一酸化炭素中毒
もうすぐ冬がやってきます
一酸化炭素中毒のことを、「冬のサイレントキラー」と勝手に名付けています
もちろん、冬以外に起こり得ますが、自殺をのぞけば冬に多い中毒です
冬にはインフルエンザや胃腸炎も流行しますが、
その陰にこっそり、一酸化中毒の患者がかくれています
一酸化炭素中毒はpit fallだらけで、一酸化炭素中毒には三回だまされます
①症状に騙される
症状から他の疾患と誤診してしまったり、もしくは原因不明になります
一酸化炭素中毒の症状は一言でいうと、
多彩です
これがあったら、一酸化炭素中毒!といえるものはありません
なので、冬の間は、体調不良で来た人全員に、
一酸化炭素中毒があるかもしれない
と疑うことが、見逃さないコツです
そうはいっても、頻度の多い症状から拾い上げることはできます
頭痛はもっとも多い症状なので、原因がよくわからない頭痛をみたら、
一酸化炭素中毒を疑いましょう
高齢者の場合、頭痛というよりも頭が重いとか、食欲がない
といった症状のことが多い印象なので、
食思不振の高齢者をみたら、ガスをとりましょう
ない症状を知っておくことも大事です
一酸化炭素中毒単独で、発熱はありません
下痢は意外にあります(矢吹先生に教えていただきました)
②検査で騙される
SpO2には誰も騙されないと思いますが、
一酸化炭素中毒では、SpO2は低下しません
騙されやすいのは、ガスのCOHbの値です
血中のCOは組織へと移行するため、血中のCO濃度だけでは何とも言えません
そして、
救急までくるのに、1時間
診察までの待ち時間に、1時間
検査までに、30分
とせっかく、一酸化炭素中毒を疑っても
ガスをとるまでに時間が経過してしまっていては、
COHbはどんどんと下がっていきます
ましてや、救急車で10L酸素を吸ってきた場合はもっと早く低下してきます
CO血中半減期は、
大気圧下で300分、高濃度酸素下で90分、100%の高圧酸素下で30分です
COHbがたいしたことない値だから大丈夫かな
と思ってしまいそうですが、
本当はもっと高かったかもしれません
組織に移行すること、時間と共に低下すること
2つの理由から一酸化炭素中毒の重症度は、COHbだけで語ってはいけません
脳神経の症状と心臓が障害されている証拠があれば、
それは重症と考え、高圧酸素治療を検討します
③一酸化炭素中毒の診断後に騙される
一酸化炭素中毒を見つけると、
診断がついた喜びで、思考がストップしがちです
ですが、一酸化炭素中毒は他の病気が合併していることがよくあります
・失神して運ばれてきた人が、急性一酸化炭素中毒だった
→後日、重症ASということが分かった
・火災から逃げきてきた人が、急性一酸化炭素中毒だった
→シアン中毒を合併していた
・意識障害で運ばれてきた人が、急性一酸化炭素中毒だった
→COHbの割に意識レベルが悪く、頭部CTをとると視床出血だった
だが、なぜか炎症反応が高く、再度、診察すると右下腹部を痛がる
腹部CTを追加すると、虫垂炎だった
というように、一酸化炭素中毒は身近な中毒であり、
たまたま他の疾患が合併していることもよくあります
なので、他の病気をみのがさないためには、
(1)なぜ、この人が一酸化炭素中毒になったかを考える
→脳梗塞になって、動けなくなったからかもしれない
(2)一酸化炭素中毒になって、
二次的に起こったことを考える
→一酸化炭素中毒→食欲低下で薬(抗てんかん薬)のめず→痙攣発作
(3)一酸化炭素中毒でなかったら、
どんな鑑別があるかを考える
→胸痛→一酸化炭素中毒はあるけど→心筋梗塞もあった
一酸化炭素中毒の診療には、オッカムだけではいけません
ヒッカムを忘れないようにしましょう
では一酸化炭素中毒の診療の流れです
一番のポイントは疑うことです
疑ったら、ガスをとること
そして、早めに酸素を吸わせること
そして、高圧酸素の適応があるか、検討すること
高圧酸素療法(HBO:hyperbaric oxygen therapy)は、
一酸化炭素中毒の有名な治療法ですが、
だれに、何時間、何気圧で、行うことがベストかは分かっていません
ですが、大気圧下酸素吸入(NBO:Normobaric oxygenation)よりはベターではないか
ということで、後遺症(DNS)が残りそうな症例には行われることが多いです
しかし、HBOを行ったら、NBOより後遺症(DNS)が減るかどうかも
まだ結論がついていません
分かっていることは、酸素需要を減らすために、安静がよい
NBOは早めにやったほうがよい くらい
NBOは何時間やればよいかはよくわからない
6-24時間といわれたり、
症状が消失するまでとか、COHbが10%以下になるまでといわれる
HBOは本当に意味があるかはわからないが、
これまでの知見を元に、ケースバイケースで考える
やるなら早い方がよいであろう
治療に関しては、上記のように混沌としていますが、
目の前の患者さんに後遺症やDNSが出てしまったら、
HBOしておけばよかったーと
後悔してしまいそうなので、HBOができる施設であれば、
時間とマンパワーの余力があれば、閾値低めにやっているのが、
現状ではないでしょうか
治療も大事ですが、
面談が何より、大事です
最初の時点で、後遺症については忘れないように説明しておきましょう
シン先生
返信削除現在研修医をしている者です。
いつも勉強させていただいております。
この度私が勤務している病院の研修医勉強会で中毒をテーマに発表しようと考えているのですが、先生の記事を拝見しCO中毒に関する内容をより盛り込もうと考えました。
お手数をおかけし大変申し訳ないのですが、差し支えなければ先生が記事を書く際に参考にされている書籍、論文などの文献をご教示いただけないでしょうか?ご検討頂けますと幸いです。何卒よろしくお願いいたします。
気がつくのが遅くなってしまい申し訳ありません。
返信削除NEJM 1998:339;1603-1608 症状の頻度が書いてあります
CMAJ 2002:166;1685-1690 具体的な発生状況が書いてあります
UpToDate
NEJM 2009;360(12):1217-1225. 図がきれい
Age Ageing. 33(2):105-9, 2004 Mar 見逃してるよっていう警鐘を鳴らしています
Am J Respir Crit Care Med 2007;176(5):491-497.
N Engl J Med, Vol. 347, No. 14·October 3, 2002 高圧酸素が意味のあるものだと、世界の治療を変えた論文です
INTENSIVIST VOL.9 NO.3 2017-7 治療まとめです
INTENSIVIST VOL.10 NO.2 2018-4 高圧酸素についてもうちょっと詳しく書いてあります
Ann Emerg Med. 2017;69:98-107 検査や治療の推奨度がわかります
Am J Respir Crit Care Med 2017;195:596‒606. Uptodateに採用された図がきれいでわかりやすいです
JAMA Neurol. 1;75(4):436-443.2018 Apr MRIが予後予測に意味あるんじゃないかっていう論文です
くらいでしょうか。手書きだと、参考文献を載せるのがやや面倒で載せていないのがいけないですね。すいません。