2017年9月6日水曜日

鼠径部痛

あまり馴染みのない痛みシリーズ第二弾

臀部痛の次は鼠径部痛です

鼠径部の解剖に思いをはせる事は、医者よりも学生の方が多いかもしれません

ですが、局所解剖は鑑別を考える上で非常に重要です


解剖を詳細に図示出来るかどうか白紙に書いてみると、

自分がいかに解剖を知らないかを痛感します

そして、解剖を勉強したら、見て終わりにするのではなく、

一度自分で描いてみる事をお勧めします


鼠径部の解剖は複雑です

腹腔内疾患や整形疾患、リンパ節の問題など実はたくさん組織が密集しているので、

鑑別も広く、実際にどう考えていけばよいかよくわかりません


考え方しては、痛みのポイントを正確に把握する事から開始します

痛みが鼠径靭帯より上なのか、下なのかで考える事が変わってきます

上であれば、腹腔内臓器や後腹膜臓器を考えたくなります

下であれば、大腿骨頭や股関節疾患を考えたくなります


次に腫瘤や腫脹があるかどうかも大事です

腫瘤があれば、リンパ節をまずは疑いたくなりますが、

ヘルニアで飛び出してきた内容物かもしれません

膿瘍の可能性もありますし、

時には血管炎に合併した動脈瘤かもしれません

なので、腫瘤があろうが、無かろうが


鼠径部痛の人は全例で超音波検査したほうがよいと思います

骨折もわかりますし、関節液の液体貯留もわかります

ヘルニアもわかりますし、アッペもわかります



考える病気としては、表面の構造物から深部にかけて、

順番に疾患を考えていきます



見逃してはならないのは、大動脈解離や大動脈瘤、ヘルニア嵌頓、精巣捻転、

化膿性股関節炎や大腿骨頭壊死です


内科的な頭と、整形外科的な頭と、膠原病科的な頭を

あわせ持たないと上手く診断にたどり着きません


コツは筋骨格系かそれ以外、

そして放散痛の三つに分けて考えるとよいかもしません

筋骨格系ならば、股関節の動きで悪化する事が多いので、

その中でも股関節炎があるかどうかを見極めます



小児の場合は股関節炎の鑑別に単純性というものが出てくるので、

成人とは考え方が異なります


重要なのは化膿性との鑑別なので、股関節炎だと疑ったら、

整形Drに刺してもらわないと話しが進みません




成人は滑液包炎が鼠径部痛の原因になる事があるので、

年齢も重要な情報です

特に腸腰筋滑液包炎は破裂すると、筋肉に沿って、

液体が広がるため、一見、腸腰筋膿瘍に見えることもあります




広がる場所や方向によって、

色々なプレゼンテーションで来るので、

やっぱり解剖を知っておく事は重要ですね

2017年9月4日月曜日

慢性咳嗽

咳って辛いですよね

いずれ止まるだろうと思いつつも、一向に止まらないし、

だんだん、胸骨の剣状突起や脇腹周囲が痛くなったりしてきます

何より咳はエネルギーを使うので、咳ダイエットを考えちゃう人もいるくらいです


原因として、多いのは感冒後咳嗽ですが、

この中に相当数、急性副鼻腔炎によるpostnasal dripが隠れており、

under diagnosisされていると思われます

副鼻腔炎は結構辛いです


痛いのがメインというより、何だかぼーっとして頭が働きません

そして、咳をするとさらに悪化して、頭に響いてきます


初期の急性副鼻腔炎はウイルス性が多く、

二峰性の経過で悪化してきた時は細菌性を疑います

しかし、細菌性であっても自然軽快することもあり、

さらにはアレルギー性や血管炎による事もあり、

抗生剤の適応は見極めが必要になります


一応、重症を見極めるスコアリングがあり、中等症から重症なら抗生剤いってよし

という事にはなっています


ただ、湿性咳嗽は小児ならスコアの一角を成していますが、

成人だと入っていないので、どうなのかなあと思います

個人的には咳が酷い急性副鼻腔炎の人には、試してみても良いかなと思っています

ただし、急性副鼻腔炎の定義が4週間なので、

正確には慢性咳嗽の範疇には入らないので、

感冒後咳嗽と診断しそうになったら考える

という思考でよいかと思います


本当に慢性咳嗽になってしまうような、post nasal dripは

副鼻腔気管支症候群の可能性があます

こちらは少量マクロライドが効きますが、

CAMがキードラックであるNTMの除外が必要です



慢性咳嗽の時の考え方は、

重篤な疾患を見逃さないようにする事と喘息を見逃さない事です

重篤な疾患には命に関わる問題、つまり肺がんや結核、間質性肺炎が挙げられます

そして感染性という観点も必要で、

やはりここでも結核が出てきます

特に喉頭や気管支に主座がある結核は感染力が高く、

喘息として治療されてしまうケースが多いので、

常に結核は疑います

疑い続けて、痰の培養を出し続けます


喉頭や気管支結核は幸い排菌量が多いので、

痰の検査で捕まる事が多いです


しかし肺結核は痰が出ない人がいたり、

培養が陰性になる事もあり、

なかなか潔白が証明されないのが肺結核の特徴です


どんな検査をしても結核ではないと言い切れないのが辛い所で、

陰性証明は陽性証明よりも難しいのです


結核っぽくはないとまでは言えるので、


除外しきれない時は、他の診断を詰める事で、

結核らしさを下げる作戦にでます



しかし、慢性咳嗽はどうしても特異的な検査があまりない分野なので、

病歴に頼らざるを得ません


使っている布団の種類とか、

築何年の家に住んでいるとか、

本人でさえ、知らないかもしれない事まで聴取します

そしてある程度あたりをつけて、診断的治療を試していく

という流れになる事が多いです



咳が長引くほど、感染の可能性は下がります

よくあるのは、喘息とGERDです

GERDは慢性咳嗽が続くと、腹圧が高まり、

途中から合併する事もあります

なので、慢性咳嗽の原因は一つとは限りません

両方治療しないと良くならない事もあります


喘息は良くある疾患であり、治療も出来るので、

見落とさないようにしましょう


病歴のポイントは日内変動や季節での変動、

他のアレルギー素因があるかどうかなどです


百日咳もたまにあります

特徴的な病歴は、吐くほどの咳とスタッカートレプリーゼです


特徴的な吸い込み音をモノマネでやってあげて、

それですそれ!

となれば、グッと疑いが強まります

なるべく早めに治療してあげると、

流行ももししたら食い止める事ができるかもしれないので、

早期診断早期治療が理想ですが、

それが非常に難しい疾患の一つです


2017年9月1日金曜日

GPRは落とし穴

グラム染色でGPCとGNRが大事とはよく言われます

そのため、GPRが落とし穴です


では血培やグラム染色でGPRをみたら、何を考えるべきでしょうか

GPRは環境菌の要素が強く、汚染菌、コンタミネーションになる事が多いです


しかし免疫不全者では、感染症の原因と成り得ます

それぞれ癖があり、1st choiceの抗生剤が異なるので、

本気で感染症の原因だと疑えば、しっかり調べて抗生剤を選択しましょう


例えば、たまにあるコリネバクテリウムのjeikeium感染には

バンコマイシンが1st choiceです

ノカルジアにはバクタですし、

リステリアにはアンピシリン

バシラスにはバンコマイシン

などです


バシラスはアミノ酸含有のビーフリードなどでPPNをしている患者で、

時折、カテーテル関連感染を起こします


そのため、何も考えずにビーフリードでPPNは考えものです

バシラス菌血症を起こすリスクだと知って、使うようにしましょう



GPRの基本は、芽胞と毒素を作り出すという特徴を持っている菌が多いことです


毒素病態を起こすため、抗毒素が治療の選択肢に成り得ます


例えば、ボツリヌスの抗毒素血清です


毒素病態を起こすのは、

破傷風やボツリヌス、ジフテリアです


これらは、発症すると治療が難しく、致死率も高いため、

破傷風菌やジフテリアにはワクチンがあります



そして、GPRが血培から生えて、最悪のケースがあります

入院から死亡までが、平均9時間とも言われている非常に急激な経過をたどる疾患です


それは、担ガン患者や術後の患者、糖尿病などが背景にある人の

胆管炎や肝膿瘍で、高度な溶血性貧血を伴っている症例です

消化管由来の敗血症っぽいけど、何故か高度な溶血性貧血がある症例で疑います


そういった症例で、次にやることは、

末梢血、特にbuffy coatのグラム染色です


そこで見えるのは、四角い積み木のような形をしたGPRです


この菌はClostridium.perfringensです

この菌の中でも、特にA型の場合、α毒素を多く出し、溶血を起こします


ドレナージや抗生剤治療を行いますが、予後が非常に悪いので、

この菌が見えた時は、

家族には数時間で亡くなる可能性を伝えることの方が現実的な対応です



運動後のトラブル

運動後で調子が悪くなる病気は色々あります

筋肉の要素や心臓関係などを考えますが、それをまとめてみました



好酸球性筋膜炎は強皮症のように、テカテカパンパンに成り得ます

きっかけは運動が多いと言われています


小児期からちょっとした運動で横紋筋融解を起こしたり、

感冒で横紋筋融解を起こしたことがある人は、

脂肪酸の代謝異常の可能性があります

小児期に見つかることが多いですが、

まれに成人発症例があるので、どの年齢でも考えた方がよいと思います


EAHは

マラソンランナーが、水とりすぎて、

意識障害や痙攣を起こしてしまい、

調べてみると低ナトリウムだった

という流れで見つかることがあります


ALPEは

短距離走の後に、尿路結石のようなプレゼンテーションできて、

血液検査すると、腎機能が悪化しているというのが典型です




運動後に真っ赤が出る人がいます

多くは一過性の血尿のことが多いですが、

まれに行軍ヘモグロビン尿症の人がいます


日本での報告は多くが、剣道です

メーン!!

と踏み込むが他のスポーツと比べ強く、

さらには裸足というのが、

この病気にならざるを得ないというようなスポーツです



このように運動後は色々起こります


運動の病歴を狙って取らないと原因不明になってしまうので、

やっぱり病歴が大事だなと思いました

低ナトリウム補正

低ナトリウム血症の治療はある程度決まっています


治療で大事なのは

急いで治療した方がよいかと、

1日であげるリミットはどこまでか

ということです


症候性の場合は早く、治療しないといけません

慢性の場合は、1日6くらいの上昇が安全と言われています


なので、目の前の低ナトリウム血症が症候性なのか、

慢性なのか急性なのかをまずは見極めます


そして、尿中のNaとKの足した値と血清のNaの値を比べて、

今後低ナトリウムが進行するかどうかを見極めます

そして治療を3パーセント食塩水でやるか、

どれくらいのスピードで始めるかを考えます



しかし、もう一つ治療する前に考えないといけないことがあります


それは、補正が急激になってしまうのではないかと

懸念することです


例えば、精神疾患患者で、多飲症があり、

たくさん精神科の薬を飲んでいる人が

食欲低下できて、ナトリウムが110だった

入院したが、そわそわして、帰る帰ると言っている


フォローでとったナトリウムは6時間後で、すでに120まで上がっている

本当はブドウ糖の点滴をして、ナトリウムを戻したいが本人は帰ると言っている


みたいな人です


誰も急速補正したいと思っているわけではありませんが、

このように意図していないが、急速補正になってしまう人々います

そのような人々をどうフォローするかがポイントです




また、補正され過ぎてしまった後、どうするかも決めておかなければなりません


よく使われるのは、デスモプレッシンです


しかし、努力もむなしく、先ほどの症例のように急速補正されてしまったら、

次に考えるのは、ODSと横紋筋融解症に備えることです


橋の中心が融解、脱髄を起こしてしまうため、

補正速度を守れ

と言われますが、ODSについて知っておく必要もあります


ODSは補正後すぐには起こりません

数日後にくるものです

まれではありますが、医原性に近いので注意しましょう

ほとんど治りませんが、たまに回復する症例もあるようです




ナトリウムを急速補正すると、

脳だけでなく、筋肉もとけます


こちらは最近、よく言われるようになってきました


横紋筋融解に対して、Wash outもしないといけないので、

生食入れたいけど、

ナトリウムにも気を使わなければならない


という難しい状況になることがあります


特に運動後の低ナトリウムの場合、

最初からck上がっている症例が多く、

さらにそういう症例は急速補正になりやすいので、注意しましょう

ARDSの現在地

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