今回は実際の流れとは別に自分の思考過程を開示しようと思います
35歳 男性 主訴:食思不振(※症例は一部加筆・修正を加えてあります)
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
はい、ほぼ同年代の人です
この年の男性が食思不振になったら、まずは胃潰瘍かなと思います
あとはメンタルの問題を考えますね・・・
なので早々に仕事や家庭の状況は聞いてみたいです
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Profile:10年前にサルコイドーシスを指摘されPSL7mgを内服中
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
はい、この時点で考えることがガラッと変わりました
このようにprofileというのは非常に重要です
生来健康な35歳男性とPSLを数年飲んでいる35歳男性では考えることは違います
Profileは他の病院のカンファではあまり出てこないワードではありますが、
聞き手からすると、現病歴の前にProfileを聞けると、現病歴の聞き方も変わってきます
現病歴を長々と言われた後に、実はサルコイドーシスで・・・って言われたら、
早く言えよ!ってなります
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
現病歴:3ヶ月前から食欲がなくなってきた
2ヶ月前から食事回数が1回/日になった
1ヶ月前から一度、下痢があった
その後、軟便(2回/日程度)になった
徐々に何も食べることができなくなってきた
来院当日、家族に連れられて外来受診
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------
はい、簡単な病歴は以上です
ただ、食思不振だけでは、全ての疾患(心も体も)が鑑別になります
食思不振は low yieldな所見であり、これだけは鑑別が絞れず診断をつけるのは一苦労です
そのため、high yieldな所見がないかを探しに行きます
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ROS
腹痛なし、頭痛なし、体重減少あり(10kg痩せた)、下痢なし(軟便程度)
血便なし、黒色便なし、関節痛なし、浮腫なし
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------
はい、体重減少だけでした
ですが、食事がとれていないので、そりゃ体重も減りますよね
他の病歴を深追いする前にサルコイドーシスと薬について深追いします
話はそれからです
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------
既往歴:サルコイドーシス(肺病変を生検されて診断確定)
糖尿病、高血圧、脂質異常症
内服:PSL7mg、バクタ、カルベジロール、オルメサルタン、ジャヌビア、
ボグリボース、フォサマック、アモバン、フルニトラゼパム、メトグルコ
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------
はい、サルコイドーシスは本物のようです
サルコイドーシスは全身の臓器に問題を起こしますが、起こりやすい部位もあります
そして、致死的になる臓器もありますので注意が必要です
起こりやすい臓器としては、ぶどう膜炎や肺病変(BHL)です
他にも皮膚にサルコイド結節ができたり、結節性紅斑ができたりします
致死的なのは心サルコイドーシスです(略して心サルと循環器Drは言います)
心サルがあるかないかは、非常に難しいです
ブロックで見つかることもありますが、心筋に炎症が広がり、心機能が低下する人もいます
PETやGaシンチ、心筋生検で診断することが多いですが、
最近は造影の心臓MRIでも診断ができるようになってきました
本症例では心サルがあるかないかは気になりますね
心サルによる心不全症状やLOSであれば、食思不振はあってもいいと思います
他にも気になる薬たくさん飲んでいますね
PSLが入ると副作用対策で、薬が多くなってしまうのは仕方がないのですが、
この年ですでにポリファーマシーです
薬をたくさん飲んでいる人が調子が悪くなったら、
まずは薬のせいではないかと考えるのが、得策です
この人の場合、ステロイドを内服しているので、副腎不全を疑います
ちゃんと飲めていたかはしっかり確認したほうが良いでしょう
残薬の確認をしたいところです
糖尿病がありますが、βブロッカーが入っていますね
こうなると、低血糖症状がマスクされてしまうかもしれません
食事が全然とれていないのに、しっかり糖尿病の薬を飲んでいたら、
低血糖になっていてもおかしくないですね
ボグリボースは消化器症状が出やすいので、いつから始まったかは気になります
腹部の手術歴がないかは確認したいです
メトグルコはVB12欠乏を引き起こす可能性もあり、食思不振が続いているので、
VB12は測定しておきたいです
オルメサルタンは強力なARBですが、オルメサルタン関連スプルーという副作用があり、
オルメサルタン服用中の人が、消化器症状や神経学的な異常を出したら、
一度は疑ったほうが良いです
VB1欠乏も引き起こして、いつの間にかウェルニッケ脳症になってしまうこともあります
患者の年齢は 60 歳代~76 歳だった.
性別は男性3 例,女性 1 例で,
すべての症例で体重減少を認めた.
Ueharaらにより,Wernicke 脳症を呈するほど重症化した症例が報告されている.
体重減少量は 12kg~23kg,オルメサルタン内服期間は 1 年 6 カ月~10 年,発症から診断までの期間は 2 カ 月~ 9 カ月だった.
オルメサルタン内服開始から腸疾患発症までに、いずれも数年が経過していた.
そのため下痢の原因としてオルメサルタンを想起し難く,
診断に至るまで長時間を要していた.
内視鏡所見・病理組織像としては,十二指腸絨毛の萎縮をすべての症例に認めた.
〜引用終了〜
はい、ということでオルメサルタンは注意が必要な薬剤と覚えておきましょう
なので、自分はお酒飲みの人にはオルメサルタンは出しません
いつの間にかVB1欠乏が心配だからです
他にもBP製剤内服していますね
これは有名な食道炎の副作用がありますが、有名なわりに経験したことないですね
あとはアモバンとフルニトラゼパムを内服しています
アモバン飲んだことある人はあまりいないと思いますが、
アモバンは非常に苦い薬です
噛んだら最後、苦味がかなり残ります
普通に飲んでも苦味がすることもあります(注意:自分が飲んでいるわけではありません)
フルニトラゼパムは最近、みなくなりましたね
この薬は長時間作用するBZ系で、催眠作用が非常に強力です
そのため、犯罪や過量服薬に使われることが多く、
溶かすと青色になるように着色されました
なのでこの薬を舌の上に乗せておくと、舌が青くなります
睡眠剤をたくさん飲んだ人で、口をみて舌が青かったら、
フルニトラゼパムを大量に飲んだことがわかります
この方はBZを数年飲んでいそうなので、BZ依存症になっていそうですね
薬の副作用の説明だけで、今回は終わりになりそうですね・・・
鑑別考える前に、薬でお腹いっぱいです
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
結局、症例の結末は、
バイタルでやや血圧が低めであり、他に特記すべき所見はありませんでした
採血すると腎機能障害を認め、VB1や葉酸、亜鉛が低下していました
ランダムコルチゾールは正常値でした
CTでは特記すべき所見はありませんでした
入院にて副腎不全を疑いステロイドを少し増やして点滴を行い、
薬の調整を行なったところ、食欲は戻り元気になったという症例です
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
結局、何だったのか???
こうなるきっかけは確かにあったのだと思います
例えば、感染性腸炎でも薬の飲み忘れでも抑うつ気分になったでもよいです
ですが、それはあくまで一時的なトラブルで、普通の人であれば回復したはずです
回復せず、その後の悪循環を形成したのは、薬が原因だったのだと思います
皆様はどんな仮説を思い描きましたか?
大事なのは、本当にこの病態の仮説が正しいか、正しくないか、
ではありません
病態の仮説を人に説明できるかどうか、が重要です
原因不明だった症例だとしても、病態の仮説を間違ってもいいので立てるべきです
その理由は3つあります
1、患者さんへの説明のため
患者さんや家族としては、どうして今回こんな状況になったのかを知りたいはずです
今回は薬が悪循環の原因だったかもしれないと伝えれば、
家族の協力が得られるかもしれません
仮説であっても原因不明よりはよっぽどいいです
どんな原因であっても、原因があれば安心できます
2、病態生理を考える癖をつけるため
どんなこじつけの病態生理でもいいので、
自分の中で患者さんの体の中で起こった物語を考える癖をつけましょう
それがマクロの視点になると、家族関係やライフイベントの問題で、
この症状が形成されているのではないか?と考えるのと同じです
この癖がないと、原因不明の症例が自分の中で多発します
3、仮説を立てることが次に進む羅針盤になる
今回の病態の仮説が正しければ、今後、薬の調整を行えば本症例は何も起きないでしょう
ただ、仮説が違って、実は潰瘍性大腸炎だった
とかであれば、また症状が出現してくるはずです
仮説を立てて時間を進めると、自分が思い描いていた通りに進んでいるか、
想定外のことが起きているかがわかります
想定外のことが起きれば素早く対応することができますが、
全く仮説がないと、何が起きているのかよくわかりません
病態の仮説を立てることは、経過観察の羅針盤になります
まとめ
・薬をたくさん飲んでいる人は、まずは薬で鑑別を立ててみる
→この薬が飲めなかったらどうなるのか、飲んでいたらどうなるかを考える
・オルメサルタンを長期で内服している人の消化器症状や神経症状には注意
→疑わないと絶対に診断できない「オルメサルタン関連スプルー様腸疾患」
・「原因がなんだったのかよくわからない」と言わないようにする
→なんでもいいので、自分なりの病態の仮説を立てる
0 件のコメント:
コメントを投稿