92歳 女性 主訴:発熱(※症例は一部、修正・加筆を加えてあります)
Profile:2日前まで入院していた
ADLは全介助、寝たきり、認知症ありコミュニケーションは簡単な会話のみ
HPI:9日前に胆石性の胆管炎で入院
ERCP・ESTが施行され、抗生剤治療にて2日前に退院
抗生剤は7日間投与された
その後、自宅に帰ったが、来院日、38度の高熱あり
救急受診
ROS:自分から苦痛を表現することはない
嘔吐なし 下痢なし
既往:スタンフォードAの大動脈解離(保存治療のみ)、胆管炎
高血圧、糖尿病、認知症、圧迫骨折・骨粗鬆症、偽痛風
内服:アムロジピン、カンデサルタン、ジャヌビア、ワンアルファ、抑肝散
バイタル NP 145/80. P 90, T 38.0, SPO 96%
意識 いつもよりややぐったり、発語はあり
心雑音 拡張器雑音あり
呼吸音 左右差なく清
腹部 平坦 軟 圧痛なし 肝巧打痛なし
左膝に軽度熱感と圧痛あり 腫脹はわずかで穿刺できるほどではない
皮膚 皮疹なし 静脈炎を示唆する所見なし
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
診断は?
まあ、無理です 笑
無理ですが、考え方は色々あります
まずは少し前まで入院していたので、入院中の発熱の考え方で考える方法です
1、入院になった疾患に関わるもの:今回であれば、胆管炎です
実は胆管炎じゃなかった説や治療不良だった説
肝膿瘍になってしまったなどです
2、入院後の治療介入によって起こったトラブル:今回であればERCPや抗生剤投与です
入院自体のストレスも偽痛風を誘発することがあります
CDIや静脈炎には注意が必要です
3、その他
全く関係ないことです
実は腫瘍熱だったとか、同室者がインフルエンザにウイルス感染していたとか
外来であれば、5+1と、15+1(4つのシリーズ)で考えます
これらの考え方はとても有用ですが、
超高齢者の場合は、考え方を変える必要があります
超高齢者の発熱には若年者や高齢者とは異なる10の特徴があります
①認知症や脳梗塞後遺症のため、
コミュニケーションがうまくとれないことが多い
結果として、他の施設職員や家族の話が重要になりますが、
常日頃、一緒にいるわけではないので、病歴があまりとれないことが多いです
病歴の重要性が下がってしまい、逆に身体所見の重要性が上がるのが超高齢者の発熱の特徴です
そして、検査や画像に頼らないといけない場面も多々あります
②これまでの歴史がある
これまでに入院歴や治療歴、培養歴がある人が多いです
誤嚥性肺炎や腎盂腎炎、胆管炎、蜂窩織炎を繰り返す人は大勢いますので、
そこから考えるというのがリーズナブルです
そして、これまでの尿培や喀痰培養は、治療を進めていく上で参考になりますので、
必ず目を通すようにします
抗生剤の治療歴も多く、抗生剤のアレルギーや薬剤熱を起こしたこともあるかもしれないので、要チェックです
③薬をたくさん飲んでいる
免疫抑制剤(ステロイド)を飲んでいたり、解熱剤を飲んでいたり、
近医でこっそり抗生剤が出ていたりします
超高齢者が具合が悪くなって、病院にきた場合に、
まず考えることは、薬が原因でないか?ということです
④弱っている臓器がある
喫煙によって肺がボロボロの人やBPHがあって尿が出にくい人、
胆石があり、胆管炎になりやすい人・・・
このように局所免疫が弱り、感染しやすい臓器があることが多いです
そして、ダメージを受けやすい臓器があります
例えば、腎盂腎炎になったら、すぐにイレウスになってしまう人や
意識障害のプレゼンテーションでくる人など・・・
感染臓器以外の症状がメインでくる人もいるので、とても診断が難しいことがあります
そういった場合も過去の歴史が重要になります
⑤BioよりもPsycho,social,ACPが治療方針に関わる
本当は入院適応だけど、認知症のせん妄が強すぎて、
入院自体にデメリットが大きい人や
寿命があまりない人で、できるだけ自宅で生活したい場合は、
広域の抗生剤を処方し、外来で治療することもあります
「その患者さんが何の病気を持っているかよりも、
その病気を持っている患者さんが、どんな患者さんか、ということの方が大事である」
という言葉があるように、病気の診断も大事ですが、
目の前の患者さんの家族や置かれた環境も非常に大事になります
⑥余力がない人が多い
90歳代の人が発熱を主訴にきた時点で、ほぼ間違いなく入院を考えます
入院できない理由がない限りは、入院させた方が無難だと思います
数時間後に、何があってもおかしくない方々ですので、慎重に対応した方が良いです
⑦処置が必要になることが多い
解剖学的な異常や閉塞起点を伴う感染症が、若年者よりは多く、
処置が必要になることも多いです
ただ、侵襲的であったり、認知症で本人からの意思疎通がとれない可能性もあり、
家族との話し合いが必要になるケースが多いです
感染症の処置は可逆的な病態なことも多く、非常に悩みます
⑧オッカムよりもヒッカムが大事
蜂窩織炎だと思ったら、誤嚥性肺炎も合併していて、偽痛風もあった
とかはザラにあります
腎盂腎炎でぐったりしているなあと思ったら、脳梗塞にもなっていた
とか、感染症が加わることも多いですが、非感染症も加わることは多いです
⑨非感染症の割合が増える
発熱と聞いたら、普通は感染症を考えますが、
超高齢者の場合、外傷(骨折)や血腫、大動脈解離、腫瘍、薬剤などの
非感染症の可能性が若年者に比べると、高くなります
特に骨折は明かな外傷がなくても見られることがあり、
施設に入っているから大丈夫とは思わないでください
⑩原因が不明になることが多い
痰が少し汚いし、酸素化が少し悪く、C Tでは肺炎像が少しありそうで、
尿は膿尿や細菌尿で、皮膚も少し赤いところがあって、
肝胆道系酵素が少し上がっている・・・
これが、現代版不明熱です
抗生剤で治りますが、結局何だったの?という答えは不明なことが多いです
自分が何と戦っているのかを明確にしておくことが重要です
0 件のコメント:
コメントを投稿