昼カンファです
発表者 専攻医I:お願いします。症例のポイントは診断です
司会:はい、わかりました。お願いします
発表者I:症例は89歳 女性、主訴は発熱です
profileは脳梗塞とアルツハイマー型認知症で寝たきりの方です
司会:はい、ありがとうございます。皆さん、診断つきましたか?(笑)
この前、東京GIMに行ってきましたが、これくらいの情報で志水太郎先生は
30分くらい語っていましたよ
研修医N:そんなに語れません
診断は肺炎だと思います!
司会:他には?
研修医N:尿路感染!!
司会:他には?
研修医E:胆嚢炎とか、偽痛風とか
司会:ありがとうございます。もう一声かな
専攻医N:褥瘡感染とか皮膚軟部組織感染ですか?
司会:はい、ありがとうございます。その通りですね
肺炎や尿路感染症、胆管炎は検査が診断してくれます
ですが、皮膚軟部組織感染や褥瘡は自分で診断しなくてはなりません
研修医N先生!!
この前あった靴下脱がし忘れ事件をみんなに共有しましょう!!
研修医N:靴下脱がし忘れ事件?なんでしたっけえ?
司会:以前、同じような背景の方が発熱で来られて、結局、尿が汚かったので、
腎盂腎炎としてGNRターゲットに抗生剤が入っていました
入院担当になったので、見に行って靴下を脱がせて診察すると、
真っ赤に腫れあがった足が出てきました
そして、血培からGPCが生えてきました
連鎖球菌でした
救急外来の初療医に聞くと、靴下は脱がした記憶はありませんとのことでした
靴下を脱がすという一手間を惜しむと、こういうことになります
研修医N:なるほど~
司会:では症例の続きです
発表者I:はい、この方は施設入所中です
3か月前に当院で胆管炎の診断で、ESTが施行されています
その後は元気になっています
今回は、当日の朝の食事をとらず、昼も食事がとれなかったようです
バイタルを測ると、SPo2 81%、発熱38度であり、
施設の方に連れられてきました
施設の方は見に行った時には帰られていて、
詳細に経過や背景が書かれた情報提供書がありました
本人とは意思疎通はとれず、指示も入りません
司会:分かりました。ではもともとの背景をもう少し教えてください
発表者:はい、BADLはすべて全介助です
手足の拘縮も強く、寝たきりの方です
コミュニケーションはとれません
司会:わかりました
では他に聞きたいことはありますか
研修医Y:既往を教えてください、あと薬は何飲んでいますか?
発表者I:既往歴は15年前に脳梗塞、9年前にアルツハイマー型認知症、
変形性膝関節症、腰椎すべり、DM、HTです
薬はジャヌビア、フルイトラン、ニューロタン、ラキソベロンです
嘱託医が出していました
司会:ありがとうございます
こういった自分で自分の症状を言えない患者さんの時は、
こちらがくみ取ってあげなければなりません
しかし、往々にして熱の原因が分からないことが多いです
肺もちょっと汚いし、尿も濁ってるし、褥瘡もちょっとある
肝胆道系も少し上がっている
誤嚥性肺炎と尿路感染、他etcの区別ができない・・・・
これが現代版不明熱です
診察も呼吸音が浅く、手の拘縮が強く、しっかり聞けないことが予測されます
腹痛の訴えも難しいでしょう
なので診察で特に注意するべきは皮膚軟部組織感染症です
そこだけは見逃してはいけません
では診察に進みましょう
発表者:バイタルですが、
血圧127/87、脈110、体温38度、呼吸数22回/分、SPO2 81%でした
頭頚部特記すべきことはなし
胸部では、呼吸音はair入りが悪く、よく聞こえませんでした
心雑音なし
腹部 平坦軟 で圧痛もなさそうでした
肝叩打痛もなさそうです
関節の拘縮は強いですが、腫脹はありませんでした
下肢 浮腫は足背に軽度ありました
褥瘡はありませんでした
おむつもはずしてみましたが、
特に蜂窩織炎を疑わせるような発赤はありませんでした
司会:ありがとうございます
さて、皆様診断つきましたか?
無理ですよね 笑
もはや現代版不明熱の範疇です
皆様の頭の中で何を考えているか教えてください
研修医N:誤嚥性肺炎だと思います
司会:普通に考えるとそうですよね
他には?
研修医E:ちょっと前に胆管炎を起こしているので、胆嚢炎や胆管炎でもいいと思います
司会:そうですよね、胆管炎でも全く矛盾しない
他には?
専攻医Y:尿路感染症とか?
司会:そうですね、この三つが本命ですね
この患者さんで本命をあげろと言われたら誤嚥性肺炎、尿路感染、胆管炎でしょうか
では、ここからが本番です
本命以外に考えることはなんでしょうか?
つまり、みんなこのどれかに飛びつきたくなるけど、
俺は飛びつかないぞ!
しっかりこれも鑑別にあげてるぞ!!
みたいなものです
聴衆:・・・・
司会:もっというと、脳内メーカーってありましたよね?
あれで、99%はこの三つの疾患を疑っています
でも1%で他の鑑別を考えています
頭の片隅に置いておくっていう感じです
これが後々きいてきます
0か1かは大きな違いなのです
さて、この1%で考えている疾患は何でしょうか?
聴衆:・・・・・
司会:では例をあげましょう
実際にあった症例です
ADLが保たれていた人が、ある時、広範な脳梗塞になって入院しました
そのため、意思疎通も取れなくなってしまって、ずっとリハビリをしていました
ある時、発熱を来し、誤嚥性肺炎と思われ治療されていましたが、
3日たってもよくなりません
主治医は抗生剤の変更を計画していました
しかし、おもむろに指導医がルンバ―ルをすると・・・
なんと細菌性髄膜炎になっていました
という感じです
元々、意識障害の人が発熱した時、みなさん、髄膜炎を疑えますか?
研修医N:あーなるほど、それならいつもの5+1で考えればいいってことですね
なら、IEとか考えるので、口の中もよく見たいです
司会:そうですね、歯髄炎や顎骨壊死とかもよくみないと見落としますね
発表者I:口の中は何もありませんでした
司会:他はどうですか?
研修医Y:酸素化も悪いですし、あまり動いていないので、DVT-PEとかはどうですか?
司会:ありがとうございます。鑑別になりますね
でも、寝たきりの人ってあまりmassiveなPEになることは少ない印象ですね
他どうですか?
研修医E:偽痛風とか?偽痛風は後々、腫れてくるといいますし・・・
司会:そうですね、その目で赤みや熱感を見るのは大事ですね
皆さん、いいせんいっています。が、あと一歩です
もう一つ、これは押さえておきたいというのがまだ出てきていません
聴衆:・・・
研修医Y:解離?
司会:うーん、解離も熱でますけどね。。。
でもここで言ってほしいのは、解離ではないです
ヒントはこの患者さんの移動はどうなっていますか?
ベッドから車椅子にどうやって移動しますか?
よっこいしょって、運ばれていることが想像されませんか?
体幹や関節がこれだけ固まっている人なら、移動の際に何か起きるかもしれませんよ
聴衆:・・・・・
司会:ここで考えなければならないのは、骨折です
そしてそこからの血腫吸収熱と脂肪塞栓です
これが一番ピットフォールになります
もちろん、最初からそこまで強くは考えません
ですが、これでCTで肺がきれいであり、尿がきれいで、
胆道系酵素が上がっていなかったら、
1%の鑑別疾患の可能性が上がってきます
実際はどう進みましたか?
発表者I:実際は血培、採血、ガス、レントゲン、CT、尿検査と進みました
司会:まあ、ルーチンになってしまいますよね
ルーチンになると、思考が止まるのが怖いですね
発表者I:血液検査では肝胆道系酵素上昇はありませんでした
腎機能はやや悪化していました
司会:はい、ありがとうございます
ではCTを読んでみてください
研修医Y:CTでは目立った肺炎像はありません
肝内胆管にはニュービリアがあり、胆嚢内にもairが入っています
それくらいですかね?
研修医N:子宮の中の濃度がちょっと・・・
うーん、わからないです
司会:そうですね、子宮瘤膿腫は確かに鑑別です
他、何か気が付いたことはありますか?
聴取:・・・・・
司会:僕、骨折っていいませんでした?
大腿骨折れてますよ
司会:おっしゃる通りです
右の大腿骨転子部骨折と骨盤が折れていました
その目で診ると右足の付け根が血腫で腫れていて、
Hbも下がっていました
翌日も血培は陰性で、Hbはまた下がっていったので、今は輸血しています
骨折に関しては、整形と相談し本症例は手術は保留となっています
(聴衆の冷たい目)
司会:当たり前ですけど、この症例の事、何も知りませんから!
いやあーびっくりしましたね
本当に骨折とは・・・
でもよく気が付きましたね
発表者:思考の外というか辺縁というか、そこを考えろといつも言われていますので
司会:あー、radiologist ringと呼ばれるやつですね
素晴らしいです
寝たきりの方でも、骨折するということはpitfallになりやすいので、
発熱で来た場合に1%でよいので、鑑別にあげておくといいかもしれません
99%(本命)は誤嚥性肺炎、尿路感染症、胆管炎でしたが、
それぞれの検査で可能性が下がりました
そうすると、残りの鑑別の可能性が上がります
大事なのは、もともと挙げた鑑別疾患にとらわれることなく、
1%でも挙げておいた鑑別疾患を見直すことが大事です
素晴らしいケースとプレゼンでした
勉強になりました
勉強になりました
ありがとうございました
・現代版不明熱だといって、何でもかんでも不明にしない
→皮膚軟部組織感染症は一手間あれば診断できる
・99%は誤嚥性肺炎や尿路感染でよいかもしれないが、1%は他の原因を考えておく
→忘れがちなのが、骨折
・寝たきり患者さんでも骨折する
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