症例は82歳、男性で、主訴はめまいです
救急車で来院されました。
司会:はい、まためまいですね
デジャブ感が半端ないですが、やっていきましょう
発表者:プロファイルは腰部脊柱管狭窄症に対して手術したことがありますが、
ADLフルで元気な方です
現病歴は、当日、朝4時に起床し、トイレに行きました
トイレに行く途中から激しい回転性めまいと嘔吐がありました
トイレに便座で座ってしばらくいると、改善しました
しかし、また動き出すとめまいが悪化しました
その後、ベッドに戻りましたが、やはり動くとめまいがするので、
歩行ができず、救急車を要請し当院搬送となりました
司会:はい、ありがとうございます
救急車ですので、まずはバイタルを聞きましょうか
発表者:バイタルは血圧が133/63、脈59(reg/reg)、呼吸数18、SPO2 96%、
体温35.1度、意識 会話可能で清明でした
司会:さて、何か聞きたいことはありますか
研修医Y:めまいは0になりますか?安静にしていると、めまいはよくなるのですか?
発表者:はい、じっとしていれば、めまいは完全によくなるようです
学生:めまいはどんなふうに始まって、何をするとめまいがでますか
発表者:トイレに行く途中で歩いている時に出現したようです
本人は左向きが好きなようで、左向きになると楽で、
それ以外の態勢や頭位をとると、気持ち悪くめまいがでるようでした
よろしいでしょうか
学生:はい・・・
司会:せっかくなら、もう少し聞きましょうか
めまいは、どれくらい続くのですか?
発表者:どれくらい続くか?と聞いても、
正確な時間はわからないとおっしゃっていました
司会:ありがとうございます
確かに、誰だってつらい症状をストップウォッチで何分何秒と測ったりはしません
なので、聞き方にコツがあります
まず、あり得ないような長い時間を聞きます
「一時間くらい続きましたか?」
→だいたい、そんなわけはないので、そこまでは続いていません
ということになります
「じゃあ、30分くらいですかね?」
→30分もたいてい続いていません
「じゃあ、5分くらい?」
→いや、そんなに長くない、ということになるので
「じゃあ、数秒ですか?」
→うーん、数秒ではないけど、30秒とか、1分とかかな
みたいな流れになることが多いです
いきなり、何分でしたか?
と聞くと、うまく聴取できませんが、
相手に時間の感覚を思い出させながら聞くと上手に時間を聞き出せます
発表者:診察にはなりますが、確かに動くとめまいは出現し、
じっとしているとおさまりました
おそらく、1分前後くらいだと思います
司会:はい、ありがとうございます
では他に聞きたいことはありますか?
研修医Y:頭痛や耳鳴り、難聴はありましたか?
発表者:ありませんでした
研修医N:先行感染はありましたか?
発表者:一週間前に咳があったようです
自然軽快しているので、それ以上は分かりません
専攻医H:頸部痛はありましたか?
発表者:ありませんでした
司会:頸部痛はどうして聞いたのですか?
専攻医H:めまいの鑑別に中枢性、つまり脳梗塞があるので、
めまいを起こす脳梗塞とすれば、小脳や前庭の部分にからんだものだと思います
となると、PICAやAICA、SCAということになり、
etiologyとして、椎骨動脈解離が考えられます
なので、頸部痛があれば解離も考えなければならないので聞きました
司会:はい、ありがとうございます。その通りですね。
では問題です。頸部痛は解離でなければ起こらないのでしょうか?
専攻医H:あーどうなんでしょうか・・・
司会:実は頸部痛や後頭部痛は解離でなくても後方循環系の脳梗塞では、
起こることが知られています
前方循環の脳梗塞でもたまに頭痛を訴える方がいます
台湾からの報告では、7.4%に脳梗塞に頭痛がみられたようです
特に後方循環系や大血管系のアテローム血栓・心原性塞栓が多いようです
ただラクナ梗塞で頭痛を訴える人はめったにいません
司会:確かに脳梗塞だけで頭痛を訴える人はいます
しかもずっと後遺症のように残ったり、けっこう頑固な頭痛になることがあります
後方循環系でこれだけ差があるのは、
ただ解離の症例を見逃しているだけじゃないの?という気はします
なので大事なのは、
痛みがあれば、まずは解離を疑う事です
しかし、
脳梗塞でも痛みがでるということは頭の片隅に置いておいてもいいと思います
さて、では他に何か聞きたいことはありますか
外科U:既往や内服を教えてください
発表者:前立腺肥大症に対して、αブロッカーを内服しています
他に鼠径ヘルニア手術後、頸部の腫瘍の手術後です
頸部の腫瘍については、甲状腺だったのか、詳細は不明です
内服は他に芍薬甘草湯を服用しています
司会:はい、ありがとうございます
さて、あと何を聞きましょうか
聴衆:・・・・
司会:ちなみに、僕は「よくこの症例は病歴が勝負だね」とか、
「どうせ診察や検査では何もでないんでしょ」
とか言っていますが、ある程度、症候によって
病歴だけで診断までいけちゃうものがあります
ですが、めまいに関しては、病歴だけでは診断するのは難しい代表です
必ず身体診察とセットで考えます
なぜだと思いますか?
学生:え・・・
中枢性を病歴だけだと否定できないからですか?
司会:そうですね、まあ、簡単にいうとそういう事です
他に意見はありますか?
聴衆:・・・
司会:めまいの患者さんは、気持ちが悪くて、
往々にして病歴を上手に話せないということが一番の原因です
めまいになったら分かると思いますが、とても苦痛で気持ち悪く、
しっかり病歴を話せません
めまいになった時の様子を詳細に語れるほど客観視できません
それどころではないのです
なので、めまいという症候群の場合、
そもそもの病歴の信頼性が揺らいでしまうのです
ですので、めまいが全くない状態で、しっかり自分の言葉で詳細に病歴を
語れるときは別ですが、めまいが続いていたりするときは、
診断は病歴だけでは困難です
なので、めまいが持続している時点で病歴は半分くらい諦めます
この症例は、安静にしていれば、めまいは0であり、
病歴はある程度信頼してもよいと思います
さきほど、中枢性を鑑別にあげるという話がありましたが、
では他に聞きたいことはありますか?
学生:血管リスクはどうですか?
発表者:高血圧や脂質異常症、糖尿病、家族歴、喫煙歴はありません
司会:vascular riskが全然ないですね
実はvascular riskがないというのは、二通りあって、
①本当にないパターン:検査で証明されている
②調べてないから知られていないパターン:検査していない
二つのパターンがあります
なので、これを見極めるには血液検査はしていますかとか、
健康診断は受けていますか?と聞かないといけません
この人はどうでしたか?
発表者:そこまで聞いていませんでした
司会:はい、ありがとうございます
まあ、ない前提で話しをすすめると、
この症例ではvascular riskがないので、中枢性は否定してもよいですか?
学生:・・・うーん、分かりません
司会:この人、いくつでしたっけ?
82歳ですよね
ということは、もはやそれだけで強力なvascular riskです
高齢者がめまいを訴え、さらに歩けない時点で
暫定的に診断は「脳梗塞」です
司会:さて、では診察にいきますか?
先ほどもお話しした通り、
実際はめまいの症例は病歴が上手くとれないことが多く、
早々に目をみることをお勧めします
病歴を長々とるより、目の眼振を見れば、一発で診断できるときがあります
「目は口ほど物をいう」というやつですね
別の言い方をすると、「眼振はめまいのバイタル」だと思います!
聴衆:・・・・しーん
司会:・・・あんまり、受けなかったですね・・・(悲しい)
でも、眼振は本当に大事です
注視誘発眼振や垂直性眼振があれば、中枢性でしょ!
とすぐに分かります
眼振がなかったり、水平方向固定性眼振が出ている時は、
どちらもあり得るので、一番難しいです
発表者:今回は、眼振は安静時にはありませんでした
脳神経学的な異常所見はなく、
四肢の麻痺や感覚障害、失調もありませんでした
歩行に関しては、立位や頭位変換にてめまいが誘発されてしまい、
評価はできませんでした
頭位を変換すると、めまいが誘発されますが、数秒でおさまりました
司会:頭位を変換すると、すぐにめまいがでるのですか?
どういった頭位でめまいがでますか?
発表者:すぐにではなく、数秒経ってからです
そして同じ姿勢になると、おさまります
頭位に関しては、頭を左右に振っただけで、めまいが出現しました
結局、歩行ができなかったため、入院で経過観察となりました
司会:はい、ありがとうございます
この症例は、めまいの3つのパターンでいうと、どれにあたりますか?
学生:反復性頭位めまいのパターンだと思います
司会:そうですね。でのカテゴリーで中枢性と末梢性を考えます
ではこのカテゴリーで中枢性は何を考えますか?
キアリ奇形や腫瘍、変性疾患、MS、脳梗塞といった疾患が鑑別になります
末梢性はなんですか?
学生:BPPVです
司会:はい、そうですね。
さて、今日はBPPVの話をしましょう
BPPVにもいろいろあって、
後半規管型、外側半規管型、前半規管型がありますが、
前に耳石がおちることはほとんどないので、
普通は後半規管型、外側半規管型を考えます
重力の影響で耳石が落ちやすい後半規管型が一番多いです
外側(水平)半規管型はカナル結石症とクプラ結石症があります
でも実は外側半規管型の場合は、勝手に治っていることがあったり、
正確な診断がついていないこともあり、正確な頻度は不明です
BPPVの診断のためには、
「病歴+身体所見+Eple法などの治療で改善」
この3拍子そろって、はじめて診断できます
どれかがおかしければ、BPPVといってはいけません
では後半規管型のBPPVを診断するために、行う誘発は何でしたか?
学生:Dixなんちゃらだったと思います
司会:Dix-Hallpikeですね。なんか、かっこいいですよね
では、どうやるかわかりますか?
研修医N:頭を少し横に傾けて、座った状態から寝てもらって、
頭がベッドからはみ出すように下に下げます
司会:その通りですね
ではなんでそんなことしなければならないのでしょうか?
聴衆:・・・
司会:質問を変えると、後半規管の形は人間についているあるものの形に例えられます
何かしってますか?
外科Dr U:耳介
司会:はい、その通りです。(本当に何でも知ってる外科医だなぁ・・・)
耳介ってちょっと傾いてくっついていますよね
この傾きを修正するのに、少し頭を傾けるのです
そして耳介の中を転がり落とすようにイメージしながら、
頭を下げていきます
半規管の中は液体でみたされていますので、
耳石はすぐには動きません
ゆっくり水の中の砂が動くようなイメージで動き出します
なので、潜時がうまれるのです
そして頭を動かさなければ耳石はそのまま停滞します
なので、数秒でおさまるのです
耳石が動いている時に、めまいと眼振が出現します
そして、寝た状態から座位に戻すと典型的にはさっきと反対向きの眼振がでます
新進気鋭の総合診療医M:この前、誘発や治療するときにEpley法を解説してくれている
you tubeを患者さんと一緒にみながら、誘発手技しましたよ
そしたら、結構よくて患者さんも納得してやってくれました
めまい誘発するので、絶対に気持ち悪くなりますし、
嘔吐することが多いので、患者さんへの説明はとても大事です
司会:その通りですね。you tube使うところが、現代っ子ですね
水平半規管の場合は、自分の体の前で両手を組んで輪をつくったようなイメージです
だから寝ている状態で、右向いたり、左向いたりするだけで、
めまいが出現します
司会:さて、この症例はどうなりましたか?
発表者:はい、入院翌日の診察では、
左右の頭位変換(supine roll法)で、どちらも向地性の眼振がでました
左向きで明らかに眼振が強かったので、
左の外側半規管型のカナル結石症だと思いました
そこで、Gufoni法をしたり、バーベキューロールをしたり、
いろいろ試しめしましたが、あまり効果はありませんでした
高齢でもあり、脳梗塞はそうはいっても鑑別だったので、
MRIも撮影しておりますが、新規梗塞はありませんでした
せっかく、頑張って治療したのですが、効果なくて残念と思っていたら、
入院3日目にはなんと、めまいは完全に消失しており、
普通にトイレも行けるようになっていました
なので、やはりBPPVであったのだと思います
司会:はい、ありがとうございます
素晴らしいですね!よかったですね!
BPPVの治療のEpleyとかも、すぐに効くイメージがありますが、
すぐではなく、しばらく様子みて、見に行くとおさまっているという
パターンが多い気がします
今日は、BPPVのいい復習になりました
ではこれで終わりにしたいと思います
まとめ
・めまい患者の病歴はあてにならないので、早々に目を確認する
→眼振はめまいのバイタル
・BPPVは3拍子そろって、はじめてBPPV
→病歴+身体所見+Epley法の治療で改善
・BPPVの誘発を行う時の患者さんへの説明はしっかりと
→you tubeの動画を使うのも手
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