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動脈血ガス
PH 7.2, PCO2 32, PO2 68, HCO3 13, Na 140, K 2.9, Cl 113, Lactate 1.8
AG 13.8
血液検査
WBC 12000, Hb16, MCV 90, Plt 18万
凝固異常なし
AST 100, ALT 90, LDH 250, ALP 430, γ GTP 580
CK 77, Na 137, Cl 115, K 3.3
Glu 94, CRP 0.06, HbA1c 6.5
甲状腺機能 正常
尿検査
比重1.025、PH 6.0、潜血(1+)、ケトン(-)
12誘導心電図 80bpm、洞調律、Ⅱ、Ⅲ、aVF 異常Q波あり
CXR 肺野に異常陰影なし
頭部CT 陳旧性の小さな脳梗塞所見あり
胸腹部単純CT 肺野に特記すべき異常なし 腎結石あり
UCG 下壁のakinesisあり、左房拡大あり、疣贅なし
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・ここまででいかがですか?
K先生:PH低!
えーっと、AGが・・・13!?
本当?
えー!?13?
AG非開大性の代謝性アシドーシスを起こしている
うーん、それは下痢だね 下痢だ
じゃあ、代償はどうでしょう?
えーっと、CO2もちょっと溜まっているね
呼吸性のアシドーシスも少し絡んでいるね
乳酸アシドーシスは少しだけ上がっている程度だね
Kが低いね
普通は代謝性のアルカローシスになっているはずなのに、
代謝性アシドーシスだね
この場合、下痢かRTAです
4型RTAもあってもいいけど、Kが低いからこれは下痢だね
明らかに慢性の下痢をしているね
ビタミンB1欠乏で下痢はしません
いやあ、これは一回見てみたいペラグラですかね?
4Dといわれるdiarrhea、dementia、dermatitis
そしてdeathですね
ペラグラだったら、日光に当ててほしいですね
光線過敏があるので、服に一致した赤い皮膚炎がでます
来たな!ペラグラ!
ナイアシン投与してみますか?
ってことで、慢性下痢ですね
発表者:はい。そうですね、ペラグラ
みてみたいものですけれど・・・
K先生:尿中のケトンは陰性でしたね
ま、これはときどきAKAで問題になります
こういう風に尿中のケトンが陰性のことがあります
ケトンにはβヒドロキシ酪酸とアセト酢酸、アセトンの3つがあります
尿定性試験ではアセト酢酸をみています
βヒドロキシ酪酸は反応しません
AKAの場合、βヒドロキシ酪酸が著明にあがって、
アセトン酢酸があがらない病態ですので、こういうことはあり得ます
ですがそれだったら普通AG開大の代謝性アシドーシスを来します
今回は、そもそもAG非開大性の代謝性アシドーシスなので、
ケトアシドーシスではありません
ってことで、無視です(笑)
発表者:一応、βヒドロキシ酪酸出していますが、陰性でした
K先生:当然陰性です(笑)
他の血液検査をみると、肝酵素が上がっています
これは脂肪肝かもしれない
低血糖があったわりに、A1cが高い
低血糖が慢性にあれば、もっと低くなっている可能性がある
やや多血ですね
喫煙歴があるので、ベースにCOPDなのかもしれない
二次性の多血症になっているのかもしれない
それだったら、最初の低酸素はCOPDで説明できるかもしれない
で、ちなみに血中の浸透圧はどうでした?
発表者:浸透圧は264でした
ギャップ計算すると、-10でした
K先生:あーよかった
もうよっぱらって、計算できませんでした
発表者:大丈夫です
計算してあります(笑)
多分、計算できないだろうなぁと思って(笑)
聴衆:(笑)
K先生:これでエチレングリコーゲンではなさそうですね
発表者:そうですね
頭部CTはどうですか
K先生:そんなのいりません、storkeではありません!
問診と診察が大事です!!
といいつつ、みますけど(笑)
陳旧性の脳梗塞くらいですね
あれ?そういえば、タイトル何でしたっけ?
発表者:「薄目の男」です
K先生:薄目の男・・・・うーん
わからないなあ・・・
聴衆:そこから考えるんですか!!(笑)
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プロブレムリスト
# 意識障害
# 低血糖
# AG代謝性アシドーシス
# 肝胆道系酵素上昇
# 下痢
# 陳旧性心筋梗塞、陳旧性脳梗塞
# 喫煙歴
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発表者:ここまででいかがですか?
K先生:一番大事なのは、低血糖を起こした原因です
なぜ、低血糖を起こしたのか?
そして下痢がなぜ起きているのか?
肝臓はどうでもいい
下痢をしていたのがなぜかが気になる
こういうわけがわからないのは、どこかで下剤をもらっていることがあります
病歴にはなかったが、わけのわからない薬を飲んでいたのではないかと思います
発表者:なるほど
ですが、本人はどこか遠くへいって、
薬をもらうようなことはできなさそうでした
K先生:うーん、なぜ下痢をしているだろう・・・
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入院後経過
意識レベルはクリアではないが、緊急性は低いと考えた
まずしっかり食事摂取していただき、低血糖が再燃しないか?
また血液ガスでPHが正常化しないか経過観察とした
血培は念のため採取、抗生剤は投与せず様子をみた
入院後、食事は全量摂取できました
血糖は100-150を推移して、問題なかった
アルコールとBZ離脱の予防のため、ワイパックス®の予防内服を開始しました
翌日の血ガス
PHは正常化せず PH7.2
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K先生:いやあ、慎重ですね
僕だったら、予防しないなあ
なぜかというと、また薬の影響を考えなければならなくなる
そして、この病歴は嘘はいっていない
この人はお酒を買うお金もないと思います
本当にお酒はのんでいない
発表者:なるほど・・・
では症例の続きです
入院翌日の血ガスもPHは正常化しなかったです
そして尿中のAGをみてました
尿中Na 19、尿中K 42、尿中 20 →尿中AG 40
K先生:ありましたね、尿AG(笑)
えーっと、尿中にアンモニアがでていて、、、その結果として、、、
ってやつですよね
でも、こんなのより病歴が大事です
これは下痢です
何と言われても下痢です
発表者:はい、ありがとうございます
一応、解説すると、この尿AGは正の値でした
そういえば、CTで腎結石がぽつぽつありました
腎結石があって尿中AGが正だった・・・
ということで、、、、
K先生:・・・なんですか?
RTAといいたいわけですか?
ま、下痢ですけどね(笑)
発表者:はい、我々は1型RTAとして、重曹の補充を開始しました
K先生:でも下痢しているんでしょ?
発表者:入院してからは、1日1-2回で軟便くらいでした
K先生:おもしろいね
それが、本当にRTAだとすると、
尿閉のシナリオとか、、、、
トルエンを吸っていたとか、、、
気になりますね
発表者:Kも低いのでKも補充しました
補充したら、当然ですけどPHはよくなり、
Kもよくなりました
K先生:ま、当然です
これはAG非開大性の代謝性アシドーシスなので、
本来lossの病態です
腸からでているか、尿からでているかです
だから下痢のエピソードがしっかりあるなら、これは下痢が原因です
なのでKも下がります
そりゃ入れれば治ります
発表者:はい。ということで、我々は1型RTAと診断しました
K先生:なるほど、おもしろい
1型RTAは山ほど鑑別があります
例えば、尿閉で起こった人、トルエンを使用している人、
つまり、シンナーを吸っている人は起こります
他にはシェーグレン症候群とか、結石とか、、、
あとなんだろう・・・
あ、ファンコニーとかもありますね
薬剤性で起こることもあります
でもこの人は薬はのんでいない・・・
他には・・・
あー、もう酔っぱらって思い出せない
うーん、まあ、そんなもんです
ま、ファンコニーにしとこう(笑)
聴衆:(笑)
発表者:はい、ありがとうございます
おしゃる通り、1型RTAの原因検索をしようとうことで、
シェーグレンや肝酵素も上がっていたのでPBC、
ウィルソンを調べましたが、すべて正常でした
はい、次からはもう答えになります
K先生:そうですか。うーん
・・・・・・
やっぱり、最初の話に戻ると、
この人はシンナーを吸っていたのではないか?
そしたら、この話は全て説明できる・・・
そういえば、匂いが気になります
これは薬をやっていたのに違いない!
ファンコニーではありません(笑)
シンナーをやっていたに違いないです!!
発表者:はい、ありがとうございます
実はこの症例には、シャーロック・ホームズがいたんです
当院の精神科部長です
この方が今回の症例のキーパーソンです
実は入院後、この人が急に無断で外出をはじめました
自主退院したのかな?と思ったら、
また夜に戻ってきました
翌日、本人と話すと、精神科の先生と話したいと言ってきました
睡眠薬の調整をしたいと
ということで、リエゾンの面談のため、
精神科の先生と話してもらうことになりました
リエゾンの面談が終わった直後に、また勝手に外出してしまいました
そして、また帰ってきて、
「このまま入院を続けるのなんておかしい! 早く退院させろ!」
といってきました
K先生:それは家に何かがあるはずです
なぜかというと、家に帰ったのに、また戻ってきている
家に帰りたがっている・・・
発表者:早く退院したいのか、家に帰りたいのか?どっちなんでしょうか・・・
K先生:それは家に帰りたいんです!
この人は一人暮らしなので、家に家宅捜索にいかないと、答えはでません!
発表者:はい・・・
そして、精神科のカルテの終盤に驚くべき一文が書いてありました
K先生:家にシンナーがある!
20台からシンナーを吸い続けている
K先生:シンナーというのはですね
「thinner」っていって、薄くするっていう意味があるんです
聴取:(笑)タイトルの解説まで始まった(笑)
K先生:シンナーっていうのは、物質名ではありません
物質はトルエンなんです
トルエンが問題をおこします
シンナーというのは、臭いが特徴的ですよね
トルエンがこの臭いの原因です
発表者:はい、、、、
これが判明して僕らはとてもびっくりしました
正直、頭の中にはありませんでした
K先生:残念だったのは、尿AGを忘れてしまっていたことですね(笑)
それでRTAと分かったら、尿中浸透圧をだして確信できていたはずです
発表者:そうです
実は僕らは最初から尿中浸透圧を測っていたんです
尿浸透圧ギャップは220でした
これはとても高い値です
これを計算できていたら、実はもっと早くに診断できていたと思います
・・・ということでシンナー中毒が疑われますが、
尿中馬尿酸をださないと証明できません
K先生:いや、違います
病歴が勝負です!!
聴衆:(笑)格好いい
発表者:確かに。。。
一応、尿中馬尿酸は高値でした
はい・・・ということで、シンナー中毒でした
もう解説するモチベーションはありません(笑)
聴衆:(笑)
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今回の診断過程
発表者:最初はフルーティーな臭い、低血糖、
そして病歴がうまく取れないことから、ケトアシドーシスを疑いました
PHもかなりのアシデミアだったので、
やはりアルコールにともなうケトアシだと思いました
しかし、AGが開大していませんでした
CTを見返すと、腎結石もあり1型RTAらしさが高まりました
そして、血液検査にて肝酵素上昇があり、
1型RTAの原因疾患検索として、
PBCや他の自己免疫疾患を探る方向へ行ってしまいました
そうではなく、
AG非開大性代謝性アシドーシスの鑑別をもっと素直にやるべきでした
K先生:いえ、違います
データは最後の答えじゃない
最後は本人に起こっている現象が大事です
本人に起こっていること・・・
それは社会生活から、
その人の人生を見つめることによって、
見えてくるものです
ありがとうございました
聴衆:拍手
(終わり)
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