2019年9月10日火曜日

昼カンファレンス 〜眠れない日々、患者さんも医者も〜

発表者:お願いします
    症例は77歳 男性で主訴は不眠です
    profileはADLフルで特記すべき既往もなく、内服歴もない方です
  
    現病歴です
    来院の2か月前から眠れなくなったようです
    そのころからなんとなく、体調も悪く感じていました
    
    不眠について聞くと、寝つきも悪く、
    寝ている途中で口が乾いてしまって、途中で起きてしまうことがあるようです
    近医を受診し、ベルソムラ®を処方されましたが、
    改善がないので、当院の初診外来を受診されました

司会:ありがとうございます
   では皆さん、聞きたいことがあればお願いします

学生:日中眠くなることはありますか?

発表者:日中は眠くなりません
    

学生:今までこういった不眠はありましたか?

発表者:今回が初めてのようです


学生:足がむずむずしてしまうことはありますか

発表者:ありません


学生:日中に口が乾くことはありますか?

発表者:日中は口の渇きはないです


学生:いびきはかきますか?

発表者:今は一人で寝ているので、本人は分からないと言っていました
    昔はいびきを指摘されたことはあったようです

研修医:意欲の低下はありますか?食欲はどうですか?

発表者:趣味の囲碁にはいけているようです
    食欲は少し減っているようですが、本人は必要最低限は食べているとのことです


司会:それはうつ病を鑑別にあげた質問ですね
   うつ病の時に皆さんはどうやって質問しますか?

聴衆:・・・

司会:うつ病かな?と思ったら、3つの欲の質と量を聞くといいと言われています
   食欲、意欲、睡眠欲ですね

   軽症であれば、まずは質が落ちてきます

   例えば、食欲ならおいしくなくなってきたとか、味がしないとか
   睡眠欲なら寝た気がしないとか、自分の睡眠に不満があるとか
   意欲なら職場でケアレスミスが多くなったとか、趣味が楽しくなくなったとか

   これが進むと量が落ちてきます
   つまり、食欲なら食事量が落ちます
   睡眠欲なら睡眠時間が短くなります
   意欲なら職場にいけなくなったり、趣味をやめたりします


   今回の症例は皆さん、量は聞いてくれていますが、質も聞くようにしましょう
   食欲の質として、おいしくなくなってきたとか
   意欲の質として、囲碁が楽しくなくなってきたとか、ありますか?


発表者:そこまでは聞けていません
 
司会:ありがとうございます
   他に何か聞きたいことはありますか?


研修医:何か2か月前にきっかけはありましたか?
    周りの人が亡くなったとか

発表者:特にありませんでした


学生:寝汗はありましたか?
 
発表者:ベルソムラを飲み始めて、寝汗をかくようになったかもしれないとのことでした

発表者:寝汗を聞いたのは何でですか?

学生:悪性リンパ腫とかだと、寝汗があり、不眠につながるのかなと想像しました

司会:なるほど、確かに寝汗の定義は下着を交換するくらいっていわれますので、
   びしょびしょになれば、眠りに影響があるかもしれませんね
   ですが、寝汗が原因で不眠になった人は見た事がないので、
   直接の原因になるかはわかりませんね
   
   でもいい視点だと思います




司会:この症例は病歴が全てな印象を受けます
    もっと聞いてください
  
聴衆:・・・


司会:では、不眠について勉強しましょう
   「不眠」と聞いた時に、どんなことを頭の中に思い浮かべますか
   頭の中を開示してください


学生:内分泌疾患、薬、精神疾患、中枢神経疾患、呼吸器疾患・・・


専攻医I:環境や生活習慣


研修医E:そもそも年をとってきて、眠れなくなっただけ

司会:なるほど、生理的な睡眠時間の減少ですね
   あとはアルコールやカフェインの物質系ですかね
   カフェインはエナジードリンクとかにたくさん入っている時がありますので、
   注意が必要です

   コーヒーも午後は飲まない方がよいと言われています
   僕も午後はコーヒーを飲まないようしています
   今飲んでいますけど、ぎりぎりセーフですかね 笑


   他に不眠について、自分はこうしている!とかありますか?

   では神経内科の先生「不眠の原稿書いて!」をいう依頼がきたら、
   どんな風に書けばいいですか?
   不眠に対しての考え方を教えてください


神経内科Dr:不眠はその人の生活を細かく聴取しますね
      薬物療法でいく前に、非薬物療法をできるだけ試します
      
      原稿はお断りします 笑 


司会:笑

   了解です。

   なら、自分の頭の中を開示しますね
   えーっと、今、考えます
  
   自分だったらまずは、
   ①病気じゃないか、②病気か、に分けます
   
   ①病気じゃない場合
   まず仕事を考えます
   例えば、仕事で寝る直前までカラオケ屋や居酒屋でバイトして、
   帰ってきてもアドレナリン出ててなかなか寝付けなさそうですよね
   あとは、家庭環境を考えます
   赤ちゃんがいて、夜泣きされたら眠れませんよね
   介護する人がいて、その人が頻尿でトイレの介助が必要であれば、
   もちろん、眠れませんよね

   まあ、そういう人は原因が分かっているので、不眠を主訴には来ませんが・・・

   あとはパソコンやiphonのようなブルーライト系ですね
   
   カフェインとりすぎやアルコールもやはり多い原因です


   ②病気の場合 いわゆる二次性というやつですね

   (1)神経・精神系と(2)その他に分けます
   

   まずは(2)のその他の場合から考えます
   そして、むずむず足を考えます
   今回はなかったようですね

   むずむず足の原因は何ですか?
   色々ありますが、有名なのは鉄欠乏ですよね
   ここでは貧血の有無は問いません

   ではなぜ鉄欠乏になるのでしょうか?

   鉄欠乏になっただけで、むずむず足症候群になる人はいます
   高齢者の鉄欠乏性貧血の多くは消化管の悪性腫瘍です


   ということで、
  不眠を主訴にきた高齢者にむずむず足の症状があれば、
  その先は悪性腫瘍の検索が待っているのです

   あとは、身体疾患がある場合です
   
   骨メタで痛みがあったら、眠れないですよね
   心不全で夜間発作性呼吸苦があったら、眠れないですよね
   BPHで頻尿になっていたら、眠れないですよね

   もちろん、SASも考えます
   この辺は病歴で分かりますし、本人も気が付いていますので、
   原因不明にはならないでしょう

   
   次に(1)神経・精神系を考えます
    睡眠に関係している中枢はどこでしょうか?
    松果体や視床下部ですよね
    ということで、直接そこに異常がでれば不眠を来すかもしれません

    例えば腫瘍やMSですね
    なので、頑固な不眠の場合は一度は画像評価が必要かもしれません
    もちろん、普通は不眠以外に症状出てくることがおおいので、
    必須ではありません
  
    画像で分からない時は、自己抗体が関与している可能性も考えます
    ○○脳症というやつですね


    有名なのが、抗VGKC複合体抗体関連疾患でしょうか
    軽症であれば、アイザックス症候群やモルヴァン症候群で、
    これは頑固な不眠になります
    アイザックス症候群は、やたら筋肉がつったりすることが多くなります

    重症になると痙攣発作を繰り返したり、
    意識障害を引き起こし、いわゆる脳症になります

    こういう○○脳症を鑑別にあげたら、pivot and clusterでCJDも考えます



    
    
    神経系でいうと、あとはALSですね
    呼吸筋がやられて、CO2がたまりやすく睡眠の質が低下します
    そのせいで、ALSの人は朝方に頭痛を訴えることが多いです
    
    寝ると誰でも呼吸の抑制がかかるので、
    筋肉に余力がないと夜は顕著に悪化します


総合診療医:あとはパーキンソン病とかでも不眠はきますね
     
司会:その通りですね
   振戦とかはなかったようですね


   精神面でいうと、代表はうつ病ですね


    考える順番は、この順番ですね
    まずは生活習慣や睡眠のリズムをしっかり聴取します
    ここで問題があれば、非薬物療法を提案しやすいです
   
    次に病気の可能性のうち、神経・精神疾患以外を考えます
    むずむず足とかがあれば、フェリチンのチェックが必要ですし、
    鉄欠乏があれば、悪性腫瘍の検索も必要です

    そして、最後に神経や精神的なものを考慮します



司会:さて、こういうことを頭にいれつつ、もう一度、病歴とってみましょう
   

研修医E:筋力低下の自覚はありますか?

発表者:実は1か月前から歩行が弱ってきて、杖を使うようになったようです


研修医Y:体重の変化はどうですか?
 
発表者:はい半年前は66kgで、今は58kgまで低下しています
    食事量は確かに減ったようですが、普通に食べてはいます


司会:ほー 
   なるほど、皆さん、疾患わかりましたか?

   多分これですね。っていうのありますか?


聴衆:・・・


司会:ではもう少し聞いてみてください


研修医:呼吸苦はありますか?


発表者:夜間はありません
    ですが、動くと息があがってしまうとのことで、
    少し前に近医を受診していました

    近医受診し、数分間歩行してもらった後に酸素化を測定されたようですが、
    特に低下がなかったので、様子をみるようにとなっていました

    実はこの方、当院での健診を毎年受けていて、
    呼吸機能検査もやっていて、肺活量が年々若干ですが低下していました

    CTも既にとられていて、問題ないことは分かっていました
    タバコはやりません


司会:なるほど、では皆さんどんな鑑別疾患を浮かべていますか?

学生:神経ですかね


司会:そうですね、歩行が困難になってきたり、呼吸筋がやられてきたと考えれば、
   神経の可能性がありますね

   ではどこの神経の問題ですか?


学生:脊髄とか筋肉とかですか


司会:はい、ありがとうございます
   そうですね、あとは接合部とか
   接合部の病気は、MGなのでそれを考えるなら、何を聞きますか?


学生:日内変動です


発表者:日内変動はありませんでした
    眼瞼下垂もなく、複視もありませんでした


司会:はい、ありがとうございます
   国試だったら、ここでMGは否定していいかもしれませんが、
   臨床では否定は全然できません


   この症例の不眠の原因分かりましたか?


聴衆:・・・

司会:僕はこの症例はALSだと思います
   体重減少がkeyですね


   体重減少と聞くと癌や甲状腺、うつ病といった疾患は、
   鑑別に浮かぶと思いますが、ALSも体重減少を来します

   体重減少と聞いたら、
  真っ先にALSを思い浮かべるくらいにしておきましょう

   ではALSだったら、どんな所見をとりたいですか?
   →「ALSの身体所見」参照


学生:舌やスプリットハンドとかですか

研修医N:みたことはないですが、線維束攣縮とか


司会:ありがとうございます
   
   みなさん、釣りしたことありますか?
   釣りってすぐにつれないんですよ

   しばらく糸を垂らして、待って待って、
   ピクん!と浮きが沈みます

   そんな感覚が線維束攣縮です
   筋肉量が多い所(大腿、上腕、大胸筋)で、30-60秒ほど見ます
   瞬きすると見落とすくらい一瞬です

   しばらくみててでなければ、さすってみます
   さすってでなければ、たたいてみます


学生:鑑別で甲状腺疾患もあがりますか?


司会:そうですね、特に甲状腺機能が乱高下していれば、こんな感じになるかもしれません



司会:これはカンファレンスなので、じっくり鑑別を考えていますが、
   思い出してください
   主訴、不眠ですよ(笑)

   普通、不眠を主訴にきた人の呼吸機能検査なんて、   
   チェックしませんよ

   偉いですね


発表者:ぼく、呼吸器内科なので (笑)


司会:不眠だけであれば前医のように睡眠薬だして、
   一瞬で帰宅させることも可能ですが、

   歩行困難や体重減少、肺活量低下という情報を積極的にとりにいったからこそ、
   カンファレンスだからというのもありますが、ここまで鑑別がふくらみました

   
   ですが実際の外来で、いきなりここまで鑑別あげるのは、難しいと思います

   なので、身体所見も全部はとれていないと思います


   そもそも、不眠を主訴に来た人にとる身体所見っていったい何ですかね?


   それは鑑別にあげた疾患次第です 
        今回だったら、ALSです
     鑑別にあがらなければ診察ができません

   実際どうでした?



発表者:はい、まずバイタルですが、
   血圧がこれまでは普通だったのに、200以上ありました

   神経学的な異常は何も指摘できませんでした
   線維束攣縮はとっていません
   粗大筋力低下はありませんでした
   普通にすたすた歩けて、移動も容易にされていました

   診察はこれくらいです


   血液検査をすると、CKが500ほどに上昇していました
   なので、多発筋炎といった疾患が鑑別になり、1週間後にフォローの方針としました
   
   その際に一応、血ガスを採取しましたが、CO2の貯留はありませんでした

   その後、外来でまたフォローすると、3週間後には車いすで入室してきました
   歩行が困難になってきたとのことでした

   不眠に関しては、改善はありませんでした

   この時点で外来でやっているスピード感ではないな、
   と感じて精査目的に予約入院となりました


   しかし、予約入院時の酸素化が悪く、血ガスをとると、 
   CO2がたまっていて、Ⅱ型呼吸不全になっていました



司会:それは大変ですね
   Ⅱ型呼吸不全の考え方です
   up  to dateの分け方が分かりやすいです


司会:結局どうなりましたか?
   
発表者:入院して神経内科Drにもみてもらい、ALSの診断がつきました
    外来では詰め切れなかったのが、課題でした
    
    とても急速に悪化してきたので、びっくりしました



司会:なるほど。分かりました。
   今回は不眠という主訴できて、最終診断ALSという稀なケースですね
   ですが、ALSの呼吸筋麻痺が出てくると症状としてはこんな感じになります

   不眠のいい勉強になりました

   ありがとうございました

まとめ
・不眠の人をみたら、まずは生活習慣がないかチェック


・生活習慣のチェックが終われば、身体疾患からの不眠でないかチェック
→痛み、掻痒感、呼吸苦、頻尿など


・その次に精神疾患・神経疾患のチェック
→うつ、ALS、パーキンソン病など

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