2021年5月29日土曜日

化膿制海綿静脈洞血栓症 〜海綿静脈洞の局所解剖に強くなる〜

 副鼻腔炎に伴う危ない合併症の中に鼻性眼窩内合併症があります


これには分類があり、chnadler分類というのが古くから提唱されています

その中のgroupⅤに位置するのが、海綿静脈洞血栓症です


疑うポイントは

「頭痛や発熱が数日続き、ある時、急に目が腫れてきた

 目を動かすと痛い、ものが二重に見える」

こんな症状があれば疑ってください


そしてCTを撮ると思いますが、見るべきポイントは眼静脈です


海綿静脈洞には上下の眼静脈が流れ込みます

そのため血栓ができると、眼静脈のうっ滞が生じて左右差が見られます


疑ったら造影CTとMRIを行って確定させます



この病気に出会うことは医者人生の中で1回あるかないかだと思います

それくらい稀な病気です


ただこの疾患を知ることで、海綿静脈洞とはなにか?

という解剖学的な知識の復習になります


局所解剖に強ければ、次に何が起こるかを予測できます



海綿静脈洞の局所解剖について


海綿静脈洞は、下垂体の両側にある硬膜静脈洞です
下には蝶形骨洞が位置しています


海綿静脈洞は静脈が集まるハブ的な存在です

眼や歯、顔の中心部、副鼻腔、扁桃からの静脈が流れ込んできます

そのため、これらの部位に細菌感染症があると、
細菌が静脈を伝って海綿静脈洞に流れ込むことがあります

これらの静脈には弁がないことも感染を起こしやすい原因と考えられています

そして海綿静脈洞の内部には小柱がたくさんみられ、ここで細菌がトラップされると考えられています



海綿静脈洞には静脈だけでなく、内部に神経も集まっています
主に眼に関わる神経が内部を走行します



海綿静脈洞血栓症(CST)ではこれらの脳神経が障害を受けますが、全ての神経がやられるとは限りません

その中でも外転神経は内側部にあるため、炎症の波及などで障害を受けやすく、目の外転障害がみられることが多いです




海綿静脈洞の中には内頸動脈も走行しています
そのため、内頸動脈瘤が海綿静脈洞で破裂すると、
内頸動脈-海綿静脈洞瘻になります

この病態も目が飛び出てくるので、CSTの鑑別になります



海綿静脈洞は前後で左右の海綿静脈洞と繋がっています

そのため、片側の眼が腫れたと思ったら、
1、2日後には反対側も腫れてしまうということはあります



海綿静脈洞に炎症が波及していくと、下垂体にも炎症が波及していくことがあります

下垂体機能不全に陥る可能性もありますので、
治療中にショックをきたした場合、副腎不全も考慮します





化膿性海綿静脈洞血栓症まとめ


背景:歯科や耳鼻科治療歴があり、副鼻腔や歯の治療がこじれている人
   糖尿病があったり、ステロイド内服中の人はリスクです
   眼窩蜂窩織炎は小児に多い疾患ですが、どの年代でも起きます

   
部位:海綿静脈洞の炎症や血栓が起きます
   海綿静脈洞には眼静脈が流れ込みますので、そこに血栓ができると鬱滞して、
   目が腫れてきます
   眼窩蜂窩織炎も鑑別になりますし、合併していることもあります
   
   きっかけは、副鼻腔炎が多いです
   特に蝶形骨洞や篩骨洞の炎症の場合に起きやすいです
   副鼻腔炎以外にも歯科感染症や顔面の感染症(面疔)でも起こります


微生物:副鼻腔炎をきたす菌が多いですが、
    黄色ブドウ球菌が最多とされています

     重篤な病態であり、嫌気性菌を含めたカバーが必要なことが多いです
     
     髄膜炎の合併も懸念されるので、髄膜炎doseで開始する方が無難です
     腰椎穿刺も行っておいた方が良いでしょう


治療:抗生剤の投与は当たり前です
   大事なのは、ドレナージできる病態がないかを探すことです
   
   原因となった蝶形骨洞炎や眼窩の膿瘍、硬膜下膿瘍がないか探します

   耳鼻科、脳外科、歯科・・・他科との協力が必要になることが多いです


   血栓があるため、抗凝固薬も行われることが多いです
   ヘパリンにて治療が開始されます 
   
   


まとめ

・化膿性海綿静脈洞血栓症は鼻性眼窩合併症の一つ

→稀だが認知度が低い、見逃されると致死的になる


・海綿静脈洞血栓症を学ぶことは海綿静脈洞周囲の解剖を学ぶことにもなる

→局所解剖に強くなろう、局所解剖を知ると応用がきくようになる


・海綿静脈洞血栓症は蝶形骨洞炎の波及で起こることが多い

→治療の原則は、ドレナージができる病態がないか探すこと

2021年5月27日木曜日

高齢男性の前頭部の皮疹と痛み 〜帯状疱疹の先へ〜


 

今回も面白かったですね

帯状疱疹は奥が深いです

commonな疾患ですが、プレゼンテーションが多彩で合併症も多彩です


帯状疱疹について改めて勉強したい人にオススメです

オススメ度:★★★★☆


症例 78歳 男性 主訴:頭皮・顔面の皮疹


入院3日前まで患者は元気であった

入院3日前、左側の額と前頭部、両側上顎洞圧迫感のある疼痛が生じた

他院のプライマリケアクリニックを受診し、

以前の副鼻腔炎での疼痛と同様であると話した

副鼻腔炎と暫定診断され経口クリンダマイシンが投与された

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コメント

副鼻腔炎の既往のある78歳男性が、左の前頭部と両側の頬の痛みでこられています


副鼻腔炎の既往があって、以前と同じ痛みと言われると、

バイアスに負けてしまい、そりゃあ副鼻腔炎でしょう!と、

抗生剤処方したくなる気持ちはよくわかります


ただ、そんなバイアスがかかりそうな状況では、

自分に待ったをかけなければなりません


バイアスに負けないためには、

まずはバイアスがかかりそうな状況である、

ということに気がつくことからスタートです


今回であれば、本当に副鼻腔炎だろうか?と考えます

副鼻腔炎の好発部位は上顎洞であり、頬の痛みはそれでも良いかもしれません

ただ、急性の副鼻腔炎であれば、感冒症状が先行して欲しいですね


左の前額部の痛みも副鼻腔炎でよいでしょうか?


副鼻腔炎であれば前頭洞?

片側の痛みであれば、帯状疱疹も鑑別になります


実際の臨床現場は忙しいので、自分の鑑別に合わない情報があったとしても、

聞かなかったり、無視してしまうことがよくあります(confirmation bias


現時点では、副鼻腔炎 VS   帯状疱疹 VS その他 という構図です


原因不明の痛みの場合、体のどこであっても、

この一言を添えて帰すことが重要です


「皮疹が出たらすぐにきてくださいね」

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入院2日前に患者は、左前額と左側前頭部紅斑赤褐色の小病変があることに気づいた

2週間前床屋に行った時に、患者の頭皮に同様の無痛性の皮膚所見が認められていた

皮疹は痒くも痛くもなかった

その時点では、彼は医療機関を受診しなかった

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コメント


今回のように床屋で皮疹が見つかるパターンはたまにあります


(少々脱線します)

高齢女性が数日間続く、急性に出現した頭痛を訴えて外来を受診されました

脳神経学的な異常は見られず、CTで出血はありませんでした

発熱はなく、側頭動脈の痛みや額跛行、視力低下はありませんでした


帯状疱疹も鑑別になるので、長い髪をかき分け皮疹を一生懸命探しましたが、

見つかりませんでした


高齢者の新規の頭痛であり、巨細胞性動脈炎も鑑別になるかな・・・と思いつつ、

帯状疱疹もありうると思い、1週間後にフォローとしました


もちろん、皮疹が出たらすぐにきてくださいと伝えるべきですが、

頭皮に皮疹ができても、本人はわかりません


頭皮の帯状疱疹や背部の帯状疱疹を疑う場合は、

「皮疹が出たらすぐにきてください」では△です

「毎日、他の人によく見てもらってくださいね」とお伝えします




そこでこの患者さんがとった行動にとてもびっくりしました



なんと、その3日後、

床屋で髪を切って丸刈りにされたのです!


髪がなくなって見やすくなった頭皮を見ると、ポツポツと数個の赤い皮疹がありました

床屋の人がそれを発見し、すぐに患者さんは戻ってきました


丸坊主で帰ってきた時は、めちゃくちゃびっくりしました


そこまでしなくても・・・と思いましたが、

そこまでしなかったら、早期発見・早期診断・早期治療はできなかったと思います

幸い帯状疱疹後頭痛や合併症もなく、治癒しました



はい・・・

ということで、何が言いたいかというと、

頭皮の皮疹を自分で発見するのは難しいということです


この方も床屋さんのファインプレーで皮疹が判明しております

皮疹が加わったので左前頭部の痛みは、帯状疱疹でしょう


帯状疱疹を見つけると、診断できた!と嬉しくなってしまって、

診察終了!薬出して帰宅!となっているケースをよく見かけますが、

もう少し頑張ってください 笑



三叉神経領域の帯状疱疹をみたら、次にやることは3つです

①眼の評価

②神経学的所見の評価

③全身の皮膚の評価


      

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来院日、起床後、左眼瞼の発赤浮腫に気づき、

額左側と前頭皮では皮膚病変が悪化し、出血所見も認められた


左眼の眼球運動で痛みが生じ、霧視もあった

数時間で左眼瞼腫脹が悪化し、完全開眼は不可能になり、

精査目的で当院救急科を受診した

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コメント


はい、一言でいうと、左眼がパンパンに腫れて痛いし、

目が見えにくくなっているようです


まずいですね


三叉神経の1番領域の帯状疱疹は、眼部帯状疱疹を合併します

眼部帯状疱疹は失明するリスクがあり、早急に眼科に見てもらう必要があります


眼部帯状疱疹を予測するための有名な兆候がハッチンソン兆候です


では問題です


どうしてハッチンソン兆候(鼻の頭に皮疹)があると、眼部帯状疱疹を合併する危険が高いのしょうか?


ハッチンソン兆候を知っている人は多いと思いますが、

その意味まで理解できている人は少ないではないでしょうか


ハッチンソン兆候の意味は、

鼻毛様体神経の先(外鼻枝)までやらているということです


つまり、鼻毛様体神経が途中で枝分かれして、

眼球へ向かう神経まで侵されている可能性があるということです


      


帯状疱疹(±副鼻腔炎)だと思っていた人が、

眼が腫れて痛みがある状況で考えるのは3つです


1つ目は眼部帯状疱疹

2つ目は眼窩蜂窩織炎

3つ目は化膿性海綿静脈洞血栓です


眼科コンサルト、造影CT、MRIが必要になります

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救急科では、患者は眼や鼻の分泌物、味覚、聴力変化、顎跛行等の訴えはなかった

シャンプーの変更やプールや温水浴槽への入水は最近なかった


既往歴には、再発性副鼻腔感染症、アレルギー性鼻炎、うつ病、良性前立腺肥大症、性腺機能低下症、むずむず脚症候群等があった

15年前に直腸癌に対して結腸部分切除術

50年前に精巣癌に対して精巣切除術と放射線療法が施行されている


眼の病歴としては、両側性の軽度眼瞼下垂、両側白内障摘出術(眼内レンズ移植)を受けていた

内服薬は、フィナステリド、タムスロシン、カルビドパ-レボドパ、アゼラスチンとフルチカゾン、テストステロン局所塗布薬

レボフロキサシン、セファクロル、スルファメトキサゾール-トリメトプリムでは発疹が惹起されたことがある


患者は引退したエンジニアであり、ニューイングランドの沿岸地域に妻と住んでいた

以前喫煙していたが、30年前に禁煙した

アルコールは毎日4分の1杯のワイン

家族歴で母方祖母の皮膚がんと妹の黄斑変性症があった

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コメント


気になる情報が色々出てきました

再発性副鼻腔炎、両側の眼瞼下垂、フィナステリド内服中の3つが気になります


何度も副鼻腔炎を患っているのは嫌ですね

副鼻腔炎は場所によっては、危ない合併症をきたします

参考:急性副鼻腔炎の合併症 


過去の画像で蝶形骨や篩骨、前頭洞に炎症所見がないか確認したいです


治らない副鼻腔炎の場合、細菌感染ではないかもしれません

血管炎(EGPA,GPA)や腫瘍(特にリンパ腫)、

真菌(特にムコール、アスペルギルス)、結核が頭によぎります


それぞれにあう情報があれば、生検や手術で培養を提出することも考慮されるでしょう



両側の眼瞼下垂については、

動脈瘤が両側にあって動眼神経を圧排しているという可能性が一番いやですね


海綿静脈洞内の動脈瘤があった場合、

そこで破裂すると内頸動脈-海綿静脈洞瘻になります

そうなると、眼球は突出し痛みや視力障害が出現します

この疾患は海綿静脈洞血栓症の鑑別になります


疑ったら、眼に聴診器をあてて血管雑音がないか確認します


他の原因としては、MGや加齢性の変化でも良いと思います

診察でenhanced ptosisを追加したいですね

今は難しいでしょうけど・・・



フィナステリド内服をしていると血栓症のリスクになるという報告があります

今回であれば、海綿静脈洞血栓症が疑われているので、原因の一つかもしれません

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身体診察では、温は38.1°C、血圧は122/58 mm Hg、心拍数74/

BMI 31.9


裸眼視力は、右眼で20/40、左眼で20/50

石原式色覚検査は正常


瞳孔は正円で左右差なく、対光反射あり

求心性瞳孔欠損(relative afferent pupillary defect.)は認めず、外眼筋運動は正常

左上眼瞼完全下垂があり、左上眼瞼と下眼瞼紅斑浮腫を認めた

右上眼瞼下垂は軽度で眼球突出はなかった


眼圧は両眼で17mmHg

細隙灯検査により、眼のびまん性結膜充血下結膜浮腫を認めた

角膜は透明で、前房に細胞は認められなかった

散瞳による眼底検査では正常眼底であった


額、左側前頭皮膚、左眼瞼等に紅斑を認めた

紅斑部位には出血と漿液性の皮膚で覆われた多数の癒合性びらんが、

主に額左側に認められ、正中線、前頭皮、左上眼瞼にまで及んでいた

びらんと紅斑は額右側にも認められたが、左側よりも軽微であった


他の身体所見は正常であった

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コメント


眼科に診てもらったようですが、視力は大丈夫そうですね

眼部帯状疱疹は多少あるのでしょう


帯状疱疹はあると思いますが、帯状疱疹だけではない印象です

帯状疱疹は合併症がたくさんあります


1、細菌感染症を合併:蜂窩織炎

2、VZV vasculopathy

 - 脳血管の狭窄、梗塞、出血、動脈瘤

    - 血管炎:特にGCA

    - 脳神経障害:特に顔面神経麻痺

    - 動脈解離

    - 静脈洞血栓症

 - 脊髄梗塞

3、脳炎、無菌性髄膜炎、脊髄炎、神経根炎、神経叢炎、ギランバレー

4、局所性運動麻痺

5、神経因性膀胱


果たして、帯状疱疹に何が合併しているのでしょうか


VZV vasculopathyの中の巨細胞性動脈炎や静脈洞血栓症がありえそうです

副鼻腔炎の既往もあるので、化膿性海綿静脈洞血栓症が鑑別の上位にあがります


そのため、アシクロビルの点滴加療はもちろんですが、

造影CTやMRIを撮影し、海綿静脈洞血栓症がないか確認したいです


そして蜂窩織炎はありそうなので、抗生剤も開始します

その際には髄液移行性をどう考えるかですね


やはり画像評価が必要です

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血液検査では、Na 125mmol/lで(基準範囲、135145)、腎機能、肝機能検査は正常でした

HIV 1型と2型は陰性

その他の臨床検査結果は表1





頭・顔造影CT(図1)では、眼窩と前頭洞に著明な浮腫を認め、主に左側の前頭頭皮軟部組織沿いを上方に進展していた

眼球(globe)、眼窩(orbit)、球後軟部組織( retrobulbar soft tissue)等は正常であった

右上顎洞は混濁し、壁肥厚壁硬化を認め、慢性炎症と副鼻腔炎と合致し、右上顎洞の内壁欠陥は以前の副鼻腔手術を示していた

左上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞等の他の副鼻腔は、十分に通気されていた


    


バラシクロビル、アモキシシリン-クラブラン酸塩、

局所バシトラシン-ポリミキシンBによる経験的治療が開始された


翌日、左眼瞼浮腫と紅斑が悪化し、右眼瞼に新規の浮腫と紅斑が認められた


患者は開眼不可能で、視覚的幻覚を生じ始めた(妻がその混乱に気づいた)

額左側の皮膚病変は不変で、右側額部皮膚に出血性の新規円形打ち抜き状びらんを認めた


       

バンコマイシン、セフェピム、アシクロビルの静脈内投与による経験的治療が開始された。 診断テストが実行された

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コメント


はい、ということで髄膜炎か脳炎を合併してしまった可能性が高いです


問題は原因がVZVかどうかです

細菌性髄膜炎の可能性があるので、髄液検査は必須です

抗生剤を髄液移行性が良いものに変えないといけません


自分なら意識変容が出現した時点で、血液培養を再度とり、

CTRXとVCMの投与を開始します

本症例ではCFPMとVCMが選択されていましたが、

緑膿菌までカバー行くかは悩みますね


なんらかの脳症や脳炎を疑っている中で、

セフェピム脳症が鑑別になるので自分なら避けます


この抗生剤の意図は髄膜炎を意識したものであり、

アシクロビルの点滴はVZV脳炎を意識しているのでしょう


これらに加えてドレナージすべきものがあるかどうかを探す必要があります


抗生剤を投与した後は、セルシンで少し鎮静を行い(NCSだったら効果あるかもと期待しつつ)、髄液検査とMRIへ行きます


心配なのは眼窩蜂窩織炎と化膿性海綿静脈洞血栓症、硬膜下膿瘍、脳梗塞です


CTでは眼窩蜂窩織炎や海綿静脈洞血栓症(CST)を示唆する所見はありませんでしたが、CSTは数日後に出現するため注意が必要です

眼窩蜂窩織炎は失明するリスクがあるので、手術が必要な場合があります



髄液が正常で画像で何もなければ、アシクロビル脳症を疑います

視覚的な幻覚はアシクロビル脳症でよくみられる印象です


播種性帯状疱疹でアシクロビルの点滴していた人が急に、

「そこに紫のものが見える」と言い出したことがあります


腎機能を再検すると急激に腎機能が悪化しておりました

アシクロビル中止し徐々に意識状態は回復しました


アシクロビル自体で腎障害が起こり、NSAIDs が加わるとさらに頻度があがります

特に高齢者では起こりやすいので注意が必要です



アシクロビル脳症が起こるとVZV脳炎との鑑別が一苦労です


さてこの症例の結末は?

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考察

眼部帯状ヘルペス  

 巨細胞性動脈炎よりも一般的で、眼周囲の皮膚病変を惹起する可能性が高い疾患は、水痘帯状疱疹ウイルスVZV)感染の再活性化による眼部帯状ヘルペスである。眼部帯状疱疹と他の帯状疱疹は、通常、単一のデルマトームを障害する。これは、ウイルスの再活性化前に、脳神経、後根、自律神経節内等で(ウイルスが)休眠状態にあるためである。


 米国では、生涯で最大30%の人でVZV感染症が再活性化3、(そのうち)1020%では三叉神経眼領域である。眼部帯状疱疹を発症する生涯リスクは14であり、発生率は年齢とともに増加する。  


 帯状疱疹の発疹は、他領域の帯状疱疹で見られるものと同じで、紅斑、斑点、丘疹、小胞等の特徴を有する。①小胞は数日間にわたって徐々に破裂し、②膿疱や痂皮になり、多くの場合、③周囲に紅斑や浮腫を伴う。これらの特徴(①~③)は本患者に認められた。  


 発疹の発症時に、眼部帯状ヘルペスのほとんどの患者では、炎症と知覚神経障害と皮膚障害による急性疼痛を伴う。疼痛は、掻痒、灼熱感、うずき(aching)、つんざくような(piercing)と表現される。本患者は、皮膚病変発症2日前に頭皮と額の痛みを訴え、以前の副鼻腔炎のエピソードと同様であると訴え、副鼻腔炎の暫定診断で治療された。  


 眼部帯状ヘルペスの最大3分の2は、皮膚病変に加えて眼症状(角膜、結膜、虹彩、網膜、視神経、他の視覚系など)を呈する5。本患者は、結膜充血結膜浮腫を認め、これは、眼部帯状ヘルペスで一般的所見である。  


 本患者では、皮膚病変と痂皮、疼痛、結膜浮腫、結膜充血等の組み合わせから眼部帯状ヘルペスが示唆されるが、皮膚炎は典型的ではない。


 古典的帯状疱疹は

①単一のデルマトームを傷害する

②通常は正中線を越えない

隣接する12のデルマトームに病変が見られることもある

④疾患が進行すると対側にも病変を生じる(複合両側性帯状疱疹ヘルペス(herpes zoster multiplex bilateralis


だが、対側に病変を生じることは本患者のような免疫正常患者においては非典型的である。本患者は、眼部帯状ヘルペスの標準治療であるアシクロビル投与中に、皮膚病変が進行したが、抗ウイルス療法開始後37日間は出現持続する可能性がある。  


 幻覚の発症はVZVによる中枢神経系の関与であろうか?可能性はあるが、眼瞼浮腫による眼瞼下垂が患者の視界を妨げ、機能的な盲目になることに注意する必要がある。本患者の幻覚の原因として考慮するもう1つの重要な疾患は、視覚障害者での幻覚を特徴とするCharles Bonnet syndromeである7。  


本患者は、眼部帯状ヘルペスが最も可能性が高い。眼部帯状ヘルペスは検査なしで診断可能であり、不確実な場合は、多数の検査が用いられる。本患者で検査は合理的だったであろう。病変底部から採取した皮膚の迅速分析目的で施行されるウイルス特異的直接蛍光抗体検査が、おそらく本患者に施行された診断検査であろう。



本患者の発疹の全体的な外観(主に左V1皮膚領域に位置し、額の正中線まで広範な病変が形成され、小胞と丘疹が集簇し、紅斑性と浮腫性の基部上に出血性痂疲を伴う多数の浸食丘疹)は眼部帯状ヘルペスと最も合致していた。発疹は左V1皮膚分布から正中線を越えており、通常の帯状疱疹では非典型的である。


ただし、眼部帯状ヘルペスでデルマトーム沿いにきちんと分布する発疹が常に観察されるわけではなく、反対側を障害する可能性はある。さらに、額の右側発疹は左側よりも軽度であり、免疫正常者での軽症右側病変は播種性帯状疱疹とは異なる。しかし、発疹に集簇化病変と異なる段階の病変(出血性痂疲で覆われた膿疱とびらんなどを含む)を認め、壊死性血管炎よりも帯状疱疹とより合致する特徴であった。  


注目すべきことに、眼部帯状ヘルペスの患者の3040は、眼神経の鼻毛様体神経枝(鼻の皮膚と角膜の神経支配枝)を傷害する。したがって、片側鼻側合併(ハッチンソン徴候)の存在から、眼合併症可能性が高くなる。本患者は鼻にヘルペス性病変はなく、眼神経の鼻毛様体神経枝外側枝は障害されていないことを示唆していた。  


本患者は、検査中に発疹の高度疼痛は訴えなかったが、発疹出現数日間に前駆症状の疼痛を報告した。帯状疱疹の疼痛は、急性神経炎によって惹起されるが、無痛性や軽度疼痛も一部の患者でみられる。帯状疱疹の患者では最大75%が前駆症状を有する8-11。 


本患者の診断評価には、①VZVおよび単純ヘルペスウイルス(HSV)に特異的直接蛍光抗体検査、と②水疱性病変の基部から得られたウイルス培養がある。直接蛍光抗体検査はVZV陽性、HSV陰性であった。直接蛍光抗体検査はVZVに対して感度100%ではないため、結果判明前に皮膚生検も施行された。


臨床診断  水痘帯状疱疹ウイルス感染

マイケルK.ユン博士の診断  水痘帯状疱疹ウイルス感染

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病理学的考察       




額左側皮膚のパンチ生検組織を得た。低倍率での組織学的検査では、表皮は露出され、真皮は炎症を示した。角化細胞が棘融解し表面に付着しているのが見られた。真皮は、高度な急性炎症を示し、毛包と皮脂腺を含む隣接付属器構造に深く広がっていた。高倍率では、角化細胞の棘融解は、型込め(molding)とクロマチン辺縁化(chromatin migration)等の多核化(multinucleation)を呈するウイルス細胞変性変化を示した。これらのウイルス性細胞変性変化は、VZV感染とHSV感染の両方で見られ、組織学的検査のみでは(両ウイルスの)判別は不可能である。原因(ウイルス)特定には、臨床病理学的相関と補助検査が必要である。

診断は、VZV免疫組織化学的染色で確認(感染角化細胞の高度、びまん性染色)された。


管理とフォローアップの議論

2週間前初発の皮膚病変の長期疾患経過を、免疫抑制の明確な病歴がない患者の新規デルマトーム合併症との関与の解明は困難であった。本症候群を播種性帯状疱疹と正式に診断するかの妥当性は不明だが、混乱した(診断に迷った)ことで、播種性帯状疱疹脳炎の可能性がある進行性帯状疱疹の評価と治療が推奨された。腰椎穿刺頭部MRIが推奨された。 


頭部MRIにより、中隔前軟部組織腫脹と増強が認められ、中隔前蜂窩織炎を示唆する所見が見られたが、中枢神経系疾患の所見は認めなかった。


脳脊髄液(CSF)分析は、TPGluは正常値であり、チューブ4の分析では(μlあたり)、3つの赤血球3白血球27(単核細胞99%で、リンパ球55%、単球38%、形質細胞4%、好塩基球1%非定型リンパ球1%)であった。 脊髄液のPCRにより、水痘DNAを認めたが、ウイルスが中枢神経系に存在するので帯状疱疹の患者で(認められても)想定内である。左側頭動脈生検では、炎症は認められなかった。  


アシクロビル静脈投与開始後、状態は次の数日間で急速に改善し、感覚系の改善、軟組織腫脹改善、皮膚病変進展等が認められた。腎毒性予防目的に適切な水分補給を維持し、アシクロビル静脈投与の14日間施行を指示され、第5病日に退院した。 14日間の抗ウイルス治療の最後のフォローアップ受診では、全身状態良好で、頭皮のわずかな痂疲をいくつか認めたが、額病変は完治していた。軽度の眼窩周囲腫脹と中等度の眼瞼下垂は認めたが、改善傾向にあると判断された。断続的な複視は軽快したと報告した。612か月以内に組換え帯状疱疹ワクチンのワクチン接種施行をアドバイスされた。最初のフォローアップ訪問から5か月間の眼科受診で、複視と眼瞼下垂は徐々に改善していった。


 最終診断 : 水痘帯状疱疹ウイルス感染

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はい、ということで意外にシンプルな症例でしたが、

色々と考えることはありましたね


まとめ

・帯状疱疹を診断しても満足しない、思考停止しない

→合併症に注意、播種性に注意

副鼻腔炎合併症 〜副鼻腔炎のワーストシナリオ〜

副鼻腔炎は地味に辛いです
自分は風邪をひくと、毎回副鼻腔炎になります


このように風邪と同じくらいコモンな副鼻腔炎ですが、

実は危ない副鼻腔炎もあります



副鼻腔から眼窩や頭蓋内に感染が波及してしまうと、
後遺症が残ったり、命に関わることがあります


副鼻腔を形成している骨をCTで見たことはありますか?
非常に薄い骨です

骨の向こう側は眼窩や頭蓋内です


よく考えると、こんな薄い骨で大丈夫か・・・?と思ってしまいますね




副鼻腔炎が合併症を起こすかどうかは、
部位が非常に大事です

つまり局所解剖を知らなければなりません


副鼻腔には4つあります
上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞、前頭洞です


それぞれ隣接する構造物が違うので、
起こりやすい合併症が異なるのは当然です



周囲に感染が波及する経路は主に2つあります

①静脈を介して
副鼻腔の粘膜からの静脈は弁がないので、感染が起こりやすいと言われる

②直接感染が波及
そもそも骨が薄い、さらに欠損している部位がある人もいる




まず上顎洞ですが、これはあまり合併症を起こしません

風邪ひいた後になる副鼻腔炎です


ですが、上顎洞炎は風邪やアレルギー以外の原因でもなります


それは歯の感染がこじれた時です


歯根部の炎症が波及し、徐々に骨を溶かして、
上に突き抜けてしまうと、上顎洞の到達します


風邪をひいていないのに、ひどい上顎洞炎がある人は、
歯源性の上顎洞炎かもしれません

齲歯(上の歯)がないか口の中を確認しましょう




上顎洞以外の副鼻腔炎は合併症の危険度が高まります

鼻性頭蓋内・眼窩内合併症をきたしやすい副鼻腔は、上顎洞以外の全ての副鼻腔です


それぞれの部位で起こりやすい合併症があります


前頭洞炎は頭蓋内への波及に注意

前頭洞の場合は、後方にある臓器は硬膜・髄膜・脳になります
そのため、前頭洞炎が最も硬膜下膿瘍や脳炎、脳膿瘍、髄膜炎をきたしやすいです

硬膜外膿瘍は骨と硬膜の接着が強いため、容易には膿瘍は広がりません

ですが、硬膜下に膿瘍ができた場合は、急激に感染が広がっていきますので、
緊急にドレナージ手術が必要になることもあります


蝶形骨洞炎は海綿静脈洞血栓症に注意

蝶形骨洞は下垂体の下にあります
横には海綿静脈洞があります

そのため、蝶形骨洞の炎症や感染の波及によって、海綿静脈洞血栓症を引き起こすことがあります


化膿性海綿静脈洞血栓症については次回詳しく説明します


篩骨洞炎は眼窩蜂窩織炎に気をつける

篩骨洞の横には眼窩があります

眼窩には視神経や眼動静脈、外眼筋、脳神経が含まれており、
残りの空間は脂肪で詰まっています


この眼窩内に感染や炎症が入ってくると大変なことになります

感染経路は目の周りの顔面の皮膚から入ってくるよりも、
回り込まれて、横っ腹(篩骨)から侵入されるイメージです


眼窩蜂窩織炎の多くが副鼻腔からの波及で、特に篩骨洞炎が一番多いと考えられています


眼窩内周囲は骨で覆われており、内部で炎症が起きた場合、
圧力の逃げ場が前後にしかありません

そのため、前方に圧力がくるので、眼球が突出します
そして後方への圧力の被害を受けるのが視神経で、
虚血に陥り、失明や視力低下の症状が出る人もいます





治療
・抗生剤は髄液移行性を意識したほうがいい時もあります
・投与期間に決まりはありません
・ドレナージが最も重要です


問題はドレナージをできるかどうか、どの科を呼ぶかどうかです


それぞれの合併症で呼ぶ科が異なります

硬膜下膿瘍や脳膿瘍の場合は、脳外科です
蝶形骨洞からの波及の場合は耳鼻科(もしくは脳外科)です
篩骨洞から眼窩蜂窩織炎の場合は、眼科にもみてもらう必要があります
歯源性上顎洞炎の場合は、歯科です



たかが副鼻腔炎とたかをくくっていると、
思いもよらない経過を辿ることがあります

副鼻腔炎のワーストシナリオも知っておきましょう



上記のほかにもう一つだけ急性副鼻腔炎で致死的になるものがあります


それは、ブドウ球菌や連鎖球菌のTSS、TSLSです
疑った場合は、夜間でも緊急ドレナージが必要です




副鼻腔炎に対してCTを撮っているのであれば、上顎洞以外に副鼻腔炎があるかを探してください
そして炎症所見があった場合は、合併症に注意しながら治療を行いましょう


まとめ
・副鼻腔炎には致死的であったり、後遺症が残る合併症がある
→鼻性頭蓋内合併症、鼻性眼窩合併症

・副鼻腔と一括りにせず、それぞれの解剖学的な位置関係を思い出す
→前頭洞は硬膜・脳、蝶形骨は海綿静脈洞、篩骨洞は眼窩へ炎症が波及しやすい

・副鼻腔炎のワーストシナリオを想像できますか?
→TSS(TSLS)でショックバイタル、髄膜炎・硬膜下膿瘍で意識障害
 眼窩蜂窩織炎や化膿性海綿静脈洞血栓症で複視、眼球突出、頭痛、視力低下など

2021年5月20日木曜日

若い女性の鼠径部のリンパ節腫脹 〜結局、病歴が全て〜



今回はNEJM のcase recordです




CPSと比べて、情報が一気に出てくるので読むのが大変ですので、

初学者はCPSから読む方がいいと思います

ケースもCPSの方がとっつきやすいです


Case recordですが、CPS風に解説していきます



今回は若い女性の鼠径部のリンパ節腫脹の鑑別ですね

お勧め度:★★★★☆


鼠径部のリンパ節腫脹は内科医が苦手とするところだと思います

多くは泌尿器科や産婦人科で対応されており、思考の整理になりました


何よりオチがいいです

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39歳の女性が、発熱腹痛有痛性の鼠径リンパ節腫脹を主訴に当院受診となった


今まで問題はなかったが、4週間前に柔らかい両側鼠径部腫脹に気づいた

2日後、右側の鋭い断続的な腹痛(5/10)を感じ始めた

次の3日間、嘔気と食欲不振が生じていた

また悪臭尿に気づいたが、排尿障害、頻尿、血尿はなかった

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コメント


39歳の女性が4週間前からの両側鼠径部のリンパ節腫脹の主訴できています


最初は両側のリンパ節腫脹で、だんだん右下腹部痛や食欲低下が起きてきました


そして、尿臭も変化してきているそうです

ただ、膀胱炎症状はないということです



最初に両側の鼠径部のリンパ節腫脹をどう考えるかですが、

1つは性行為感染症の類で考えるか 

もう一つは両側の大腿部の外傷や感染を考えるか

それとも全身のリンパ節腫脹の1つとして考えるかです

 


これらで考えることは違いますが、

若い女性の両側鼠径部のリンパ節腫脹であり、最初に考えるのはS T Iですね

さらに右下腹部痛も出ているのでP I Dが鑑別になります



鼠径部のリンパ節腫脹だけなら、

ヘルペスや梅毒、クラミジア、淋菌の感染の可能性もあるので、

まず聞きたいのは性行為があるかどうかです

そして、妊娠出産歴や生理周期、既往歴は聞きたいですね


 

右下腹部痛の症状からは、外陰部だけではなく、

おそらく子宮から卵管、卵巣とか腹膜にまで広がってそうな印象です 


ただ、尿臭が変わったというのはちょっと変ですね

 

もしかすると、直腸や膀胱や子宮が繋がっているのかもしれません

つまり骨盤内に浸潤している癌が背景にあるのかもしれないと考えます

 

それによって閉塞起点ができて腎盂腎炎や骨盤内の膿瘍を起こしている可能性もあります

リンパ節腫脹は腫瘍の転移かもしれません


これまでの既往やがん検診歴、産婦人科での検診歴が気になります

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3週間前に、患者はプライマリケア医を受診し、診察では体温は36.6℃だった

見た目は健康そうで、腹部は反跳痛や筋性防御はなく、右CVA巧打痛と腹部の圧痛を認めた


外性器は正常で、薄白色の膣分泌物を認めた

子宮頸部の可動時痛は認められず、触診で卵巣は正常であった


直径2cmの複数の両側性有痛性鼠径部リンパ節を認めた

他の身体所見は正常であった


膣分泌物の顕微鏡検査では、

糸玉細胞clue cells平上皮細胞に糸玉状に無数の菌が群がっている細胞)が観察されたが、真菌やトリコモナス等は認められなかった


子宮頸部スワブでのクラミジア・トラコマチス(C. trachomatis)と淋菌のPCR検査は陰性であった

C. trachomatis血清型L1DKに対するIgMIgGIgA抗体も陰性であった

尿検査では白血球エステラーゼと亜硝酸塩が陽性であり、尿培養が提出された


そして、メトロニダゾール膣錠が処方された

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コメント


3週間前にプライマリケア医を受診しています

その際は発熱はなく、やはり右の下腹部に痛みがあったということです

ただ、筋性防御はなく、腹膜炎らしさ無いようです

 

外陰部も正常だったということでヘルペスや梅毒を示唆するような病変はなかったということでしょう

あとは、リンパ節が2cm台で腫脹しています

cervical motion painがなかったということでPIDの可能性は減ったということでしょうか

ただ、膣分泌液は白色で何らかの炎症はありそうですね

子宮瘤膿腫とかはもあってもいいのかもしれません


ということで、クラミジアや淋菌の検査が行われていますが、陰性でしたね



尿を調べてみると炎症がありそうで、尿培が出されています

膣炎も同様の所見になる可能性があり、

何らかの膣炎かもしれないみたいな感じで、フラジールが処方されています


 

さて、これまでの経過をどう考えるかですけど、まだP I Dは否定できないと思います

 

P I Dは不妊の原因にもなるので、閾値低めに診断するように心がけています


クラミジアや淋菌は陰性ですが、他の病原菌の可能性はあります

特にMycoplasma.genitaliumUreaplasma.hominiUreaplasma.urealyticumは診断しにくいので、鑑別になるかと思います


性行為感染症としてのマイコプラズマ



疑わしい性行為があれば治療してしまうかもしれないですね


 

P I D以外には腎盂腎炎や腎膿瘍、骨盤内膿瘍も鑑別になります


CVAや右下腹部痛がありますのでこれらが鑑別になりますが、

これらだけでは鼠径部のリンパ節腫脹は説明できません


やはり、リンパ節腫脹を一元的に説明できるとすれば、

婦人科系の悪性腫瘍が背景にある可能性を考えます

 

フラジール膣錠で治る気がしないので、次に必要なのは画像評価ですね 

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2日後、尿培養物では大腸菌105コロニー形成単位(CFU/ml以上、

クレブシエラニューモニアエが104105CFU/mlが培養された


トリメトプリム-スルファメトキサゾール(ST合剤)を14日間処方された

鼠径部腫脹は軽快したが、腹痛と吐気は持続していた


ST合剤内服終了2日後、発熱寝汗が出現し、

最高38.5°Cの体温が持続し、3日間後、嘔吐し始め、

精査加療目的で当院救急科を受診した

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コメント


 

尿から大腸菌とクレブシエラが検出されたので、腎盂腎炎疑いとして

バクタが2週間処方されました

 

それで、リンパ節腫脹は改善したようですが、腹痛や吐き気は続いていたようです

バクタが終了してから高熱が出現しています


 

さて、どう考えるかですが、

尿中に大腸菌とクレブがしっかり検出されており、

やはり尿路と直腸がつながってるんじゃないか説はあると思います


子宮頸がんや大腸がんが膀胱浸潤 という形でいろいろ穿通してしまっている可能性は考慮します



ただ、本当にそうであれば、もっと色々な菌が検出されていいはずなので、

この2菌種以外に何も検出されていないかどうかは確認したいです


やはり、既往や検診歴の情報が欲しいです

 

 

感染症の場合、適切な抗生剤を使用しているにもかかわらず改善を認めない場合、

考えることは、抗生剤のdoseの問題、コンプライアンスや吸収の問題、

閉塞起点がある場合や膿瘍、IEです



今回はバクタを2週間投与して改善を認めないのであれば、

尿路結石症や腫瘍、後腹膜線維症による尿路閉塞からの腎盂腎炎や膿瘍、AFBNを考えます

 

つまり、閉塞起点やドレナージが必要なものがないか画像で確認する必要があります

 


あとは、バクタの感受性がどうだったのかを確認します


皮疹があれば、バクタの薬剤熱も鑑別になります

 


今回、腎盂腎炎と暫定診断して治療したのであれば、その診断の見直しが必要です

仕切り直しです



腎盂腎炎はゴミ箱診断です


再度、尿のグラム染色を行い、

血液培養をとって、造影C Tを行い、他の病態がないか確認します

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救急科にて


過去1か月間の2.3 kgの体重減少腹痛倦怠感悪心食欲不振の持続があった

咽頭痛、咳嗽、下痢は認めなかった


既往歴に甲状腺機能低下症、喘息、双極性障害、月経困難症、片頭痛等と複数回の尿路感染症があった

4年前には腎盂腎炎と診断されていた


来院6か月前に、銅製の子宮内避妊器具が挿入されていた


投薬はアルブテロール、ブデソニド-ホルモテロール、ジバルプロエックス、レボチロキシン、ロラタジン、片頭痛時の屯用スマトリプタンであった


喫煙、飲酒、違法薬物使用はなかった


1年前にブラジルから米国に移住し、1年間ニューイングランドに居住し、

研究室で働いていた


最近、夫との面会目的にブラジルに3か月間滞在し、

ニューイングランド帰郷直後に鼠径部の腫脹に気付いた


ブラジル滞在は大都市にであり、遠隔地訪問はなかった

ニューイングランドでは一人暮らしで、

1匹の子猫kitten)と1匹の成長した(大人)猫を飼っていた


家族歴に癌はなく、叔母は結核で死亡したが、叔母との接触は最小限であった

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コメント


これはこれは、たくさん出てきましたね 笑



今回の症例はおそらく感染症です

さらに、3-4週間の経過で悪化しており、徐々にくるタイプの感染症ですね



感染症を考えたら、まずは三角形に当てはめます



感染症の三角形の真ん中は、患者背景です

背景を三つに分けて、免疫状態、余力、暴露を考えます



この症例は暴露が多すぎます 笑



ペット:猫  →  猫引っ掻き病(CSD)やトキソが鑑別になります

         猫に舐められていないか、接触が多いかどうかを聞きます



性行為:(多分)夫だけ → 性行為感染症が鑑別になります

              どのような性行為か、いわゆる5Pを聞きます



海外渡航歴:ブラジル  →    地域の真菌やダニ媒介微生物、結核などが鑑別

            ブラジルの詳しい地域を聞いて、地域の風土病を考えます


                

結核暴露:叔母  →  結核が鑑別になります

           呼吸器症状がないか、CTで肺炎像がないかチェックします





そして実は免疫も問題があります


この症例では、子宮内にIUDが挿入されています

IUDは骨盤内放線菌症のリスクです



IUD に関連した腹腔内感染症の原因微生物としては、「Actinomyces 属」が有名です


 Actinomyces 属は膣内に常在しており、IUD などの異物に付着します


さらに IUD による子宮内膜の炎症性変化によって、

Actinomyces 属の組織内への侵入が促進されます


骨盤内膿瘍や卵巣膿瘍をきたし、時に腫瘍との鑑別が難しい時があります




色々な情報が出てきましたが、上記の鑑別疾患にそって病歴を追加したり、

診察を追加すればいいかと思います



どこに軸足を置くかで検査の優先度が変わってきます


おそらくほとんどはノイズです

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身体診察


体温36.6°C、血圧100/63 mm Hg、心拍数77/分、呼吸数16呼吸/分、100%(室内気)

体重67.5kgで、BMI24.4であった 調子が悪そうに見えた


右側腹部は柔らかく、反跳痛や筋性防御、肝脾腫等は認めなかった


圧痛のある両側鼠径リンパ節が認められた

子宮頸部、鎖骨上、鎖骨下、腋窩リンパ節腫脹は触知されなかった


他の身体所見は正常であった


尿中hCGは陰性で、Glu、電解質、CKLDH、肝機能、腎機能は以前と同様に正常であった


HIV1p24抗原とHIV 12型抗体、結核菌IGRAは陰性であった


その他の臨床検査結果を表1に示す




画像検査を施行した

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コメント


身体所見や血液検査が加わりましたが、鑑別は大きくは変わらないですね

ただ、他のリンパ節はやっぱり腫脹はないんですね



やっぱり何らかの感染症なのでしょう


ただ、起因菌とfocusがわかっていません

部位としては、子宮瘤膿腫や卵巣、骨盤内、尿路、腎膿瘍・・・


でも、なぜこんなにくすぶっているのであろうか

IUDのせいでしょうか・・・


後は癌が閉塞病態や穿通を起こすような解剖学的な異常の可能性を考えたくなります


画像検査が決め手ですね

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腹部と骨盤単純CT





鼠径部右側の結節が最大(2.6cmで、両側鼠径リンパ節腫脹(右側優位)、

右骨盤側壁リンパ節(最大径1.3cm)、胃肝リンパ節(最大径0.9cm)、

肝門部リンパ節腫脹等が認められた


経膣超音波検査では、子宮内避妊器具は適切な位置にあり、

卵巣は正常で、微量の骨盤内腹水が認められた


輸液とケトロラク筋注され、患者は入院となった

診断検査が施行された

------------------------------------------------------------------------------------------------------------------コメント


造影はされていませんが、目立った腫瘍性病変や閉塞起点はなさそうです


CTで加わった情報としては、鼠径部だけでなく、

骨盤内や腹腔内にもリンパ節が腫脹していたことです


となると・・・


focusはリンパ節になるのでしょうか



これまでは局所のリンパ節腫脹で考えてきましたが、

腹腔内のリンパ節腫脹を認めたため、全身のリンパ節腫脹をきたす疾患として、

考え直すべきです



鑑別をあげると、


感染症:結核、梅毒、リケッチア、猫引っ掻き病、EBV、CMV

自己免疫性疾患:SLE、AOSD、菊池病

リンパ増殖性疾患:サルコイドーシス、IgG4関連疾患、キャッスルマン病

腫瘍:リンパ腫、腹腔内の癌、メラノーマ、卵巣がん



これまでの鑑別と重なるのは、

結核や梅毒、猫引っ掻き病でしょう



その中でも一番は、結核性のリンパ節炎を疑います

腹痛は腸結核や結核性腹膜炎の可能性はあるかと思います


回盲部の炎症がないかをCTで確認します


胸部のCTを撮影し、怪しい病変があれば三連痰は考慮したいです


また尿の抗酸菌培養やPCRも検討します


最終的にはリンパ節生検しかありません




猫引っ掻き病も鑑別になります

猫に引っかかれなくても、舐められただけでも発症します


手からバルトネラが入れば、その所属のリンパ節腫脹をきたし、腋窩や頸部のLNが腫れます


今回は両側鼠径部であり、足から侵入したのでしょう

そのため、猫との接触について詳しく聴取すべきです




猫引っ掻き病




梅毒のリンパ節炎も鑑別です

第二期梅毒になり、皮疹が出ることが多いですが、ないこともあります


原因不明の頸部・鎖骨のリンパ節腫脹の人が、

リンパ節生検の病理で発覚した梅毒のリンパ節炎も経験したことがあります



梅毒の血清マーカーはすぐにわかリますので、早々にチェックしたいです



問題は猫引っ掻き病と結核です

この二つは診断が難しいです




結局は出せるもの出して、リンパ節生検になるのでしょう


その前に造影CTで本当にリンパ節かどうかは確認したいです

膿瘍だった場合、話が違います


そしてIUDは抜去して、分泌物の染色や培養を行い、

放線菌がいないかは確認したいです


さてこの症例の結末は?

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鑑別疾患

Bartonella henselae感染症  

 患者は子猫と大人猫を飼っており、バルトネラ種、特に猫ひっかき病の主な原因菌であるBartonella henselae感染が考慮される3。猫、特に子猫はBartonella henselaeの主な宿主main reservor)であり、唾液や引っかき傷から細菌を感染させる(猫の約50%は血清B. henselae抗体陽性である4,5


 本患者は検査で引っかき傷の所見がなく、今回の来院では以前の引っかき傷に関する情報は提示されなかった。通常、皮膚病変(すなわち、丘疹、小胞、膿疱等)は、接種後310日で引っかき傷部位に形成されるが、常に出現、特定されるわけではない6


 接種後約2週間で、猫ひっかき病の特徴である局所リンパ節腫脹が接種部位近位に認められる6。リンパ節腫脹の最も一般的な部位は、腋窩、上咽頭、頸部、鎖骨上、下顎下である。


 猫ひっかき病のリンパ節腫脹は通常、治療なしで16か月以内に治癒するが7現在は、短期アジスロマイシン投与が推奨されている8


 本患者に投与されたST合剤は、in vitroではバルトネラ種に活性があり、臨床的に有効な症例も存在することが示され7、本患者の初期の改善と抗菌薬中止後の悪化を説明する可能性がある。


 合併症のない猫ひっかき病の場合、通常の治療期間は5である。本患者は、病気の程度と胃肝リンパ節、肝門リンパ節合併症(B. hensalae早期播種を示唆する可能性のある所見)等から2週間の治療としたが、より長期間治療が必要であった。  


 ●トキソプラズマ症   

 トキソプラズマ症と猫ひっかき病は、どちらもリンパ節腫脹と猫への接触に関連するが、急性トキソプラズマ症は、頸部リンパ節腫脹や全身性びまん性リンパ節腫脹9を特徴とする単核球症様症候群を呈する。

 

 これは、急性EBV感染症、急性CMV感染症、原発性HIV感染症等に類似している。本患者は急性トキソプラズマ症と合致する多くの特徴を有していたので、トキソプラズマ症検査なしでの除外は困難である。  


 ●皮膚・軟部組織の細菌感染症   

 通常、黄色ブドウ球菌化膿性レンサ球菌によって惹起される細菌性(リンパ)腺炎は、急性で片側性リンパ節炎が一般的なタイプである。しかし、下肢感染兆候がなく考えにくい。リンパ節炎のあまり一般的でない原因として、野兎病ノカルジア症スポロトリコーシス等があり、これらはすべて、接種部位遠位の局所リンパ節腫脹を惹起する可能性がある。

 

 野兎病、ノカルジア症、スポロトリコーシスではたいてい皮膚病変が出現するが、野兎病は皮膚合併症がない腺型glandular type)もある10。ただし、野兎病の疫学的特徴(感染動物との接触や咬傷など)が本患者の症状には合致しない。 


 ●性感染症  

 鼠径リンパ節腫脹と関連する性感染症は通常、鼠径リンパ肉芽腫LGVlymphogranuloma venereum)、梅毒軟性下疳である。本患者の症状、発症のタイミング、骨盤診察での皮膚所見欠如等を考慮すると、LGVの可能性が最も高い。LGVは、C.trachomatisの血清型L1L2L3よって惹起される陰部潰瘍疾患である11


 歴史的に、LGVの最大の流行地は熱帯と亜熱帯であったが、高所得国で増加しており、主に男性同性愛者MSM(men who have sex with men)間で増加している。感染の初期段階(第一期)の特徴は、接種部位の陰部潰瘍数日以内の自然治癒である。 26週間後に発生する第二期では、有痛性腫大反応性鼠径リンパ節が生じる場合があり、感染が局所リンパ節への直接拡大に関連している11。(また)第二期では、直腸結腸炎などの肛門直腸症状も出現する可能性がある11

 診断は、臨床症状と疫学的所見に基づき、核酸検査によって確認される11。診断を裏付けるために血清学的検査も利用できる。本患者はLGVの検査を受け、C.trachomatisの血清学的検査と核酸検査の両方が陰性であった。  


 本患者には陰部潰瘍がなく、軟性下疳、原発性単純ヘルペスウイルス感染、梅毒等の可能性は低い12梅毒第二期は通常、発疹と全身性リンパ節腫脹が生じる。本患者に見られた局所リンパ節腫脹は梅毒としては非定型的である。  



患者退院後、外来で右鼠径部リンパ節生検が施行された。




 生検標本の顕微鏡検査(図2)は、著明な被膜線維化、形質細胞増加を伴う血管増生、病勢の強い(florid)反応性濾胞過形成、単球様B細胞の限局的集簇、好中球や壊死を伴わない顕著な肉芽腫性炎症等を特徴とする構造的歪みが認められた。


 免疫組織化学的染色では、多型(polytipic)形質細胞と適切なB細胞とT細胞数と分布を示し、フローサイトメトリーでは、モノクローナルB細胞群や異常T細胞群は認められなかった。感染の可能性が最も高いように思えたが、形態学的特徴からは特定原因は同定されなかった。

 

 さらに、多くの微生物染色(マイコバクテリアの耐酸性染色、真菌のグロコットメテナミン-銀染色、スピロヘータとその他の細菌のシュタイナー染色およびワーシン-スターリー銀染色、梅毒トレポネーマ、トキソプラズマゴンディ、CMV等に対する免疫組織化学的染色等)は陰性であった。


 これらリンパ節組織所見と入院時のバルトネラの血清学的検査との乖離の説明(reconcile)は困難であった。(今回の検査で)著明上昇のB. henselae IgG力価11024以上(参照力価、<1128中程度上昇のB. quintana IgG力価1512(参照力価、<1128)で、B.henselaeB.quintana IgM力価陰性1:20未満(両方の基準範囲、<1:20)が示された。 


 B. henselae感染によるリンパ節炎(猫ひっかき病)では、

①好中球増加症②中心壊死を伴う化膿性肉芽腫③微生物のWarthin-Starry銀染色陽性等が予測される17が、これらの所見は組織学的評価では認められなかった。

 


マネージメントの議論

初期播種性バルトネラ感染が強く疑われたので、ドキシサイクリン治療を推奨した。ドキシサイクリン開始前に状態は改善し始めていた。触知可能なリンパ節腫脹、発熱、貧血等はすべて改善し、炎症マーカーは低下した。


症状出現2か月後(ドキシサイクリン治療開始2週間後)のフォローアップでの診察で、持続する上腹部痛と金属様味覚等があり、ドキシサイクリンの副作用と患者は考えていた。


 身体診察では、触診で右側に軽度の側部痛があり、最初の症状と同様で上腹部痛とは異なると患者が述べた。リンパ節腫脹は触知されなかった。パラコクシジウム症の血清学的検査結果は未着で、リンパ節生検の培養では(微生物の)発育は認められなかった。  


患者はドキシサイクリン治療中止を考慮(希望)しており、我々は次の疑問を検討した。


パラコクシジウム症感染などの他の診断は可能か? 

血清学的検査は、新規感染症ではなく過去のバルトネラ菌への曝露を反映している可能性があるか? 

他の抗菌薬の選択肢はあったか? 


最初の病状は非典型的であったが、パラコクシジウムの可能性はあると考慮した。患者はブラジルの都市に滞在したと報告した。パラコクシジウム菌は地方環境に多いが、同感染はブラジル全土で発生する可能性がある18。さらに、胸部CTでは、特徴のない小結節が認められたが、免疫正常宿主でのバルトネラ感染症では非典型的である19


第二に、CDCは、シェルターから拾ってきた猫(adopted shelter cat)の3040%がバルトネラに関連する菌血症を有し、猫の世話をするほとんどの人は抗体陽転しないと推定している20


三番目に 代替の抗菌薬の可能性について議論した。アジスロマイシンやクラリスロマイシンは長期使用で聴器毒性を、エリスロマイシンは胃腸障害を、ST合剤(患者は以前に受けていた)はバルトネラに対するin vitro活性が不安定で臨床効果不十分(症例報告21)等の可能性がある。 抗菌薬選択と治療期間の情報データは限られており、ほとんどがexpert opinionレベルである22


最終的に、23か月の抗菌療法とした。患者は原因不明の軽度腹痛が持続していたが、どの時点でも眼科的、神経学的、肝脾心病変等の明らかな所見は認めなかった。  


長期化する症状と確定診断できれば抗菌薬継続を決定できると思われ、リンパ節標本の16SリボソームRNArRNA)遺伝子配列決定目的でPCR検査に送られた。保存16SrRNA遺伝子のプライマーを用いてほとんどの種類の細菌の固有記号(署名?)(unique signature)を識別する。


結果判明まで、ドキシサイクリン投与は継続した。①バルトネラ菌量が非常に少ないため病理学的検査では認められず生検前に(抗菌薬)治療されていたことから、本検査の陰性的中率は低いと予想した(菌量が少なく、抗菌薬も投与済みなので、偽陰性が生じる可能性が高く、陰性といっても的中率は低い)


最終診断テスト  

16S rRNA遺伝子のPCR検査では、B. henselae DNAが示された。右鼠径部リンパ節生検からの以前のWarthin–Starry銀染色の再評価では、微生物は認められなかった。 Warthin-Starry銀染色は、最初に評価されたリンパ節組織のパラフィン包埋ブロックで再検され、組織学的評価目的に提出され、リンパ節組織の残りのパラフィン包埋ブロック3つのすべてでWarthin-Starry銀染色が施行された。


唯一のブロック(最初に染色されたものとは異なるもの)で、小血管に(関係して)多形性桿菌が塊・集簇で散在した病巣Warthin–Starry銀染色で認められB.henselae感染と合致する所見であった(図3Aおよび3B


  



 ●ファローアップ   

PCR検査結果を患者に伝えところ、次のような追加の病歴が判明した。


入院1ヶ月前に子猫を拾ってきた後、大人猫の方が無気力、食欲不振、腹痛等が始まり、大きなリンパ節に気づいたため獣医院を受診し、リンパ節吸引をしたが確定診断されず、大人猫の状態は57日後に改善したとの追加情報である。


振り返ってみると、子猫が病気の原因であったと推測した。症候性の子猫は、若い大人猫よりも高悪性度の細菌血症を呈する可能性が高く、また(人を)引っ掻く可能性が高い。①感染したノミの糞便が猫の爪を汚染し、②人間の傷に生菌を接種することがヒト感染メカニズムとして推定される。猫の治療ではなくノミの駆除が予防の鍵である24,25。患者はドキシサイクリン治療を続け、 3か月後、B. henselae力価は定量の上限超えから1128に低下し、B. quintana力価は正常化し、腹痛もなくなった。さらに、paracoccidioides検査は陰性であった。


最終診断 Bartonella henselae感染症(猫ひっかき病)


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まとめ

・猫引っ掻き病を診断するのは大変

→結果が判明するまでに時間がかかるので、疑ったらとるものとって治療を開始する

今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

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