2017年11月8日水曜日

喘鳴~心不全・喘息・気管支炎問題~

喘鳴にまつわる
心不全、喘息、気管支炎問題です

ここは一番難しいですが、やりがいのある分野です



喘鳴が目立つ肺炎像がある人

この時期増えます


肺炎として、抗生剤治療をするが、

喘鳴はいっこうによくならない


こういう時に、主治医の頭の中では・・・

喘息の既往はないが、喘鳴だけがやたらと目立つから、

喘息がこの高齢で発症したのであろうか?

⇒喘息の治療をしてみたい!


心不全の既往はないが、心不全もあってもいいかもしれない

しかし浮腫もないし、体重増加もない

⇒でも、とりあえずラシックスうってみたい!


そもそも、施設から持ち込んだ何かのウイルス性気管支炎やマイコプラズマか

⇒非定型肺炎の治療も追加してみたい!


といった具合で、なんとなく治療が開始されることが多いです

そして、どの治療もうまくいかず、泥沼化していきます



なぜこうなってしまうのか?


それは軸足がぶれているからです


軸足とは、つまり「診断」です

最初の段階では、診断は必ずしも正しい必要はなく、
暫定的に診断をして、
まずはその暫定診断にのって治療することが重要です


治療はいつもいつも、スパッとスマートな治療ができるとは限りません


絶対この病気!⇒治療!⇒ほら、治った!

なんてことは稀です


現実は、

うーん、A(PMR)かもしれないし、B(RAや脊椎関節炎、偽痛風)かもしれない

でもC(IEや化膿性関節炎)だったら、AやBの治療が非常にまずい

少なくとも、Cに害になる治療はしてはいけない


まだAとBの鑑別は完全にはできていないけれど、

このままではADLがガタ落ちしてしまう

○○の要素があり、現状ではA>Bと思う

だからまずは、Aとして治療だ!


といって治療するのが、現実の臨床です


治療開始は、綱渡りのような感覚で、そろーりそろーりと進んでいく印象です




よく、電解質の治療のところで引用される言い方ですが、

結局は「北」にいけばいいのです


東京から出発して、東へいってもいいし、西へいってもいい

だが、南には行かないようにする

西へいって、何かおかしいと感じれば、

途中で軌道修正すればよく、

だんだんと北へ進めばよい


という教えです


大事なのは、スタートの時点で、

東に行ったり、西にいったり、南へ行ったり、一気に進まないことです

自分が一体どこにいるのかわからなくなります


そして、南にいかないようにすること

つまり、治療をして悪化する病気がないかどうかを考えておく必要があります



そして、途中で何度も立ち止まることです

途中で何かおかしいと感じるためには、

ベッドサイドに頻回に通う必要があります

電解質の補正の場合は、数時間毎のフォローアップが必要でしょう





この教えを知ってから、自分で治療することに勇気がわきました

最初から完璧である必要はなく、

一番大事なのは、軌道修正であることがわかれば、

最初の一歩を踏み出せます




ですが、高齢者では、オッカムの切れ味が落ちて、

ヒッカムの格言が必要になることはあります

つまり複数の病気が合併していることは多々あり、

同時に治療しないとよくならないこともあります


ですが、多くの症例で同時に、

心不全、喘息、ウイルス性気管支炎、細菌性肺炎が起きたという人はまれだと思います

なので、ここではまず、

どれか(心不全、喘息、気管支炎)に
軸足を置く努力をしましょう
軸足をおいたら、徹底的にその治療をします



スルメ
(意味がわからない人はまど・みちおさんの「するめ」という詩を検索してください)

軸足をおく、つまり、暫定診断をするためにはどうしたらよいかというと、

それはやはり病歴や身体所見、検査が重要になってきます

しかし、

認知症があったり、高齢になると、自分の病歴や症状をうまく伝えることができません


流行りのROSをとってみても、

労作時呼吸苦+
喘鳴+
体重増加-
夜間発作性呼吸困難-
起坐呼吸-
血痰-
寝汗-
鼻汁-

といったような感じで、


「で?」


となり、鑑別が進みません


夜中の具合の悪さを本当に見たければ、

ベッドサイドのごみ箱の中のティッシュの量をみたりします

よく観察すると、夜間に痰が増えている人では、

夜にティッシュの消費量が上がっていることに気が付きます



浮腫がないかをみるには、

臥位が続いている人であれば、

脛骨前面ではなく、大腿内側後面や体幹背側をみないと分かりません


病歴が使えない時もありますし、身体所見が一見乏しい時もあります

しかし、それはこちらの受け取り側の問題で、

能動的に患者さんから発していなくても、

こちらにレセプターがあれば、

患者さんからのメッセージを受動的に感じとることができます





無言のメッセージを感じ取ることが、ベッドサイドでは重要です


これは、カンファレンスで議論していても、わかりません

日本のカンファレンスはベッドサイドから離れすぎているので、

やや臨床に即していないカンファレンスが多い印象です


患者さんに出会った瞬間に、カンファレンスでの議論が吹き飛ぶ光景を

何度も目にしてきました


診断に悩んだら、患者さんのところに何度もいく

というのは、忘れがちですが、大事なパールです




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