2021年6月6日日曜日

朝カンファレンス 〜失語 VS 意識障害〜

本日のカンファレンスも大変勉強になりました

失語の人の診察は難しいことが改めてわかりました

情報がうまくとれない時、どう考えていくか?
今回の症例を通じて、勉強しましょう

ポイント
・高齢者は我々の人智を超えた存在である


・失語か意識障害か迷ったら、意識障害のアプローチをする

・診断的治療をうまく使う

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※症例は修正・加筆を加えています



82歳 男性で主訴が様子がおかしいとのことで、家人が救急車を要請し、
救急搬送となった症例です

バイタルは血圧が高く、頻脈傾向です
かかりつけは自院ではないため、背景は不明です


これらは、救急隊からの情報レベルです

さて、これだけの情報でまずは何を考えたらよいでしょうか?

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まずはcommonなもので、strokeを考えます
特に皮質に起こった脳梗塞を疑います


様子がおかしいと言われたら、皮質(特に側頭葉)の脳梗塞を真っ先に考えます
tPAも考慮するので、いつまで元気であったか?は非常に重要です
家族の人もからなず一緒に来てもらいます

亜急性であれば、CSDHやてんかん、代謝、電解質異常を疑います

慢性であれば、慢性髄膜炎やCJD、脳腫瘍を疑います



もう一つ、commonなものとして老年症候群というものがあります

老年症候群はつまりなんでもありです


高齢者の場合、心筋梗塞や感染症、電解質異常、脱水など原因が何であっても
プレゼンテーションは同じになることがあります

つまり、だるい、元気がない、食事を食べない、口数が少ない、立てない、
といった非特異的な不定愁訴を呈することがあります



先日も初診外来に、4日前から血圧がいつもより低め(130⇨100台)で、
「何だか具合が悪い」以外に全く症状がなかった高齢女性が来ました

施設入所中で当日の朝も食事は普通にとれており、車椅子で来院されました

BP105/80,P60,SPO2 96%で熱もなく、見た目もsickな印象はありませんでした
冷や汗もありません

話しかけると普通にお話ができて、どこも痛くなく、困った様子もなく、
「先生にお任せ」と言っていました

まあ、とりあえず心電図でも・・・と思い心電図をとったら、STEMIでした
心電図とっている最中に血圧が急低下して、徐脈になりました
右冠動脈の心筋梗塞でした



怖いですね〜
改めて老年症候群はなんでもありだなあと認識しました


でも何でもありだと、元も子もないですよね 笑
弱った高齢者に全例で心電図からCTから血培までとるんですか?ってことになります


そうではありません



疾患を検索する優先順位をお伝えします


イメージとしては、弱っているところに皺寄せがくる感じです

もともと足腰が弱い人であれば、感染の時に歩行できなくなるでしょう
もともと認知機能に問題があれば、感染の時に認知症が進んだ感じになるでしょう
もともと心臓の血管が細ければ、感染症の時に心筋梗塞を合併するかもしれません


といった感じで、どの臓器や場所がもともと弱っている人なのか?という患者背景が重要です

詳しくはこちらを参考にしてください:慢性臓器障害の診かた・考え方



このように原因疾患の特徴が目立たず、
全身症状でもともと弱ったところに症状が出るのが、
高齢者の症候の特徴です


そうなると、いつものアプローチが失敗する可能性があります


例えば、高齢者が「めまい」で来院されたら、
「いつものめまい」としてアプローチすると失敗するかもしれません


高齢者の場合、若者と同じように考えてはいけません


その理由は、4つあります

①先ほど述べた通り、他の臓器のトラブルが「めまい」という表現形できている可能性があるからです

めまい以外にもだるい、食欲がない、何だか具合が悪い・・・というように
人それぞれ言い方が違います


地域によっては方言で来る方も多いです

えらい、しんどい、ごしたい・・・などなど



②二つ目は、薬によるトラブルが多すぎることです
薬でめまい、薬で食欲低下、薬で頭痛・・・

薬によるめまいは、めまいの中のどのカテゴリーになるのでしょうか?
どれでもありそうですし、どれでもなさそうです


病気から考えるとなかなか辿り着けないことがありますので、
まず高齢者が救急外来にきたら、とりあえず薬のせいにしてみましょう


③3つ目は、しっかり病歴を語ることが難しいからです

多くの症候群は病歴を元に鑑別を分けていきますが、
高齢者の場合はそもそも病歴がうまくとれないことが多いです



④最後に高齢者はなんでもありだからです

症候学のアプローチやアルゴリズムの中に超高齢者は含まれているのでしょうか
超高齢者はもはや神様の領域です

我々の人智を超えた存在であるという認識しましょう

畏敬の念を持って接してください




現病歴が加わりました

時間軸がわかりましたね
1ヶ月前までは元気だったようですが、6日前からおかしな感じになっています
最近はLINEでわかる時代ですね

他に何か聞きたいことはありますか?


はい、お酒飲みのようですね
お酒の病歴が聞き出せたことはかなり大きいです

病歴を聞いている時に、鑑別疾患がガラッと変わる瞬間があります
それは「ちゃぶ台返し系キーワード」が出たときです


例えば、
妊娠しているかもしれない時、MSMとわかった時、豆炭こたつ使っている時、
最近、海外旅行に行ったことがわかった時、アルコールを大量に飲んでいる時・・・・


これらはちゃぶ台返し系キーワードと勝手に名付けています

なぜなら、これまでの考えてきた内容が一瞬で吹き飛ぶからです



これらのキーワードは早めに聞くことがコツです



さて、意識障害なのか、失語なのか、判断が難しいですね
意識障害とすると、周辺の環境要因も気になります


感染症の時に曝露の病歴を意識しているとは思いますが、
環境要因からの中毒の病歴は意識できているでしょうか?

CH2OPD2という語呂があります
(H2 COPD2でもH2O CPDDでもいいですが・・・)


何かの中毒病態かなと思った時にはこれらを聞くとよいでしょう


さあ、鑑別疾患を考えてみましょう



色々あがりましたが、意識障害として考えるのか、
失語として考えるのか・・・という感じですね

診察してみないと、まだどちらかわかりませんね


意識障害であれば、トキシドロームを意識して診察をするのが重要です




診察すると、歩行は可能で開眼もしており、覚醒はしているようです
意識障害というよりは失語なのでしょうか


入力も出力もできていないので、全失語のような状況です
その割に麻痺がないのが気になりますね


失語は中大脳動脈領域の脳のトラブルで起こるfocal signです(もちろん例外はあります)


虚血の場合、全失語になるためには、左MCAの根本で閉塞がないとこれほどの失語にはなりません
ただ、根本で閉塞すれば錐体路もやられるはずなので、MCAの根本がつまった脳梗塞ではないのでしょう


となると、focalに左の前頭葉から側頭葉がやられる原因は、てんかん発作が原因の可能性があります


失語だけではなく、失行もありそうですね
頭頂葉にも波及しているのでしょう



血液検査やCTで目立った異常がありませんでした
亜急性から慢性の経過であり、脳梗塞であればCTでも変化は出るはずです



この段階で緊急で脳波がとれるなら、脳波をとりますし、
脳波がとれない状況であれば、セルシンを打ちます






解説


 今回は情報があまりない中で、独居高齢者の様子がおかしいという症例でした。
入院後、CT、MRI、血液検査を行っても原因不明で、自然軽快したという経過です。

 1stインプレッションは脳梗塞です。頻度的に。
特に麻痺が出ない脳梗塞、つまり皮質がやられたタイプの脳梗塞です。
前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の皮質だけがやられると、いつもと様子がおかしいということになります。前頭葉の場合は、性格が変化したり、側頭葉の場合は記憶力が落ちて認知症みたいになったり、今回のように失語を呈したり、文字が書けなくなったり、頭頂葉の場合は服がうまく着れなかったり、後頭葉の場合は視線が合わなかったり、、、、
皮質がやられた場合、高次脳機能がやられ、一見脳梗塞とは思えないような症状になります。

 一言で言えば、「いつもと様子が違う」です。というわけで、いつもと様子が違う→皮質やられた?と考えましょう。原因はvascular riskがあり、急性発症であれば脳梗塞を考えます。
MRIで梗塞がなければ、てんかん発作を考えます。亜急性から慢性の経過であれば、CJDを考えます。

 今回の症例のように意識障害か、失語かを見極めることは難しいことが多いので、迷ったら意識障害で考えるのがおすすめです。大は小をかねます。失語のアプローチで進めたら、CO中毒や肝性脳症、大動脈解離を見落とすかもしれません。
 意識障害や老年症候群と捉えれば、鑑別が広くなるので見落とすリスクは減ります。
入り口で迷ったら「大は小を兼ねる」的アプローチを思い出して、広めの症候群で進めてください。
失語で知っておくべきことは、2つです。詳しい分類(超皮質性、皮質性、皮質下性、伝導性失語)ではありません。この分類が臨床で有用だと思ったことはありません。

 もっと大事なのは、失語はfocalサインと考えることで、MCA症候群と覚えることです。失語を見たら左MCA領域のどこかがやられているのかな、と考えてください。例外は被殻や視床失語です。皮質下性失語と呼ばれています。自発性の低下が目立つのが特徴的な失語です。

 失語でもう一つ大事なことは、理解ができているかどうかです。これは今後のリハビリに関わります。理解ができないとリハビリが進みません。運動性失語よりも感覚性失語の方が厄介です。


 今回の症例の進め方をどうすればよかったか?という議論がありましたが、自分の答えは「治療ができるものから考える」です。今回であれば、VB1欠乏です。
 
 VB1欠乏のプレゼンで失語があるんですか?とか細かいことは気にしなくていいです。高齢者の病態は複雑で色々被っていることもあります。すぐに治すことができて、少しでも可能性があるのであれば、VB1はためらう必要はありません。副作用がほとんどなく、これほど著効する疾患は他にありません。

 VB1で改善がなければ、次にセルシン®︎(ジアゼパム)を打ちます。セルシンも著効します。セルシンを打って一眠りした後に、起きたら別人になります。

 てんかんの考え方は、火事です。放っておいても自然鎮火する火事もあるように、時間が経過すれば改善することがあります。火はついたり、消えたり、小さくなったり、大きくなったり、焼け跡(後遺症)を残すこともあります。慢性経過で進んだ場合、認知症と診断されていた人もいます。

 てんかんが続くとてんかんに伴う脳症になり、後遺症が残ることがありますので、てんかんを疑った場合は、いち早く鎮火(頓挫)させる努力をしましょう。

それでは、本日もありがとうございました。また来週〜


まとめ
・高齢者は我々の人智を超えた存在である
→何でもありだが、弱っている臓器から考えるとよい


・失語か意識障害か迷ったら、意識障害のアプローチをする
→大は小を兼ねる

・診断的治療をうまく使う
→VB1、セルシン®︎トライは閾値低めに



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