2022年5月13日金曜日

昨日元気で今日ショック、皮疹がなければ・・・②

症例サマリー


関節リウマチに対して、アクテムラ使用中のADLフルな70歳女性

前日まで元気であり、本日、ショックバイタルで集中治療が必要な状態

エントリー不明の菌血症がありそうで、感染性動脈炎を合併している

敗血症性ショックに準じて、輸液やNAで全身管理

ドレナージポイントがないため、エンピリックに抗生剤を投与している



そんな状況で・・・



細菌検査室「血培陽性の報告です。

      〇〇さんの〇月×日の血液培養、2/2セットでGPC が陽性になりました。」

   


ということで、やはりGPCが検出されました


次に聞くことはなんでしょうか?


GPC が検出された場合、clusterかchainかどうかを聞きます


T「 clusterですか?chainですか?」


細「chainです」


Chainだった場合に次に聞くことは、溶血の有無です


T「溶血していますか?」


細「溶血しています」



ということで、GPC chainで溶血している細菌まで絞られました


となると、鑑別は


・侵襲性肺炎球菌感染症(脾機能不全者で特に)

・劇症型連鎖球菌感染症(GAS、GBS、GGSなどの全てのβ溶連菌)


上記のどちらかに絞られました


肺炎球菌ワクチンを接種ずみであること、脾臓は普通サイズであったことから、

劇症型連鎖球菌感染症を疑いました



となると、起因菌はGAS  か non - GASです


近年、GGSが高齢者の菌血症の重要な病原菌である報告例が多数みられます

日本でもGGS菌血症はコモンな菌血症になりつつあります


 GGS菌血症 日本からの報告



そのため、GGSの菌血症に出会ったことがある医師は、


蜂窩織炎で血液培養とったら生えてくる菌

高齢者のfocus不明な発熱で生えてくる菌

抗生剤がなんでも効くので、治療がしやすい菌


というイメージがあるのではないでしょうか



しかし、時にGGSはGASと同じような振る舞いをすることがあります



今回の症例は結局、S.dysgalactiaeでした

治療は順調でICUも出ることができました

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連鎖球菌について


連鎖球菌は身近な菌でありながら、実は非常にわかりにくいです


その理由は

・分類がわかりにくい

・種類が多い

・名前がコロコロ変わる

・1つの菌が多くの病態や感染を起こす(その後の免疫病態も)


が挙げられます


細かい菌名は後で良いので、まずは大きな分類から頭に入れておきましょう


①溶血の有無

②Lancefield分類


この二つが重要です




劇症型連鎖球菌感染症


ゲシュタルトは今回の症例の経過が典型的です

(感染性動脈炎で来た症例は劇的にレアですが・・・)



パターンとしては、

①壊死性筋膜炎パターン
②STSS(トキシックショック)パターン
③focus不明の菌血症 + 敗血症性ショックパターン
④その他(髄膜炎、化膿性関節炎など)

です



以前は劇症型連鎖球菌感染症といえば「GAS」でした

GASは「人喰いバクテリア」とも称され、恐れられていました



ですが、この病態はGASだけではなく、
全てのβ溶連菌で起こりうる病態であり、
B群やG群/C群の溶連菌でも起こります



そして近年、GGSが増えてきています

http://www.iph.osaka.jp/s008/020/010/030/beta/20180326151226.htmlより








今回の症例は血液培養が陽性になるまでの時間が12時間をきっており、
非常に菌量が多いことが予想されました







検体採取から陽性までの時間 一般にこの時間が短いほど真の菌血症である可能性は高いBacT/Alert systemを用いた血液培養では肺炎球菌による重症感染症の多くは10~15時間で陽性になることが報告されている

 [Rinsho Byori 58 : 498 tv 507, 2010] 


末梢血のグラム染色をすれば、菌が見えたのかな・・・と想像しました







本症例のように急激な経過を辿る感染症は他にもあり、
例えば、クロストリジウム・パーファリンゲンスや髄膜炎菌菌血症・・・などです


こういった劇的に悪化するスピードが早い感染症の場合、
「末梢血をグラム染色してみる」という発想が重要です


末梢血をグラム染色で染めたことはありますか?


染めるなら、遠心分離してbuffy coatをみましょう














JJAAM. 2011; 22: 330-6



GGSについて

G群C群の中でも重要な菌は、S.dysgalactiae subsp equismilis(SDSE)が多いです

SDSEは時にA群も陽性のことがあります



SDSEはGASっぽくなってきているのは、菌自体がGASに似てきているようです







    


感染症学雑誌 第84巻 第 5 号付録


劇症型連鎖球菌感染症でGASが原因の場合は、クリンダマイシンの併用は有効なようです


となると、次のCQは
「SDSEによる劇症型連鎖球菌感染症はクリンダマイシンは有効か?」となります


JHNにちょうどCQに答えてくれるまとめがありました







JHNにはよいまとめがたくさんありますので、おすすめです


まとめ
・昨日元気で今日ショック、皮疹がなければ・・・背景を考える!
→溶血性貧血や胆管炎があれば、Clostridium perfringens 
 脾臓がなければ、侵襲性肺炎球菌感染症、Capnocytophaga canimorsus、髄膜炎菌
 肝臓が悪ければ、Aeromonas hydrophila
 高齢者であれば、GASやS.dysgalactiae subsp equismilis(SDSE)

・劇症型連鎖球菌菌血症を起こすのは、GASだけではない
→S.dysgalactiae subsp equismilis(SDSE)はGASと同じ振る舞いをすることがある

・劇的なスピードで悪化している感染症をみたら、末梢血のグラム染色をしてみる
→buffy coatを染めてみよう
 

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