本日の症例もディスカッションも大変勉強になりました
腹痛診療でみなさんが大事にしていることが聞けてよかったです
実際は自分は司会に徹しているので、今回はじぶんの思考過程も交えながら振り返ります
症例 40歳 男性 主訴:腹痛 (※一部修正や加筆を加えてあります)
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生来健康な40代男性の右側腹部痛
来院の5時間前から徐々に出現しています
腹痛のバイタルで一番大事なものはどれか?という質問をはじめにさせていただきましました
そうすると、血圧や脈、呼吸数、体温とかなりばらつきがありました
もちろん、どのバイタルも大事であることに異論はありませんが、
この質問の答えは決まっていて、「脈」が答えです
実は意地悪問題で、「脈が整か不整か」というのが最も大事なバイタルになります
不整であった時点(特に抗凝固なければ)で、SMA塞栓や腎梗塞の可能性があがります
本症例は脈は整でした
1st impressionとしては年齢、性別から尿路結石でしょうか
ただ尿路結石の発症時刻は多くは夜間や朝方であり、午後〜夕方というのがやや非典型
他の鑑別としては、腎梗塞や大動脈解離、ACNESが考えられます
起き上がる時に痛いという病歴からは、筋骨格系を疑いたくなりますね
実際にどの動作で痛みが誘発されるかを確認したいです
腰の屈曲、側屈、伸展、回旋を行って、原因となる筋肉を同定したいです
屈曲だけ痛いのであれば、ACNESを疑います
食事が取れているというのも、筋骨格系を示唆します
虫垂炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、膵炎、腸閉塞であれば、食欲不振が出現することが多いので、やや可能性が下がるかもしれません
尿路結石や精巣捻転も吐き気や嘔吐はよくあります
夕食をしっかり食べられているのであれば、憩室炎や腹膜垂炎を疑います
ですが、まだまだ鑑別疾患が広いので、
鑑別を狭めるためには、痛みの詳細をもう少し聞く必要があります
OPQRST2と痛みの図(N-Tの図)を完成させましょう
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OPQRST2と痛みの図を作ることができました
ただ、実際には痛みの図は自分と患者さんと一緒に描いた方が正確になります
間違っていたら、患者さんが指摘してくれるので、問診票の裏に書くと良いでしょう
今回は買い物をした後に自宅に戻ったという経過でしたが、
もう少し詳細を知りたいですね
自宅で筋トレをしていたのかもしれませんし、
昼食にお刺身を食べたのかもしれません
子供がお腹の上で遊んでいたかもしれません
子供がお腹の上で遊んでいたとしても外傷とは誰も思わないので、
腹直筋血腫を疑った時の問診は工夫が必要です
痛みの問診は、痛みが出た直前に何をしていたのかも大事ですが、
もう少し前から聞くことが診断のヒントになることがあります
今回であれば、午前中から午後に何をしていたのかを聞くと良いと思います
きっかけがあってもタイムラグを持って発症する疾患もありますので
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ディスカッション①鑑別疾患と取りたい身体所見は?腹痛診療で気をつけていることは?(SGD)
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体動で痛みが悪化するというと、圧倒的にACNESを疑います
ACNESはみんなが思っているよりも多い病気です
ただ、ACNES診療にはコツとピットフォールがあります
ACNESを診断治療するためには、キシロカインの局所麻酔をしないといけないのですが、
意外にこれを希望されない人が多いです
患者さんからすると、腹痛できているので、
なぜ皮膚の下に注射をして、さらに痛い思いをしないといけないんだ?
という人もいます
なので、丁寧に病態を説明し、患者さんに納得していただく必要があります
そのために図を描いて、今起きているのはこういうことですよ
と伝えるようにしています(上記のような図を描きます)
もう一つは、他の腹痛をきたす疾患にACNESがかぶることがあります
多いのは、帯状疱疹です
生理痛に合併した人もいました
お腹が痛くて腹直筋が緊張してしまうと、それによって神経の絞扼が起きます
ACNESを見つけて満足するのではなく、局所麻酔で痛みが取りきれない場合は、
他に原因が隠れている可能性があります
腹痛診療で大切にしていることは?
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腹痛の身体所見で重要な徴候は、腹膜刺激徴候とカーネット徴候です
この二つの所見で、鑑別をかなり狭めることができます
腹痛の診察でみんなが重視していることは
・痛がり方の見た目と腹膜刺激徴候の有無
・痛みの程度と腹部所見の解離
・お腹の外の原因から考える
・皮膚もちゃんとみる
・US片手に診察する
・表情にも注意する
・主訴と違うところに圧痛がないかも確認する
・動いて痛い時は、実際に再現してもらう
などがあがりました
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身体所見
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どうやらACNESではないようです 笑
ACNESかどうかは、患者さんに
「自分で指一本で押して、どこが一番痛いか教えてください」と聞いてみると良いです
痛いところを迷ってしまって、指一本で押すことができなければ多分違います
ACNESの人は、自分で一番痛い部位をわかっていて、それを伝えることができます
あとはそこを押しながら、カーネット徴候して確認します
今回は身体所見上でも圧痛点がはっきりしません
ベッドから起き上がる時には、痛みが誘発されるようです
となると、やはり筋骨格系を考えたくなります
そして、忘れがちな神経系を考えます
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USでも水腎の所見はなかったようです
尿路結石を疑って水腎がなかった時に、次どうするかはポイントです
一つは尿路結石を疑い膀胱尿管移行部を見に行くことです
あまり知られていませんが、膀胱にカラードプラを当てると、
膀胱尿管移行部から尿が膀胱内に入ってくる様子が間欠的に確認することができます
膀胱尿管移行部を確認したら、その辺にエコーをあてて、
パワードプラを当てると、煌めくエコー像が見えることがあります
よくよくみると、尿管も拡張していますが、
その先に石があります
ドプラを当てると、容易に見つかります
石があるため、尿の流れに乱流が生じて、このようなエコー像になります
尿路結石でなければ、
腎梗塞、大動脈解離、SMA解離、硬膜外血腫、帯状疱疹が次の鑑別になりますので、
USでは血管系を見に行きます
ただ、腎梗塞は腎動脈の中枢で詰まっていなければ、カラードプラでは発見できませんので、
USでは除外できないことは覚えておきましょう
腎梗塞では、血液検査でLDH上昇は有名ですが、
発症からまもない時は、上昇していないのでLDHで除外することもできないので注意が必要です
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ディスカッション②この後どうしましょうか?(SGD)
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造影CTまでおこない腹痛の原因がわからない時、どうするか
というのも一つのカテゴリーです
全身性疾患や代謝疾患(DKA、高カルシウム血、薬剤)を考慮しますが、
本当は造影CTでもうつっている可能性があります
例えば、心筋梗塞は造影CTで実は染まっていない心筋がうつっている時があります
精巣捻転も横になった精巣が見えている時もあります
硬膜外に血腫ができている時もあります
今回の症例では硬膜外血腫や硬膜外膿瘍が気になりますね
そしてなんといっても帯状疱疹が一番の鑑別です
そのため、今回は帰宅の方針で良いかと思いますが、
その際には、
「帯状疱疹の可能性があるので、
毎日、ぶつぶつが出来てこないかは、
誰かに見てもらって確認してください」
と伝えて帰すことが重要です
背中だと自分だけでは確認するのが、難しいですので、
他の人にも見てもらうことが大事です
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症例を通じて
今回の症例は病歴で尿路結石やACNESを疑いましたが、
身体所見上は所見に乏しく、
USや造影CTまで施行したが、診断がつかなかったという症例です
結論はでませんでしたが、考えられることとしては、
筋膜疼痛、帯状疱疹、硬膜外膿瘍や血腫、LCNESでしょうか
自分の経験上、診断がつかない時は、
病歴や身体所見が十分にとれていない時が多いです
診断がつかなかった時は、病歴に戻ることをおすすめします
もう一つは、診断がつかなかった時にあとで電話で体調確認をすると良いです
初期研修医のうちは自分の外来でフォローすることができません
ですが、電話はできます
外来をやっていて一番貴重だと思うのは、その後の経過をフォローできることです
そこで診断がつくかもしれませんし、
病気の経過をワンポイントで見るよりも、
ツーポイントで見ると病気のゲシュタルトを掴むことができます
電話することは手間ではありますが、
患者さんからも感謝されますし、自分の経験にもなります
まさにwin-winです
特に造影CTを撮ったら後で、読影で何かを指摘されることもあるので、
必ず連絡先は聞いておくようにしましょう
医師として成長するスピードは人それぞれ、早い遅いはもちろんありますが、
こういった一手間をかけることが医師の成長のコツなのかと思っています
では、また来週〜
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