2020年1月29日水曜日

昼カンファレンス ~2軸でみる病歴と浮腫~

症例 44歳 女性 主訴:両手、両足の浮腫
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司会「はい、ありがとうございます。
   じゃあ、ここまででどうでしょうか?
   これだけでも、鑑別あがりますよね?」

学生「甲状腺の病気とか・・・
   低Alb血症とか、静水圧が上がる病気とかですか」

司会「そうだね。あとは何か思い浮かべますか?」


専攻医「妊娠とかも考えたいですね」


司会「素晴らしい!
   ここで妊娠を鑑別にあげられるのは、しっかり外来している証拠ですね

   はい、ではもう少し進みましょう」
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Profile:慢性甲状腺炎(橋本病)で年一回外来でフォロー中、内服なし
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司会「はい、ありがとうございます。
   橋本病が背景のある人のようですね?。

   これを聞いて皆さんはどう思いますか?」

学生「甲状腺機能低下や亢進の可能性があがった気がします。」

司会「そうですね。
   これまでの甲状腺機能の推移は気になりますね。

   他にはどういう印象を持ちますか?」

シーン

司会「橋本病という病気は日本人の女性にとても多い病気です。
   でも自己免疫性疾患ですよね。
   
   橋本病があるということは、自己免疫性疾患を起こしやすい背景がある人だ
  
   という認識が大事です。
   
   つまり、関節リウマチやシェーグレン症候群、重症筋無力症といった
   他の自己免疫性疾患も隠れて持っている可能性があるという事です
   

   芋づるのように色々隠れているかもしれないな・・・
 
   橋本病の人をみたら、皆さんそういう風に思ってくださいね

   では、もう少し情報をもらいましょう」
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現病歴

来院1週間前まで元気、インディアカをした
        5日前 右膝の痛みがあり、整形外科を受診した
          痛み止め(ロキソニン、レバミピド)を処方された
         その夜から手の握りにくい感じが出現した
         足も浮腫んだように感じた 

来院当日   体重が+2kg増えており、両手・両足が浮腫んだ感じがあり内科外来受診


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司会「はい、ありがとうございます。

   インディアカは言いたかっただけですね(笑)

   では、他に何か聞きたいことはありますか?」

学生「呼吸苦はありましたか?」

発表者「なかったです」


研修医「痺れや痛みはどうですか?」

発表者「ありませんでした
    右膝の痛みも痛み止めを飲んでからは軽快しているようで、来院時は痛みはなしです」


研修医「日内変動はありましたか?朝の方が握りにくいとか?」


発表者「そういうのはありませんでした」


研修医「痛み止めは処方されてから、ずっと飲んでいたのですか?」


発表者「はい、ロキソニンは朝昼夕でずっと飲んでいたようです」


他のROS
(+)両手・両足の浮腫、体重増加(+2kg)
(-)呼吸苦、痺れ、痛み、日内変動
(?)先行感染、レイノー現象、尿量低下、最終月経、便秘、尿の泡立ち

生活歴:飲酒なし、喫煙なし、妊娠の可能性100%なし

既往・既存:橋本病でフォロー中、数か月前の甲状腺は問題なし
    

内服:市販の痛み止めを生理痛の時にたまに内服


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ディスカッション①:空間軸と時間軸を意識した病歴聴取

司会「はい、ありがとうございます。

   ではもう少し他に聞きたいことはありますか?」


シーン


司会「みなさん、病歴とる時は何を意識してとっていますか?

   空間軸と時間軸、地図と年表の話を聞いたことはありますか?」


研修医「何度か聞いたことはありますが、まだ自分のものにできていません」


司会「病歴で聞いているのは、実はこの2軸のどちらかを聞いているという事です

   と、うちのボスは言っています

   病歴で症状の流れを聞いたのは、時間軸(年表)ですね
   これは病態を示唆することが多いです

   突然発症であれば、血管の問題の可能性があり、
   数日の経過であれば、炎症が病態の可能性があり、
   数か月や数年の経過であれば、腫瘍や変性疾患の可能性といった感じです。


   もう一つ、空間軸(地図)という考え方があります

   空間軸は患者さんの
  体内環境(免疫状態)と体外環境(暴露)を聞く
   
   という事です
   

   体内環境で聞くべきなのは、免疫状態や解剖・臓器のトラブルがないかです
   
   免疫状態は既往や既存症、内服歴、飲酒や喫煙歴、アトピーなどを聞きます

   ROSで聞いているのは、体内の臓器のトラブルが起きていないかを確認しているのです

   皆さん、今回の症例の体内の環境はよく聞けていると思います

   ですが、体外の環境については、まだ聞き足りないのではないでしょうか?」

研修医「仕事は何をしていますか?」

発表者「小さい子供たちの言葉の教室で先生をしています」


研修医「シックコンタクトはありました?」

発表者「ありませんでした」

研修医「時期はいつですか?」


発表者「初夏です」


司会「初夏!?なるほど、完全に冬だと思っていました。
   皆さん、昨年の初夏の症例ですよ。

   ということは初夏に流行った感染症を思い浮かべないといけない。

   何が流行していましたか?」


研修医「ヘルパンギーナです!僕がなりました(笑)
   
    そのせいで、IDATEN休みました(笑)」


司会「はい、それは残念でした。

   ヘルパンギーナ以外に何かありましたか?」

専攻医「パルボとかも流行りましたかね?」

司会「そんな気もしますね」


外科医「インディアカも流行ったっけ?」

司会「それは流行っていません

   みなさん、インディアカから一旦離れましょう!」



司会「はい、ありがとうございます。

   体外の環境についても聞いていただきました。
   では鑑別はどうなりますか?」

研修医「他にはパルボとかも鑑別です」

司会「そうですね、パルボを疑ったら他に何を聞きたいですか?」


研修医「皮疹はなかったのか聞きたいです」

司会「そうですね、
   診察でもその目で見ないと見落とすくらいのうっすらした皮疹の時もよくあります。
   
   なんていったって、昨年僕がかかりましたからね!

   確かに関節が痛くなりました。
   そしてほんのうっすら小紅斑が出ました。

   両手足が浮腫んだように張った感じになって、
   僕の場合、足はとてもかゆい皮疹でしたね。

   パルボのクリニカルコースはわかりますか?」


研修医「最初は感冒症状があり、軽快した後に発疹や関節炎が現れる
    二峰性の経過をとることが多いと思います。

    この方は二峰性という感じではないので、パルボっぽくはないのかもしれません」


司会「はい、ありがとうございます。
   他に鑑別はありますか?」


専攻医「薬も可能性はあると思います。

    ロキソニンによるNa貯留作用で浮腫は起きてもいいと思います

    ちょっと早い気もしますが」


司会「大事な鑑別ですね。
  
   みなさん、浮腫をどのように頭の中で整理していますか?」


研修医「局所性か全身性かで分けています。」

    全身性なら心臓、肝臓、腎臓、内分泌といった感じで考えます。」


司会「そうですね。まずは局所性と全身性の軸があります。

   ですが、南多摩病院の國松先生はもう一つの軸を使って分けると有用であると提唱していますね。

   聞いたことはありますか?」

シーン

司会「それは、炎症の軸です

   局所性で炎症だったら、蜂窩織炎の可能性が高いですよね。

   じゃあ、全身性の炎症だったら、、、
   
   サイトカインで過ぎて血管透過性が亢進し、間質に水分が漏れ出てしまう病態、
   敗血症の初期やTAFRO、クラークソン症候群といった疾患が挙げられます

   クラークソン症候群(systemic capillary leak syndrome(SCLS))は
   アナフィラキシーのように急速に血管内から水分が失われ、すぐにショックになります
   大量の補液(10Lとか)が必要になる特殊な病気ですので、
   頭の片隅にはいれておきましょう

   浮腫を炎症の軸で考えるのは、なるほどなあと思います。」


司会「では身体所見を見てみましょう」

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バイタル 体温36.6、血圧123/73、脈97、呼吸数16
見た目 お元気そう 顔や手足も浮腫んでいる感じもない

心音、呼吸音 問題なし
四肢 浮腫なし
関節 腫脹や圧痛なし
皮疹なし
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ディスカッション②:手が腫れた感じで握りにくいと言われたら?

司会「たまにいますよね。
   浮腫が主訴なのに、他覚的には浮腫が確認できない人。

   よく経験するのは、神経性食思不振症の人でbody imageの歪みがあって、
   ほんのわずかの浮腫が気になってしまうのです

   あとは立ちっぱなしの職業の人が夕方になったら、浮腫んでいる状態です

   浮腫みといっても病気ではない時もかなり多いです


   ですが他覚的に浮腫が確認できないからといって、
   主訴をないがしろにしてはいけません

   本人が浮腫んでいるといったら、浮腫んでいるのです。
   浮腫んでいる原因をしっかり考えましょう。

   今回は手があくぼったくて握りにくいという主訴ですね。

   どういう流れで診断しますか?」


専攻医「爪を隠すように握れるかを確認します。」


司会「はい。そうですね。ありがとうございます。

   では手があくぼったくて握りにくいと言われたら、
   どのように診察するかおさらいしましょう。


  ①まずは、視診で手や指を見て、左右差を確認します
   →指一本だけパンパンであれば、乾癬が疑われます。
    乾癬が疑われれば、爪を見ます

   →すべての指がソーセージのようにパンパンであれば、強皮症を疑います。
    強皮症が疑われれば、NFCCを見ます

  ②そして手を握ってもらってMCPの間のくぼみがあるかを確認します

   手を握ってもらう時に、「爪を隠すように握ってください」とお願いします。
   爪が隠れなければ、握りが甘いので何か原因があるかもしれません

   握ってもらったら、次に横から見ます。
   隙間が空いていたら、しっかり握れていないという事になります

  ③視診の最後に両手を合わせて合掌してもらいます
   手掌の間に隙間があれば、prayer sign(祈りの手サイン)といわれ、糖尿病が強く疑れます。


  ④触診でまずはMCPのsqueezeサインをみます
    squeezeサイン、つまりMCPを握って痛いかどうかで関節炎をスクリーニングします

    痛かったら、真剣に触って関節の腫脹があるかどうか確認していきます
    squeezeサインが陰性であっても、関節の腫脹は確認してよいです

   ⑤手掌側の屈筋腱の圧痛がないかを見ます

    関節リウマチも腱炎が起こることはあります

   
    結局、診察で何をしているかというと、
    手が握れない原因となっている局所解剖はどこか?
    
    を探しているだけです。

    皮下組織全体の浮腫が原因なのか、腱や付着部の炎症か、関節の問題か・・・

    今回はどうでしたか?」

発表者「視診上の浮腫はなくて、しっかり握れました。
    関節も全く腫れていませんでしたし、圧痛もありませんでした」


司会「みなさんどう思いますか?
   これで関節炎は否定できますか?

   できませんよね。
   だってこの方はロキソニンをしっかり内服しているのです。
   
   ロキソニンは対処療法だけの治療ではありません。

   ロキソニンは脊椎関節炎や反応性関節炎の場合は、治療にもなってしまい、
   治ってしまうこともあります。」




専攻医「この方はどうして病院に来たのですか?
    何に困っているのですか?」


司会「いいですね!誰が何に困っているか問題ですね。
   真の受診理由を聞いてみましょう!」


発表者「体重が2kg増えたのを同僚に相談したら、病院に言ったら方がいいんじゃない?
    と言われたからでした。」

司会「なるほど。本人は実はあまり困っていなかったのですね。

   さて、鑑別疾患で何を考え、検査は何を出しましょうか?」


学生「血液検査や尿検査を出します」

司会「そうですね、型のごとく心臓、腎臓、肝臓、Alb、糖尿病、甲状腺・・・
   
   何か引っかかってくれ~って祈りながら出す感じですよね(笑)

   外来でみるような浮腫の場合、
   網を投げるようにぶわっと検査して、そして一気に検査が帰ってきて、何もひっかからないとすごい困る・・・
   
   っていうのが外来のあるあるです。

   
   なのでこの網に引っかからない特殊な浮腫の鑑別を知っておくことが大事です。

   初夏に若年女性がぶわっと急に浮腫むといったら、あの疾患ですよね。」


シーン


司会「nonepisodic angioedema with eosinophilia(NEAE)です

   血液検査の好酸球にも注目したいですね

      あとは皆さん、ここでBNP出しますか?」


研修医「えー出さないですよ!
  
    だって、浮腫んでないんですよ!?」


司会「そうかなぁ。自分だったら、出すかもしれません。
   
   だってBNPめっちゃ高かったら、絶対におかしいでしょ?

   この前、経験した症例だと浮腫が主訴で来た若年女性が、
   結局、甲状腺機能低下症だったのですが、BNPが100超えていました。
   
   そうすると甲状腺機能低下だけが浮腫の原因ではなくて、心臓大丈夫?ってなりますよね

   甲状腺機能低下に伴う心不全やウイルス感染の心筋炎とかが鑑別になります
   好酸球が上がっている場合は、好酸球性の心筋炎も鑑別になります

   心臓に思いをはせる思考のスイッチのような役割になるので
   BNPは自分ならとるかもしれません」


研修医「失礼しました(口癖)」


司会「では皆さん、パルボはこの時点で出しますか?」


研修医「えー出さないでしょ!
  
   だって皮疹もないですし、感冒症状もないですし、暴露もないじゃないですか!?」


司会「皆さん忘れていませんか、暴露はありますよ。

   小さな子供に接する仕事じゃないですか?

   そして地域で流行していた時期ですよ?

   僕なら出すかな。」


研修医「失礼しました(口癖)」


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血液検査
貧血ごく軽度 Hb10(以前から)、好酸球上昇なし
肝酵素上昇なし、腎機能正常、Alb正常、電解質正常
BNP正常、糖尿病なし、甲状腺正常

尿検査 蛋白尿なし 
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ディスカッション③:さてどうしますか?

司会「網が帰ってきました。
   はい、ほとんどの鑑別が消えましたね(笑)

   浮腫の検査っていつも、こんな感じです。


   うーん、どうしましょうね・・・」


研修医「あんまり浮腫もしっかり確認できないのであれば、様子みてもらっていいんじゃないでしょうか。」


司会「うーん、でもやっぱり、パルボなんじゃないですか?

   実際はどうしました?」


発表者「はい。
    この症例でやったことは、ロキソニンによる薬剤性の浮腫だと思いましたので、
    ロキソニンをやめてもらいました

    1週間後にフォローすると、すっかり浮腫はよくなっていました。
    症状もなくなっていて、とても元気でした。」


司会「なるほどー、そっちでしたか。」

   
発表者「やっぱり、ロキソニンの浮腫でよかったですね。
 
    いつも心に薬と結核だなあ・・・


    ってなっていたのですが・・・・

    
    実はパルボのIgM抗体提出していたのです。

    なんとそれが陽性で帰ってきてしまいました。」


研修医・専攻医「えー!!」

司会「なんと!やっぱりそっちでしたか!

   よく出しましたね。」


発表者「仕事での暴露や流行があったのと、症状からパルボも疑っていました。
    
    ロキソニンをやめても症状が続くなら、パルボの可能性もあるかなと思っていたのですが、まさかの結末でした。」


司会「はい、ありがとうございました。
   なるほど、面白い症例でしたね。

   膝の痛みも浮腫もパルボのせいだったのでしょうね。
   ロキソニンはby standerだったか、浮腫の増悪因子だったのかもしれません。

   浮腫の鑑別のいい勉強になりました。ありがとうございました。」



まとめ
・病歴聴取は2軸を意識する
→時間軸(年表)と空間軸(地図)


・浮腫の原因は2軸を意識する
→局所 vs 全身の軸と、炎症のありなしの軸


・いつも心に薬と結核、流行あればパルボもチェック

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