2020年9月15日火曜日

昼カンファレンス 〜頸部リンパ節腫脹の考え方〜

 35歳 女性 主訴:頸部痛(症例は一部加筆・修正を加えています)

Profile:生来健康

現病歴:2週間前から左耳の後ろが痛かった

    しこりがあるように感じた

    リンパ腫が心配で来院した

内服:なし 既往:なし



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ディスカッション①さて、どうしましょう?


T「さあ、左耳の後ろのしこりと圧痛があるみたいですね。

  これはとてもhigh yieldな所見といっていいのではないでしょうか?


      low yieldな所見とは、発熱とか倦怠感といった症状で、

  そこから鑑別を絞り込むのが、大変な症状や所見のことです。

  high yieldな所見は例えば、嚥下時痛というような症状で、

  明らかに原因は食道や咽頭に問題を抱えていそうですよね。

  かなり鑑別が絞られます。


  なので、今回の症状は、鑑別は絞られます。

  さて、snap diagnosisとして、診断はなんでしょうか?」


TSU「耳下腺炎とかですか?」

T「耳下腺はどちらかというと、耳の前にあるから、

 耳の後ろという表現にはならないかな。

 耳の後ろのしこりというと???」


N「リンパ節の腫脹ですか?」

T「そうだね、リンパ節が腫れてるんだろうね。

 なぜ腫れたのか?」


N「ウイルス感染で・・・」

T「もう一声!」


M「風疹ですか?」


T「その通り!風疹が一番有名ですよね。

 じゃあ、もう一つのウイルスは?」


M「・・・わかりません」

T「それはパルボウイルスです。

 風疹とパルボはとてもよく似た皮疹やリンパ節腫脹でくることがありますので、

 注意が必要です。

 僕も一度、騙されたことがありますし、何かの雑誌でも同じような症例が載っていました。


 ということで、耳の後ろのしこりと圧痛と言われたら、

 風疹かな?パルボかな?


 と最初に思ってしまいます。

 では、みなさん、実際この人を前にしたら、まず何をしますか?」


TSU「痛みの性状とかを聞いたりします。」


T「実際はその前にね、病歴をとる前にやってほしいことがあるんだよ。


  それは、痛みの部位を指差してもらうことです。

  そして、痛みのある部位をみて、触ります。

  病歴聞いて、診察して、というのは実際的ではありません。

  

  痛みが主訴だった場合、病歴も大事ですが、 

  それ以上に診察が大事になります。

  長々病歴聞いて、お腹をみたら帯状疱疹だった。

  とかは誰しも経験があるかと思います。


  痛みの主訴の場合、

 なるべく早目にその部位の視診と触診をしてしまいましょう!


N「実際もすぐに痛みの部位を教えてもらいました。

  本人は耳の後ろといっていましたが、

  実際は左後頸部のことを言っていました。

  その痛い部分を触ると、弾性硬から弾性軟のしこりが、数個触れました。

  可動性はあって、圧痛がありました。

  他の部分のリンパ節は腫れていませんでした。

  周りの皮膚も綺麗でした」

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ROS (+)

   (➖):アトピー、寝汗、体重減少、咽頭痛、関節痛、先行感染

   (?):日光過敏、ペット飼育

バイタル 36.3と発熱なし

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ディスカッション②リンパ節腫脹の考え方は?


T「みなさん、主訴やプロブレムリストを作って、

  鑑別疾患をあげると思いますが、ただあげればいいというものではありません

  優先順位や階層を意識して、鑑別をあげることが重要です。

  例えば、浅いところだと、must r/oやcommonなものをまずは考えます

  そして、もしからしたら的なものを考えます

  腹痛なら、ACNESとかね。

  そして、最後に絶対に残ってしまうような疾患を考えておきます。

  僕がRoad to 〇〇というような疾患群です。

  

 さて、頸部のリンパ節腫脹の場合、どういう鑑別疾患が挙げられて、

 どういう階層であげていけばよいでしょうか?」


TSU「サイトメガロとかのウイルス感染」

T「そうですね、他には?」


M「結核は外せないと思います。あとは菊池とかもでしょうか

  これは最後まで残ると思います。」


T「そうですね、頸部のリンパ節腫脹で最後まで残ってしまうのが、

 結核や菊池病、あとはリンパ腫ですね。

 これはパッケージ的に覚えておくといいです。

 つまり、生検することでしか判明しない疾患群です。


 病気を分類する上で、病態や解剖で考える方法もありますが、

 実際的な方法は、検査で分ける方法です。


 例えば、treatble dementiaの場合、

 血液検査でわかる病気:電解質異常、アンモニア、低血糖、甲状腺、ビタミン異常など

 頭部CTでわかる病気:水頭症、CSDHなど

 頭部MRIでわかる病気:脳梗塞など

 髄液検査でわかる病気:慢性髄膜炎、癌性髄膜炎

 脳波でわかる病気:てんかん発作

 

 というように、検査の枠組みで病気を覚えておくといいと思います。

 外来をやっていると、この日はこのカード(検査)を切るというような感じで、

 手持ちのカードを切っていって、どこかでヒントが得られたり、

 診断がつくことが多いです。

 

 もちろん、病歴聴取も重要なカードの一つです。


 外来診療では、入院診療と違った考え方が必要です。

 手持ちの武器(カード)と時間をうまく使うことが求められます。


 リンパ節腫脹の場合、何かの反応性、というのが多いので、

 これは時間が解決してくれます。


 ですので、闇雲にカードを切りまくることは得策ではありません。

 待てる場合は、待つ。

 「時間」という名医を使うことで、見えてくる病気もたくさんあります。


  リンパ節腫脹の場合は、

  簡単に出せる血液検査、全身の造影CT、特殊な血液検査、生検というカードがあります。

  そして、それぞれ感染症 VS 非感染症で分けるといいと思います



M「粉瘤とかも鑑別ですか?」


T「そうですね、粉瘤や脂肪腫みたいな人もまれにいますね。

 あとは神経鞘腫の時も間違えてしまうことがありますね。

 自分もリンパ節腫大だと思って超音波検査をしてみたら、

 神経鞘腫だったことがありました。

  

 こういう頸部LN腫脹の超音波検査って、ほとんどが反応性と読まれることが多いので、

 あまり診断に役に立ったことはないです。

 神経鞘腫や粉瘤、肉腫とかの見極めは、超音波の方が得意なので、

 そもそもリンパ節かそうではないか、という時には超音波も有効ですね。」

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経過

血液検査では何も問題なし

カロナール処方され経過観察となった

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T「はい、今日はリンパ節腫脹の考え方を学びましたね。

 コツは、この人の行き着く先はどこだろう

 と想像することです。


 ゴールがイメージできれば、

 そこにたどり着くためにいろいろとカード(検査)を切らなければなりません。


 生検した方がよいか、非常に悩む症例もありますが、

 その場合はZ socoreも参考にしてもよいと思います。


 ありがとうござました。」








まとめ

・耳の後ろのリンパ節が腫れて痛いと聞いたら、風疹とパルボを思い浮かべる


・頸部リンパ節腫脹は反応性に腫れていることも多く、時間が解決してくれることも多い

→時間と共に手持ちのカード(検査)を切っていく


・行き着く先をイメージすることで、その人の今後の道が見えるようになる

→Road to 〇〇!!

1 件のコメント:

  1. 今日尿カテと血尿について勉強していた際にこのブログを見つけました。とても勉強になります。ありがとうございます。これからも投稿楽しみにしています。

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