本日のカンファレンスも大変勉強になりました
失語の人の診察は難しいことが改めてわかりました
情報がうまくとれない時、どう考えていくか?
今回の症例を通じて、勉強しましょう
ポイント
・高齢者は我々の人智を超えた存在である
・失語か意識障害か迷ったら、意識障害のアプローチをする
・診断的治療をうまく使う
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※症例は修正・加筆を加えています
82歳 男性で主訴が様子がおかしいとのことで、家人が救急車を要請し、
救急搬送となった症例です
バイタルは血圧が高く、頻脈傾向です
かかりつけは自院ではないため、背景は不明です
これらは、救急隊からの情報レベルです
さて、これだけの情報でまずは何を考えたらよいでしょうか?
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まずはcommonなもので、strokeを考えます
特に皮質に起こった脳梗塞を疑います
様子がおかしいと言われたら、皮質(特に側頭葉)の脳梗塞を真っ先に考えます
tPAも考慮するので、いつまで元気であったか?は非常に重要です
家族の人もからなず一緒に来てもらいます
亜急性であれば、CSDHやてんかん、代謝、電解質異常を疑います
慢性であれば、慢性髄膜炎やCJD、脳腫瘍を疑います
もう一つ、commonなものとして老年症候群というものがあります
老年症候群はつまりなんでもありです
高齢者の場合、心筋梗塞や感染症、電解質異常、脱水など原因が何であっても
プレゼンテーションは同じになることがあります
つまり、だるい、元気がない、食事を食べない、口数が少ない、立てない、
といった非特異的な不定愁訴を呈することがあります
先日も初診外来に、4日前から血圧がいつもより低め(130⇨100台)で、
「何だか具合が悪い」以外に全く症状がなかった高齢女性が来ました
施設入所中で当日の朝も食事は普通にとれており、車椅子で来院されました
BP105/80,P60,SPO2 96%で熱もなく、見た目もsickな印象はありませんでした
冷や汗もありません
話しかけると普通にお話ができて、どこも痛くなく、困った様子もなく、
「先生にお任せ」と言っていました
まあ、とりあえず心電図でも・・・と思い心電図をとったら、STEMIでした
心電図とっている最中に血圧が急低下して、徐脈になりました
右冠動脈の心筋梗塞でした
怖いですね〜
改めて老年症候群はなんでもありだなあと認識しました
でも何でもありだと、元も子もないですよね 笑
弱った高齢者に全例で心電図からCTから血培までとるんですか?ってことになります
そうではありません
疾患を検索する優先順位をお伝えします
イメージとしては、弱っているところに皺寄せがくる感じです
もともと足腰が弱い人であれば、感染の時に歩行できなくなるでしょう
もともと認知機能に問題があれば、感染の時に認知症が進んだ感じになるでしょう
もともと心臓の血管が細ければ、感染症の時に心筋梗塞を合併するかもしれません
といった感じで、どの臓器や場所がもともと弱っている人なのか?という患者背景が重要です
詳しくはこちらを参考にしてください:慢性臓器障害の診かた・考え方
このように原因疾患の特徴が目立たず、
全身症状でもともと弱ったところに症状が出るのが、
高齢者の症候の特徴です
そうなると、いつものアプローチが失敗する可能性があります
例えば、高齢者が「めまい」で来院されたら、
「いつものめまい」としてアプローチすると失敗するかもしれません
高齢者の場合、若者と同じように考えてはいけません
その理由は、4つあります
①先ほど述べた通り、他の臓器のトラブルが「めまい」という表現形できている可能性があるからです
めまい以外にもだるい、食欲がない、何だか具合が悪い・・・というように
人それぞれ言い方が違います
地域によっては方言で来る方も多いです
えらい、しんどい、ごしたい・・・などなど
②二つ目は、薬によるトラブルが多すぎることです
薬でめまい、薬で食欲低下、薬で頭痛・・・
薬によるめまいは、めまいの中のどのカテゴリーになるのでしょうか?
どれでもありそうですし、どれでもなさそうです
病気から考えるとなかなか辿り着けないことがありますので、
まず高齢者が救急外来にきたら、とりあえず薬のせいにしてみましょう
③3つ目は、しっかり病歴を語ることが難しいからです
多くの症候群は病歴を元に鑑別を分けていきますが、
高齢者の場合はそもそも病歴がうまくとれないことが多いです
④最後に高齢者はなんでもありだからです
症候学のアプローチやアルゴリズムの中に超高齢者は含まれているのでしょうか
超高齢者はもはや神様の領域です
我々の人智を超えた存在であるという認識しましょう
畏敬の念を持って接してください
現病歴が加わりました
時間軸がわかりましたね
1ヶ月前までは元気だったようですが、6日前からおかしな感じになっています
最近はLINEでわかる時代ですね
他に何か聞きたいことはありますか?
はい、お酒飲みのようですね
お酒の病歴が聞き出せたことはかなり大きいです
病歴を聞いている時に、鑑別疾患がガラッと変わる瞬間があります
それは「ちゃぶ台返し系キーワード」が出たときです
例えば、
妊娠しているかもしれない時、MSMとわかった時、豆炭こたつ使っている時、
最近、海外旅行に行ったことがわかった時、アルコールを大量に飲んでいる時・・・・
これらはちゃぶ台返し系キーワードと勝手に名付けています
なぜなら、これまでの考えてきた内容が一瞬で吹き飛ぶからです
参考:ちゃぶ台返し系キーワード
これらのキーワードは早めに聞くことがコツです
さて、意識障害なのか、失語なのか、判断が難しいですね
意識障害とすると、周辺の環境要因も気になります
感染症の時に曝露の病歴を意識しているとは思いますが、
環境要因からの中毒の病歴は意識できているでしょうか?
CH2OPD2という語呂があります
(H2 COPD2でもH2O CPDDでもいいですが・・・)
何かの中毒病態かなと思った時にはこれらを聞くとよいでしょう
さあ、鑑別疾患を考えてみましょう
色々あがりましたが、意識障害として考えるのか、
失語として考えるのか・・・という感じですね
診察してみないと、まだどちらかわかりませんね
意識障害であれば、トキシドロームを意識して診察をするのが重要です
参考:意識がない人の神経診察
診察すると、歩行は可能で開眼もしており、覚醒はしているようです
意識障害というよりは失語なのでしょうか
入力も出力もできていないので、全失語のような状況です
その割に麻痺がないのが気になりますね
失語は中大脳動脈領域の脳のトラブルで起こるfocal signです(もちろん例外はあります)
虚血の場合、全失語になるためには、左MCAの根本で閉塞がないとこれほどの失語にはなりません
ただ、根本で閉塞すれば錐体路もやられるはずなので、MCAの根本がつまった脳梗塞ではないのでしょう
となると、focalに左の前頭葉から側頭葉がやられる原因は、てんかん発作が原因の可能性があります
失語だけではなく、失行もありそうですね
頭頂葉にも波及しているのでしょう
血液検査やCTで目立った異常がありませんでした
亜急性から慢性の経過であり、脳梗塞であればCTでも変化は出るはずです
この段階で緊急で脳波がとれるなら、脳波をとりますし、
脳波がとれない状況であれば、セルシンを打ちます
解説
今回は情報があまりない中で、独居高齢者の様子がおかしいという症例でした。
入院後、CT、MRI、血液検査を行っても原因不明で、自然軽快したという経過です。
1stインプレッションは脳梗塞です。頻度的に。
特に麻痺が出ない脳梗塞、つまり皮質がやられたタイプの脳梗塞です。
前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉の皮質だけがやられると、いつもと様子がおかしいということになります。前頭葉の場合は、性格が変化したり、側頭葉の場合は記憶力が落ちて認知症みたいになったり、今回のように失語を呈したり、文字が書けなくなったり、頭頂葉の場合は服がうまく着れなかったり、後頭葉の場合は視線が合わなかったり、、、、
皮質がやられた場合、高次脳機能がやられ、一見脳梗塞とは思えないような症状になります。
一言で言えば、「いつもと様子が違う」です。というわけで、いつもと様子が違う→皮質やられた?と考えましょう。原因はvascular riskがあり、急性発症であれば脳梗塞を考えます。
MRIで梗塞がなければ、てんかん発作を考えます。亜急性から慢性の経過であれば、CJDを考えます。
今回の症例のように意識障害か、失語かを見極めることは難しいことが多いので、迷ったら意識障害で考えるのがおすすめです。大は小をかねます。失語のアプローチで進めたら、CO中毒や肝性脳症、大動脈解離を見落とすかもしれません。
意識障害や老年症候群と捉えれば、鑑別が広くなるので見落とすリスクは減ります。
入り口で迷ったら「大は小を兼ねる」的アプローチを思い出して、広めの症候群で進めてください。
失語で知っておくべきことは、2つです。詳しい分類(超皮質性、皮質性、皮質下性、伝導性失語)ではありません。この分類が臨床で有用だと思ったことはありません。
もっと大事なのは、失語はfocalサインと考えることで、MCA症候群と覚えることです。失語を見たら左MCA領域のどこかがやられているのかな、と考えてください。例外は被殻や視床失語です。皮質下性失語と呼ばれています。自発性の低下が目立つのが特徴的な失語です。
失語でもう一つ大事なことは、理解ができているかどうかです。これは今後のリハビリに関わります。理解ができないとリハビリが進みません。運動性失語よりも感覚性失語の方が厄介です。
今回の症例の進め方をどうすればよかったか?という議論がありましたが、自分の答えは「治療ができるものから考える」です。今回であれば、VB1欠乏です。
VB1欠乏のプレゼンで失語があるんですか?とか細かいことは気にしなくていいです。高齢者の病態は複雑で色々被っていることもあります。すぐに治すことができて、少しでも可能性があるのであれば、VB1はためらう必要はありません。副作用がほとんどなく、これほど著効する疾患は他にありません。
VB1で改善がなければ、次にセルシン®︎(ジアゼパム)を打ちます。セルシンも著効します。セルシンを打って一眠りした後に、起きたら別人になります。
てんかんの考え方は、火事です。放っておいても自然鎮火する火事もあるように、時間が経過すれば改善することがあります。火はついたり、消えたり、小さくなったり、大きくなったり、焼け跡(後遺症)を残すこともあります。慢性経過で進んだ場合、認知症と診断されていた人もいます。
てんかんが続くとてんかんに伴う脳症になり、後遺症が残ることがありますので、てんかんを疑った場合は、いち早く鎮火(頓挫)させる努力をしましょう。
それでは、本日もありがとうございました。また来週〜
まとめ
・高齢者は我々の人智を超えた存在である
→何でもありだが、弱っている臓器から考えるとよい
・失語か意識障害か迷ったら、意識障害のアプローチをする
→大は小を兼ねる
・診断的治療をうまく使う
→VB1、セルシン®︎トライは閾値低めに
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