2022年2月26日土曜日

ドライウェイトの決め方・考え方

ドライウェイト(DW)を決めることが透析を行う医師にとっての最初の関門です

DWを決められるようになれば、一人前と教わりました


DWとは

「体液量が適正であり、透析中に過度の血圧低下を生ずることなく、

かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と定義されています



DWは透析を行なっている人だけの概念ではなく、

心不全患者さんの適切な体重を決める時と同じです


腎機能が保たれている患者さんの場合は、利尿薬を用いてDWを達成します

維持透析を行なっている方の場合は、透析で除水を行なってDWを達成します



透析で除水を行うことを改めて考えてみます


体重の60%が水分であり、その水分は細胞外に20%、細胞内に40%となっています

さらに細胞外の水分は血漿5%、間質15%に分かれます

血漿5%とは体重60kgの人では3L(3000ml)です


その血漿をQb 200ml/minのスピードで体外へ排出し、

透析回路内で拡散と濾過を用いて血液がきれいになり、体内に戻っていきます

200ml✖️60min = 12000ml/hrであり、1時間に4回分の血漿が体の外にでていきます



これまでの知見から安全に行える除水速度もわかっています

平均除水速度は15ml/kg/hr以下、

DW60kgの場合、15ml✖️60kg=900ml/hr以下を保つ必要があります


体重の6%を超える除水は予後が悪くなるというデータもあり、

透析間隔日の体重増加は6%未満にすることが望ましいとされています


DW60kgの人の場合、

最大の除水許容量を15ml/kg/hrとすると、4時間で3600mlが除水されます

つまり、血漿分は全て除水されるということです


4時間で3600mlというのは、ラシックスIVしてもなかなか到達できない除水スピードと量です

なかなか異常ですね 





では、血漿分に相当する量を短時間で除水して、血圧は下がらないのでしょうか?


DWが適正であれば、血圧は維持される人が多いです


理由はプラズマリフィリングというシステムのおかげです



プラズマリフィリングとは、循環血漿量が減少した場合に、
血管内の膠質浸透圧によって間質液から血管内へ水分が移動してくることです

低Alb血症では膠質浸透圧が低下し、プラズマリフィリングが低下し、
血圧が低下しやすいとされています


他にもプラズマリフィリングを低下させる要因として、
心収縮力低下、AS、AR、高齢者、糖尿病、動脈硬化があげられています


プラズマリフィリングは透析の開始直後が最も高く、
時間と共に低下していくため、透析の後半から血圧が下がりやすくなります



プラズマリフィリング以外にも末梢の細静脈系の収縮や心収縮力UP、心拍数UP、
交感神経興奮により末梢血管抵抗UPといった代償機構が存在します


それでも血圧が下がる人は、代償を超えた範囲で除水が行われており、
DWが合っていないか、透析間の体重増加が多い(除水量が多い)、降圧薬が原因と考えられます


どんな理由にせよ、
透析中の30mmHg以上の血圧低下(透析関連低血圧)は、
生命予後不良と相関すると報告されており、避けた方がよいとされています




そうはいっても透析間の体重増加は軽く6%を超えてくる人はざらにいます


体重が増えてきた時に考えることは、普通に食事量が増えて太ってきた
つまり、水分量が増えているのではなく、筋肉や脂肪が増えている可能性を考慮します

体内のコンパートメントのどこが増えたかをイメージすることが大事です

そのためには食事量や運動、活動を聞く必要があります



日中、ほとんど動くことはないが、
ラーメンばかり食べている人の場合、塩分過多の可能性が高く、
水分が増えていることは明白でしょう


その場合、多少きつくてもDWは変更できません
残りが出ないようにできるだけ除水を行い、食事について再度確認する必要があります

残りが多すぎる場合は、透析時間を伸ばしてECUMを行うか、
翌日も透析のために来てもらうかが検討されます

ですが、それも拒否される方が多く、
「苦しくなったらすぐ来てくださいね」という決まり文句を伝えて帰宅することが現実的には多いです



一方、日頃から運動や筋トレを行い、食事量も増えてきた人の場合、
水分よりも水分以外の筋肉や脂肪が増えてきている可能性があります

糖尿病が悪化してきたことやPやK、Albの値なども考慮し、
普通に太ってきたと考えるのであれば、DWは上げても良いかもしれません


普通に太ってきたのにも関わらず、DWを変更しないと、
除水がキツくて、血圧が下がることが多いです





最初の頃はDWを完璧に決めないと大変なことになる!という思いもありましたが、
ある程度はアバウトでも問題がないことに気がつきました


車のブレーキのあそび部分のように、DWには前後に「あそび」があります


残りが多く、透析間の体重増加が8%だったとしても、
溢水にならずにいられるのは「あそび」の存在のおかげです


「あそび」はつまり、心臓の余力です

心臓が前負荷UPにどこまで耐えられるか?というのは、
フランクスターリングの曲線を思い浮かべます


フランクスターリングの曲線のてっぺんを超えたらoutです



Aさんは10%の体重増加で大丈夫でも、
Bさんは10%の体重増加で溢水・肺水腫になってしまう可能性もあります

一人一人フランクスターリング曲線の形が違うためです



溢水や肺水腫を防ぐためには、
DWだけでなく、「あそび」部分がどれくらいあるか?
心臓の機能はどれくらいか?をイメージしておくことも大事です


例えば、いつも体重増加が8%くらいあっても、なんともなかった人が、
体重増加6%で肺水腫で来院している


一見すると、透析患者さんが肺水腫できており、
DWがあっておらず、体重管理が悪いと思われがちです


ですが、そこまで体重増加は目立っていなかったため、
他の原因を検索したところ、心筋梗塞を新たに発症していたことがわかりました

心筋梗塞のため、心収縮力が低下し肺水腫に至っていたということはよくあります


他にも肺炎になっていた、貧血が進んでいた、降圧薬を飲み忘れた・・・などなど
他の原因を考えるきっかけになるのが、この「あそび」の存在です



透析患者さんが具合が悪くなった時は、
点(その時点での状態)で考えるのではなく、
線(これまでの経過や傾向)で考える必要があります




では実際のDWの決め方です


①自宅での血圧はどうか?
これは非常に重要で生命予後にも関わる重要な指標です
自宅での血圧が上がってきたら、DWの下方修正を検討します


②透析中の血圧はどうか?
急激な血圧低下は生命予後が悪化します
さらには血圧が低いと、DWまで到達できない可能性があります

DWが適正でプラズマリフィリングがしっかり機能すれば、急激な血圧低下は防げます
血圧が高めのまま微動だにしない場合は、DWを下げだ方がよいでしょう


③自覚症状はあるか?
透析終わりにぐったりして、家に帰ったら寝ている
透析終わりに必ず足がつる
とかはDWがきついかもしれません


④診察
浮腫があればDWの下方修正を検討します


⑤シャントはどうか
狭窄しており、閉塞しやすい人の場合、
DWがきついと閉塞のリスクがあります
定期的にUSでシャント血流を評価する必要があります


⑥CXRはどうか
胸水や心拡大傾向であれば、DWの下方修正を検討します
個人差が大きいのでトレンドが大事です


⑦hANPやBNPはどうか
Afがあると指標になりにくいので、こちらも参考程度です
やはりトレンドが重要です


⑧CLやΔBVはどうか
DMの人の場合、15-20%
非DMの人の場合、10-15%くらいを目安にします


⑨最後に一番大事なのが、本人の考えです
最終的なはんこを押すようなイメージです
自分の体のスペシャリストである本人の考えを聞きます






このようにDWはある一つの指標だけを元に決めているのではなく、
これらの材料を総合的に判断して決めています


まとめ
・DWは透析患者さんだけでなく、慢性心不全患者さんにも当てはまる概念
→利尿剤で達成するか、透析の除水を使って達成するか

・透析の除水は血漿全ての量(3600ml/4hr)を除水している異常事態
→血圧下がりやすいのは当然、プラズマリフィリングに感謝

・DWは一つの指標を元に決めるのではない
→自宅血圧、透析中の血圧、症状、診察、データ、画像、シャント血管、CL、本人の思いを総合的に判断して決めている

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