといけないイメージです

上司には「1匹でもいたらTSSになると思え」と言われてきました


逆にドレナージが完了すれば、スッと全身状態が良くなります

このスカッとした軽快の仕方が、TSSらしさを物語っています

逆にドレナージがされなかった場合やドレナージができない蜂窩織炎、
菌血症症例では、治りが悪い印象があります


TSS診療はいかに早期に発見し、
早期にドレナージができるかどうかがポイントです

抗菌薬にクリンダマイシン入れて、満足していてはダメです


まとめ
・早期発見のためには、
White Artificial island  in the red seaを積極的に探し診断の証拠として記録しておくこと

・早期治療のためには、
1匹でもいたら起こりうるのだと思いながら、
ドレナージやデブリするべき場所や除去できるデバイスがないか探すこと


・そしてアナフィラキシーが否定できない状況であれば、躊躇わずに、アドレナリンの筋注を行うこと

この3つがTSS診療の肝だと思っています



2025年5月28日水曜日

「國松の内科学」の正しい読み方

 最近、当院で流行りの勉強会があります


それは・・・


「國松の内科学を読んでツッコミを入れる会」です 笑



今、巷を賑わせている話題の本ですが、

この本を一番、味わえる読み方をお伝えします


「國松の内科学」は一人で黙々と読んではいけません



一人で読むのは本来の読み方ではなく、

みんなでワイワイ議論したり、ツッコミを入れながら読むのが、

この本の正しい読み方だと思います


映画を見終わった後に感想を言い合う、あの感じに似ています


「國松の内科学を読んでツッコミを入れる会」では

学生さんから初期、専攻医、7〜20年目、院長!?まで年代関係なく参加しており、

30分の間で一つの章をその場で読み、途中でツッコミを入れていきます


例えば、原発性アルドステロン症の章では、

スクリーニングを積極的にやる派とやらない派の意見が繰り広げられたり、


ACTH単独欠損の章では、

ACTHの検査の取り方の記載をして欲しかったという意見がありました


ACTHは室温で保存すると、測定値が低値になることがあり、

意外に知られていないけど重要なので、それを書いて欲しかった・・・



といった感じで、自分がこの章を書くなら、

これは記載する!みたいな感じで自分でさらに作り上げていきます


辞書のように分厚いですが、辞書のように使わずに、

叩き台として使うのが良いかと思います



この本は「國松の内科学」ではなく、

「自分の内科学」にブラッシュアップしていく本だと思います




外来ベースの疾患が多く、

ブラックボックスになりがちな外来診療を知る機会にもなり、

ディスカッションが盛り上がります



「國松の内科学」は内科を10周くらいしたベテランや中堅に特に刺さります

研修医や専攻医には刺さるところもあれば、ピンとこない部分もあると思います


学生さんにとっては、いきなりRPGの攻略本を読むような感じになるかもしれません 笑


初学者の方は教科書も読みつつ、

比べてみると一番勉強になると思います


「國松の内科学」は王道の教科書ではなく、アンチテーゼ的な内容もあり、

教科書には載っていないことも書かれています

(ほとんど参考文献がありません 笑)


あえて議論を巻き起こそうとしか思えない記述もあり、とても議論しやすい本です


國松先生は、この病気をこんな風に捉えているのか〜

と知ることができるだけでも、ありがたいです


読んでいて、笑ってしまうこともあります(特に「上部消化管出血」)



個人的には、毎週、この勉強会が楽しみです

週間ジャンプを読むような待ち遠しさがあります



一人で読んでいるみなさん、

仲間と一緒にツッコミあう会を試してみてはいかがでしょうか?






2025年5月7日水曜日

長大な脊髄病変に出会ったら

40代女性 主訴:左下肢の痺れ、歩行困難  ※症例は架空です

生来健康な会社勤めの方


現病歴:
来院の2週間前から背部痛や腰痛、季肋部周囲の痛みが出現

腹筋を始めたので、そのせいだと思っていた

その後も痛みが続き、夜間も眠れない程になった
だんだん、左足に痺れや感覚鈍麻が出てきた

近医整形外科受診し、ヘルニア疑いと言われ、
ロキソニン、リリカを処方された

痛みは改善したが、尿が出なくなった

リリカのせいと言われリリカを中止し、尿カテが留置された

リリカ中止した後も尿意を感じず、
歩くのも困難になってきたため、精査目的で来院


診察では四肢の腱反射が全て亢進しており、
バビンスキー・チャドック反射も見られた

下肢三重屈曲現象もあった

MMTは左腸腰筋が4、
他の左下肢のMMTは5-であった

感覚ではサービカルラインを認め、
Th1以下で痛覚・冷覚・触覚が低下していた

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緊急で撮像した単純MRIにて、
頸髄と胸髄に長大な脊髄病変が見つかりました

腰椎には病変はありませんでした


上記症状以外にヒントはありません

既往もなく、家族歴はありません
アルコール飲酒はなく、内服は何もありません

SLEやSS、RAを想起させるようなROSはありません
視覚や視野の異常もありません

皮疹もありません
血液では炎症反応上昇はなく、梅毒・HIVは陰性です

全身のCTでも特記すべきことはありません


この後、どのように診断を詰めていきますか?
治療はどうしますか?


ミエロパチーを疑った場合、
緊急で手術が必要になるような脊髄を圧迫している病変
(血腫・膿瘍・骨折・椎間板ヘルニア)がないかの確認が必要です


そのため、MRIが撮像されますが、
今回は圧迫病変はなく、脊髄内に病変を認めました



ミエロパチーの鑑別のためには

①発症様式と時間経過:超急性、急性、亜急性、慢性

②脊髄内の分布(短軸)

③病変の長さ(長軸)

が重要になります


脊髄の生検ができないため、
MRIでの画像所見と脊髄以外の病変、自己抗体から詰めていく必要があります




病歴の中でも時間経過は非常に重要です

いつも以上に詳細な病歴をとりましょう



脊髄病変は、原因が特定できないことも多々あります

その場合、病名は特発性横断性脊髄炎になりますが
特発性というためには、とことん調べる必要があります


さらに、最初に診断がつかなくても、
治療経過中に判明することもあり、診断の見直しが必要です


長大な脊髄病変の場合、まず想起する疾患はNMOSDです

NMOSDの診断には、抗アクアポリン4抗体が重要です

1週間くらいで結果が判明します


抗アクアポリン4抗体のELISA法は
コマーシャルベースで測定できるようになったことはありがたいのですが、
CBA法に比べると感度が低いという問題があります


そのため、ELISA法で陰性の場合は、CBA法で提出する必要があります


CBA法も陰性の場合、抗MOG抗体や抗GFAP抗体を提出するか検討します



MRIはできれば造影も行います

造影効果の有無でも鑑別が絞ることができます


各疾患ごとに分布や造影の特徴がありますので、
それぞれの疾患で見られる〇〇サインがないか確認します










脊髄サルコイドーシスの診断は非常に難しいです

ポイントは脊髄以外の部分のヒントを見逃さないことです

そして、診断のためには、
ヒントがなくても積極的にサルコイドーシスらしさを探しにいく必要があります

NCSや生検、ブロンコで診断がつくことがあります


まとめ
・長大な脊髄病変は、病歴、画像、抗体で鑑別していく
→特に造影MRIの読影が大事
 ステロイド前に血液と髄液をたくさんとっておく

・最初に診断がつかなくても、治療経過や時間が経てば診断がつくことがある
→常に診断の見直しを

・炎症性脊髄症と非炎症性脊髄症の鑑別は難しい
→特にdural AVFやサルコイドーシスは診断を間違いやすい