2026年5月27日水曜日

腹部CT読影のポイント

腹部CT読影のポイント

 

CTに限らず全ての検査には目的がある。疑っている疾患によって緊急性は異なり、CTの読影の仕方も変わってくるため、一律にこのように読影すべきといった型は作りにくい。放射線の本を読むと全ての臓器に目を通して型を作るような記載もあるが、実際は浸透していないのが現実ではなかろうか。外傷の場合と腫瘍のフォロー、虫垂炎を疑った時で腹部CTの読影方法が変わるのは当然である。CT読影は「セッティング」と「目的」によって変わる。ここでは「救急外来」で「腹痛の原因精査」に絞ったCT読影のポイントについて述べさせていただく。

 

    Radiologist ring 〜人は見たいものしか見えない〜

    身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる 〜解剖を想像する〜

    画像を改造して解像度を上げる 〜造影、条件、軸〜

 



腹部CT読影の型(私見)

1、 患者情報・既往・手術歴の確認。そして以前のCTと読影結果を確認

2、 自分が挙げたメインの疾患に見合う所見があるかを確認する(Pivotを見にいく)

3、 なければ鑑別疾患で挙げた疾患を確認する(Clusterを見にいく)

4、 見ていなかった臓器や全体を見にいく(Radiologist ringを見にいく)



 

Radiologist ring 〜人は見たいものしか見えない〜

 

Radiologist ringには2つの意味がある。1つ目は実際にCTで注目して見ているものの周辺、もう1つは意識の周辺である。例えば右下腹部痛の場合、虫垂炎を狙っているため、右下腹部の臓器に注目して画像を確認する。鑑別は憩室炎や尿路結石、回盲部炎、腸閉塞がある。虫垂、回盲部、上行結腸、小腸といった症状の原因となりうるメインの臓器に注目する。ここで重要なのは、虫垂炎だろうと思ってあえて「バイアス眼鏡」をかけた状態で見にいくことである。「バイアス眼鏡」はよくも悪くも所見を感度よく拾ってくれる。逆に感度がいい状態で所見がなければ、驚く。あれ、虫垂炎の所見がない・・・しかし、ここで焦る必要はなく、虫垂炎がなかった時に見にいく疾患を見にいけばいい、という次のステップに移る。つまり、CTを撮る前に挙げていた鑑別である憩室炎、尿路結石、回盲部炎、腸閉塞を探しにいく。さらに、これらの所見が得られなければ、腸腰筋血腫はないか、腹直筋血腫はないか、精巣はどうかといった具合に中心点から徐々に同心円状に視野を広げていく。この作業は鑑別疾患の項で述べたPivot and cluster戦略(1)と同じであり、臓器を見にいくのではなく、疑った疾患がないかという視点で見にいくことが重要である。(図1

それぞれの疾患特有のCT上のサインがないかを探しにいく。


1Pivot and clusterからRadiologist ringまでの流れ

 

 

 物理的に視野を広げたら、その後は意識の外側にあるものを見にいく。人は見たいものしか見えないので、ここでようやく見たいもの以外を見にいく。実際はすでに見ているはずだが、最初の段階では見えていない。意識の中心以外は視野に入っても頭には入ってこない。いわゆるinvisible gorilla(見えないゴリラ)である(2)


 CTは見たい臓器だけではなく、見たくもない臓器を見せてくれる。ここで見つかる異常のほとんどは偶発的なものである。後々見逃しが問題になる腫瘍を見逃さないようにする。読影結果に「〇〇に腫瘍が否定できません」というコメントがつき、冷や汗をかいた経験は誰しもあるであろう。救急外来のCTMRIの放射線科の読影レポートによって約1.7%の患者で治療方針を変更する必要があり、腫瘍が疑われるケースが0.7%、再受診の呼び戻しや入院が必要とされたケースが0.8%あったという報告もある(3)


 特に腹部CTの場合、下肺の一部が写ってしまうため、肺野条件に切り替えて腫瘤がないかを探しにいく。見逃しがないかという消極的な理由で読影結果を確認するだけでなく、自分の読影と何が違ったかを積極的に確認することが読影力を上げるコツである。

 CTを撮った後は、

「後日、読影結果で何かお伝えすべきことがあれば、ご連絡させていただきますね。」という言葉を添えることを忘れないようにしよう。

 

 

身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる 〜解剖を想像する〜

 

 CTの読影力を向上させるには逆説的ではあるが、CT以外で診断をつけられるようにした方が良い。つまりCTをみる前に勝負が決まっている状況にしておく。身体所見の時点で解剖学的にどこに問題があるかを予想し、それを超音波で確認する。超音波で見た所見をCTではどう見えるかを想像する。CTを撮って自分が想像している所見が得られれば良いが、想像できていなかった場合は再度超音波を当てて、超音波での所見を確認し、診察を改めて行う。(図2


 

2:身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる



 外科DrCTを見ると立体的に解剖を想像できるのは、その後、実際に手術で解剖学的な構造の答え合わせができることも大きい。そのため、もし手術や剖検で実際に立ち会うことができれば、非常に大きな経験になる。現実はそういった経験はなかなか積めないので、教科書を読んで解剖学的臓器を立体的に想像できるようになると良いであろう(4

 

 このように身体診察と超音波とCT(と手術や剖検)を行ったり来たりすることで、それぞれがシームレスにつながりだす。CTは診断に有用ではあるが、自身の診察や超音波の技術も上げることができる。腹痛診療においては超音波がメインであり、CTはあくまで補助と位置付けておく。CTにはアクセスの問題や被曝の問題、インシデンタローマに代表される過剰な検査のリスクがあることは忘れてはならない。

 


画像を改造して解像度を上げる 〜造影、条件、軸〜

 

 CTをオーダーする時には必ず目的がある。読影をする前の大前提として、目的が達成されるような条件でCTを撮影することが重要である。つまり、造影するかどうか、造影をするのであれば、何相で撮影するかを決める。例えばFitz-Hugh-Curtis syndrome(FHCS)を診断したい場合、造影CTの早期相を撮る必要がある。早期相で認める肝被膜下濃染像が診断に有用であり、造影後期相のみでは濃染像は消失するため診断できない。(5)図3


 

3:腹部造影CT検査

A:造影早期相.肝被膜下に濃染像を認める. B:造影後期相.肝被膜下の濃染像は明らかではない

 

 

 目的によっては造影していないと診断困難であり、見逃す危険が高まる。腹部CTで造影を考慮するのは、解剖が特定できない場合、血流の有無、血管病変、炎症の広がりや壊死の評価、膿瘍検索、腫瘍浸潤や転移を探しにいく時であり、疾患では大動脈解離やSMA塞栓、絞扼性腸閉塞、NOMINon-occlusive mesenteric ischemia:非閉塞性腸管虚血症、活動性出血疑い(extravasationの有無)、肝腫瘍の破裂、異所性妊娠などが疑われる場合である。逆に単純のみで撮影した場合はこれらに関して評価が十分でないと認識すべきである。ルーチンで造影が必要であるとまでは言わないが、単純で評価が難しい場合、単純CTを見てからすぐに造影を追加するというプロトコールがあっても良いと思われる。(コラム)


 

<コラム:ルーチンで腹部CTは造影すべきか?>

 高齢者の急性腹症におけるCT検査では、造影剤による副作用(造影剤誘発急性腎障害など)のリスクを避けるため、単純CTで診断を終了できる可能性がある。

単純CTのみで十分とされる場合とは、単純CTのみで診断がついた場合(合併症のない単純な虫垂炎や憩室炎、尿路結石、感染性腸炎、虚血の疑いがない便秘)。単純CTの結果が完全に正常であり、かつ臨床的にも虚血(血流障害)が強く疑われない場合には造影を省略できる。

一方、放射線科医が現場で即座に判断できる環境であれば、個別化戦略が提案されている。まず「造影剤なし」で撮影を行い、その画像を放射線科医が即座に確認し、診断が不十分な場合や虚血などの深刻なサインが見られた場合にのみ、追加で造影剤を注入して撮影を行うという方法である。もし放射線科医がすぐに画像を確認できない忙しい環境であれば、診断の遅れを防ぐために最初から造影CTを行うべきとされている。このように、高齢者では「虚血や診断を見逃さないための造影」と「腎臓への負担を減らすための非造影」のバランスをリアルタイムな判断によって最適化することも重要である。(6


 このようにルーチンで造影を行うのではなく、患者の体格(痩せている場合は造影剤が有用)、疑われる疾患、リスク許容度に基づいて選択すべきである。(7)

 

 


当たり前ではあるが、撮った画像は全部見ることを心がけてほしい。写っている範囲の上から下まで、表面から深部までである。さらには、条件や軸を変更し画像を改造して、いろんな見方で画像を見直すと、初めて見えてくるものがある。造影したとしても単純CTも必ず確認する。自験例を元に見落としやすい部位や疾患を列挙する。

 

・一部写り込んだ乳房に認めた乳がん(Radiologist ringを思い出す)

・一部写り込んだ下肺に認めた肺がん、転移性腫瘍(肺野条件にする)

・注目していなかった骨折:肋骨、脊椎、大腿骨、恥坐骨、仙骨(骨条件にする)

・見ていなかった硬膜外血腫(その目で見ると見える)

・見ていなかった脊椎にあった転移性骨腫瘍、化膿性椎間板椎体炎(矢状断にする

・腹壁や胸壁の皮下に認めた転移性腫瘤(ACNESだと思って局所麻酔した)

・一番下に写っていた精巣捻転(軸が横になっていた)

・ガスを伴う腸骨筋膿瘍(腸管に見えた)

・播種性内臓帯状疱疹(SMAや腹腔動脈周囲の脂肪織濃度上昇)

・連鎖球菌による後腹膜脂肪織炎(SMAや腹腔動脈周囲の脂肪織濃度上昇)

・腹膜垂炎(腸管ばかりに目がいくと、腹膜に目がいかなくなる)

・心筋梗塞(造影すると造影不良域が見える場合がある)

 

 

 

1 Shimizu, T. & Tokuda, Y. Pivot and cluster strategy: a preventive measure against diagnostic errors. Int. J. Gen. Med. 5, 917–921 (2012).

2 www.theinvisiblegorilla.com

3  小山 徹 、 吉池 昭一, 菅沼 和樹、ら。救急外来における放射線科読影レポートを確認することの有用性の検討(A study of the usefulness of inspection of radiology reports in the emergency room) 日救急医会誌. 2020; 31: 269-77

4  3D anatomy : 腹部エコー・CTを立体的に読む 立体透視図による腹部解剖アトラス

5  三井 康裕ら.臨床症状が経時的に変化し、造影CT検査で特徴的な所見を呈したFitz-Hugh-Curtis症候群の2.日内会誌106:1012~10182017

6  Coutureau, J., Millet, I. & Taourel, P. CT of acute abdomen in the elderly. Insights Imaging 16, 95 (2025).

7  Wolfe, C., Halsey-Nichols, M., Ritter, K. & McCoin, N. Abdominal pain in the emergency department: How to select the correct imaging for diagnosis. Open Access Emerg. Med. 14, 335–345 (2022).

2026年5月24日日曜日

鑑別疾患の挙げ方

   時間軸を意識する 〜working diagnosis

   空間軸を意識する 〜ABCアプローチ〜

   上達のコツ 〜まずは仮説を立てる〜

 

忙しい外来や救急の合間に病態生理を考え、鑑別疾患をもれなく挙げることは現実的ではない。実際の臨床現場では経験や直感、マニュアル本、mnemonicに頼り、鑑別疾患をあげ検査や治療に踏み切ることが多い。年次が上がれば、経験がついてくるので鑑別疾患をスムーズに挙げられるようになり、スピードは上がるだろう。しかし、経験は得られても基礎は身につかない。自分の経験したことのない症状や稀な症候群の場合は応用が効かず、お手上げになってしまう。ここでは鑑別疾患を挙げるときに意識しておくべき事柄について述べる。診断における基礎体力のようなものであり、筋トレと同じである。システム12については既存の文献でも言及されているため、今回は時間軸と空間軸という視点で鑑別疾患の挙げ方について解説する。(1 

時間軸を意識する:working diagnosis

最近ではAIで鑑別疾患の確認を行うことも珍しくない。(コラム)今後、カルテにAIが搭載されれば、リアルタイムで患者情報をAIが吸い取り、与えられた情報を元に鑑別疾患が列挙される時代が来ると思われる。AIが優秀なのは、修正力である。新たな情報が加われば、その都度、鑑別疾患や仮の診断は変わっていくし、変わらなければならない。しかし、人間は「早期閉鎖」や「アンカリング」に代表されるようなバイアスの影響で、鑑別を変えられない時がある。診断エラーの原因は知識不足だけでなく、認知バイアスである。特に忙しい救急外来や疲れている夜勤帯に発生しやすい。(2)そこに疲れ知らずのAIという第三者が客観的な鑑別を列挙してくれれば、診断性能は大いに向上するであろう。(3)


<AI時代の鑑別疾患>

 AIに個人情報に配慮しながら医学的情報を伝え、鑑別疾患を再考している先生も多いと思われる。直接患者情報を伝えて、鑑別は?と聞くのではAIの思考プロセスやどのようなバイアスがこの症例に隠されているかが分からない。そのため、一度、AIの中で議論を深めてもらうようにプロンプト(表1)を設定すると、実際の思考過程が可視化されて勉強になり、診断率も向上するという研究もある。(3

1AIに与えるプロンプト例

 

 問診票の時点、病歴をとった時点、診察をした時点で鑑別疾患は変わっている。この時間経過で変わる仮の診断を栃木医療センターの矢吹 拓先生は working diagnosis」と呼んでいる。

つまり、鑑別疾患を挙げるという作業は、必ず時間軸を意識する必要があり、非常に動的な作業である。検査と同じくらい時間は診断に寄与する。もっというと、時間によって生まれた変化(Δ)が大事なのである。

 

空間軸を意識する:ABCアプローチ

 次は時間軸を考えず、その時点でどのような鑑別疾患を挙げるかについて解説する。AIに全て任せるのではなく、あくまでAIを補助的に使うためには自分自身でも鑑別疾患を挙げられる必要がある。そのためには、Aanatomcy(解剖)を意識し、BVINDICATE-P)病因を考える。

VBの発音が似ているため、こう覚える。B:病因でも良い

VINDICATE-P」とはVVascular(血管性) IInfection / Inflammation(感染・炎症)  NNeoplasm(腫瘍)  DDegeneration(変性)  IIntoxication(中毒)  CCongenital(先天性) AAutoimmune / Allergy(自己免疫・アレルギー) TTrauma(外傷)  EEndocrine / Electrolyte(内分泌・電解質) PPsychiatric(精神疾患)  である


ABを縦軸(A)、横軸(B)におき、交点に鑑別疾患を列挙していくスタイルが「コリンズのVINDICATE鑑別診断法」である。(4) A(解剖)は表面から徐々に深部へと向かっていくように解剖学的な構造物を上から列挙していく。右下腹部腹痛であれば、皮膚→脂肪→筋肉→腹膜→腸管→血管→・・・といった順序である。(図1

1AB(V)で鑑別疾患を列挙する

 

 このBを使えば、解剖を解像度高く意識するようになり、初学者でも鑑別疾患を捻り出すことができる。例えば、皮膚・脂肪と感染症(I)であれば帯状疱疹や蜂窩織炎が思い浮かび、筋肉と血管(V)であれば腹直筋血腫が思い浮かぶ。もちろん例外もあり、尿路結石はVINDICATEのどこだ?とか、倦怠感の解剖ってなんだ?と、当てはめにくいものもある。その場合は適当に当てはめてもらって構わないし、解剖学的に説明がつけられないのであれば、病態生理に沿って考える必要がある。あくまで鑑別疾患が挙がらなくて困っている人のための思考術である。

 この方法は症例検討会といった振り返りの場面でも登場するが、実臨床でも診断に悩んでいる場面で非常に有用である。倫理カンファレンスの4分割表のような役割で、客観的に自分の頭の中を整理できる利点がある。初学者はこのようにABで多くの鑑別を挙げられるようになることから始める。鑑別疾患をあげられないと診断できないので可能性が低くても、ここでは広く挙げることを意識する。

鑑別がたくさん挙げられるようになったら、次のステップに入る。鑑別疾患の優先順位priorityを決めることである。(図2

2ABで発散、Cで収束


 優先順位を決めるためには、3Cが有名である。CommonCriticalCurable3Cである。よくある病気から考えましょう、致死的な病気を見落とさないようにしましょう、治せる(特に時間の制約のある)病気から考えましょう、という教えである。例えば、咽頭痛という主訴の場合、Commonなものは、咽頭炎・扁桃炎である。Critical かつcurableなものは、心筋梗塞や扁桃周囲膿瘍である。鑑別に上がるからといって、いきなり咽頭がんを鑑別の上位に挙げたりはしない。さらに実臨床では3Cの他に二つCを加えて5Cで考えることを提唱したい。

 

 Costと(InfectionControlである。Costはお金、時間、マンパワーのコストを考える。つまり、その鑑別疾患を診断するためにお金や時間、マンパワーはどれくらい必要になるのか?ということである。世間的にはあり得ないことではあるが、患者さんは値段も知らされずに商品(検査や治療)を買わされているのと同じ状況にある。日本の保険制度が素晴らしいことに医師はあぐらをかいており、救急で造影CTの値段も即答できない医師が多いのではないだろうか。命はお金では変え難いという暗黙知から、患者さんへの金銭的負担を後回しにしていることが多い。そろそろ、カルテに検査や処方をオーダーした場合の金額も表示されるべきだと個人的には思っている。時は金なりという言葉もあるように、時間もお金と同じくらい大事である。検査結果が出る時間を知っておき、患者さんに今後の時間軸を提示することでトラブルは減る。マンパワーを使っていいかは、周囲の環境にも依存する。tPA対応すると決めたら、その患者さんにマンパワーが割かれる。STEMIも同様である。マンパワーを割いてでもすぐに診断すべきかどうかを考える必要がある。

InfectionControlは文字通り、感染対策を意識してほしい。少し前はコロナへの感染対策であったが、2026年の春は麻疹が流行中である。つまり自分や周りへの感染対策を即座に行うべきかを検討する。結核、水痘、麻疹が鑑別になった時点で空気感染対策を行う必要がある。コロナやインフルエンザといった院内感染が懸念される場合は流行時期によっては、救急外来でのチェックの閾値も下がる。


 机上で鑑別疾患の優先順位を決めるには3Cで十分なのだが、実臨床では3Cでは足りず、Costと(InfectionControlを意識しないと、次に何をすべきか、までは進めない。鑑別疾患を挙げて正しい診断に迫ることが大事なのではない。明日も健やかに元気に生きていてもらうことのほうが重要である。診断がつかないことは多々あり、患者さんのお財布に優しく、患者さんの命を守り、患者さんの満足度も上がる診療で結果的に診断がつけば御の字である。実臨床は鑑別疾患を挙げる作業とは次元の違うものであり、ここに学生という学習者と医師というプロフェッショナルの間に明確な差がでる。

 

上達のコツ:仮説を立てること

 鑑別疾患を列挙して、優先順位をつけてそれに見合った検査を行うまでは良いが、最後に仮説を立てることの重要性を強調しておきたい。いわゆるアブダクションである。(5) 除外しなければならない疾患が鑑別にあるため色々検査は出すが、おそらくこういうことが起きているのではないか?という仮説を立てること重要である。当たり前に思われるかもしれないが、この仮説を立てるか立てないかで、今後の検査結果が返ってきた時のインパクトが変わってくる。仮説を立てつつ、その疾患・病態に「思い」をのせてほしい、もっというと「賭けて」ほしい。臨床推論は賭け事やゲームではないことは言うまでもないが、それぐらいの気概が必要である。自分が立てた仮説通りに進むかどうかを注意深く見守ることで、その後の風景が変わってくる。鑑別をあげ検査をたくさん出して、何が返ってくるかな?といった底引き網漁のような進め方は良くない。検査結果が返ってきた時に何も思わなくなってしまう。そうではなく、マグロの一本釣りの気持ちでいてほしい。現実的には一つの鑑別に絞ることは危険であり、やむなく他の検査を出すことにはなるが、気持ちは一本釣りである。(図3

3:網羅的に検査することでは、臨床推論は上達しない

  そして釣れなかった時、つまり自分の思い浮かべた仮説が外れた時はショックを受けてほしい。そうすることで、なぜ、間違えたかを考え、その疾患への解像度が上がり、ゲシュタルトが形成されていく。そして次なる鑑別へと進むことができる。この作業こそが臨床推論であり、一周回って同じ位置ではなく、螺旋状に一次元高い位置に移動している。この螺旋を登るための最初のステップは、仮説を立てる(マグロの一本釣り)ことである。間違いを恐れず「自分はこうだと思う」という仮説をぜひカルテに記載し、所信表明してほしい。「Aも考えられるが、Bも考えられる。だが、Cの可能性も否定はできない。Dもあり得るため検査する」といった無難なカルテとはさよならしよう。

Eだろう。ABCDは除外のため検査しておく」で十分である。


 これが志水太郎先生の提唱しているPivot and cluster戦略にも重なる。(6)

  Eという疾患をPivot(中心軸)に据え、そのPivotの疾患と臨床像が近い疾患群をCluster(群)として想起する。実臨床ではPivot and cluster戦略を使い、症例検討の際にはABCアプローチで振り返ることをお勧めする。

 

1 徳田安春.月刊保団連  No.1380.2022.9

Watari, T.,Tokuda, Y., Amano, Y., Onigata, K. & Kanda, H. Cognitive bias and diagnostic errors among physicians in japan: A self-reflection survey. Int. J. Environ. Res. Public Health 19, 4645 (2022).

Ke, Y. et al.Mitigating cognitive biases in clinical decision-making through multi-agent conversations using large language models: Simulation study. J. Med. Internet Res. 26, e59439 (2024).

4  R.ダグラス・コリンズ 著ほか:コリンズのVINDICATE鑑別診断法.メディカル・サイエンス・インターナショナル.2014.5

今井むつみ・秋田喜美著 『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』 中央公論新社 2023 


6  Shimizu, T. & Tokuda, Y. Pivot and cluster strategy: a preventive measure against diagnostic errors. Int. J. Gen. Med. 5,917–921 (2012).

腹部CT読影のポイント

腹部CT 読影のポイント   CT に限らず全ての検査には目的がある。疑っている疾患によって緊急性は異なり、 CT の読影の仕方も変わってくるため、一律にこのように読影すべきといった型は作りにくい。放射線の本を読むと全ての臓器に目を通して型を作るような記載もあるが、実際は浸透して...

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