2021年7月8日木曜日

尿閉 後半 〜性別と年齢で考えることが違う〜

みなさんがみたことがある尿閉の患者さんはどんな患者ですか?

中年〜高齢の男性がほとんどではないしょうか?


むしろ、若い男性や女性の尿閉に出会ったことがありますか?



尿閉ほど、性別や年齢によって考えることが異なる疾患はないと思います


尿閉マップを頭に思い浮かべておく必要があります



①高齢 ×  男性 の象限

・BPHがほとんどです

・多くは+αが加わって発症します

 +αには、アルコール、薬、感染、血尿、外傷があります

 いわゆる「いつものパターン」です


・他には神経疾患に伴う神経因性膀胱も原因になりますが、

 救急外来では原因までは突き止められないと思います


 多系統萎縮症の頻度が多いことは、識として知っておいてもいいと思います




多系統萎縮症(multiple system atrophy,MSA)  の下部尿路機能障害は、

起立性低血圧よりも高頻度 かつ早期にみられ、運動障害に先行することがあります 

このため MSA の男性患者は、脳神経内科よりも泌尿器科を先に受診し、

MSA の診断が確定する前に前立腺肥大症として手術を受けている場合があります

しかし手術を行っても排尿障害 は改善せず進行してしまい、

数年後にMSAの診断がつく人が多いです



②高齢 ×    女性 の象限

薬が多いです

 特に過活動性膀胱を抑える抗コリン薬に注意が必要です


頑固な便秘(宿便)にも注意が必要です

 摘便で治ります

 尿に管を入れるのではなく、直腸に指を入れてください


・感染:尿道炎、膀胱炎でも起こり得ますが、まれです

・子宮脱なども原因になりますが、見ればわかります



高齢者の象限で注意が必要なのが、帯状疱疹です

腰仙髄領域にできた帯状疱疹が尿閉を合併する人もいます


423人の帯状疱疹の症例では、4%に排尿障害が合併していたという報告があります

腰椎仙髄領域の帯状疱疹に限ると、28.6%に合併するとも言われています


腰仙髄領域の帯状疱疹の場合、4人に1人は排尿障害を伴うと覚えておきましょう


厄介なのが、皮疹がない人がいることです


皮疹出現前に排尿障害が発生する人が14%

皮疹と排尿障害が同時に発生する人が31%

皮疹の後に排尿障害が発生する人が53%

泌尿紀要 60:87-90,2014年


ということで、8割の人は尿閉がある時には皮疹がみられますが、

約2割の人は尿閉の後に皮疹が出現します



「いつものパターン」の尿閉ではない・・・と感じたら、

ぜひ、帯状疱疹かもしれないと思い出してください


そして、

「今後、お尻や太ももにぶつぶつができたら、帯状疱疹なのですぐに来てください」と伝えることが重要です



③若年の象限

・無菌性髄膜炎と診断して入院してもらったら、

 途中から尿が出なくなる人がいます

 MRSと言われています


 知っていれば、びっくりませんが、知らないとびっくりします

 MRSと思ってもADEMではないか?という目で経過観察する必要があります


MRSについて


・若くても前立腺炎を起こす人がいます


・腰椎椎間板ヘルニアや脊髄病変から尿閉になる人もいます

 腰痛の有無は必ずチェックしましょう


・ダウン症のお子さんは尿閉を合併しやすいことが知られています




まとめ

・急性尿閉は性別、年齢で考える疾患が全然違う

→いつものパターンではないと思ったら、

 便秘、帯状疱疹、脊髄病変ではないか?と疑ってみる

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