2022年7月28日木曜日

原因不明の罠〜SAGってどんな菌?〜

90歳 男性 主訴:腰痛(※症例は一部、修正加筆を加えてあります)


胆管細胞癌があり、BSC方針の方
筋膜性疼痛が疑われる腰痛があり、入院となった




入院翌日から事態は急変します
腹痛とショックが出現しました




今回の症例のポイントは担癌患者さんの感染症、ショックの対応でした




CCCのstage4の方で腹痛の原因がはっきりせず、抗生剤やNA投与にもかかわらず、
どんどんバイタルが悪化していったという経過でした

造影剤が使えない中でのCT所見をどうやって読影するかも難しかったですね


結局、血液培養からS.constellatusが検出され、CCCに合併した肝膿瘍、
そして腹腔内への波及からの腹膜炎(原発性か二次性かは難しいですね)
加えてCCCが胃への浸潤・穿通からの胃穿孔・二次性腹膜炎という状況になっていたようです

前向きに考えると腹痛の原因がはっきりせず、病態が非常に難しい症例でした


原因不明の罠

今回の症例の話ではありませんが・・・

診断に関わらず、
体の中で何が起きているか?を推測するのは、臨床医の役割です


「よく分かりません」「原因不明です」という言葉は、
患者さん、家族を不安にさせます


間違っていても仮定でもいいので、
必ず病態を推測し、患者さん家族に伝えることが重要です


自分はカルテに「原因不明」とは記述しないようにしています


ですが、忙しいと「原因不明」って書きたくなる時があるんですよね・・・

「原因不明」と書くと思考が停止して、脳が楽になるんですよね・・・



もし、病態が分からなくて原因不明と書きたくなったら、
自分は思考を停止しようとして、
頭を楽にさせようとしていると思ってとどまってください 


S.anginosusグループ

今回、血液培養から生えてきたS.constellatusという菌は興味深い菌です

緑色連鎖球菌(α溶血)のグループの中のanginosusグループの1つです


連鎖球菌はグループが多くて、とても難しいです

人間でいうと、
黄色人種の中で、日本人で、長野県民みたいな感じです


緑色連鎖球菌は病原性は低いのですが、
anginosusグループは別で肝膿瘍や脳膿瘍など、膿瘍を形成しやすい菌です


SAGまとめ


膿瘍を作りやすいSAGですが、
IEを起こしやすいか?というと実はそうでもありません


病原性が低い他の緑色連鎖球菌の方がIEを起こしやすいとされています

このCirculation.2020;142:720-730の図はとても綺麗で気に入っています


                     Circulation.2020;142:720-730


primary bacteremiaで血液培養が陽性になるときは、GGSが多いですが、
どこかに膿瘍形成がある時はanginosusグループのどれかが生えてくることが多いですね

逆にanginosusグループのどれかが生えてきたら、
どこかに膿瘍があるはずと思った方がいいです


蜂窩織炎の方の血液培養でGGSが生えたと思ったら、
皮下に膿瘍形成しており、膿瘍の培養はSAGが生えてきた人もいました



まとめ
・病態が把握できない時、診断がつかない時に「原因不明」と記載したくなる時がある
→それは、脳が疲れて休もうとしている証拠
 思考停止スイッチはなるべく押さないようにしましょう

・ 本当に原因が不明でも、患者さんに原因不明とは伝えない
→医師にできることは病態を推測することです
 間違ってもいいので、考えていることを伝えましょう

・SAGは膿瘍作りやすい嫌な菌
→血液培養でSAGが生えたら、全身の膿瘍探しをおすすめします

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