腹部CT読影のポイント
CTに限らず全ての検査には目的がある。疑っている疾患によって緊急性は異なり、CTの読影の仕方も変わってくるため、一律にこのように読影すべきといった型は作りにくい。放射線の本を読むと全ての臓器に目を通して型を作るような記載もあるが、実際は浸透していないのが現実ではなかろうか。外傷の場合と腫瘍のフォロー、虫垂炎を疑った時で腹部CTの読影方法が変わるのは当然である。CT読影は「セッティング」と「目的」によって変わる。ここでは「救急外来」で「腹痛の原因精査」に絞ったCT読影のポイントについて述べさせていただく。
① Radiologist ring 〜人は見たいものしか見えない〜
② 身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる 〜解剖を想像する〜
③ 画像を改造して解像度を上げる 〜造影、条件、軸〜
腹部CT読影の型(私見)
1、 患者情報・既往・手術歴の確認。そして以前のCTと読影結果を確認
2、 自分が挙げたメインの疾患に見合う所見があるかを確認する(Pivotを見にいく)
3、 なければ鑑別疾患で挙げた疾患を確認する(Clusterを見にいく)
4、 見ていなかった臓器や全体を見にいく(Radiologist ringを見にいく)
Radiologist ring 〜人は見たいものしか見えない〜
Radiologist ringには2つの意味がある。1つ目は実際にCTで注目して見ているものの周辺、もう1つは意識の周辺である。例えば右下腹部痛の場合、虫垂炎を狙っているため、右下腹部の臓器に注目して画像を確認する。鑑別は憩室炎や尿路結石、回盲部炎、腸閉塞がある。虫垂、回盲部、上行結腸、小腸といった症状の原因となりうるメインの臓器に注目する。ここで重要なのは、虫垂炎だろうと思ってあえて「バイアス眼鏡」をかけた状態で見にいくことである。「バイアス眼鏡」はよくも悪くも所見を感度よく拾ってくれる。逆に感度がいい状態で所見がなければ、驚く。あれ、虫垂炎の所見がない・・・しかし、ここで焦る必要はなく、虫垂炎がなかった時に見にいく疾患を見にいけばいい、という次のステップに移る。つまり、CTを撮る前に挙げていた鑑別である憩室炎、尿路結石、回盲部炎、腸閉塞を探しにいく。さらに、これらの所見が得られなければ、腸腰筋血腫はないか、腹直筋血腫はないか、精巣はどうかといった具合に中心点から徐々に同心円状に視野を広げていく。この作業は鑑別疾患の項で述べたPivot and cluster戦略(1)と同じであり、臓器を見にいくのではなく、疑った疾患がないかという視点で見にいくことが重要である。(図1)
それぞれの疾患特有のCT上のサインがないかを探しにいく。
図1:Pivot and clusterからRadiologist ringまでの流れ
物理的に視野を広げたら、その後は意識の外側にあるものを見にいく。人は見たいものしか見えないので、ここでようやく見たいもの以外を見にいく。実際はすでに見ているはずだが、最初の段階では見えていない。意識の中心以外は視野に入っても頭には入ってこない。いわゆるinvisible gorilla(見えないゴリラ)である(2)
CTは見たい臓器だけではなく、見たくもない臓器を見せてくれる。ここで見つかる異常のほとんどは偶発的なものである。後々見逃しが問題になる腫瘍を見逃さないようにする。読影結果に「〇〇に腫瘍が否定できません」というコメントがつき、冷や汗をかいた経験は誰しもあるであろう。救急外来のCTやMRIの放射線科の読影レポートによって約1.7%の患者で治療方針を変更する必要があり、腫瘍が疑われるケースが0.7%、再受診の呼び戻しや入院が必要とされたケースが0.8%あったという報告もある(3)。
特に腹部CTの場合、下肺の一部が写ってしまうため、肺野条件に切り替えて腫瘤がないかを探しにいく。見逃しがないかという消極的な理由で読影結果を確認するだけでなく、自分の読影と何が違ったかを積極的に確認することが読影力を上げるコツである。
CTを撮った後は、
「後日、読影結果で何かお伝えすべきことがあれば、ご連絡させていただきますね。」という言葉を添えることを忘れないようにしよう。
身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる 〜解剖を想像する〜
CTの読影力を向上させるには逆説的ではあるが、CT以外で診断をつけられるようにした方が良い。つまりCTをみる前に勝負が決まっている状況にしておく。身体所見の時点で解剖学的にどこに問題があるかを予想し、それを超音波で確認する。超音波で見た所見をCTではどう見えるかを想像する。CTを撮って自分が想像している所見が得られれば良いが、想像できていなかった場合は再度超音波を当てて、超音波での所見を確認し、診察を改めて行う。(図2)
図2:身体診察-超音波-CTをシームレスに繋げる
外科DrがCTを見ると立体的に解剖を想像できるのは、その後、実際に手術で解剖学的な構造の答え合わせができることも大きい。そのため、もし手術や剖検で実際に立ち会うことができれば、非常に大きな経験になる。現実はそういった経験はなかなか積めないので、教科書を読んで解剖学的臓器を立体的に想像できるようになると良いであろう(4)
このように身体診察と超音波とCT(と手術や剖検)を行ったり来たりすることで、それぞれがシームレスにつながりだす。CTは診断に有用ではあるが、自身の診察や超音波の技術も上げることができる。腹痛診療においては超音波がメインであり、CTはあくまで補助と位置付けておく。CTにはアクセスの問題や被曝の問題、インシデンタローマに代表される過剰な検査のリスクがあることは忘れてはならない。
画像を改造して解像度を上げる 〜造影、条件、軸〜
CTをオーダーする時には必ず目的がある。読影をする前の大前提として、目的が達成されるような条件でCTを撮影することが重要である。つまり、造影するかどうか、造影をするのであれば、何相で撮影するかを決める。例えばFitz-Hugh-Curtis syndrome(FHCS)を診断したい場合、造影CTの早期相を撮る必要がある。早期相で認める肝被膜下濃染像が診断に有用であり、造影後期相のみでは濃染像は消失するため診断できない。(5)図3
図3:腹部造影CT検査
A:造影早期相.肝被膜下に濃染像を認める. B:造影後期相.肝被膜下の濃染像は明らかではない
目的によっては造影していないと診断困難であり、見逃す危険が高まる。腹部CTで造影を考慮するのは、解剖が特定できない場合、血流の有無、血管病変、炎症の広がりや壊死の評価、膿瘍検索、腫瘍浸潤や転移を探しにいく時であり、疾患では大動脈解離やSMA塞栓、絞扼性腸閉塞、NOMI(Non-occlusive mesenteric ischemia:非閉塞性腸管虚血症、活動性出血疑い(extravasationの有無)、肝腫瘍の破裂、異所性妊娠などが疑われる場合である。逆に単純のみで撮影した場合はこれらに関して評価が十分でないと認識すべきである。ルーチンで造影が必要であるとまでは言わないが、単純で評価が難しい場合、単純CTを見てからすぐに造影を追加するというプロトコールがあっても良いと思われる。(コラム)
<コラム:ルーチンで腹部CTは造影すべきか?>
高齢者の急性腹症におけるCT検査では、造影剤による副作用(造影剤誘発急性腎障害など)のリスクを避けるため、単純CTで診断を終了できる可能性がある。
単純CTのみで十分とされる場合とは、単純CTのみで診断がついた場合(合併症のない単純な虫垂炎や憩室炎、尿路結石、感染性腸炎、虚血の疑いがない便秘)。単純CTの結果が完全に正常であり、かつ臨床的にも虚血(血流障害)が強く疑われない場合には造影を省略できる。
一方、放射線科医が現場で即座に判断できる環境であれば、個別化戦略が提案されている。まず「造影剤なし」で撮影を行い、その画像を放射線科医が即座に確認し、診断が不十分な場合や虚血などの深刻なサインが見られた場合にのみ、追加で造影剤を注入して撮影を行うという方法である。もし放射線科医がすぐに画像を確認できない忙しい環境であれば、診断の遅れを防ぐために最初から造影CTを行うべきとされている。このように、高齢者では「虚血や診断を見逃さないための造影」と「腎臓への負担を減らすための非造影」のバランスをリアルタイムな判断によって最適化することも重要である。(6)
このようにルーチンで造影を行うのではなく、患者の体格(痩せている場合は造影剤が有用)、疑われる疾患、リスク許容度に基づいて選択すべきである。(7)
当たり前ではあるが、撮った画像は全部見ることを心がけてほしい。写っている範囲の上から下まで、表面から深部までである。さらには、条件や軸を変更し画像を改造して、いろんな見方で画像を見直すと、初めて見えてくるものがある。造影したとしても単純CTも必ず確認する。自験例を元に見落としやすい部位や疾患を列挙する。
・一部写り込んだ乳房に認めた乳がん(Radiologist ringを思い出す)
・一部写り込んだ下肺に認めた肺がん、転移性腫瘍(肺野条件にする)
・注目していなかった骨折:肋骨、脊椎、大腿骨、恥坐骨、仙骨(骨条件にする)
・見ていなかった硬膜外血腫(その目で見ると見える)
・見ていなかった脊椎にあった転移性骨腫瘍、化膿性椎間板椎体炎(矢状断にする)
・腹壁や胸壁の皮下に認めた転移性腫瘤(ACNESだと思って局所麻酔した)
・一番下に写っていた精巣捻転(軸が横になっていた)
・ガスを伴う腸骨筋膿瘍(腸管に見えた)
・播種性内臓帯状疱疹(SMAや腹腔動脈周囲の脂肪織濃度上昇)
・連鎖球菌による後腹膜脂肪織炎(SMAや腹腔動脈周囲の脂肪織濃度上昇)
・腹膜垂炎(腸管ばかりに目がいくと、腹膜に目がいかなくなる)
・心筋梗塞(造影すると造影不良域が見える場合がある)
2 www.theinvisiblegorilla.com
3 小山 徹 、 吉池 昭一, 菅沼 和樹、ら。救急外来における放射線科読影レポートを確認することの有用性の検討(A study of the usefulness of inspection of radiology reports in the emergency room) 日救急医会誌. 2020; 31: 269-77
4 3D anatomy : 腹部エコー・CTを立体的に読む 立体透視図による腹部解剖アトラス
5 三井 康裕ら.臨床症状が経時的に変化し、造影CT検査で特徴的な所見を呈したFitz-Hugh-Curtis症候群の2例.日内会誌106:1012~1018,2017
7 Wolfe, C., Halsey-Nichols, M., Ritter, K. & McCoin, N. Abdominal pain in the emergency department: How to select the correct imaging for diagnosis. Open Access Emerg. Med. 14, 335–345 (2022).