2019年9月6日金曜日

褐色細胞腫クリーゼ

原因不明の心原性ショックに出会ったことがありますか?


心原性ショックの原因の多くは、虚血がらみです

少し前まで元気だった人が急激に心原性ショックになって、
冠動脈が正常だった場合、何を考えればよいでしょうか?

最初に思いつくのは、心筋炎です
次に、たこつぼ型心筋症です
後は、いろいろです

たこつぼ型心筋症というのは、つまりカテコラミン誘発性の心筋症であり、
動きはたこつぼ型でも、逆たこつぼ型でも、diffuse hypoでも何でもよいです


カテコラミン誘発性心筋症の多くは精神的なストレスか、身体的なストレスです
SAHでも起こり得ますが、意識障害や頭痛があることが多いので、
あまり原因不明にはなりません


精神的なストレスなんて、誰でもかかえているので、
何でもかんでも精神的なストレスが原因とはいってはいけません

ここで探すべきなのは、褐色細胞腫です




褐色細胞腫は非常に稀です

有名な割に日常診療ではなかなか出会いません
典型的なプレゼンテーションは、発作的な高血圧や頭痛、不安、動悸、振戦、発汗
(いわゆるspell)です

ですが、spellは褐色細胞腫の検査前確率を高めてはくれません

治療抵抗性の高血圧でも褐色細胞腫のスクリーニングを考えますが、
治療抵抗性の高血圧も褐色細胞腫の検査前確率を高めてはくれません

褐色性細胞腫の検査前確率を上げるハイリスク症例とは、
家族性(MEN2型やvon Hipple-Lindau)の症例や画像的に疑わしい時です


ということで、褐色細胞腫が見つかる時は、最近はもっぱら偶然とったCTに腫瘤が写っていて、そこから調べたら褐色細胞腫だった、というパターンが多いと思います


もう一つ知っておくべき、褐色細胞腫のみつかり方があります

それが、いきなりクリーゼで発症したパターンです
いきなりAIDSならぬ、いきなり褐色細胞腫のクリーゼです

日本の褐色細胞腫の心原性ショックの報告では、
6例中5例は初診時には褐色細胞腫の診断がついてません


30-50歳代の元気な人が、急に心原性の肺水腫になって、どんどん状態が悪化していくような感じです
重篤な場合、ショックになってCPAにまで陥ります


クリーゼになるトリガーとして、腫瘍内出血や梗塞があります

あとは、有名なのは手術です
褐色細胞腫があるのを知らずに他の手術をして、その後大変なことになってしまうというパターンです



褐色細胞腫によって起こった心原性ショックにはある程度決まったパターンがあります

若くてもともと元気な人が急に、胸痛・吐き気・動悸・腹痛・呼吸苦といった症状を呈して、病院受診をします
来院時の血圧はむしろ少し高めなことが多いです

レントゲン、CTをとると肺水腫になっていて、
UCGではdiffuse hypoだったり、たこつぼ型likeであったりします
トロポニンは上昇しており、心電図変化もあることが多いです

血圧が高いので、血圧を下げるニトロを開始したり、
利尿剤も入ることが多いでしょう

そして虚血が疑われ、循環器が呼ばれ、緊急カテになるでしょう


ですが、冠動脈がintactであり、あれ?虚血が原因じゃないんだ・・・
という流れになります

そしてこれくらいで、バイタルが急変し始めます
CPAになり、PCPSが回り・・・
てんやわんやになっていきます

心筋炎が鑑別になり、ステロイドが導入される症例もあります


PCPSが入り、少し落ち着いたところで原因を再度考えます
そうすると、誰かがCTで写っている副腎の腫瘤に気が付きます

あれ??

これもしかして、褐色細胞腫のクリーゼじゃない?


というのが、いきなり褐色細胞腫のクリーゼで心原性ショックになった場合のパターンです


NEJMによい症例があります
 →N Engl J Med 2018;378:1043-53.


「昨日元気で今日ショック、皮疹があれば儲けもの」という
感染症の大家の有名な言葉になぞらえて、

「昨日元気で今日ショック、
心原性っぽいけど、虚血じゃない、
そんな時は副腎チェック」

と覚えておきましょう


褐色細胞腫のクリーゼを証明する手立てはこの状況では残念ながらありません
なので、他の原因をひたすら考え続けて何もなければ、褐色細胞腫によるクリーゼかな?
という感じで進んでいきます

血中や尿中カテコラミンはあてになりません

心原性ショックでCPAになって、PCPS回っている状態で、
血中や尿中カテコラミンをとっても上がっているに決まっています

そして外注であり、すぐには帰ってきません


なので、大事なのは、

①臨床像:急激に悪化していく過程
②原因不明の心原性ショック
③CTで副腎腫瘤

この3つで、褐色細胞腫のクリーゼがかなり疑われる状況になります


褐色細胞腫のクリーゼによって起こった心原性ショックは、
リバーシブルな病態(なことが多い)です

心筋炎のようにPCPSでねばれば、改善する症例が多いのです
なのであきらめてはいけません

PCPSを入れても生存率はなんと93%もあります



褐色細胞腫クリーゼによって起こった心原性ショックかもしれないと気が付いたら、
いろいろやることが出てきます


①他科コンサルト
内分泌、泌尿器、麻酔Drと協議し、褐色細胞腫疑いの副腎をいつ摘出するかと考え出さなければなりません
場合によってはPCPS回っている間に手術してしまうこともあります

②αブロッカーをいつ入れるか
手術前には少なくとも入れておかないといけません
血行動態が安定してきたり、血圧が上昇してくると導入されている報告が多いです
点滴のαブロッカーであるフェントラミン(レギチーン®)が使われます

③βブロッカーをいつ入れるか
αブロッカーを入れて、頻脈になってきたら追加されている症例が多いです



あまりに稀な病態なので、誰も明確に答えることは難しいと思います
だからこそ、エキスパートの意見が大事になってきます


褐色細胞腫クリーゼによる心原性ショックまとめ

・いきなり褐色細胞腫クリーゼによる心原性ショックのプレゼンテーションがある
→特に若者


・昨日元気で今日ショック、
心原性っぽいけど、虚血じゃない、
そんな時は副腎チェック


・疑えば、早めに内分泌内科と泌尿器、麻酔科に相談する
→いつ手術するか、スケジュールを立てる

参考文献:日臨救急医会誌2018:21:766-71
     Ann Intensive Care 2016;6:117.
     N Engl J Med 2018;378:1043-53.

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