(後半)
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血液検査
WBC4300、NET 75%、LY 8%、Mo 10%
AST 50、LDH 500、CRP3
甲状腺問題なし
CXR 肺炎像なし
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コメント
WBC上がっていませんでした
ただMoがやや高めですね
非特異的なので、ウイルス性疾患でも炎症性疾患でもなんでもありですが、
注意しなければならないのは、機械でMoと分類された場合、
芽球がMoにカウントされてしまうことがあるので、
必ず目視を依頼した方がよいです
それにしても、このWBCはおかしいですね
自然免疫系の代表であるAOSDやベーチェット病であれば、白血球は高確率で上がります
逆に少し減っているくらいのこの値は、ある疾患を想起させますね
菊池病です
菊池病は白血球が下がります
そして、デング病や麻疹です
海外には行っていないと思われますが、
国内での移動歴やワクチン接種歴は確認したいです
そしてこのLDH
LDHが単独に上がる場合、腎梗塞を考えますが、今回はもちろん違います
LDHが多く含まれる細胞が壊れた時に上がります
LDHは血球に多く含まれており、リンパ腫で上がりやすいですね
菊池病の別名は、壊死性リンパ節炎です
つまりリンパ節の内部が壊死するため、LDHは上がります
この血液検査を見ると、菊池病の可能性が急浮上してきました
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経過
EBV、CMV、HSVは既感染パターン
HIV、HBV、HCVは陰性
血液培養 陰性
造影CT 両側前頸部LN腫脹あり、脾腫あり
ANA40倍
その後、外来フォロー
1週間後、フェリチン 6000、LDH 900と上昇あり
リンパ節生検は本人希望されず
骨髄穿刺施行 特記すべき異常みられず リンパ腫細胞なし 血球貪食なし
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コメント
はい、これはMASになりかけていますね
フェリチンが急増しているのがその証拠です
コロナもフェリチン上がりますが、ここまでは上がりません
MASはマクロファージ活性化症候群と呼ばれ、血球貪食症候群とほぼ一緒の病態です
血球貪食症候群は炎症性病態の成れの果てです
きっかけはリンパ腫でもウイルス感染でもAOSDでもなんでもありです
自己免疫や自己炎症の血球貪食症候群をMASと呼んだりします
ここまで燃え広がると、消火が大変です
消火できないと、亡くなる人もいます
研修医になりたての時、一番最初のコードブルーは、
血球貪食症候群による血小板低下から小脳出血をきたした方でその後、亡くなられました
血球貪食症候群は致死的な病気であるということが、強く印象に残っています
血球貪食症候群になるまで、火事を放っておいてはいけないのです
國松先生も同じようなことを仰られています
外傷の成れの果ては、DICになって多臓器不全です
その悪循環を防ぐべく、damage control surgeryがあります
それと同じ考え方です
診断がついていなくても放っておけば、血球貪食症候群になっていくであろう病態の場合は、ステロイドを用いて、消火を行うことがあります
damage control steroid therapyと國松先生は呼んでいます
この症例も早くどこかの生検を行い、診断を確定させステロイドを投与したいところです
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経過
その後、肝障害も出現
内服していたカロナールを通常よりも多量に内服していたことがわかり、
中止してもらった
その後、肝障害は改善し、解熱していった
皮疹も改善し、フェリチンやLDHも減少していった
結局、原因不明で自然に軽快した
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コメント
カロナールによる肝障害はあったかもしれませんが、それは途中からであり、
最初の病態は別物であったと思われます
でもそれも自然に治ってしまったとなると、
やはりウイルス性疾患か菊池病、AOSDを考えたいですね
菊池病のリンパ節腫脹は数珠状に腫れることが多く、特徴的です
菊池病のプレゼンテーションは実に多彩で、自然に軽快する人もいます
本症例も菊池病であった可能性はあると思います
皮疹が出ることもありますし、口唇がただれてしまうような人もいます
全身のリンパ節腫脹もあってもいいです
診断のためにはリンパ節生検を行い、病理で確定し、ステロイドを投与します
そうすると、著効するのが典型的な経過です
菊池病は繰り返される人も多いので、今後に注目ですね
ただ、この症例はウイルス性疾患、特に麻疹であった可能性も否定はできません
特に修飾麻疹は診断が難しく、プレゼンテーションも非典型です
感染対策という意味では鑑別に早期に挙げた方が良かった疾患ですね
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振り返り
はい
ということで、今回は若年者の不明熱、リンパ節腫脹、咽頭炎という症例でした
咽頭炎は非常にcommonな訴えであるにもかかわらず、
多彩な疾患の最初の症状になるので、鑑別が広くなってしまう反面、
狭めていく作業が難しい症状です
今回の症例のように診断がつかずに治ってしまう人もいます
医師になって一番最初に感じたことは、思ったよりも診断がつかない人が多いことでした
診断がつけられない場合、どうしたらいいんだ・・・と最初は途方に暮れていましたが、
診断がつかなくても、問題はないことに気が付きました
それは、診断がつかない時の待ち方を習得したからです
まずは、行き着く先の疾患を想定しておくこと
その狙った疾患があれば、顔を出してくるのを待っていればいい
あとは時間が解決してくれる
みたいなスタンスで、待ちます
今回の症例であれば、行き着く先は菊池病のはずなので、
治らなければ、説得してリンパ節生検を行う
断固拒否された場合、リスクを十分に説明し、ステロイド投与もやむなしか・・・
といったスタンスです
時間をどれだけ上手に使えるかが、外来診療の醍醐味です
本症例で一番勉強になったのは、時間の使い方と待つ姿勢です
結果的にリンパ節生検まで行わず、ステロイドも投与せずに自然軽快したため、
余分な侵襲を加えることがなかったので、患者さんにとってもhappyな結末だったと思います
とても勉強になりました
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