2019年10月29日火曜日

昼カンファ ~入院は遠足と同じ~

この症例のkey point

①高齢者が具合が悪くなった時にまず疑うことは?

②各症例で絶対にやらなければならない身体所見というものがある、今回は何か?

③診断して、治療するだけで終わりでよいのでしょうか?

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症例 90歳女性 主訴:左季肋部痛

Profile:ADLほぼ自立、要介護1、巨大門脈瘤あり
    門脈-肝静脈シャント塞栓後(昨年)、腎盂腎炎の既往多数

HPI:当院内科外来かかりつけ
   前日のデイにいったときに、ふらふらしており、元気がなかった
   38度の高熱あり、腹痛の訴えもあった
  
   当日、発熱と腹痛を主訴に内科外来受診
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発表者D「という患者さんです」

司会T「はい、ありがとうございます。この患者さんは自分で話せますか?」

D「話せますが、年齢相応の感じで細かい表現は難しいです。
  お腹の痛みに関しても、左の季肋部をさすって、この辺が痛いというくらいでした
  性状や強さに関してはうまく訴えることはできません」


司会「はい、では何か聞きたいことがある人はいますか?」

研修医E「食事はとれていますか」


D「はい、とれています」

研修医E「吐き気とか、下痢といった消化器症状はどうですか?」

D「吐き気や嘔吐はありません、下痢もないです」

上級医ST「悪寒戦慄はありましたか?」

D「ありませんでした」

研修医「背部痛はありましたか?」

D「ありませんでした」

研修医E「黒色便はありましたか?」

D「来院前日に一度、おむつに黒っぽい便が付いていたそうです」」

研修医「血液さらさらの薬は飲んでいましたか?」

D「飲んでいません」





司会「はい、みなさんありがとうございます。では既往と薬も教えてください」


D「既往にDVTがあります。それに対してエリキュース内服していた時期もありましたが、下血があり、貧血が進んでしまった経緯もあり、今は中止となっています。」


既往:門脈瘤、門脈-肝静脈シャント塞栓後(昨年他院で施行)、腎盂腎炎の既往多数
骨粗鬆症、VB12欠乏症、腰部脊柱管狭窄症、便秘、不眠

内服:フォサマック、マイスリー、リリカ、メチコバール、エディロール、ピアーレ、酸化Mg、センノシド






D「こんな感じです」

司会「はい、ありがとうございます。ではこの時点でどんな印象や鑑別が頭の中にあがりますか?」


研修医「心膜炎や肺塞栓とか、あとは左季肋部なので脾梗塞とかですかね」


上級医ST「すごいね、センスあるね。」

司会「すごいですね。腹痛っていってるのに、腹部以外の臓器から考える。
       これは鉄則ですね。素晴らしいです。」


研修医「あとは憩室炎とかですかね」

上級医ST「急に普通のになったね(笑)」

司会「はい、ありがとうございます。他はいかがですか?」


研修医E「急性膵炎や腎梗塞、あとは帯状疱疹とかも鑑別ですかね」


司会「センスあるね。いいね。でももっとコモンな疾患は?」

研修医E「腎盂腎炎ですか?」

司会「そうだね、腎盂腎炎の既往が何度もあって、高熱がでているのであれば、
   真っ先に疑いたくなるよね。他はどうですか?」

専攻医K「黒色便のことも含めて考えると、虚血性腸炎、上部消化管出血、さらに穿孔とかもあるかもしれません」


司会「そうだね、黒色便があるらしいからね。そこをどう考えるかだね。
  はい、ありがとうございます、では診察に・・・」


上級医ST「ちょっといい?発熱や黒色便はあわないけど
     一度は高カルシウム血症を疑わないといけなんじゃないかな?
     エディロール飲んでるでしょ。」


司会「そうですね、高カルシウム血症も腹痛を来しますからね、
   鑑別にあげないとカルシウム測定しませんからね。とても大事な鑑別です。
   他に薬関係で症状と関連できそうなものはありますか?」


上級医ST「あとはフォサマックかな
     高齢者で朝いちばんにたくさんの水とビスフォス飲めないよね
     とどまって潰瘍を起こして出血ということも鑑別にはなる。」


司会「はい、ありがとうございます。その通りですね。
   高齢者が具合が悪くなった時は、とりあえず薬が原因でないかを考えます。

   思考の癖として、
 病気の鑑別をあげる前に、
 この症状を説明できるような薬の副作用はないか?

   ということを常に考えるようにしています。こじつけでもいいんです。

   病気の鑑別を考えるのも大事ですが、
   薬の副作用でないかを考えることは同じくらい大事です。」





司会「はい、では前半の小まとめですね。

   薬でこの症状・主訴を起こすとしたら、
   何があるか?を常に考える癖をつけましょう

   では後半戦にいきます。バイタル教えてください」


D「血圧157/73、脈75、体温 37.2、SPO2 94%、RR 不明、意識清明です
  見た目はややふらふらしていました」

司会「では診察した所見もお願いします。」

D「外来時の診察の所見では、
  眼瞼結膜蒼白なし、黄染なし、腹部は平坦 軟でした
  左腎に把握痛あり、左CVA叩打痛あり、
  マックバーネー陰性、マーフィー陰性でした
  腸蠕動音は記載がありませんでした」


司会「はい、ありがとうございます。この診察で、何か鑑別変わりましたか?」

研修医「いやあ、難しいです」


司会「そうですね、これだけだとよくわかりませんね。他にしたい診察はありますか?」


上級医ST「直腸診は?」

D「施行されていません」


上級医ST「!!!!!

     この状況で直腸診がされていないのは、バイタルとってないのと同じだよ!

     直腸診しないと、何も進まない!
     黒色便があったら考えることが、がらっとかわるんだ!!」


司会「そうですね、黒色便が病歴で分かっていたとしたら、やるべきですね。

   まあ、擁護するわけではありませんが、
   忙しい外来であったり、患者さんの体位変換が難しかったりして、
   省略されてしまったのかもしれませんね・・・」


上級医ST「いやいや、僕は別に非難はしているわけではない。
    このカンファレンスで僕たちはこの症例から学ばないといけないんだ。
    
    ここで直腸診が省略されているのを許容したら、次も省略するでしょ。
    次に同じ症例にであったら、絶対に直腸診はしないといけないんだ。
 
    カンファレンスは、後追いでどーだった、あーだったと議論する場ではない。
    前向きに情報を集めて、限られた情報の中でどう考えていくかということを
    学ぶ場なんだ。」


司会「その通りですね
  僕は直腸診のないという限られた情報で考えようとしてしまいましたが、
  確かに自分がこの場で診察をしていたら、(多分・・・)直腸診はしています。

  それで黒色便があったら、この症例の進む方向や治療も違っていたでしょう。
  診察する人によって、患者さんの未来も違いますね。」


司会「はい、ではまとめ②です。

  このように、状況、状況で必ずやらないといけない診察というものがあります。

  例えば、めまいの人では絶対に眼振は確認しますよね。
  今回は黒色便のエピソードがあるなら、
  直腸診はバイタル並みに重要な所見です。」





司会「さて、実際の症例はどのように進みましたか?この診察の流れだと、 
   診察したDrは腎盂腎炎狙いといった感じがプンプンします。
   尿培、血培、腹部CT、血液検査といった感じでしょうか?」


D「そうです。血液検査は白血球の軽度上昇あり、貧血はなし、肝胆道系酵素上昇はなし、AMY上昇なし、LDH上昇なし、腎機能悪化なし、電解質異常なしでした」

上級医ST「電解質というのは、カルシウムも測られていますか?」


D「測定されていませんでした」


司会「まあ、鑑別にあげてないと、測りませんよね。CTはどうでした?何を狙って読みますか?」

研修医「腸炎とか、膵炎とか、脂肪織濃度の上昇とかをみたいです。あとは腎盂腎炎を疑っているので、周囲の脂肪織濃度の毛羽立ちをみたいです」

司会「腎盂腎炎の時の周囲の毛羽立ちの感度特異度って知ってる?」


研修医「知りません」

司会「確かにたまにあるけど、特異度はかなり低いね
   感度は70%くらいで、特異度は60%くらいかな。
       まあ、前回なくて今回からある。とかそういうのは意味があるかもしれないね」
                      参考文献:Int J Gen Med.2017;10:137-144.


司会「CTだと目立った所見はないように見えますね。
   膵臓や肝胆道系、腸管はあまり異常はなさそうです。
   これだとおそらく、膿尿があって、細菌尿があるでしょうから、
   腎盂腎炎として治療するしかなさそうですね。」


D「はい、膿尿もあって、細菌尿もありましたので、抗生剤が開始されています」


司会「果たしてこの症例は腎盂腎炎でよいのでしょうか。これが最後の質問です。」



聴衆 シーン


司会「腎盂腎炎の診断はリンゴの最後の芯みたいなものです。

   腎盂腎炎を診断するということは、
   他の疾患をひたすら除外していくということなので、非常に難しい。」



上級医ST「腎盂腎炎は暫定的にあるものとして対応するしかないと思う。
    その上でプラスα、例えば高カルシウム血症とか、他の何かがないかは、
    経過を追わないといけないと思う。」


外科U「実はね、CTで骨盤の方の腸管が、ちょっとぐるんってなっているんですよ。」


司会「えーーー。そうなんですか。内ヘルニアってことですか?
   確かに小腸の腸管にはガスが目立ちますね。
   一部、二ボーにもみえる部位もあります。
   でも腎盂腎炎に伴う麻痺性でもよさそうですし、痛みの部位とも一致しないので、
   見逃していました。」


D「はい、この所見があったので、造影CT施行し、
 その場で外科Drにコンサルトされています。
 結果としては虚血はなく、血流も保たれており、腹部所見もほとんどなかったので、
 手術とはならず、抗生剤投与しつつ経過観察入院となりました。

  入院後、腹部所見は改善し、元気に退院となりました。
  読影ではそもそも腸閉塞とは読まれませんでした。」


司会「??なんだったんだろね。ヘルニア門が緩かった内ヘルニア?
   でも、腎盂腎炎に伴う麻痺性イレウスでもいい気がします。
   腎盂腎炎が起きた時に麻痺性イレウスの症状が強くでる人って、たまにいますよね。」


D「はい、何だったのか、もやもやが残る症例でした。」

司会「そういう、もやもやした症例からの方が学びは大きいものです。
   きれいに診断した症例は実は学びは多くはない。

   カンファの場に出して議論することが、学びにつながります。
   
   今回はやっぱり、腸管の動きが悪かったり、カルシウムの問題は気になりますね。
   ところで、カルシウムはその後どうでしたか?」


D「結局、とっていませんでした」


司会「わかりました。入院した症例は診断があると、
   一直線でその疾患を治療することに専念しがちですが、
   せっかく入院したのだから周辺事項も整えて退院してもらうと、
   その人にとってよりよい入院だったかもしれませんね。


   僕はこの理論を「遠足理論」と呼んでいます。小学校の時に言われますよね。

 遠足で山に登ったり、公園にいったら、
 来た時よりもきれいにして帰りましょうと。
 来た時よりも美しく、と。


 入院する前よりも薬を調整したり、ACPをしたり、サービス調整をしたりすることで、   
    入院後の生活が整っているということを心がけています。

 
 今回なら今後、起こりうる高カルシウム血症を防ぐためにエディロールの内服を
 継続するか検討してもよかったかもしれません。」


司会「はい、これが最後のまとめです。

   入院前よりも周辺事項を整えて帰す
   入院は遠足と同じ
   
   終わりです。ありがとうございました。」

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この症例のkey point

①高齢者が具合が悪くなった時にまず疑うことは?
→薬の副作用じゃないかと疑う


②各症例で絶対にやらなければならない身体所見というものがある、今回は何か?
→直腸診でした


③診断して、治療するだけで終わりでよいのでしょうか?
→周辺事項まで整えて帰す





診断力を上げるには

症例検討会はお昼に毎日行われます
そこでは司会者は症例の内容を知らずに、臨床推論を展開していきます

カンファレンスで最も重要なことは、
診断を後から振り返ることではなく、
限られた情報からどう動くか、前向きに検討していくことです


なので司会者も間違えます
その間違いから聴衆は学びます


入院を担当する研修医の先生は、自分で初診の患者さんをみることは少なく、

「○○の患者さんだから入院よろしく、抗生剤入れといたから」

という感じで、すでに病歴や診察、検査が終わって診断が付けられ、
さらに治療プランもたった後に、受け持つことがほとんどです


その後、研修医の先生はどういう情報を集めるかというと、
確定診断に至った画像や検査をまずはチェックしてしまいます

そうすると、そもそもどんな患者さん?
どんな主訴だったっけ?
何の既往歴があるんだっけ?

と、後追いで情報を取りに行くことになります
アメリカでは、この流れをOOPS!(しまった!おっとっと!)といいます


Oはobjective date(客観的データ)、主に画像や検査データです
Sはsubjective date(主観的データ)、つまり病歴です


この流れ(OOPS)をどんなに経験しても、その疾患を診断する力は養われません


研修医の先生が診断力をつけたいのであれば、以下のことに気を付けてください
(※緊急で治療が必要な場合を除きます、時間的に猶予のある時にしてください)

・上級医のいった診断名は、信じない
・上級医のカルテは病歴や既往歴、内服歴だけ見る(アセスメントはみない)
・病歴や診察を終えるまで、画像や検査はみない
・病歴と診察が終わった時点で、自分が出すであろう検査や鑑別疾患を考えてみる
・上級医と自分の考えをディスカッションする


簡単にいうと、SOAPで情報をとることを徹底します


これは外傷のJATECでABCDの流れと同じような感じです

Aの異常があれば、Cの異常があってもまずは、Aの異常が優先されます
それと同じです

OよりもSが情報としては優先されるのです



SOAPって、当たり前ですよね

でも入院患者さんを引き継いだら、いつの間にかOOPSの流れで情報をとりにいっていることがあります
人から引き継ぐとAが抜けて、自分でアセスメントしなくなります


間違える時はだいだいOOPSで情報を取りに行った時です


しまった!(OOPS)とならないように、
愚直にSOAPで情報はとりに行きましょう

2019年10月27日日曜日

感染症ケースカンファ ~深夜二時でもコンサルトできますか?~

40歳 男性 主訴:発熱、鼻水、節々の痛み

Profile:生来健康、副鼻腔炎の既往あり

現病歴:受診の2日前、仕事中に悪寒と38度の発熱あり
    節々の痛みも出現
    鼻水も出てきた 咳は少し
    受診日当日、上記主訴で当院内科受診
    両側の上顎洞部に圧痛あり
    副鼻腔単純Xpにて右上顎洞の透過性低下あり
    急性副鼻腔炎疑いにて、耳鼻科紹介
    
    耳鼻科Drの診断も副鼻腔炎であった
    耳鼻科より
    「CLDM点滴後に帰宅させようとしたら、40度の高熱があり、
     具合が悪そうなので、精査加療をお願いします。」
    とのことで、救急外来受診となる

ROS:
(+)頭痛、節々の痛み、鼻汁、咳嗽
(ー)悪寒戦慄、腹痛、下痢、吐き気、排尿時痛、頻尿、残尿感
   寝汗、海外渡航歴、sick contact、男性との性交渉、不特定多数との性交渉

既往歴:副鼻腔炎(過去2回)

内服:なし

アレルギー歴:なし

生活歴:会社員、喫煙なし、アルコールなし

家族:妻と子供1人の3人暮らし

身体所見(内科外来時):
見た目 具合が悪そうだが、歩行は可能
BP148/94、P117、T 38.4、SPO2 97%、RR 18、意識 清明
頭頚部:両側頬部に圧痛あり  
    咽頭後壁にリンパ濾胞目立つ
    頸部LN触れず
胸部:呼吸音 左右差なく清
   心雑音なし

身体所見(救急外来時):
見た目 顔面紅潮しており、ぐったり
BP101/49、P100、T 40.0、SPO2 93%、RR 20、意識 清明
頭頚部:両側頬部に圧痛あり   
    眼瞼結膜蒼白なし 黄染なし
    咽頭後壁 発赤あり、扁桃腫大なし
    咽頭後壁にリンパ濾胞目立つ
    頸部LN触れず
    jotl accentuation陰性、項部硬直なし
胸部:呼吸音 左右差なく清
   心雑音なし
腹部:平坦 軟 圧痛は右季肋部に軽度 腸蠕動音亢進減弱なし
   マーフィー徴候陰性、肝叩打痛なし

血液検査(主なもの)
WBC 10800,NET 93%,Ly 3%,Hb 16,Plt 17万
AST 70,ALT 78,LDH 267,γ GTP 178、ALP 222,T-bil 1,2
Glu 133,電解質異常なし、Cr 0.96,CRP 7
インフルエンザ 迅速 陰性
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ディスカッション1
副鼻腔炎の診断で紹介となった生来健康な40歳男性
顔面紅潮しており、具合が悪そう
肝障害もある

・本当に「副鼻腔炎」だけでよいのでしょうか?
・今後の対応はどうしますか?
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指導医T「さて、どう思いますか?」

研修医Y「これだけだったら、副鼻腔炎でもいい気がしますが」

T「そうだよね。別に副鼻腔炎でもつらそうな人いるし、
  男性って(自分もだけど)痛みに弱いし、
  風邪ひいただけで、やたらつらいアピールするよね(反省)」


研修医N「私も副鼻腔炎とかインフルエンザかなって思いました」

T「みんな、いい感じでアンカリングされてるね(笑)
  じゃあ、第一印象が副鼻腔炎だとして、
  あえて他のことを考えるとすると何を考える?」


研修医N「そうですね、頭痛もあるので、副鼻腔炎からの波及で、
    髄膜炎になっていたら嫌ですね」

T「そうだね、それは一つあるね。他には?」

研修医D「肝障害もあるので、伝染性単核求症とかですか?」

T「うーん、まあ。なくはないけど。他は?」

研修医「うーん・・・(-ω-;)」

T「思考の癖として、一番最初に思い浮かんだものから、いかに離れるかっていうのは、
  癖として持っておいたほうがいいね。

  自分は一番最初に思い浮かんだ疾患(例:副鼻腔炎、インフルエンザ)と
  その真逆の重症度の疾患(例えば致死的な疾患で心筋炎)を思いうかべて、
  そして時間があれば、じっくり考える(システム2)
  それでもわからなければ、ググるか、他の人に相談する」

研修医Y「なるほど、ではこの症例だと危ない病気だと咽後膿瘍とかですか」

T「そんな感じ。でも考えてほしい疾患がこの時点で3つあるんだよね。」


研修医Y「えー。。。TSSとかですか?」

T「その通り!TSSは考えなきゃいけないよね。血圧チェックした?
  最初に比べて、40近く落ちてるよね。バイタルって絶対値じゃなくて、
  変化をみるべきものだし、人によって正常値は違うから、
  100/50でも文脈によって意味は変わるんだよ。」

研修医Y「確かにこれだと、もうすぐショックになりそうですね。」

T「そうだね。でもこの時点ではまだ全身の紅斑や下痢とか充血がないね。
  大事なのはそれで、TSSを除外しないこと。
  本当に大事なのは、この後にそういった所見がでてこないか、チェックしていくこと」

研修医N「他に考えることって何ですか?」

T「ヒント。何で、酸素化悪いの?」

研修医N「えっと・・・敗血症とかになると、下がりませんか?
     末梢がしまっているとかですかね?」

T「まあ、確かに。
  でもこの状況で想起するべき疾患があるんだ。
  喉周りにケチが付いているときは、頸静脈に影響が及んでいるかもしれないね。

  レミエール症候群ってきいたことある?
  化膿性の血栓性静脈炎が出来て、肺塞栓が起きてしまう病気ね。

  だからこの状況なら、頸部の把握痛がないかはしっかりみないといけないし、
  肺野のレントゲンはしっかりみたいね。」


研修医N「あと一つは何ですか?」

T「あと一つは海面静脈洞血栓症っていう病気です。
 副鼻腔炎や齲歯からの波及で頭にいっちゃうやつね。
 
 感染症の考え方で、波及っていう考え方はあるんだけど、 
 直接、癌みたいに近くの部位に広がっていくっていうのは、イメージしやすいんだけど、
   もう一つ、血流(静脈)にのって広がっていくという考え方を持たないといけないんだ。」


T「あと、やたらぐったりとしている風邪っぽい人をみたら、何を疑うかです
  誰も教えてくれなかった「風邪」の診かたの著者の岸田直樹先生は、
  心筋炎と肝炎を疑う!というパールを残してくれています。
  
  自分としては、そこにTSS(の初期)も加えて覚えています」



小まとめ
・アンカリングからいかに抜け出すか?
→正反対の重症度(軽症⇔致死的疾患)や
 正反対の考え方
(身体疾患⇔精神疾患、海外渡航⇔海外関係なし、
 腫瘍に関わる⇔関係なし)で考えてみる


・副鼻腔炎からの致死的な疾患
→髄膜炎、TSS、レミエール症候群、海面静脈洞血栓症


・感染が波及するというのは、2つある
直接周囲に波及するのと血流によって波及する
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経過
追加検査として、血培、腹部骨盤CT、胸部Xp、心電図が行われ、病棟へ

胸部Xp:異常陰影なし、心拡大なし
CT:特記事項なし
心電図:ST-T変化なし

病棟へ上がったところ、看護師さんから・・・・
「血圧が60台です、トイレで下痢しています、顔面蒼白で冷や汗かいています。」

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ディスカッション2

・病棟にあがって、ショックバイタルになってしまいました
・この後、何を考えてどう動きますか?
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T「さあ、やっぱりショックになったね、どうする?診断は?」

研修医N「外液いれて、それでも血圧保てなければNAとか使う感じですか、 
    普通の敗血症性ショックとして対応しちゃいそうです。」

研修医Y「あとは抗生剤を入れます。TSSだとすると、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌ですので、セファメジンとバンコマイシンですかね。あとクリンダマイシンも入れるんですかね。」


T「そうだね。まあ、そんな感じ。だけど、それはTSSの対応の①なんだよね、  
  教科書よむと①からは書いてある。
  でも実臨床には⓪があるんだ。それはあまり教科書に書いてない。
  ⓪段階としてのTSSの対応ってわかる?」


研修医D「足上げるとかですか?」

T「まあ、もちろん、それも大事なんだけど。
  ヒントは、患者さんの経過は、点でみるものではないんだ、
  線としてみなければいけない。経過の流れを思い出して。」

研修医N「えっと、病棟にショックになって、下痢になりました、 
     その前に救急にきて、その前に耳鼻科にいって・・・」

T「そう、そこで何がされましたか?」

研修医Y「あークリンダマイシン投与されているので、それによるアナフィラキシーですか?」


T「そうなんだよね、TSSって往々にしてなぜか、抗生剤が入ったくらいから、 
  全身が赤くなり出して、下痢しだして、血圧下がり出すんだよね。
  これまで見てきたTSSの半分くらいの症例で、抗生剤が入っていて、
  アナフィラキシーと鑑別が不能なことはありました

  TSSの症状とアナフィラキシーの症状ってほぼ一緒なんだよね
  なので、アナフィラキシーこそ、治療は遅れてはいけない
  
  血圧が下がっていて、全身の紅斑があったら、TSSよりアナフィラキシーとしての
  対応の方がはるかに重要です。
  なので、ここでボスミンを躊躇する必要はありません。
  TSSならアナフィラキシーみたいに、すっと、よくなりませんから

  診断的治療をするしかないんです。これがTSSの対応の⓪段階です
  じゃあ、他にTSSとしての対応はどうする?」


研修医Y「ドレナージですか?」

T「そうだね、感染症治療の大事な原則としてドレナージできないかっていうのは、
  常に考えるべきです。

  じゃあ、この症例が深夜にショックになっていたら?
  それでもすぐにドレナージしますか。それとも朝になって耳鼻科のDrを呼びますか?」


研修医Y「え・・・深夜ですか。耳鼻科のその日の当番の先生次第ですかね・・」


T「現実的ですね。
 この質問に即答できるかどうかが、TSSの病態を分かっているかどうかです。
 
 TSSのイメージは菌が一匹でもいたら治らないと思っていた方がいい。
 
 だから、深夜二時でも即、コンサルト・ドレナージです。
 じゃないと、朝まで持たないかもしれません。
 孤島に自分一人しかいないなら、自分でしないといけないかもしれません。

 TSSは元気な人が急になる対応を間違えば致死的だけど、
 適切に対応すれば治療可能な疾患なので、絶対に負けてはいけない戦いなのです。」



T「あと、おまけでTSSに行う治療のオプションって知ってますか?
  例えば、ドレナージもして、抗生剤もいれて、ICUで全身管理をして、
  それでも危なそうな時に何かできることはありますか?

  あまり本質ではありませんが、
  もうこれ以上できることはないっていう状態にしたいのであれば、
  知っておいてもいいと思います」


研修医Y「えーなんでしょう・・・、足上げるとかですか?」


T「(それはボケなのか?)・・・違う。」


研修医N「透析とかですか?」

T「まあ、乳酸がたまりすぎて、アシデミアが強くなってきたら透析は考慮してもよいでしょう。でもそれはTSSに限った病態ではありません。」


研修医D「免疫グロブリンですか?」

T「そのとおりです。
  病気の治療の覚え方の原則は知っていますか?

  例えば喘息の治療。
  喘息の発作時の治療で吸入をするっていうのは知っていますよね。
  でも大事なのはそこじゃない。
  
  死にそうな喘息発作の治療を覚えておくことです。

  挿管して、ボスミン皮下注して、テオフィリンいれて・・・
  という感じですよね。
  
  なので普段の喘息発作の治療は、Maxの治療から引き算して使っているのです
  
  どんな疾患でもMaxの治療が何なのかを知ることが大事です。

  TSSでは免疫グロブリンの有効性はかなり微妙ですが、
  Max治療のオプションにはなります」


小まとめ
・TSSの⓪段階対応として
→アナフィラキシーとの鑑別が難しいときは、躊躇せずボスミン筋注!


・TSSの治療は抗生剤よりもドレナージが大事
→深夜二時でも即コンサルト!
 

・疾患の治療はMaxの治療をまずは覚える
→そこから普段は、引いて治療している
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経過

病歴にてクリンダマイシン投与したくらいから具合が悪くなってきたとのことであった
クリンダマイシン投与後、30分から1時間くらいは経過していたが、
まずはアナフィラキシーとして対応(ボスミン筋注等々)

しかし、外液2L入っても血圧80台・・・

やはり、TSS>アナフィラキシーの可能性が高く、
抗生剤いれて、Aラインいれて、NA使って、
IVIGいれて、ICUにて管理しつつ・・・

深夜だったが、耳鼻科Drをよんでドレナージ施行!!

その後、バイタルはどんどん改善し、元気に退院していきました
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学び

研修医D「この症例はよくある症状で、最初は副鼻腔炎だと思って動いてしまいそうで、全然TSSは思い浮かばなかったです。どこで気が付けるかというのは、難しいですが、バイタルをみたり、普通の副鼻腔炎や風邪とは何かが違うというのに気が付いて疑っていくのが大事なのだと思いました。」

T「その通りです。毒素病態の難しいところはそこです。TSSは、後医は名医になる疾患の代表です。なので常に疑いの心を持ち、フォローしていくことが大事です。とてもいい学びですね。ありがとうございました。」


参考文献:NIKKEI MEDICAL 2018.12 MEDI QUIZ(救急)





   

今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

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