2018年11月21日水曜日

がんと感染症

がん患者さんが熱を出すことは日常茶飯事です

ですが、がん患者さんの発熱は大変、やっかいです

腫瘍熱なのか、薬剤熱なのか、感染症なのか

そして、感染症ならどこにfocusがあるのか

ということに悩まされます

なので、腫瘍内科の先生は、

がんとともに、感染症とも戦う日々です


救急外来に、担癌患者さんが発熱で来た

というだけで、かなり身構えます

そこで、いきなり「じゃあ、どうぞ。お入り下さい。今日はどうされましたか?」

と普段通り、問診を開始してはいけません


カルテがもしあって、がん患者さんだということが分かれば、

「がんのprofile」を簡単に頭の中に整理します


当院ではプレゼンテーションの際に

主訴の次に「profile」といって、

患者さんの簡単な情報を、述べるようにしています


80歳 男性 主訴:発熱

現病歴
3日前から湿性咳嗽を自覚
1日前から呼吸苦、倦怠感あり
当日、高熱を認め来院


これで80歳男性がどんな80歳か想像できますか

寝たきり、胃瘻造設、施設入所中の80歳もいるでしょうし、

元気に農家を営んでいる人もいるでしょう

肺癌で化学療法後の人もいるでしょう


なので、現病歴を言い始める前に、簡単な「profile」を述べることで、

どんな人が来たのかを想像できるため、

現病歴で大事なところを把握しやすくなります


このprofileを、改変して、

がんの人の場合は、「がんprofile」として、サマライズします


診断はいつか、ステージ、転移している場所、治療経過、

デバイスの有無、ステントの有無、

予後、PS、最後の抗がん剤、といった情報を、

簡単に把握してから、

病歴をとり始めます


でないと、何に気を付けて、

問診や身体所見をとればよいか分かりません



がんのprofileを作る時に重要なのは、

がんによって起こる3つの問題を整理することです

バリア破綻、構造異常、免疫不全の3つです






①バリア破綻

皮膚や消化管の粘膜は免疫の最前線であり、

体のバリアになっています

しかし、がんの患者さんの場合、

皮膚や粘膜のバリアが破綻していることが多いです


治療で用いるデバイスや抗がん剤、手術、放射線によってバリアが破綻します


バリアは免疫の一部であり、最も重要であることは

忘れがちですが、大事なことです


このバリアをしっかり把握するためには、

体表の地図を描きます


どこにデバイスが入っていて

どこに放射線をあてて

どこの手術をしたのか

皮膚の状態はどうか

爪の状態はどうか


といった地図を頭の中でも、紙でもいいので、描きます


そこが感染のエントリーになることも非常に多く、

その場合は、MRSAをカバーするのか

という議論になります





②構造異常

・がんによって閉塞している管:腸管、尿管、胆管、気管、血管など

・手術によって解剖学的部位が変わっている

・原発ではなく、転移した部位で問題を起こしている


上記の通り、がんの患者さんは普通の人と解剖が変わっている可能性があります

特に原発巣・転移巣が、周辺の管の閉塞起点になることが多いため、

ドレナージやステントが必要な病態になりやすいです


過去のCTがあれば、必ず確認します

そして、それがいつ撮られたものかも確認します

かなり前であれば、解剖は現在は変わっている可能性があり、

画像の閾値は低めに設定します


さっきは体表の地図を描いたので、

今度は体内の地図を描くイメージです






③最後に免疫不全です

簡単にいうと、好中球減少と液性免疫不全と細胞性免疫不全に分けます

好中球減少と液性免疫不全は、反射で動きます


(1)好中球減少

好中球が減っている人の発熱はFNと言われ、

内科エマージェンシーの一つです


抗がん剤を使っている人や血液疾患の人、バセドウでメルカゾール服用中の人で、

発熱があれば、

必ず血算で、好中球の絶対数を確認します


カルテをみて、今、化学療法何日目?

という情報は大事です


血算で好中球が減少しており、FNだ!

ということになったら、

これはもう反射的に動くことが大事です

focusが分からなくても、具体的な菌名を上げられなくても、

とりあえず緑膿菌は外さず、血培をとって治療をいち早く開始することが重要です


focusが不明なので、一晩様子をみよう

と悠長なことを言っていたら、次の日には亡くなる可能性のある病態です

だからといって、熱源探しをしなくていい

というわけではありません


ただし、熱源は好中球が少ない分、分かりにくいので、

時間をかけすぎない

ということが大事なのです


膿尿のないUTI

痰のでない肺炎

痛くない蜂窩織炎

といったように所見が目立たないことが多く、

focusは最初のうちは分かりにくいと、言われています

ただし、入念に診察すると、翌日、翌々日には所見が出てくることも多く

毎日丁寧に診察することが大事です


(2)液性免疫不全
液性免疫不全になる主な原因は、脾摘後の患者さんです

脾摘後の患者さんの重症感染症はOPSIと呼ばれます

既往歴を聞いても、外傷で脾臓をとったことを話してくれないこともあるので、

手術歴や外傷歴と別に聞いた方が無難です



最近は脾臓をとってなくても、大変小さい脾臓の人がいて、

そういう人の中に、脾機能低下がある人もいるようで

脾臓の手術歴がなくても、CTでとても小さい場合は、

少しは考慮しないといけないのかもしれません


この病態の場合も、FNと一緒でとりあえず、血培とって早めに抗生剤です


ここでカバーしないといけないのは、

肺炎球菌を含む莢膜をもった細菌です


加えて、ペットの飼育歴を聞いて、

もしペットを飼っているのであれば、

カプノサイトファーガを考慮します




(3)細胞性免疫不全

細胞性免疫不全は詰将棋的な感じで、じっくり戦略をねることが重要です

1分1秒を争う状況ではないですが、鑑別が膨大になることが多く、

検体をどうとるか

が勝負になります


なので反射的に動かないといけない上二つの免疫不全とは、毛色が違います



この3つの免疫不全ががん患者さんで併存している可能性があるので、

3つの免疫不全がないかをチェックします



まとめ
・がん患者さんと一括りにしない

・がんのprofileを頭に入れてから、診察を始める

・がんのprofileを作るコツは3つ

 1、バリア破綻:体表の地図
 2、構造異常:体内の地図
 3、3つの免疫不全:好中球、液性免疫、細胞性免疫


この段取りを踏んで、診察すれば担癌患者さんが発熱できても、怖くありません


2018年11月20日火曜日

仮説の立て方

医療は不確定な要素が沢山ありつつも、

進んでいかなければなりません

確定診断がついて、治療方法も確立していて、

このレール(パス)に乗れば安心

という状況のほうがむしろ少ないです

パスに乗せてはいけない症例をとりあえずパスに乗せて、

思考が止まってしまうこともよくあります


なので、毎回しっかり考えることが大事です


診断がついていなくても、治療しなければならない時もあります

病歴が不明で、病前の状況がわからない時もよくあります


そんな時は、自分なりの仮説を立てます

その仮説をもとに、プランを立てます

しかし、その仮説がよくないと、その後に悪影響を及ぼします


よくない仮説の特徴は、

一見、飛びつきたくなる仮説です

ですが、それは楽観的なことが多く、

疾患を見逃したり、感染拡大を起こす危険があります

人は楽したい生き物なので、

どうしても自分が楽になる仮説に飛びつきたくなりますが、

それはよくない仮説の可能性が高いです




よい仮説の特徴は、手間はかかります


常に最悪に備えつつ、最高を期待する仮説です


最高のアウトカムを期待し、

自分がその思いでいることを、周りのコメディカルや患者さん、家族に伝えることで、

皆が同じ方向を向いて、進んでいくことができます


注意点として、最悪に備える必要があるので、

面談の際には、最悪のアウトカムの説明は行いますが、

配分を間違えないようにします

最高を期待していることを2/3くらいの割合で、

最悪にも備えようねということを1/3程度は伝えるようにします


この比率が逆転して伝わってしまうと、

最悪を期待している医者として、とらえられる可能性もあり、

注意が必要です

あまり保守的な説明ばかりしていると、信頼をなくします




2018年11月18日日曜日

手根管症候群とc6,7神経根症状

手の痺れの鑑別

手の痺れを訴えてきた人を見て、まず思い浮かべるのは、

手根管症候群です


手根管症候群、つまり正中神経の障害で起こる痺れと

C6,C7の神経根障害の痺れは部位としては、非常に似ています

ring finger splitは有名な所見ですが、

主観的な評価にだけ頼る診察で、鑑別しては危険です



手根管症候群と、神経根症状は痺れの部位だけだと鑑別が不能ですので、

それ以外の診察で鑑別していきます


つまり、筋力と腱反射をしっかりみます


・C6病変 VS 手根管症候群




C6の神経根症状で認める筋力低下は、手関節の背屈です

腱反射は腕橈骨筋反射の減弱です

それで鑑別を行います



・C7病変 VS  手根管症候群



C7の神経根症状で出現する筋力低下は、

上腕三頭筋です

手を伸ばして突いていると、がくがくする

という訴えが聞けることがあります

他、手関節の掌屈や手指の伸展もC7です


・○○サイン

手根管症候群の場合、phalenやtinelは有名なわりに使えません

かわりに、フリックサインが有用ですが、

もちろん、これだけで手根管症候群と決めつけるわけにもいきません

痺れをとろうとして、思考錯誤の結果、振ってみている人もいます

振って楽になるかを聞きます



頚椎症

頸椎症

手の痺れをみたときの鑑別疾患の筆頭は頚椎症です

頚椎症は加齢変性が原因で、神経の周りの組織が膨隆や肥厚して、

神経根や脊髄を圧迫することで、症状が出現します

症状からみると、運動障害、感覚障害、運動+感覚、特殊型の

4つと覚えておくと、分かりやすいです

病変の主座から考えると、

神経根症と脊髄症候にわけられます

脊髄症候は髄節と索路症候に分かれます

脊髄は圧迫を受けると、灰白質の前角から障害を受けることが多く、

徐々に障害範囲が広がっていきます

服部分類ではⅠ→Ⅱ→Ⅲへと進んでいくとされています




・「首っぽいね」の一歩先へ

痺れの鑑別の第一は、頚椎症ですが、

「首っぽいね」

で終わらせないように、

頚椎症を詳しく考えていきます


C7の神経根症状がメインだけど、

腱反射のdiscrepancyがあるから、ミエロパチーも加わっているかな・・・的な感じで、

病変部位を当てられるようになりましょう

内科医は中枢神経、脳神経のとり方はお作法で教わりますが、

神経根やミエロパチーを疑った時の診察は苦手な感じがします


頚椎症を疑った時にとる病歴や診察や5Dと言われます




今は売っていませんが、「臨床神経学の手引き」という名著で、5Dといわれています

なぜか、ネットで検索してもヒットしないので、あまり有名ではないようですが、

非常に有用です

いつも、5Dって結局何だっけ?

となってしまうので、今回まとめました

そこで、新たに7Dと提唱したいと思います

頸椎が7個あることにちなんでいます





この7Dは神経根症候ででるわけではなく、脊髄症候ででるものが多いです


ですが、痛みに関しては、神経根症候であり、

痛みが初発の場合は、神経根の障害であることが多く、

神経根か、脊髄症候かの鑑別に有用です



痛みの部位によっても、病変部位の推定が可能ですが、

急性に出現していれば、まずはACSの除外が必須です

また胆石発作でも同様に肩に放散するので、

内臓臓器の除外から始めます




・頚椎症の部位診断のステップ

①神経根か、脊髄症候か

→痛みの有無で、神経根か脊髄症候かを大まかに予測する

ジャクソン、スパーリングサインで、圧迫を誘発して、

症状の誘発をさせることもあります

ですが、手技自体で障害を悪化させるので、

障害が明らかな場合はあまりやらない方がよいかもしれません


軽く後屈させたり、いきむ動作や咳で痛みが悪化する場合は、

それ以上の誘発は不要だと思われます



②病変の高さはどこか

→支配している筋肉の萎縮・筋力低下や腱反射をとることで予測できます

 感覚の支配領域からもある程度は予測できます


腱反射で特に上腕二頭筋腱反射をとったら、指が屈曲した →C5病変

腕橈骨筋反射をとったら、指が屈曲した →C6病変

という奇異反射がみられることが多く、その場合は病変部位の推定が可能です


③脊髄症候ならば、灰白質(髄節)の障害か、白質(索路)の障害か

→下肢の所見や排尿障害の有無から、

 灰白質から白質のどの部分まで障害されているかを考慮します


下肢の腱反射が亢進したり、異常反射が出現していれば、索路症候であり、

服部分類Ⅱ以上となります

手だけの巧緻運動障害であれば、服部分類のⅠでとまっている可能性が高いです



・Discrepancyについて

見慣れていないと、出現してもわかりません

自分も最初は、この所見が何を意味しているかよく分かりませんでした

なんかいつもと違う動きだなあ、と感じた時は、だいたい異常です


それぞれの反射が、Cの何番に対応しているかを知っておくと、

病変部位の推定に役立ちます






・画像との比較

自分の診察で、

右・左の

C〇の

神経根・脊髄障害だ

と推定できるようになれば、

つぎは画像と比較してみます

画像と自分の推定病変部位が合致してこそ、

診断がつきます

しかし、画像で大した所見じゃないなあ

という時も往々にしてあるので、自分の所見を信じることも重要です



・ヘルニアとの違い

あまり意識しなくてもよいとは思われます

鑑別するメリットはあまりないと思います



頚椎症の経過は色々あることを知っておいたほうが良いとは思います

後屈や転倒で、悪化することが多いので、

症状が悪化したタイミングの前にそのような動作がなかったかどうかを、

しつこく聞くことが重要です


しかし、後屈は生活動作の一部なので、病歴聴取にもこつがいります


例えば、読書を腹ばいでしていなかったか、天井の電球を交換しなかったか

美容室で髪を洗わなかったか 

という聞き方をしてみるのも有用です



治療に関しては、経過の図の通りであり、

自然に軽快する症例もあることから、慎重になることが多いです

手術適応は整形外科医にお任せします


内科医にできることは、他の疾患の可能性をつぶすことです

特に運動障害だけでくるパターンの場合は、ALSと非常に紛らわしいです


痛みが先行し、その後、筋力低下や萎縮がくる場合、

神経疼痛性筋萎縮症との鑑別が必要になります


痺れと運動障害が急性に進む場合は、GBSやVB12欠乏が鑑別になります



頚椎症であることが疑わしければ、

悪化させないような、日常生活の指導がメインとなります


リリカ®やメチコバール®いれて、終わりではありません



頚椎症のまとめ

・痺れをみて、「首っぽいね」としない

・その先に行くには、頚椎症のどこに病変部位があるかを推定する

・推定するには、7Dを意識する

・病変を推定しないと、画像が読めない


嫌気性菌

嫌気性菌は落とし穴が沢山あります

誤嚥性肺炎だから嫌気カバーで、、、

とはよく言われることですが、嫌気性の何を?を理解する必要があります

嫌気と一言で言っても、通性のことですか、偏性のことですか、

横隔膜より上の嫌気ですか、下ですか、

ペプトストレプトですか、フゾバクテリウムですか、


といったように、やはり、感染症は固有名詞を意識することが重要かと思われます

カビっていうな、嫌気っていうな。ですね。



嫌気性菌は人間の体のほとんどの部分に常在菌としています

主に粘膜と皮膚にいます

生まれた時は、消化管内は無菌ですが、だんだん環境や母親から菌をもらって、

腸内細菌叢を作り上げます


消化管内の菌の代表はバクテロイデス属です

大腸菌ではありません

桁が一桁、二桁違うほどバクテロイデスがいます

なので腸が破れたら、

バクテロイデスが腹腔内に漏れ出したと言っても過言ではありません


虫垂炎や憩室炎が破裂して、腹腔内に膿瘍ができた場合、

血培で菌が捕まらなくても、嫌気性菌をカバーしなくてはなりません


嫌気性菌の落とし穴の1つは培養が難しいことが挙げられます

そもそも検体を取る時に、空気に触れさせてしまっては、

検出率が落ちます

なので、膿瘍も切開排膿して出てきたやつよりも、

穿刺吸引してとったものが理想です



嫌気性菌が悪さする時は、概ね二通りです

内因性感染と外因性感染があります


体の表面や粘膜に嫌気性がくっついているので、

それらが組織内に侵入し、悪さをするのが、

内因性感染です


粘膜に傷や癌ができて、侵入経路ができてしまうと、

潜り込んでいく、もしくは血流に乗って感染を起こします

典型的にはまずは好気性菌が局所で感染を起こし、

嫌気状態にした後に、嫌気性が発育するという二相性の経過をとることも多いです


その場合、複数菌の感染の可能性がありますが、

すぐに生えてくる菌にターゲットを絞ってしまうと、

失敗します

嫌気性菌は培養で生えにくいですし、時間がかかるため、

嫌気性菌が生えても良い状況ならば、

他に血培で菌が見つかっても、

De-escaltionは控えたほうが良いかもしれません


もちろん、嫌気性菌が関与する状況は膿瘍を作り出す病態が多いので、

ドレナージが優先なのは言うまでもありません




外因性は環境中、

主に土壌にいるクロストリジウムがメインです

怪我や咬傷で組織内に侵入し、感染を起こします

特徴的な病態になることが多く、

内因性と違って、単一菌が原因です


パーファリンゲンスは消化管内にもいて、

血流感染起こすと、

あっという間になくなってしまう大変恐ろしい病気です


パーファリンゲンスの出す毒素が、

血栓傾向を急激に惹起し、

血栓ができて、赤血球が血栓にぶつかって、

溶血性貧血が重度になる症例もあります


内因性ガス壊疽とも呼ばれており、

非常に予後は悪いです

敗血症にしてはなぜか、溶血性貧血がひどい症例を見たら、

血液のバッフィーコートをグラム染色すると、

この菌に出会えるかもしれません






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