2021年11月21日日曜日

中毒診療 実況中継 〜原因薬物はABCの後で(診断編)〜

薬を出す側が最も気にしなければならないのが、

自分の薬が自殺に利用されることです


過量内服の人がやってきた時の考え方を症例を通じて、復習してみましょう

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夜の当直(※症例は修正・加筆を加えてあります)


救急にwalk inで若い女性がやってきました

待合室で倒れ込むような形になり、看護師さんがストレッチャーで救急室へ


T「どうされたんですか?主訴はなんですか?」


Ns「何か薬をたくさん飲んだみたいです!」


研「えーーー、どうしよう・・・。オーバードーズですか!?

  えーっと、何の薬飲んだんだろう・・・」


Pt「ううう・・・(眠そうにしている)」


研「だめだーしっかり病歴がとれない・・・」


T「過量内服の時は何を飲んだかも大事だけど、もっと大事なことがあるよ。

 それはバイタルを安定化させることだね。

 飲んだ薬はバイタルのABCの後です

 

 まずはバイタル測定してください!」


Ns「バイタルはBP140/90、P130、SpO2 97%、RR20です。

  意識は傾眠状態で話しかければ、会話できます。」

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研「脈が早いですね・・・
  モニター上は洞性頻脈ですが・・・
  
  やっぱりいきなり病院にきて、緊張しているのでしょうか?
  どうしたらいいですか?」


T「脈が早いのは、交感神経賦活されているのかもしれないね。

  だけど、まだ何をのんだかわからない状態だから、
  一番いやなのは三環系抗うつ薬(TCA)だね。
  
  TCAの場合、QRSがwideになってきて、致死性の不整脈が起こることがある。
  メイロン投与が治療になるんだ。
  だからまず、心電図をとるのが大事だね。」




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Ns「心電図取りました。ただの洞性頻脈みたいです。QRSはwideではありませんね。」


研「ST-T変化もありません。」


T「そうだね。じゃあ、ABCはひとまずOKとして、採血、輸液をしておこう。


 あとは何の薬を飲んだか探ることにしよう。

 さて、どうやって探る?」


研「付き添いの男性が待合室にいました。

  その人から病歴とってきますね。」


T「そうだね。じゃあ、お願いします。

  こちらはトキシドロームの観点で身体診察してみるね。」


研「トキシドローム?目とか見るやつですね。」


T「そうそう、その目でみないとスルーしちゃうからね。」


研「トキシドローム以外で何の薬飲んだかわかるヒントとかってあるんですか?」


T「色々あるよ。

 有名なのは尿のトライエージだけど、

 トライエージは偽陽性が色々あるからちゃんと特性を理解して使った方がいいね。

 あとで解釈に困ることが多いから、とりあえずトライエージは賛成できない。

 

 他には3つgapがある。ガスを取り忘れないことが大事です。」



 







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T「瞳孔は3/3、対光+/+か。

 皮膚は発汗は見られないな。どちらかというと乾燥している。
 口腔粘膜も乾燥している。

 震えはみられない。腸蠕動音は減弱している。

 トキシドロームだと、皮膚・口腔粘膜は乾燥していて、

 頻脈があるから副交感神経遮断かな?交感神経賦活もかぶっているかも。


  
 匂いは若干、アルコール臭がする。

 意識はまだ保たれている。頑張れば会話もできそうだな・・・」


研「先生ー聞いてきました。
  飲んだ薬を持ってきてくれていました。」


デパス:80T
メイラックス:80T
市販の風邪薬:2瓶


研「風邪薬たくさん飲んだみたいですね。風邪でも引いてたんですかね?」


T「いやいやいや、そんなわけないでしょ。

 おそらく、この人は慢性的にブロン®︎を飲んでるみたいだね。

 ブロン®︎は市販薬で最も乱用されやすい薬です。

 慢性依存状態になっているんだろうね・・・」



松本俊彦,他.全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査.2019.




T「それより、「市販の風邪薬」で止まってはいけない。

 市販の風邪薬といっても色々あるし、基本的には合剤のことが多い。
 
 合剤やたくさんの薬を飲んだ場合、トキシドロームを使う時にスッキリいかないこともあります。

 BZやコデインで縮瞳するけど、エフェドリンや抗コリンで散瞳する。
 結果的に瞳孔は普通の大きさっていうことがよくある。


 今回はブロン®︎という市販の鎮咳薬ですね。
 
 市販の痛み止めの中では、 ブロムワレリル尿素が入っているような
 ウット®  , ナロンエース® , 奥田脳神経薬®に注意が必要です。
 
 昔の文豪が自殺した時に使った薬で有名ですね。

  
 ブロムワレリル尿素は急性中毒だけでなく、
 日頃から痛み止めで使用している場合は、
 慢性中毒になって変な神経異常が出ることもあるよ。

 血液検査で高クロール血症があれば、ヒントになるね。」

総合診療 29巻2号 (2019年2月) 
特集 意外な中毒、思わぬ依存、知っておきたい副作用—一般外来で!OTCも処方薬も! 


Ns「今回飲んだ市販の風邪薬の内容は、



  でした。」


研「たくさん入ってますね・・・」


T「そうだね。ブロン®︎という名前でドキッとしたけど、

 ブロムワレリル尿素は入っていないようだね。

 

 でもカフェインやエフェドリンが入っているね。 

 それぞれの成分で致死量でないかを確認しないといけないね。」


研「それぞれ、調べましたが、致死量には至っていないみたいです。」



日臨救急医会誌(JJSEM)2020;23:702-6


研「今回はどれも致死量には至っていませんが、頻脈がありますね。

  これはやっぱりエフェドリンやカフェインのせいですか?」


T「そうだね。致死量でなくても致死的な不整脈を起こすこともあるので注意が必要です。


 もう一つ、過量内服で気をつけなければならないのは、

 飲んだ薬や物質が他にもあるかもしれないということです。

 

 今のところ、ベンゾジアゼピンとブロム®︎だけですが、

 他にも実は・・・というのが後でわかることもあります。


 頭の片隅におきながら、経過を見ましょう。」


研「過量内服の人を見たことないのですが、胃洗浄とか活性炭は使うんですか?」


T「そうだね、次は治療をどうするか考えよう。」


〜後半へ〜


まとめ

・過量内服をした人を見たら、原因薬物はABCの後で

→まずばバイタルの安定化を目指す


・原因薬物は病歴と診察と検査の3つで推理する

→トキシドロームはその眼で見ないとスルーしてしまう


・過量内服のピットフォールは判明した薬が全てでは限らないこと

→睡眠薬とお酒を飲みながら、練炭自殺しようとしていた とか



2021年11月12日金曜日

薬を処方するものの心構え

臨床を行う内科医は薬を使って患者さんを治すことが多いです
当たり前ですが、医師は薬については相当に詳しくなければいけません

ただし、薬理学的な作用機序を知っておくとか、
半減期とか、代謝は〇〇とか、そういう各論的なものではありません

それは調べればいいことです


薬を扱うものとして大事な心構えは、
いつも薬が原因で患者さんを困らせている可能性があるかもしれないと思うことです















































































今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

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