2019年6月30日日曜日

感染性肝嚢胞

いかに肝嚢胞が感染したら、難しいか、

症例を通してみていきたいと思います



症例:もともと巨大な肝嚢胞が一つあり、そのせいで右に無気肺がありました

他にも大中小の肝嚢胞が多発している高齢女性がいました

ADLはフルで、当院の内科外来に、高血圧やCKDで通院中でした

腎臓には嚢胞はありませんでした



ある時、発熱・食思不振・腹痛を主訴に救急受診し、

CRPが30以上あり、肝胆道系酵素が微増していたため、

消化器内科に「胆管炎」疑いで入院となりました


CTやUSの画像上は、閉塞起点はなく、

巨大な肝嚢胞も大きさは変わりませんでした

CKDで腎機能が悪化していたため、

造影はできませんでした


腹痛はありましたが、CTでは腹痛の原因となるようなものはありませんでした


MRCPを施行しても、胆石や他の閉塞起点はありませんでした


胆管炎疑いであり、CMZが開始されましたが、

4.5日もたっても発熱はおさまりませんでした

ずっとCRPは30以上でした

血培は生えてほしい時に限って、生えませんでした


肝胆道系酵素はすぐに正常化したため、

胆管炎ではないであろうと思っていました



しかし、他に熱源らしいものがないため、

巨大な肝嚢胞があるので、そこに感染したのであろう、と判断しました

しかし、MRIをとっても、どこに感染しているかはよく分かりませんでした

自分自身、肝嚢胞感染を診断したことがなかったので、

本当かどうかは半信半疑でした



入院後、心窩部から右季肋部痛が悪化してきたため、

巨大肝嚢胞の切迫破裂状態と判断し、

一番巨大な肝嚢胞にドレーンをいれ、ドレナージを行いました


嚢胞内容物は、明らかな膿瘍であり、

やはりここが感染源であったのだと判断しました



これで、発熱も心窩部痛もおさまるであろう

と考えていたら、


翌日、もっとお腹を痛がり出しました

そして、なぜか、お腹も張っています


肝嚢胞にドレーンをいれて、

ドレナージをしているにも関わらず、

なぜ痛みが引かないのか疑問であり、

再度、CTを撮影したところ、

なんと、フリーエアーが多発しているではありませんか!?


???

前日の肝嚢胞穿刺は、腸管が入りこむ隙間は全くなく、

手技も完璧だったのに、

なぜ、フリーエアーがこのタイミングで???


CTでは下腹部にまでエアーがあり、どこから出ているかはわかりませんでした



どんどん状態が悪化していく一方であり、

内科的治療では限界と判断し、

消化器外科Drに緊急手術を依頼し、

開腹していただきました


そうすると・・・


十二指腸潰瘍からの穿孔が確認されました


そして、腹水にはカンジダがたくさんいました


手術後は胃瘻、腸瘻、穿孔部周囲のドレーンetcが入り、

大変なことになりました


もちろん、術後抜管できず、

NA、ピトレシン、ステロイドを使用し、

なんとか、septic shockを乗り越えて、ICUを退出しました


しかし、

その後、ゾシンによる抗生剤関連脳症になってしまって、

1か月間、意識レベルが戻らず、

そのせいでまた再挿管になり、気管切開になり、

ICW-AWになり、まったく動けなくなりました


しかし、あきらめずに治療をした結果、、、


今では、気切孔も閉じて、

歩行器で歩けるまで、回復しました



この症例が私が出会った初めての肝嚢胞感染です



病態の推測ですが、

もともと十二指腸潰瘍があり、

それをパックするように肝嚢胞が抑えていた

菌が十二指腸から肝嚢胞へ侵入し、肝嚢胞感染を起こした

十二指腸潰瘍のせいでお腹を痛がっていた

しかし、それが肝嚢胞のせいだと思い、

ドレナージを施行し、肝嚢胞をぺちゃんこにしてしまった

それによって、パックしていた十二指腸潰瘍穿孔部が、

解放されて、汎発性腹膜炎を呈した


のかな、と思っています

十二指腸潰瘍が肝嚢胞に穿通したという報告は実は、

これまでに本邦では10例の報告がありました

(日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.60(4).Apr.2018)

肝嚢胞への感染経路は、

①本症例のような周辺臓器からの感染

②血流由来

③経胆道

④経門脈

⑤外傷性

⑥原因不明


がありますが、いずれも証明は難しいでしょう



診断、治療ともに、とても難しいのが感染性肝嚢胞です


なので、疑ったら早めに穿刺が必要です


抗生剤単独では、治療が失敗する可能性が70%ととても高いです


抗生剤の移行性はキノロンがいいとか、

よくわかっていないだとか、

議論する必要はありません


議論するのは、ドレナージするかしないかです

そして、どの嚢胞をドレナージすべきかです


MRIでも多くの感染している嚢胞は分かるので、

普通の病院なら、造影CT、US、MRIで診断します



リッチなところなら、PETが有用です


肝嚢胞感染の原因となる菌


想像通り、腸内細菌系が多いです


大腸菌やクレブシエラ、腸球菌が多く、

他はいろいろです


しかし、本症例のように菌血症の病態を呈していない感染経路の場合、

血培が陰性になることもあります


感染している肝嚢胞の内容物の培養の方が、

やや陽性率は高めです


感染性肝嚢胞の治療です

抗生剤単独では、無理なことが多いので、

どこかでドレナージが必要と思っておいたほうがよいでしょう

抗生剤はキノロン含めて、嚢胞内への移行性は十分ではありません


ドレナージは経皮的に行う方法と、

腹腔鏡で開窓術を行う方法があります


抗生剤の投与期間はよくわかっていませんが、

最低2.3週と言われています

それくらい投与しても、治療が完遂できなければ、

やはりドレナージが必要です


再発予防に、硬化療法を行うこともあります





肝嚢胞感染のまとめです



感染性肝嚢胞のまとめ


・診断するのが、難しい
→胆嚢炎、胆管炎にしては、何かおかしいと思ったら疑う
 胆管炎を合併していることもあり、
 そちらのドレナージも大事



・菌を同定するのが、難しい
→血培も半分しか陽性にならない
 やはり嚢胞の穿刺が必要



・治療が難しい
→いつ、ドレナージすべきか
 どの、嚢胞をドレナージすべきか
 治療期間はいつまで設定すべきか
 を議論する




参考文献:肝臓 60巻4号 117-126(2019)
Aliment Pharmacol Ther 2015;41:253-261
Ineter Med 57;2123-2129,2018
Nephrol Dial Transplant (2015)30;744-751
BMJ Case Reports 2012;doi:10
Journal of Visceral Surgery(2018)155,471-481

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