2021年3月5日金曜日

超高齢者の診療シリーズ 〜発熱編〜

92歳 女性 主訴:発熱(※症例は一部、修正・加筆を加えてあります)

Profile:2日前まで入院していた

    ADLは全介助、寝たきり、認知症ありコミュニケーションは簡単な会話のみ

HPI:9日前に胆石性の胆管炎で入院

   ERCP・ESTが施行され、抗生剤治療にて2日前に退院

   抗生剤は7日間投与された

   その後、自宅に帰ったが、来院日、38度の高熱あり

   救急受診

ROS:自分から苦痛を表現することはない

   嘔吐なし 下痢なし

既往:スタンフォードAの大動脈解離(保存治療のみ)、胆管炎

   高血圧、糖尿病、認知症、圧迫骨折・骨粗鬆症、偽痛風

内服:アムロジピン、カンデサルタン、ジャヌビア、ワンアルファ、抑肝散


バイタル NP 145/80. P 90, T 38.0, SPO  96%

意識 いつもよりややぐったり、発語はあり

心雑音 拡張器雑音あり

呼吸音 左右差なく清

腹部 平坦 軟 圧痛なし 肝巧打痛なし

左膝に軽度熱感と圧痛あり 腫脹はわずかで穿刺できるほどではない

皮膚 皮疹なし 静脈炎を示唆する所見なし

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診断は?


まあ、無理です 笑

無理ですが、考え方は色々あります


まずは少し前まで入院していたので、入院中の発熱の考え方で考える方法です


1、入院になった疾患に関わるもの:今回であれば、胆管炎です

 実は胆管炎じゃなかった説や治療不良だった説

 肝膿瘍になってしまったなどです


2、入院後の治療介入によって起こったトラブル:今回であればERCPや抗生剤投与です

 入院自体のストレスも偽痛風を誘発することがあります

  CDIや静脈炎には注意が必要です


3、その他

 全く関係ないことです

 実は腫瘍熱だったとか、同室者がインフルエンザにウイルス感染していたとか 



外来であれば、5+1と、15+1(4つのシリーズ)で考えます



これらの考え方はとても有用ですが、

超高齢者の場合は、考え方を変える必要があります


超高齢者の発熱には若年者や高齢者とは異なる10の特徴があります


①認知症や脳梗塞後遺症のため、

コミュニケーションがうまくとれないことが多い


結果として、他の施設職員や家族の話が重要になりますが、

常日頃、一緒にいるわけではないので、病歴があまりとれないことが多いです


病歴の重要性が下がってしまい、逆に身体所見の重要性が上がるのが超高齢者の発熱の特徴です


そして、検査や画像に頼らないといけない場面も多々あります


②これまでの歴史がある


これまでに入院歴や治療歴、培養歴がある人が多いです

誤嚥性肺炎や腎盂腎炎、胆管炎、蜂窩織炎を繰り返す人は大勢いますので、

そこから考えるというのがリーズナブルです


そして、これまでの尿培や喀痰培養は、治療を進めていく上で参考になりますので、

必ず目を通すようにします


抗生剤の治療歴も多く、抗生剤のアレルギーや薬剤熱を起こしたこともあるかもしれないので、要チェックです


③薬をたくさん飲んでいる


免疫抑制剤(ステロイド)を飲んでいたり、解熱剤を飲んでいたり、

近医でこっそり抗生剤が出ていたりします


超高齢者が具合が悪くなって、病院にきた場合に、

まず考えることは、薬が原因でないか?ということです



④弱っている臓器がある

喫煙によって肺がボロボロの人やBPHがあって尿が出にくい人、

胆石があり、胆管炎になりやすい人・・・

このように局所免疫が弱り、感染しやすい臓器があることが多いです


そして、ダメージを受けやすい臓器があります


例えば、腎盂腎炎になったら、すぐにイレウスになってしまう人や

意識障害のプレゼンテーションでくる人など・・・


感染臓器以外の症状がメインでくる人もいるので、とても診断が難しいことがあります


そういった場合も過去の歴史が重要になります


⑤BioよりもPsycho,social,ACPが治療方針に関わる

本当は入院適応だけど、認知症のせん妄が強すぎて、

入院自体にデメリットが大きい人や

寿命があまりない人で、できるだけ自宅で生活したい場合は、

広域の抗生剤を処方し、外来で治療することもあります


「その患者さんが何の病気を持っているかよりも、

 その病気を持っている患者さんが、どんな患者さんか、ということの方が大事である」


という言葉があるように、病気の診断も大事ですが、

目の前の患者さんの家族や置かれた環境も非常に大事になります


⑥余力がない人が多い


90歳代の人が発熱を主訴にきた時点で、ほぼ間違いなく入院を考えます

入院できない理由がない限りは、入院させた方が無難だと思います


数時間後に、何があってもおかしくない方々ですので、慎重に対応した方が良いです



⑦処置が必要になることが多い


解剖学的な異常や閉塞起点を伴う感染症が、若年者よりは多く、

処置が必要になることも多いです


ただ、侵襲的であったり、認知症で本人からの意思疎通がとれない可能性もあり、

家族との話し合いが必要になるケースが多いです

感染症の処置は可逆的な病態なことも多く、非常に悩みます


⑧オッカムよりもヒッカムが大事

蜂窩織炎だと思ったら、誤嚥性肺炎も合併していて、偽痛風もあった

とかはザラにあります


腎盂腎炎でぐったりしているなあと思ったら、脳梗塞にもなっていた

とか、感染症が加わることも多いですが、非感染症も加わることは多いです


⑨非感染症の割合が増える


発熱と聞いたら、普通は感染症を考えますが、

超高齢者の場合、外傷(骨折)や血腫、大動脈解離、腫瘍、薬剤などの

非感染症の可能性が若年者に比べると、高くなります


特に骨折は明かな外傷がなくても見られることがあり、

施設に入っているから大丈夫とは思わないでください


⑩原因が不明になることが多い


痰が少し汚いし、酸素化が少し悪く、C Tでは肺炎像が少しありそうで、

尿は膿尿や細菌尿で、皮膚も少し赤いところがあって、

肝胆道系酵素が少し上がっている・・・


これが、現代版不明熱です

抗生剤で治りますが、結局何だったの?という答えは不明なことが多いです


自分が何と戦っているのかを明確にしておくことが重要です




このように超高齢者の発熱は、他の若年者や高齢者とは考えることが異なります


ちなみに冒頭の症例の最終診断は、スタンフォードAの大動脈解離の再解離でした


病歴が全然とれず、これまでの歴史に注目する必要があり、
非感染症の割合が多いという特徴が当てはまった症例です


まとめ
・超高齢者の発熱の考え方は、特殊
→病歴がうまくとれず、診察や検査が重要になる場合が多い

・弱っている臓器や感染を繰り返している臓器があることが多く、まずはこれまでの既往をチェックする
→これにより、診療をスムーズに進めることもできるし、アンカリングされる危険もある

・感染症をとことん探して、何も見つからない場合は、非感染症も考える
→骨折、血腫、副腎不全、偽痛風、PMRなど

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