2019年9月10日火曜日

尿崩症

昨日、コンサルトを受けました
尿崩症の人なんですけど、どうやって治療すればいいですかね?

ということでした

どんな患者さんかというと、もともと肺癌に対してキイトルーダ®を使用し、
その後、下垂体機能不全となり、コートリル®とチラージン®を服用している元気な
70歳男性でした

肺癌のフォローでとったCTにて、胆嚢結石と胆管結石が無症候性にみつかり、
予約入院でERCPを予定されていました

しかし予約入院より前に右季肋部痛と発熱があり、外来を受診され、
結果、胆管炎+敗血症性ショックでした

緊急で処置が行われ、NAやピトレシンを使って、循環動態を支えました
ステロイドはストレスドーズで増やしていました
幸い、経過は良好で、NAやピトレシンもday3には中止できました


しかし・・・

day3より急に尿が大量に出始めました
なんと、7000ml/日・・・


案の定、day4には、Naが180になっているではありませんか!
前日は140だったのに・・・


こういう時はラボエラーを疑いますが、Na180meq/mlも入っている補液は普通はないので、
やはり本物なのでしょう

一応、再検しますが、やはり180台


口渇も激しく、尿比重も低く、尿浸透圧も低く、
明らかに尿崩症になっています

さて、原因はなんでしょうか?



①キイトルーダ®による下垂体炎
②もともと服用していたステロイドが少なく、実は仮面尿崩症
③ピトレシン中止に伴うもの
④敗血症に伴うもの

といった鑑別が上がります


①でもいいのですが、このタイミングで!?って感じですよね
②はありえますが、もともとステロイド内服しているので、ちょっと変ですよね

③は病態考えるとありそうですが、実際はそんな報告知りません
④はありそうですが、やはりそんな報告知りません


ということで、③と④を調べるわけです


優秀な専攻医の先生が調べてくれました

③に関しては、ここ数年で症例報告があるではありませんか!
残念ながら日本からの報告はないので、本症例が本邦初でしょう


ピトレシンは敗血症性ショックで早期から使おうというムードになっているので、
今後注意すべき副作用で、知らないとかなりびっくりします

ピトレシンを使用した1896人のうち、中止後に尿崩症を来したのは、
1.53%だったという報告もあります
(Am J Respir Crit Care Med 2019;199:A3395)

他の報告では、2.6%というものもありました

ということで、何らかのショックや脳外科的な問題(SAHなど)に対して、
ピトレシンを使用し、ピトレシンを中止した後に、
100人いたら、1~2人は尿崩症を合併するようです


まあまあ多いですね


どうして報告例が全然ないのでしょうか
今後増える可能性大です

機序は中枢性であろうということは分かっていますが、正確な機序は分かりません
ステロイドの内服を突然中止したら、副腎不全になってしまうような機序が働いているのかと想像はしますが・・・


尿崩症になってしまった場合、再度ピトレシンの点滴をしたり、
点鼻のデスモプレシンを使用します
ただ症例数が少なすぎて、
これが一過性なのか、永続的に必要になるのかは分かりません




ちなみに④の症例報告もありました
(日集中医誌 2017;24:49-50.)


この症例はピトレシンの使用はありませんでした

なので、敗血症で尿崩症が惹起されたのか、ピトレシンの中断のせいなのかは、
まだ議論が残るところです


今後の症例報告を待ちたいと思います

バソプレシン中止後尿崩症まとめ
・知らないとびっくりする
→知っていると慌てない


・バソプレシン使用後、1-2%の頻度で尿崩症が起こる
→中止後はNaや尿量に注意を


・尿崩症に対しては、ピトレシン点滴や点鼻のデスモプレシンが必要
→一過性か、永続性か分からない

参考文献:J Clin Pharm Ther.2017;1-4.
        日集中医誌 2017;24:49-50.
     Am J Respir Crit Care Med 2019;199:A3395

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