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2023年11月4日土曜日

肺高血圧っぽいプレゼンテーションに出会ったら一度は考える疾患

前回のNEJM case


 86歳男性が6ヶ月前から労作時の呼吸苦が出現してきました


高血圧や脂質異常症、SAS、GERD、うつ、偏頭痛、腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症があり、PPI、SSRI、VD、ICS吸入を行っていました

SABAを呼吸苦の時に吸入していましたが、改善しませんでした


10週間前に腰部脊柱管狭窄症に対して手術が施行されました

手術後、呼吸苦は徐々に進行してきており、生活に支障が出るレベルになってきました


かかりつけ医に相談したところ、Dダイマーが高値であったことから、

精査目的に救急に紹介となりましたが、肺塞栓はありませんでした

CTでは右室や右房の拡大を認めました

心筋虚血を示唆する所見も見られず、経過観察となりました

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この時点で肺高血圧っぽいプレゼンテーションだね、という議論になりました

肺高血圧のどれか?という視点で鑑別が進んでいきました


もしくは二型呼吸不全を呈するような神経・筋疾患・接合部疾患の可能性もあります


ALSの人に頸椎症の手術を行うと、ALSが悪化する可能性があるように、

腰部脊柱管狭窄症の手術によって、症状が悪化しているようにも見えます


もしくは、臥位の時間が長く、ただ筋力が低下しただけかもしれません


CTではtree in budのような病変もあったことから、結核?も疑われました

結核の人が右心不全をきたしたとすると、考えられるのは・・・



収縮性心膜炎ですね

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退院後、さらに呼吸苦は悪化していきました

そして酸素化が低下し再度入院精査となります


ROSでは体重が3ヶ月で11kg減少していました

下痢や間欠的なめまい、臥位で悪化する咳もありました

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ここでは右心不全はありそうですが、

浮腫もあるのになぜ、体重が減るのか?ということが議論になりました


そこでK先生から右心系がやられつつ、下痢もあり体重も減っているとなると、

カルチノイドはどうでしょうか?とコメントをいただきました


正直、カルチノイドのゲシュタルトが自分の中になく、ピンときませんでした


ピュッピュッとホルモン分泌して、喘息やアナフィラキシーの鑑別になるという漠然とした理解しかなかったため、このような進行性の呼吸苦のプレゼンでくるのか分かりませんでした

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診察では毛細血管拡張を頬に認め、JVPが上昇していました

左傍胸骨で汎収縮期雑音を聴取し、拡張期雑音も聴取されました

肝臓が触知され、下肢に浮腫を認めました


そしてUCGが施行され、三尖弁の肥厚や運動制限が見られ、sever TRがありました

肺動脈弁も肥厚しており、肺動脈逆流もありました


僧帽弁と大動脈弁も少し分厚くなっていました

PFOを認め右左シャントを認めました

 

診断は?

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カルチノイド症候群


カルチノイド症候群がこんなプレゼンテーションで見つかるなんて、全く知りませんでした 



カルチノイドは高分化神経内分泌腫瘍です
ゆっくり大きくなりますが、悪性です

回腸にできやすいですが、大きくならなければ無症状です
腫瘍が大きくなってくると、局所症状(腸閉塞)で発見されます

もしくは他の原因でCT撮影された場合に偶発的に見つかることも増えてきています
小腸に腫瘤を見つけたら、一度は疑いましょう



そしてホルモンを分泌するため、カルチノイド症候群で見つかることもあります


ただし分泌された生理活性物質(セロトニン、ヒスタミン)は肝臓で代謝されるため、カルチノイド症候群を呈するためには、
直接、大循環系へ入るか、肝臓に転移していることが多いです

そのため、カルチノイドがあったとしてもカルチノイド症候群を呈することはまれです



有名なカルチノイド症候群(顔面紅潮、下痢、喘息発作、右心不全、毛細血管拡張)ですが、全てが揃う必要はありません


どれか一つのこともありますので、症状から除外することは難しいです

中でもカルチノイド心は、
肺高血圧を疑うような原因不明の進行性の呼吸苦や右心不全のプレゼンテーションできます




セロトニンなどの生理活性物質が三尖弁、肺動脈弁、心腔心内膜を刺激し、
線維化をきたすと考えられています

TRが最も多いです


TRを見た場合は肺高血圧に伴う二次的な弁膜症と考えず、
三尖弁の厚さや動きに注目することで、三尖弁自体の異常を見逃さないことが重要です



セロトニンは肺で不活化されるため、左心系には障害をきたしにくいですが、
今回のようにPFOやシャントが存在すると、左心系も障害されます

もしくは肺カルチノイドの場合です


薬剤性の場合も両側障害されます
カルチノイド心の一番の鑑別は薬剤性です


カルチノイド症候群・・・いつか診断してみたいものです

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NEJMの解説で勉強になったこと

・Platypnea-Orthodeoxia syndrome

座位や立位になると呼吸苦や低酸素が出現し、臥位になると改善する

姿勢の変化で呼吸苦が出現する時には、Platypnea-Orthodeoxia syndromeを疑う


他のpositional dyspneaのパターンとしては、本患者のように臥位で呼吸苦が出現し、

座位になると改善する場合もある

→それはもはや、Platypnea-Orthodeoxia syndromeじゃなくて、

 ただの起坐呼吸ではないか・・・と思ってしまいましたが、

 「姿勢での変化で呼吸苦が出現する時はシャント疾患を思い浮かべよう」という

 パールに換言しました


 Platypnea-Orthodeoxia syndromeは、肺底部病変や心臓内外の右左シャントが原因になります

 今回の症例はPFOが原因で右左シャントが生じており、

 これがPlatypnea-Orthodeoxia syndromeの原因と考えられました



・TRとPS

 TRの診断は末梢のサイン(JVP、肝腫大、下肢浮腫)でおこないます

 雑音はほとんど聞こえません


 TRがseverになると低速系であり、雑音は聞こえなくなります

 にも関わらず、本症例では収縮期雑音が聞こえており、

 これはTR単独では普通ではないことです

 そのため、他の原因を探した方が良いです

 本症例では僧帽弁や大動脈弁、肥大型心筋症のような雑音ではなく、

 肺動脈弁狭窄症が収縮期雑音の原因と考えられました


→昔からボスには、TRの音は心窩部からやや右側に放散するんだ

 ほら聞こえるだろ!と、圧強めに言われていて、

 聞こえていたような気がしていましたが、TRはseverになると聞こえなくなるのですね・・・


2023年7月22日土曜日

Kounis syndrome

今週のNEJMは麻酔後の血圧低下と心電図変化でした


そりゃあ、アナフィラキシーかKounis syndromeでしょう!と言っていたら、
本当にそうでしたね


Kounis syndromeは、まだまだ知名度が低いので、
今回のケースは啓蒙も兼ねている気がしました


しかも原因になった薬が、術前の感染予防のTAZ/PIPCだったので、
それも何らかのメッセージがありそうでした 笑




麻酔中の血圧低下はよくあることですが、
タイミングによって原因が異なります


最も多いのは麻酔導入後です
もちろん、原因は薬です


年齢、術前の状態、併存疾患、内服薬、心機能など
血圧が低下するかの見積もりをしておくことが大事です


麻酔後に血圧低下するのは当たり前で、
血圧低下に対応する薬(フェニレフリンなど)も準備しておきます




ただ、問題はフェニレフリンを投与して少し血圧が上がったとしても、
また下がったり、そもそも反応が乏しい場合です


まだ手術始まっていないので、手技的な要因ではありません


考えられるとすれば、
患者要因(新たな疾患:PE,ACS,出血を発症した可能性)か
薬によるアナフィラキシー・Kounis syndromeです





麻酔中のアナフィラキシーは一度だけ、経験したことがあります
麻酔科の先生からヘルプの電話がありました


麻酔後に血圧が下がってしまって、
原因がわからないから手伝って欲しいとのことでした

血圧が低くて予定の手術が始められないとのとことです


電話で話を伺うと、麻酔の導入や挿管を行い、
予防的な抗生剤を落としはじめている予定手術の患者さんでした

術前の全身状態は良好で、重篤な基礎疾患はありません




行ってみると血圧が60台と低く、脈も100でした
フェニレフリンを打つと多少、血圧があがりますが、すぐに下がってしまうようです

酸素化も若干悪化したとのことでした

喘鳴はなく、皮疹もありません


患者さんの血圧が低いにもかかわらず、
現場にはあまり緊張感はありませんでした


麻酔科の先生だけやや焦っていましたが、
手術を待っている先生達もリラックスムードで、雑談しています

看護師さんも淡々と自分の仕事をしているように見えました




・・・


びっくりしました


いやいや・・・皆さん、緊急事態ですよー
アナフィラキシーショックですよー


「先生、これはアナフィラキシーです。
 すぐにボスミン打ちましょう。
 手術は中止した方がいいと思います。」



ということで、ボスミン打って血圧は元に戻りました



いきなり、手術室に入ってきた内科医が、
麻酔科医と外科医に向かって、手術中止を宣言するという何とも不思議な構図でした 笑



結局、手術は中止してもらい、病棟に戻って自分が担当になりました 

結果的には抗生剤によるアナフィラキシーショックでした





その時、思ったのですが、

・麻酔中の血圧低下は「当たり前」くらいに慣れていて、
 皆、焦ったりしない
 (もしくは正常化バイアスが働いている)


・皮疹や他の症状がないと、アナフィラキシーを想起しにくい

・手術中止の判断はハードルが高い



その時はアナフィラキシーの治療だけでうまくいきましたが、
kounis syndromeのことを考えていなかったことを反省しました


麻酔導入後の血圧低下の鑑別のステップとして

1、麻酔薬の影響
2、患者要因:PE、ACS、タコツボ型心筋症、大量出血など
3、アナフィラキシー

そして

4、Kounis syndrome を考えるのが大事です


Kounis syndromeはtype1,2,3があります

攣縮だけ、という単純な病態ではないのです


あまり詳しい病態はわかっていないようですが、

肥満細胞が脱顆粒を行うことで、炎症性メディエターが放出され、
冠動脈の攣縮やプラーク破裂、ステント内血栓を惹起するようです



Kounis syndromeは、
アナフィラキシーとACSが同時にやってくるので対応が大変です



典型的には、蜂刺されや薬によってアナフィラキシーが起こり、
その後、胸痛が出現し、心電図をつけるとST変化がある!

というのがゲシュタルトです



ただし、典型的な症状が揃わないと、診断が難しいことがあります

例えば、アナフィラキシーショックまでは至っておらず、
「蜂に刺された後の胸痛とST変化」とかです



血圧が低い場合、アナフィラキシーショック?心原性?と迷うこともあります


そんな場合は、本当にアナフィラキシーが起きているのかの傍証のために、
トリプターゼを測定しておくことで有用です
(日本では気軽には出せず、帰ってくるのも1ヶ月くらいかかることもあるようですが・・・)


てんかん発作時のプロラクチンや前立腺炎の時のPSAな意味合いです



Kounis syndromeはcommonな疾患ではありませんが、
ものすごくrareというわけでもありません



忘れた頃に出会います


忘れたくないので、アナフィラキシーの症例に出会った時は、
常にKounis syndromeを合併していないか?と考える癖を持っておくと良いと思います



アナフィラキシーだと判断した時、
「ボスミンうって、はい、おしまい」ではありません


すぐに心電図をとりましょう

ST-T変化が多いですが、場合によっては不整脈が起こることもあります






治療は非常にchallengingです


大事なのは、早期に疑うことです

アレルギーなのでアレルゲンの暴露から離すというのが、
忘れがちではありますが最も重要です

特に薬(輸血、抗生剤など)


あとはアナフィラキシーとACSの両方に対応します



Eur J Intern Med. 2016 May;30:7-10. 



STEMIの状態であれば、緊急カテに行くしかありません


STEMIでなければ、もともとの冠動脈の状態にもよりますが、
type 1と思えば、まずはアレルギー止めの薬で対応します


改善なければ、攣縮を抑える薬も投与します



type 2や3の場合は、PCIが必要になりますので、普通にカテが必要です


typeがわかるのは、カテの後です
kounisだと思ったとしても、結局カテにいく必要があります


kounis syndromeを攣縮だけと思っていると、
カテの意識が抜け落ちてしまうので、攣縮だけではないことを覚えておきましょう



kounisを知ってしまうと、アドレナリン(ボスミン)打つのが躊躇われるかもしれません





アドレナリンは、冠動脈攣縮や不整脈を誘発させたり、
虚血を悪化させる可能性があります

添付文書にもしっかり書かれています


そのため、Kounis syndromeを疑った場合、
アドレナリンを打って良いか悩む場面があります


結論から言うと、アナフィラキシーの治療でアドレナリンが必要だと思えば、
投与していいです



ただし、アドレナリンを打った後にSTが上がっていた場合、
kounisだったのか、アドレナリンのせいか悩むことになります


なので、1分くらいアドレナリン投与を待てるのであれば、
投与前に心電図を取っておくと良いかもしれません




時間的猶予がなく、アナフィラキシーショックで命の危険がある場合は
躊躇わずに打ってOKです


ただし、冠動脈疾患がある人やβブロッカーを内服中の人は、
アドレナリンではなく、最初からグルカゴンを使った方が良いかもしれません

これはケースバイケースです


まとめ
・麻酔中の血圧低下はよくあることだが、
 皆、よくありすぎて皆慣れている
→アナフィラキシーを想起しにくい

・アナフィラキシーに出会ったら、
 kounis 症候群を合併していないか、毎回考える
→アドレナリン打つ前に猶予があれば、心電図を
 打った後も早めに心電図を

・Kounis 症候群でもカテーテル検査は必要
→病態は攣縮だけではない、Type 2,3はPCI必要になる
 Typeがわかるのは、カテの後






 

2023年6月4日日曜日

胸痛は脊髄反射で動く 〜暫定ACSとしての動き方・考え方〜

悩ましい胸痛の症例です



救急外来で仕事をしていると、急に看護師さんから声がしました

「胸痛の方です!」


ストレッチャーに乗せられた状態で、
50歳の男性が初療室へ入ってきました


胸の真ん中を手で抑えて、ウーっと痛がっています

冷や汗もかいています


という状況で診療開始です


1st インプレッションはACSを筆頭にkiller chest painと呼ばれる疾患を疑います


胸痛の場合は、あれこれ考えません

致死的疾患の診断・否定につきます

シンプルに考えることが大事です



初動は反射的に動きます

頭で考えるとスピードが鈍るので、

頭で考えずに脊髄反射に任せて動くイメージです

診断まで一直線に動きます



①STEMIをいち早く診断するための心電図をとる(過去と比較)

②NSTEMI/UAPを診断するための心電図、トロポニン、UCG、病歴(症状、リスク因子、既往)

③大動脈解離や肺塞栓を診断するためのUCGと造影CT(造影ルートでお願いする)

④緊張性気胸を診断するためのUSとCXR(気胸は他のバイタルでわかることがほとんど)

⑤胆嚢や膵炎の可能性も考慮し、USや採血チェック(診察でわかることがほとんど)



胸痛が続いている時点で、循環器内科の待機が誰かをチェックして、

いつでも電話できるようにしておきます


強い胸痛の症例は、絶対に違うと自分で納得できるまでは「暫定ACS」です

ACSらしくないと判明すれば、「暫定大動脈解離」にシフトします


本症例はバイタル正常で強い胸痛なので、やはりACSを疑います



①心電図:ST-T上昇はなし、早期脱分極にみえる部位はあり

     比較はなし、reciprocal changeなし


心電図からはSTEMIではないと判断され、病歴や過去カルテチェックを行いつつ、

同時にUCGが施行されました



動脈硬化リスク因子は喫煙くらいです

喫煙だけでも十分ですので、やはりACSが鑑別の筆頭であることは変わりないです


UCGでは特異的な異常所見は見つかりませんでした


病歴としては、寝返りをした後から首の痛みが出てきて、

そこから胸痛に至ったということです


痛みが強くて、救急車を呼ぼうと思ったくらいだったようです

まだ痛みは10/10で続いています



ACSを疑った場合の病歴聴取ですが

・冷や汗があるかどうか → あり

・放散痛はあるか → bad な聞き方「どこか他に痛いところはありますか」

          goodな聞き方:痛みの部位を指差し確認で聞いていく


「耳は痛いですか?歯はどうですか、浮いたような感じはないですか?

 顎は痛くないですか?肩はだるかったり、痛かったりしませんか?

 腕のだるさや痛みはないですか?喉にへばりつくような変な感じはありませんか?」

→今回は肩甲骨の間に痛みがありました


・吐き気 → なし



ACSの胸痛は非典型的な場合も多いので、病歴だけで除外することは困難です


体位で変化する胸痛や圧痛のある心筋梗塞も過去にありました

耳だけすごく痛いという人もいましたね

喉に薬がへばりついた感じできた人もいるようです



病歴聴取ではACSの診断の可能性を上げることはできますが、

除外は難しいと覚えておきましょう



今回は寝返りの動作後であることや頸部痛からの胸痛であることから、

cervical anginaが疑われました

CTで頸椎のあたりもよく見た方がいいですね




みなさん、よくcervical anginaなんて知っていますね〜


ですが、cervical anginaの診断をつける前にやることは、ACSの否定です



ではどこまでやったらACSではないと言い切れますか?

臨床をしている上での一番の悩みです



大動脈解離は造影CT撮れば、診断も否定もできます

ですが、造影CTではACSの否定は難しいです



昨今、冠動脈CTが撮れるようになり、悩ましい症例では早期から冠動脈CTである程度、

冠動脈疾患かどうかの見積もりをたてられるようになりました


ですが、逆にどのプロトコールで造影CTをとるべきか悩むこともあります


その背景には冠動脈疾患ではなく、カテは不要であるということを

はっきりさせたいという心理があります



冠動脈CTは撮影方法が特殊で、読影も循環器Drが行うため、

(当院では)循環器Drに相談してからでないと撮ることはできません


なので、この段階で循環器内科Drに相談しておくのもありですね



ちなみに、脊髄の病気の非典型的なプレゼンテーションとしては、

・今回のような狭心症様症状でくるcervical angina

・脊髄性ミオクローヌスでくるパターン

・原因不明の腹痛や側腹部痛になるパターン(Girdle pain)


を知っておくとよいかもしれません





造影CTにいくまでに採血結果が帰ってきました

造影CTが撮られましたが、何もなかったようです
今回は解離を疑ったプロトコールで行われました

造影CTでも心筋梗塞が発覚するときがありますので、
「その目」でみることが大事です


後日、読影結果で「心筋の造影不良を認め、心筋梗塞疑いです」
と書かれると冷や汗かきます・・・



本文より抜粋

心筋不染像は13例中 9 例 (69%)で認めた(表 3 )

さらに,心筋不染像の有 無で分類した 2 群を比較検討したpeak CK値は心 筋不染像あり群で2, 344±290IU/l,心筋不染像なし群で473±435IU/lと、心筋不染像あり群で有意に高値であった(P=0. 004)

また,治療後に施行した心エコー検査での左室駆出率(EF)は,49. 0±9. 1% vs 63. 2±5. 3%(P=0. 015)と,心筋不染像ありの群 で有意に低いという結果が得られた.

よってより重症な症例において心筋不染像を呈しやすい傾向にあると言える




本症例は心筋の不染像もありませんでした
頸椎病変もはっきりとはしませんでした


造影CTから帰ってくると、症状は落ち着きつつあり、

アセリオを投与すると、痛みは消失しました


結局、何だったのかわかりませんが、

大事なのは・・・


①ACSの見積もりをいかに減らせるか

→心電図やトロポニンの再検査、病歴、リスク因子


②万が一、UAPが隠れているかもしれないのでフォロー

→循環器Drにいかにつなぐか


③他の診断の確定 

→ cervical angina狙ってMRI、心膜外脂肪壊死


大事なのは、順番です

①、②をすっ飛ばして、③からやってはいけないということです





本症例は確かにcervical anginaでもよいかもしれません



ですが、「cervical angina」という便利な病名を知ってしまうと、
ACSや解離の否定がいまいちできていないのに、
「cervical angina」と診断してしまいそうな先生が増えてしまうことが気がかりです


同じ構図にACNESがあります
有名になりすぎた分、その弊害が心配です


こういった良性疾患は見逃しても亡くなることはありませんが、
致死的な疾患は見逃すと本当に亡くなります


正しい診断よりも致死的な疾患の除外が
救急の大原則です


時間も人も限られる救急の場面では、
100点を目指す必要はありません

合格点がとれていれば十分です




正直、救急の場面ではcervical anginaは考えなくていいと思います

絶対にACSではないと自分が納得できるまでは、
「暫定ACS」として反射で動きます


致死的な胸痛が除外された場合にはじめて、
脊髄反射から解放されて、頭で考え出します

その時にcervical anginaを考えるのはありでしょう





救急の基本原則を思い出させていただき、ありがとうございました







2022年4月3日日曜日

お久しぶりの診断

 90歳 女性 主訴:呼吸苦、胸痛で救急受診

(※症例は加筆・修正を加えてあります)


Profile:1ヶ月前まで心不全で入院歴あり 


現病歴:本人は認知機能低下があり、詳細にはとれない 

    「別に苦しくない」「別に痛くない」という


    夫から聴取すると、

    退院後はなんとか自宅で生活できていた

    食事量は少ない、ADLは寝たきりというわけではない

    こたつで休んでいることが多く、あまり動かない

    前日から呼吸苦や胸部痛の訴えあり

    来院当日、夜間に呼吸苦を主訴に救急受診


<過去カルテ>

1ヶ月前に同様の主訴で来院し入院

来院時、SpO2 86%、下腿浮腫あり、CXRで胸水、心拡大を認めた

EF30%台の低心機能あり、Cr 0.9、トロポニン上昇なし 

冠動脈評価は未施行

肝胆道系酵素上昇あり


体液量過多に伴ううっ血性心不全と診断され、利尿剤が調整された

利尿に伴い、酸素化は改善し、肝胆道系酵素も改善

肝酵素上昇の精査(ウイルス、ANAなど)もされたが、何もひっかからず


夫と本人へ十分な生活指導もされた

①塩分過多に注意、②薬をしっかり飲めるように分1に変更、③定期的な体重測定


その後、かかりつけの先生にフォローが依頼されていた



既往:心不全(前回が初めての入院)、Af、高血圧、認知症

内服:ダイアート、ラニラピッド、エリキュース、アムロジピン


身体所見

BP 110/70、P 68(ireg/ireg)、HR 120回/分

SPO2 94%、RR 28回/分、T 36.5

見た目 お元気そう 会話可 痛がる様子はない

末梢 暖かくも冷たくもない 冷や汗なし

JVP  臥位ではあるが内頸静脈がかなり張っている 

胸部 心雑音 収縮期雑音@心尖部

呼吸音 側胸部から減弱あり crackleなし、wheezesなし

腹部 平坦 軟 圧痛なし

下肢 左に軽度浮腫あり


UCG  EF 30-40% 、 diffuse hypo、MR moderate、AS mild、心嚢水なし、D shapeなし、IVC 20mm

左室、左房拡大あり 


CXR  心拡大あり、CTにて両側少量胸水あり、肺血管陰影増強

→前回とほぼ同様の所見


ECG  V5でST-T低下あり 

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診断は?心不全の原因は?


今回の症例は夜間発作性呼吸苦があり、前回の心不全での入院歴があり、

身体所見からも心不全の可能性が高いです


そのため、急性心不全の診断は難しくはないのですが、

問題は心不全がこの短期間で増悪した原因です


心不全診療は心不全の診断をつけて「半分」

残りの半分は急性増悪した原因を突き止めることです


前回、しっかりとした生活指導が入っているので、

塩分過多はなさそうです

そもそも食事量は減ってきたようでした


薬も飲めていたようです


頻脈性のAfはありました

食事量低下に伴う脱水やAfからの頻脈は原因の一つにありそうです


虚血の関与はありそうですが、diffuse hypoなので

あるとすれば左冠動脈主幹か三枝でしょうか


弁膜症は心拡大に伴うMRが付随してきている印象ですが、メイン病態かは不明です


貧血はなく、Hb18とむしろ多血気味でした


     


参考:心不全


他のデータを見てみると・・・


肝酵素は前回同様軽度上昇しています

腎機能は横ばいで、悪化はありません

電解質異常もありません

CRP上昇はありません

トロポニンの上昇はごくごく軽度でした

BNPは600と上昇していました

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さて診断はなんでしょうか?


心不全に関しては、ひとまず酸素化は悪くないので、

利尿剤IVして、尿カテを留置し、安静にして入院の流れで良いと思われます

頻脈が持続するようなら、介入を検討します


あとは根本の問題です

今回、心不全が起きた原因はなんでしょうか?


頻脈?薬?虚血?でも、もちろんよいのですが・・・・

自分はしっくりきませんでした



診断は血液ガスでわかりました


CO 8%の急性一酸化炭素中毒でした


Hbが高すぎることがヒントになりました

心不全増悪の原因がしっくりこないことも、何か他にあるはず・・・という思考になりました



夫から病歴をとると、

「俺も一酸化炭素中毒で救急に運ばれたことある!

 こたつの中には潜らないように注意してたんだけどね!」とのことでした


本人は一日中、豆炭こたつのある部屋のこたつの中で生活しているようです


そのため、慢性一酸化炭素中毒と急性一酸化炭素中毒をこれまで繰り返してきたのでしょう



毎年、豆炭こたつからのCO中毒を診断してきたのに、

そういえば今年は一例も診断していませんでした


自分の啓蒙活動が奏功して、ついに豆炭こたつが駆逐されたかと思っていましたが、

そうではなかったようです


まさか、4月になってから診断するとは思いませんでした


お久しぶりの診断でした


    


食事摂取低下も一酸化炭素中毒のよくある症状です

一酸化炭素中毒



    


一酸化炭素中毒のピットフォールとしては、

・他の病気があることを見落とす

・合併症(虚血)を見落とす

・そもそもガスのCOを見落とす


CO中毒はピットフォールが非常に多いです


忘れた頃にやってきますね〜


まとめ

・急性心不全をみたら、診断するだけでは片手落ち

→増悪した原因を突き止めることが大事


・高齢者の多血は慢性一酸化炭素中毒を疑うサイン

→原因不明の心不全増悪の時には、一酸化炭素中毒を考える



気腫性骨髄炎

 

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