2020年7月31日金曜日

3つのシナリオ

ある日の救急外来

元々、ADLフルな超高齢の男性が救急搬送されてきた
主訴は意識障害と右片麻痺

MRIで左MCA領域の脳梗塞と判明

同時に心不全・肺炎も合併しており、酸素化が悪い

ひとまず、時間の制約があるtPAの適応から考える
→すでにMRI DWIで高信号が明瞭であり、適応時間もギリギリのため、tPAにはならず

肺炎の治療として、誤嚥性肺炎疑いで抗生剤投与開始

急性心不全として、降圧・利尿剤開始

病歴を聞くと、食事摂取ができておらず、アルコールの飲酒が多量だった
→VB1の補充開始
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ディスカッション①さあ、この患者さんの未来を想像しよう

T「何だか、マルチプルプロブレムだね。
  これまでの通院歴もないから、ひとまずわかったことはこれくらいだね。」

専「このあとどうなっていくんでしょうか、あんまり想像ができません」


T「そうねえ。

 入院で担当したら、その患者さんの未来を想像しようね。
 この患者さんの行き着く先はどこか、毎回考える。
 

 経験を積むと自然に、入院の時に退院までの日程、退院時のADL、退院先の場所まで、
 想像できるようになるよ。

 最初は精度は悪いけど、だんだん精度が上がってくる。
 そうすると、患者さんやご家族に説明しやすくなるよね。」


専「そうですね。僕にはまだ未来は見えてきません」


T「診断がついていないと、未来はなかなか見えないよね。
  だから、不明〇〇って常にストレスなんだ。

 でも目の前の患者さんの病態が把握できて、
 病気がわかれば、大まかな未来が見えてくるよ。


  とはいっても、病気の自然経過っていろいろあるでしょ。

  例えば、リウマチっていったって、軽いものから、重症のもの、
  合併症があるものから、ないもの、
  若い人から、高齢者。
  いろんなリウマチがある。

  これはね、教科書じゃ学べないんだ。

 だいたい病気の自然経過は、100症例くらいみればわかってくると言われている
 
  それはその100症例の中に、ベストシナリオからワーストシナリオの症例があるからなんだ。」


専「ベストシナリオとワーストシナリオですか?」


T「そう。

  自分が経験した患者さんで、とても順調に回復していった症例や
  どんどん悪化していって、苦い思いをした症例が記憶として残っている。

  そのベストシナリオとワーストシナリオを経験したことで、
  大体の人が、その間を通っていくことが多い。


  振れ幅が小さいと、自分の思いもよらないことが起きるから、慌ててしまう。
  担当医が慌てている状況ほど、家族からみて怖いことはないよね。

  だからこそ、僕たちは何が起きてもパニックになってはいけない。
  そのためには、ワーストシナリオをしっかり想像しておくことが大事。


  振れ幅の大きさは自分が経験した患者さんで作られるんだ。」


専「あんまり脳梗塞を経験していないので、自分の中では振れ幅があまりないです。
  
  勉強します。」


T「もちろん、それぞれの病気の予後として、一般論的なものは知っておく必要があるけど、
  論文や教科書から得られるのって、ただの数字でしょ?

  何年後の生存率や何ヶ月後のmRSっていう数字には、
  現実世界の血肉や物語がないんだよね。

 
  だから、知識として数字を知るよりも、自分の経験の方が遥かに大事。

  これが患者さんから学ぶということ。


  うーん、やっぱり違うなあ

  学ぶっていう感じじゃないなんだよなあ。


  染み付くって感じ。

  脳に自然に染み付いて、取れない感じの経験。
  
  そういう経験って、患者さんに真剣に向き合わないと得られない。

  患者さんをただの症例としてしかみていない人や
  学会に提出するための症例数としてしか興味がない人は染み付かない。」


専「わかりました。」


T「じゃあ、この患者さんの未来を想像してみよう。
  
 その時の考え方のこつとしては、2つある。


 ①3つシナリオを考えること

 ベストシナリオとワーストシナリオと、一番起こりえるであろうシナリオ。
 この3つ考えて、家族には説明する。

 そして
 
 ②急性期と慢性期のシナリオを考えること

 この数日以内の短期的な未来と退院を含めた長期的な未来を想像するのだ重要
 
 だいたいの人は病気の急性期を経験しているけど、
 病気の慢性期まで経験できているかというとそうでもない

 致し方ないところではあるけど、病気のバトンをつないでいる感じだから、
 一連の流れとして病気を経験できない

 そうすると、長期的な未来を想像するのが難しくなるんだよね。」





専「なるほど。
  この患者さんの場合、
  急性期であれば、肺炎や心不全が悪くなって呼吸状態が悪化してくることが
  ワーストシナリオで想像されます。
  その場合は挿管も必要になりそうですが、現実的には酸素投与や治療でいけそうな気もします。
 
  慢性期の状況は、今までの経験では嚥下が難しくなって、
  胃瘻を作っていくことしかなかったので、その未来しか見えません。」


T「なるほど。胃瘻ねえ。

  胃瘻するかしないかって、procedure oriented な考え方だね。
  
  そうじゃなくて、goal orientedに考えよう。



  例えば、車を車検に出した時に、エンジンオイルがどうのこうので、
  バッテリーがうんたらかんたらで、ホイールがほにゃららでしたので、交換しますか?

  って言われたら、

  はい、(よくわからないけど)お願いします

  としか言えないよね。


  そうじゃなくて、
  
  こっちとしては事故を起こしたくないわけだから、
  安全のために部品の交換が必要になるなら、お願いします。

  っていうのが真意だよね。


  処置ベースで、やるかやらないかっていう議論はもうやめて、
  家族がどんなゴールを望んでいるかを聞かないと、
  こんなはずじゃなかった・・・っていう胃瘻の人たちが増えてしまう。

  胃瘻を作るのであれば、必ず胃瘻を作った先に幸せな未来がないといけない。
  
  とりあえず、命を伸ばすっていう医療は、医師の怠慢でしかない。
  だって、家族と話し合わなくていいから、医者にとっては楽なんだ。

  命は繋ぎました。あとどうするかはお好きにどうぞ。じゃ、あんまりだよね。


  どうしてもICUとかって、たくさんの処置の同意書が必要だから、
  procedure oriented になりやすいんだけど、
  goal orientedっていう考え方を常に忘れないようにしよう。」


専「わかりました。まずはご家族に患者さんのこれまでの様子を確認して、
  ケアについての希望を聞き、一緒にゴールを探していきたいと思います。」


まとめ
・入院した患者さんを担当したら、3つのシナリオを想定してみる
→最初は精度は高くないが、だんだん精度は上がってくる

・ベストシナリオ、ワーストシナリオ、most likely シナリオを急性期と慢性期で考える
→教科書では学べない、患者さんから教わるしかない

・自分の話し方はprocedure oriented ですか?それともgoal orientedですか?


you tube 解説動画:https://youtu.be/M90znH0WIsM


2020年7月21日火曜日

昼カンファレンス 〜あちこち痛い〜

症例 35歳 女性 主訴:節々の痛み、全身の痛み
(症例は一部修正・加筆を加えてあります)
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ディスカッション①これだけで何を考えますか?


T「はい、ではこれだけで何を考えますか?」

学生「これだけでですか?

   えーっと、リウマチやSLE」

T「いいね、他には?」

R「線維筋痛症」

T「いいね、他には?」

F「反応性」

T「reactive arthritisね、他には?

D「パルボ」

T「そうねえ、
  
  全身の痛みだけで30分は話せるんだけど、
  あげて欲しい鑑別をあげてもらえたら、次に進もっか。笑」

→溶連菌、IE、甲状腺機能低下・亢進、副腎不全

T「いいんだけどね、ヒントはさっきの前座だね」

R 「あー。VD欠乏ですか?」

T「そう!ビタミンD欠乏って実はとても見逃されやすくて、多いんだよね。
  骨の痛みを訴えることがあるから、鑑別にあげないと、
  絶対に診断できないよね。

  思ったより早く終わったね、じゃあ次に進もう。」
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症例 35歳 女性 主訴:節々の痛み、全身の痛み
Profile:産後2ヶ月、甲状腺はやや大きいとは言われているが、特に内服はしていない

現病歴:来院の2週間前まではなんともなかった
    2週間前くらいから手足の指に痛みが出現してきた
    その後、肘や背中など体のいたるところに痛みが出てきた
    手のこわばりもあるが、朝に強いわけではない
    10日前に開業医を受診し、血液検査実施
    炎症反応上昇はなく、リウマチの検査も陰性だった
    4日前に再診し、NSAIDsを処方されたが、改善せず当院紹介

既往:甲状腺が大きいと言われているくらい、精査は行っていない
内服:NSAIDs(近医より)
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ディスカッション②何を聞きますか?

T「じゃあ、いろいろ聞いてください」

学生「発汗はありますか?」

N「ありません」

学生「寒がりですか、暑がりですか?」

N「どちらでもないです」

D「経過中に皮疹はありましたか?」

N「なかったです」

D「経過で悪化していますか?」

N「そうですね、痛みも悪化していますし、たくさんの関節が痛くなっているので、
 悪化してきています」

その他、ROSとして、日焼けしやすいことはなく、動機はなし
下痢や浮腫なし、体重減少なし





T「はい、ありがとうございます。
  
  みなさん、あちこち痛いと言われたらどうやって頭の中で考えていますか?」

学生「膠原病や感染症じゃないか?とまずは考えます。
   
  あとは内分泌やうつ病とかも鑑別に考えます。」




T「いいね、それも一つの軸ですね。病態の軸です。
 
  ただここではもう一つの軸が大事ですね。
  何かわかりますか?」


聴衆・・・

T「鑑別のあげ方でABCは聞いたことありますか?」


学生「ないです」

T「じゃあFさん、何回も聞いたよね?笑」


F「anatomy, VINDICATE, 3C :common, critical, curable です」

T「その通り!

 ということで、二つ目の軸は解剖です。

 あちこち痛いと言われると、解剖が疎かになりがちですが、
 やっぱり大事です。

 あちこちにあるもの、全身にあるものを考えます。

 何がありますか?」


学生「関節、骨、筋肉」

T「いいね、他には?」

学生「皮膚とか」

T「いいね、もう少しあるね。

  関節の周りには他に何があるかな?]


学生「・・・」


T「滑液包と腱・付着部があるね。
  
  あとは皮膚の下の脂肪とか、血管とか、神経とかね。


  あちこち痛いと言われたら、
 これらの解剖のどこが痛いのかをまずは見極めることから始めた方がいい。  
  
  そして解剖が同定できたら、そこから病気を考えていくのがこつだよ。

  例えば、皮膚だったら、コリン性蕁麻疹っていう病気があって、
  皮疹を伴うんだけど、チクチク痛いっていう人が多い。
  
  そしていろんな場所が痛くなるから、あちこち痛くなる。


  関節だったら、病気はたくさんあるね。
  
  筋肉もいろいろあるよね。

  骨は若年であれば、ビタミンD欠乏とか、SLEでも痛くなる時あるね。
  高齢であれば、もちろん、骨転移だね。
  
  腱や付着部の場合は、脊椎関節炎が多いね。
  
  滑液包は高齢だったら、PMRだけど、
  偽痛風や痛風とか、感染でも滑液包炎は起こるね。

  これらの解剖を考えて、なんだか当てはまらないなあと思ったら、
  神経のことを考える。
  
  多発神経炎とか、神経がエントラップされる病態とか、神経根の問題とかね。
  あとはパーキンソン病も原因不明の痛みを訴えることがある。

  そして精神的なものも考える。うつ病は全身の痛み出やすいからね。


  という風に、病歴であちこち痛いと言われたら、
 まずはどこが痛いのかを病歴と身体所見で詰めることが大事。

参考:あちこち痛い
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身体所見
バイタル問題なし

眼球 充血なし 出血班無し
口腔内 潰瘍無し 口内炎無し
頸部 LN触れず
呼吸音 清
心雑音無し
腹部 平坦 軟 圧痛無し
関節 腫脹:無し、圧痛:左2.4PIP、左膝の内側
皮疹 無し





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ディスカッション③:他にとりたい所見は?

D「関節は腫れていなかったのですか?」

N「腫れていなかったと思います。」

T「リウマチの関節の腫れ方ってどんな硬さか知ってる?」

N「知らないです」

T「リウマチの関節腫脹の硬さは、パン生地みたいな硬さって言われるんだけど、
  現代っ子はパン生地こねないからわからないよね。笑

  自分流の関節の触り方のコツは二段階方式です。

  ゲームセンターのクレーンゲームやったことある人は、
  それを思い出してください。

  クレーンが最初、ぬいぐるみのところにいきますよね。
  そしたら、その場で開いて、その後、クレーンが閉じますよね。

  あんなイメージで、
 まずはそっと関節を押さないように触って、そこからギュッと押す感じ。

  だからいきなり、関節を押すように触らないようにします。
  
  ①まずは関節の表面を触れるだけ
  ②そこからグッと押し込む

  この方が関節の腫脹はわかりやすいです。

  さて、さっき学生さんが膠原病っていってくれたけど、
  膠原病って何やねん!って突っ込まれちゃうね。

  膠原病ってひとまとめにしてしまうと、カオスなのでもう少し分けて考えよう
  

  ANA関連疾患と関節リウマチ、血管炎、脊椎関節炎に分けて考えるとわかりやすいよ。



  ANA関連疾患の場合、よくみられる所見があるけど何でしょう?」


D「硬口蓋の口内炎ですか?」

T「そうだね、それはSLEに特徴的な所見だね。
  確かに硬口蓋に炎症があったら、かなりSLEっぽい。

  臓器障害と関連すると言われるので、注意が必要な所見です。

  でもANA関連疾患で特徴的かと言われると、微妙かな。

      ANA関連疾患の多くが、レイノー現象がみられます。
  レイノー現象になるということは、皮膚の血流が悪くなってしまうということ。

  病歴でレイノーを確認しつつ、
  身体所見で、NFC:Nail-fold capillaryをみます。

  ダーマスコピーなくても諦めないでください、肉眼でもその目で見れば結構見えます。

  NFCCがあれば、ANA関連疾患の可能性がググッと高くなります。」


N「みてませんでした」


T「はい、では次はリウマチの身体所見ですね。

  関節はさっき、言ったようにパン生地みたいな柔らかさです。
  
  だからパンヌスと言います。」


聴衆・・・・・ しらー・・・


T「嘘です。すいません。

 リウマチの場合は、リウマトイド結節がひどいと出てくることがありますので、
 肘の関節を触ったついでに、前腕の外側面を掌でなぞって、結節がないかチェックします。」


N「すいません、結節はみてませんでした」

 
T「次に血管炎の診察です。

 血管炎は大・中・小にわかれます。

 大血管炎つまり高安動脈炎の診察ってどうしますか?」


D「頸動脈の雑音を聞きます」

T「そうだね、頸動脈雑音ともう一つは?」

D「わかりません。」


T「頸動脈の圧痛だね。

 雑音や血圧の左右差きてたら、だいぶ病期としては進んでしまっているから、
 そうなる前に見つけたいよね。

 以前、この所見を拾って高安を診断していた専攻医の先生がいました。
 格好いいよね、フィジカルで診断できたら。

 頸動脈の圧痛は覚えておいてもいいと思います。


 では中血管の炎症、つまり結節性動脈炎の身体所見は何をとりましょうか?

 これが難しいんだよね。
 中血管って内臓にいく血管だから、腎臓とか腸間膜とかね。
 フィジカルで取りに行くのって、難しいんだけど、唯一とるとすると?」


学生「陰嚢の痛みですか?」


T「その通り、稀だけど陰嚢痛が出ることが有名だよね。
  なので一応チェックしましょう。

  じゃあ、最後に小血管炎は?

  これは簡単。

  
  皮膚をみます。触れる紫斑を探します。
  目をつぶって、皮膚をなぞって、紫斑が触れれば、palpable purupulaと呼ばれる皮疹ですね。

  あとは多発神経炎を起こすことがあるので、痺れがないかもチェックします。」


N「すいません、みてませんでした」

T「はい、次は脊椎関節炎です。




 脊椎関節炎の中にはいろいろあります、ASや反応性関節炎や乾癬性関節炎、IBD関連、
 ベーチェットはこの中に入れるかは微妙ですが、
 同じような感じのプレゼンテーションになることがあります。


 脊椎関節炎の中でも一番気をつけるのは、乾癬です。

 これはフィジカルがとても大事です。

 ずばり、をしっかりみます。
 
 pittingと呼ばれる所見が有名ですが、ボールペンで押しつけたような点状の穴ぼこができることが多いです。

 あとは、肥厚したり、oil drop様の変化をしたり、白癬と間違えられる時もあります。

 質問の仕方としては、爪が脆くて壊れやすいかどうか?

 と聞くといいと思います。


 あとはもちろん、皮膚もみます。」

参考:乾癬


T「こんな風に膠原病を疑った時は、手と爪と顔をその目でしっかり見ることが大事です。



 そして膠原病と一括りにせずに、ANA関連なのか、リウマチなのか、血管炎なのか、脊椎関節炎なのか、これくらいはもう少し分けられるといいですね。

 さて結局、この症例はどうなりましたか・?」
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経過

N「自分としては、産後でもあったので、甲状腺機能低下だと思いましたので、
  血液検査をしています。」

血液検査 特記事項無し、炎症所見無し、甲状腺機能低下無し
ANAはやACPAは結果まち


N「結局、甲状腺は問題ありませんでした。
 痛みはそれほど強くなさそうだったので、NSAIDS継続し経過観察としました。」


T「なるほど、じゃあ、これで出した血液検査で何も引っかからなかったらどうします?

 そして、ずっと痛みが取れなかったらどうしますか?」


N「そうなんですよね、それで困っています」


T「なるほど、そしたら原因不明の関節痛ってことになってしまうね。
  
 正解はリウマチ膠原病科に紹介することだよ。笑

 でもそれじゃ芸がないからね。


 CSA:Clinically Suspect Arthralgiaを知っておくと、いいかもね。

 つまり関節リウマチに進展するリスクのある関節痛っていう概念があるんだ。

 CSAの定義(EULAR)

























 Ann Rheum Dis 2017;76:491–496






T「まあ、結局、リウマチが顕在化してきたり、他の病気が出てこないか、
  慎重に経過みないといけないから、
  リウマチ膠原病科の先生にフォローをお願いするのが妥当だと思うよ。

  このCSAに落とし込んでいくか、
  それとも未分類の脊椎関節炎に落とし込むかになることが多いんだよね。」


N「なるほど、わかりました。ありがとうございました。」
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まとめ
・あちこち痛いと言われたら、まずはどこが痛いかを明確にする
→やっぱりABCが大事

・「膠原病」と一括りにしない
→ANA関連疾患ならどの所見を狙うか?脊椎関節炎だったら?血管炎だったら?
 というように膠原病のその先の分類を考え、その身体所見を狙ってとる

・原因不明の関節痛の場合、CSAという概念があることを知っておく
→もちろん、それ以外が何もないということが前提。病気がない、というのは非常に難しいので、そこはプロに任せてもいい

2020年7月18日土曜日

新型コロナウイルス 〜ホテル・イベント・施設での感染対策〜

去年の大晦日、皆様は何をしていたか覚えていますか?

12月30日、中国で原因不明の肺炎の集団発生が報告されました。

年が明けて、情報がどんどん更新されていきます。
2020年1月7日には新型のコロナウイルスが分離されました。

最初は人から人への感染は確認されておらず、対岸の火事のような印象で、
ニュースをみていた記憶がありますが、いつかは日本にもくるのかもしれない、
という一抹の不安を感じていました。

そして、1月16日に日本の初発例が確認されました。

その後、武漢のロックダウン、韓国での宗教団体の集団感染、日本のクルーズ船、WHOのパンデミック宣言、イタリアの惨状、アメリカの医療崩壊、日本での緊急事態宣言・・・

5月25日 緊急事態宣言が解除され、一時、コロナのことを忘れることができました。

誰もが、さあ、これからだ!新しい日常が待っている!!

という矢先の大雨による災害、そして東京での感染者増加が、今の状態です。

改めて、SARS-CoV2についての情報をup dateしなければならなくなってきました。

ホテル・イベント・施設などでの感染対策について、自分の考えをまとめてみました。
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現実問題、都会との往来があったとしても拒否することはできないと思います

そのため、ホテルや旅館、イベントを企画する会社のスタンスとして、
東京からのお客さんは最初から受け入れないのか、
感染対策しつつ受け入れるのかを決めておいたほうがよいと思います



もちろん、全員感染者かもしれないと思って、
対応するからといって差別や偏見はやめてください

東京といっても感染の流行状況は様々です

都会から来た人だからといって変に構えてしまうと、
相手の人は敏感に察知し、嫌な気持ちにさせてしまいます

人間ですので自然に湧いてくる感情は抑えるのは、
難しいかもしれませんが、

次に述べる感染対策ができていれば、感染力はあまり強くはないので
過度に恐れる必要はありません



















この資料は所属する機関や学会とは、一切関係なく、あくまで個人的な意見です。
現場への適応は自己責任でお願いいたします。
個別の質問や対応についてはお答えするのはできませんので、ご了承ください。


ホテルや宿泊施設、イベントの感染対策の原則についての解説動画を作りましたので、
ご参考下さい。
ホテル、イベントでの感染対策



2020年7月15日水曜日

勉強法 〜枝葉と幹〜

研修医の先生との会話

研修医「最近、勉強方法が分かんなくて困っています。」

T「そうなんだね、どうやって勉強しているの?」

研修医「病気について、レビューとか本を読んでいるんですけど、読んでいるだけで、
    それをなかなかアウトプットできなくて。」

T「読んでいるだけ偉いよ。笑
  
  何かにまとめているの?
  Ever noteとか、Good noteとか?」


研修医「そうなんです、今はどっちにもまとめています。
   ワードにも入れているので、正直こんがらがっています。

   実際にやってみて、どれが自分に合うかを試しています。」


T「なるほどね、いいんじゃない?
  
  確かに、勉強したことをまとめるのも臨床力の一つだよね。
  
  僕も両方やってみたけど、Good noteが自分にあっていたから、
  そうしているけど、Ever noteでもOne noteでも何でもいいと思うよ。

  パソコンで、ぽちぽち打ちながらまとめたい人は、
  Ever noteとか、ワードがいいかもね。
  
  僕はいつでもどこでも手書きで書ける利便性が高いから、Good note使ってる。
   
  急に上級医がレクチャーし始めたり、いいこと言うことあるでしょ?
  とっさにメモれるのがいい点だよね。

  上司のいいことを紙に書いて、後でまとめようと思っても絶対まとめないから。笑

  あと、読んだ本で大事だと思った場所や図とかは、写真に撮って取り込んでおくといいよ。

  そして、一度、調べた病気や症候群は一回おいておく。
  また次回その病気や症候群を持った患者さんに出会ったら、
  どんどんそれをup dateしていく感じだね。

  そうすると、自分だけの「up to date」ができていく。」

研修医「なるほど。わかりました。ありがとうございます。」


T「総合診療科医をしていると、まれな病気の人に出会うこともあるんだ。

  でもまれな病気って、結局、誰も専門家じゃないことが多いんだよね。
  
  じゃあ、遠く離れた大学病院までいってもらうのか?というと、
  それは現実的ではないことも多い。

  なので、誰も詳しくないのなら、自分がその病気について詳しくなればいい。
  少なくとも自分の病院の中では一番の専門家になる感じ。

  そして、カンファレンスとかでその病気について発表したりすると、
  じゃあ、あの病気については、あいつに相談しよう!っていう風になるんだ。
  
  そうすると症例が増えていって、本当にいつかその病気についてかなり詳しくなってくる。
  
  7年前くらいにACNESを一回レクチャーしたら、毎週のようにこの人はACNESですか?
  どこに注射するんですか?

  って相談受けまくったこととかもあったね。笑」


研修医「そうなんですね。
    先生、よく「俺、〇〇の専門家なんだよねぇ」っていいますもんね。笑」


T「そうね。笑

  でも研修医の先生にとって大事なことは、病気の専門家になることじゃないよ。


  知識やマネージメントで上級医に劣るのは、当たり前。
  そこは仕方ない。ひけめを感じることは全くない。

  脳梗塞で寝たきりになってしまった患者さんが、明日から歩けるようになるのは難しいのと一緒。
  

  じゃあ、研修医の先生は何の専門家になればいいか?

  というと・・・

  自分が担当している患者さんの専門家になって欲しいんだ。


  患者さんの情報については、上級医に負けちゃだめ。
  そこはプライド持って欲しい。

  例えば、この患者さんのワーファリン中止理由を自分が知らなくて、
  上司から教えられてしまうのであれば、それは反省した方がいい。


  患者さんには歴史がある。
  人生の歴史や病気の歴史、検査の歴史、薬の歴史、面談の歴史・・・

  物語といってもいい。

  患者さんが持っている病気の勉強をしても、患者さんのためになっていないのであれば意味がない。

  患者さんの物語の中で困っているのであれば、その物語の中に自分も入っていって、
  解決しないといけない。」


研修医「なるほど、自分も患者さんの物語の中の一部になるんですね。」


T「そう。それってとても貴重な経験なんだ。

  それは教科書読んでも、up to date読んでも絶対に得られない。


  どんなに綺麗なまとめノートを作っても、それは枝葉でしかないんだ。
  
  自分の医者人生の幹を作ってくれているのは、自分がこれまでに出会った患者さんの物語。

  だから綺麗な枝葉に夢中になる前に、しっかりとした折れない幹を作ってね。」


研修医「そうですね、わかりました。」


T「最初の問いの答えとしては、

  そもそも、

  勉強しよう!なんて思わなくていいよ。


  困っている患者さんが目の前にいたら、なんとかしたいと思うでしょ?
 患者さんの問題を解決するためには何が必要か?

  そこだけを考えて、問題を解決する努力を惜しまなければ、それが一番の勉強になる。


 困っている人が僕らの目の前にいる。
 どうにかして、その困っている状況から抜け出せないか?

 その問題を解決するために、僕らがいる。

 自分はこれまでの経験や知識を使って、
 Y君は患者さんのありとあらゆる情報を手に入れて、
 チームとして問題解決のために取り組んでいる。


 そこに上下関係はないんだ。
 一緒に困っている人の問題を解決するための横並びのチームメイト。

 ということで、明日からもよろしくね。」

You tube解説動画:https://youtu.be/lIulDtH61-s

  


2020年7月13日月曜日

昼カンファレンス 〜MVPは誰?〜

症例 80歳 男性 
主訴:右上下肢の脱力、頸部痛 (※症例は一部加筆・修正しています)

Profile:ADLフルで元気

HPI:来院、当日の朝にトイレ(排尿)のため起床
   排尿後にベッドに戻ったところ、
   急に首から肩にかけての痛みが生じた
   揉んだりしたが、改善はなかった
   1時間後に右上肢・下肢の脱力が出現してきた    
   トイレ(排便)に行こうとしたが、
   歩けなかったため、妻に支えられながらトイレへ
   トイレにこもっていたら、だんだんと症状は改善
   排便後は普通に歩くことができたが、
   症状が気になったため、来院

既往:なし
内服:なし
生活歴:喫煙 40年間吸っていたが、今は禁煙
    飲酒 お酒はよく飲む


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ディスカッション①:何を聞きますか?

T(司会)「はい、では何か質問してください」

TT「痛みの強さはどうでしたか?」

F(発表者)「痛みはこれまでにないくらい痛かったそうです」

TT「性状はどうでしたか?」

F「えーっと、やっぱりこれまでにないくらいの痛みで、性状はよくわかりません」


R「今は何か症状はありますか?」

F「今は右手が少し痺れる程度です。首の痛みもほとんどありません」


R「顔の麻痺とかはどうですか」

F「特にありません」


T(司会)「いいねえ、もう少しその質問を掘り下げようか
      それは何を意識した質問なの?」


R「えっと、頸椎の硬膜外血腫を考えていました。
  じゃあ・・・
  膀胱直腸障害のような排尿や排便に関しては、いつも通りですか?」


F「はい、普通に排尿も排便もできています」

T「うーん、それもそうなんだけど・・・

  みんなこの症例は脳梗塞か、TIAだと思っているでしょ?

  脳梗塞には○回騙されるって聞いたことある?」

TT「3回ですか!?」

T「おーよく知ってるね。」


TT「勘です!」


T「当たっています。笑

  脳梗塞は3回騙されるポイントがあります。

 ①まず、症状に騙されます
 ②次にMRIのDWIに騙されます
 ③最後にMRIのDWIとADCに騙されます



参考:脳梗塞には3回騙される


  ①症状に騙されるのは今の状況ですね。
  例えばこの状況で脳梗塞の対抗馬になるとしたら、どんな疾患ですか?」


TR「頸椎の硬膜外血腫です」


T「そうだね、それが一番の対抗馬だね!
  
  例えば右上下肢麻痺があって、MRIでDWIで光らなかったら、
  まだtPA時間内だとすると、tPA投与したくなりますよね

  硬膜外血腫にtPA投与したら大変なことになりますので、本当に注意が必要です。

  首が痛い人が何かしらの神経症状を出していたら、
 まず頸椎硬膜外血腫を疑ってください。

  さらに問診で詰めるとすると、首より上の症状をひたすら探しましょう


  特にこの症例は一時的に症状が改善してしまっているので、
  今、診察しても何も出てこないかもしれません。

  病歴で首より上の神経学的な異常がなかったかを探る必要があります。

  例えば、妻と話しているときに、妻に呂律が回っていないと言われなかったか、
  洗面で顔を洗ったときに、顔が歪んでいなかったか、
  うがいをしたときに、右側から水がこぼれなかったか

  という風に生活動作に交えて質問するのが、
 神経学的な異常所見を探す時の問診のこつです

  では頸椎硬膜外血腫以外の鑑別は何かありますか?」


H「RCVSですか?」

T「そうですね、排尿後の頭痛といえば、RCVSですね。
  RCVSはSAHと同じくらいの痛みです

  人生最大と言われたら、SAHかRCVSをまずは考えます。
  RCVSは後方循環系の血管が攣縮することが多いので、
  後頭部や頸部痛も矛盾しません。

  RCVSを詰める問診をするのであれば、後方循環系の症状を確認します。
  つまり、視野の異常がないかを聞きたいところですね。

  でも視野の異常は自分でも気づかないことが多いので、聞き方にも工夫が必要です

  トイレから歩いて戻ったときに、ドアに体をぶつけなかったかどうかとか、
  新聞を読んでいて、一部が見えにくかったとか。

  これも生活動作に合わせて聞くのがいいですね。

  では最後にこの状況で、
  普通の脳梗塞ではないmimicになるのは、なんでしょうか?」


U「解離ですか?」

T「そうですね、椎骨脳底動脈解離です。
  頸部痛と神経異常と聞いたら、まずは椎骨動脈解離を思い浮かべますよね」




外科Dr「普通、解離が一番じゃない?
    鑑別の順番逆じゃない? 笑」


T「そうですね、笑。みんな優秀です。

  椎骨動脈解離を疑ったら、他に聞きたいことはありますか?」


U「マッサージとか行ってますか?」

F「行ってませんでした」


T「いいですね!
  マッサージって椎骨動脈解離の誘引になりますから聞きましょう。

  ところで、、、
  
  いつからか分かりませんけど、美容室で肩のマッサージしてくれるところ、
  多くなりましたよね。

  店員さんによってはかなり圧強めでやられるので、痛い時ありますよね。
  肩や首のマッサージされる度に、椎骨脳底動脈解離になったらどうしよう・・・

  と思って、ドキドキしています。
  
  僕はNoと言えないので、断れないのですが、みなさんいかがですか?」


聴衆「(失笑)」

T「いやいや、美容室は甘くみちゃダメですよ。

  美容室症候群って知っていますか?

  髪の毛洗うときに、頸部を後屈させますよね?

  あの姿勢で解離を起こしたり、椎骨動脈の血流不全になったりして、
  意識を失う人もいるんですよ。

  まあ、今回の人は美容室行ってなさそうではありますが。。。

  あとは解離の誘引には何がありますか?」


TT「スポーツですか、トランポリンとか。」


T「そうですね! トランポリンと言えば・・・(脱線なので割愛)

  他に何かスポーツで危ないものはありますか?」


TT「アメフトとか、柔道とか」

T「そりゃそうですけど(笑)それ、ガチの外傷だから。
  咳とかくしゃみとか、軽微な外傷といえないレベルでなってしまうのが、椎骨脳底動脈解離です。」


外科Dr「ヨガとかも」

T「いいですね、覚え方は筋肉がぎゅーっと動くような姿勢になるものが多いですね。

  今回は何か誘引ありましたか?」

F「いえ、特に誘引はありませんでした。
  でもあまりしっかり数日前に遡っては聞けていませんでした。

  えーっと、強いていえば、雨戸を閉めたらしいです」

T「うん、椎骨脳底動脈の解離の原因に、「雨戸を閉めた」って書いてあっても、
  それ、たまたまやろ!ってなりますね。

  誘引を聞くコツとしては、家の外に出る機会や趣味を聞くことです。
  
 趣味のヨガやマッサージに実は行ったとか。
 
 椎骨脳底動脈解離の場合は、何かしら誘引や原因があることが多いので、
 ここはしっかり聞きましょう」




 
 


 では症例に戻ります」
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身体所見

バイタル T 37.0, BP 168/104, P 93, RR 20. SPO2 不明  意識 清明

一般診察 頸動脈雑音なし、心雑音なし、不整なし

神経診察 脳神経問題なし 右手に少し痺れある程度 麻痺なし
歩行 安定
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ディスカッション②:脳梗塞を疑った時の診察の型は?


T「みなさん、この症例は脳梗塞かTIAだと思っているでしょう?

  その場合、脳梗塞を疑ったらどんな診察をしますか?

  型はありますか?」

F「ありません、この症例もただなんとなく、診察してしまいました」

T「では型をプレゼントしましょう。」


脳梗塞を疑った時の診察のポイント

①原因となっている部位はどこか?(神経診察)
(1)首か脳か
(2)脳ならば、前方循環か、後方循環か
(3)ラクナか、皮質を巻き込んでいるか


(1)首か脳か


一番大事なのは、首かもしれないと想起することです

首より上の症状があれば、首が原因である可能性は低くなります

そのため、顔面表情筋や眼球運動、呂律不良、嚥下不良などなど、
顔面の神経に異常がなかったのかをしつこく探すことが大事です

顔に症状がなく、首より下の症状しかなかった場合、
危険信号です

首が原因の可能性があります

その場合は、必ず頸椎の評価を行ってください


(2)脳ならば、前方循環系か、後方循環系か

前方を探すというのは、難しいので、後方循環系で出る症状を探します

例えば、目の所見です
複視や眼振、視野異常、ホルネル兆候があれば、かなり後方循環系の梗塞が疑わしいです


注意しなければならないのは、小脳失調です

小脳の異常は実は、前方循環系でも場所によっては出るので、
小脳失調があるからといって後方循環系とは限りません







(3)ラクナか皮質を巻き込んだ梗塞か

ラクナの場合、古典的な病型が5つありますね
pure motor、pure sensory、ataxic hemiparesis、dysarthria-clumsy hand syndrome、sensorimotorですね




ラクナの病型であれば、どこが原因かはだいたいわかります

皮質症状というのは、いわゆる高次脳機能です

失〇:失認、失行、失語、失算、失書

とか半側空間無視とかをとります


これらをとるのが、神経診察です


ただ何も考えずに頭から順番にとっていくのではなく、
何のために自分は神経診察をしているのかを意識しながらとると、脳梗塞の部位診断ができるようになります


次に考えることは脳梗塞の原因です

アテローム性?塞栓性?奇異性塞栓?コレステロール塞栓?IE?

これらの原因を診断するために、一般のフィジカルがあります

②脳梗塞の成因は何か?(一般身体初見)

頸動脈雑音、心雑音、橈骨動脈の左右左、鎖骨下動脈の雑音、
下腿浮腫、リベド、眼瞼結膜や手掌の塞栓兆候、足の指のblue toe


これらの所見を取りに行くことで、脳梗塞の成因がわかることがあります

全ての脳梗塞症例でこれらを愚直に取らない限り、実際に出会っても気がつきません
脳梗塞の人に出会ったら、ルーチンでとるようにしましょう

あとで上級医にドヤ顔でblue toeや頸動脈雑音を見つけられるのは、かなり悔しいものです」



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症例に戻って

結局、神経診察の結果は右手の痺れしか所見としてはなかった

そしてこの後、精査目的に頭部MRIが撮影された

T「MRIでDWIで高信号だとしたら、どこだと思う?」

N「頸部痛もあったようなので、後方循環系ですかね。
  解離も気になります」

T「そうだね、でも解離だったら、麻痺はくるかな?

 普通はワレンベルグできそうだから、麻痺まではあまり来ない気もするよね」

N「確かに。。。」


T「じゃあ、MRIで何もなかったらどうする?
  
  症状よくなってるから、TIAとしてバイアスピリンいれる?
  もしくは頸部が気になるから頸椎のMRIとる?」


N「やっぱり抗血小板薬をいれる前に頸椎の病変は否定しておきたいので、
  頸椎のMRIをとります」

T「OK。

  実際どうされました?」

F「はい、実際は頭部MRIにてDWIで高信号はありませんでした
  
  MRAやBPASでは椎骨動脈に解離を疑わせるようなやや怪しい所見があったので、
  経過観察目的に入院となりました」

T「そうかあ、やっぱり脳梗塞じゃなかったかあ。
  
  じゃあ、首とるしかないね」


F「はい、結局、その日は頭部のMRIだけとって、様子をみました
  症状も右手の痺れくらいだったので。

  ですが、夜間に放射線の先生から電話がかかってきました。

  頸椎に硬膜外血腫があるよって。」


T「えーー???

 頸椎のMRIとっていないんだよね?

 じゃあ、放射線の先生は頭部のMRIで頸椎の硬膜外血腫見つけたの?

 凄すぎない?笑」

F「はい、凄すぎます。

  BPASを再構成してみると、一番下のところに硬膜外血腫が少しだけ見えているんです。

  その後、頸椎のMRIをとってしっかり硬膜外血腫がありました。

  ですが、圧迫は軽度で症状もほとんど改善していたので、
  保存的に加療して退院となりました。」


T「まじか・・・
  
  やっぱり撮った画像はとことん、全部見ないといけないね。

  いやあ、すごい症例ですね。
  
  放射線の先生もすごいけど、頸椎の硬膜外血腫を一番最初の鑑別にあげていた
  TR先生もすごいね。笑」

F「はい、びっくりしました。」


脳外科Dr「できれば、MRI室までついていって、頭部のMRIでDWIで高信号がなかったときに、頸部を追加で撮ってもらうのがいい方法だね。

頭部と頸部って一緒に撮れてしまうから、その場にDrがつきそうといいよ。

また出たり入ったりするのは、患者さんにとっても医療者にとってもストレスでしょ?」


T「確かにそうですね。貴重な症例をありがとうございました。勉強になりました。」


まとめ
・首より上に異常がない手足の麻痺や痺れは脳梗塞を考える前に首の病変を疑う

・脳梗塞を疑った時の診察の型をマスターしよう
→漠然と神経診察するのではなく、自分が何のために診察しているのかを意識する

・頭部のMRIでも頸部の一部は見えている
→頸椎硬膜外血腫を少しでも疑ったら、自分もMRI室についていく

参考:椎骨動脈血流不全


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