2022年6月2日木曜日

食べられない高齢者に食べてもらいたい時

症例 88歳 女性  椎体の圧迫骨折で入院中


内服はリセンドロン、ドネペジル、アルファカルシドール

本人は腰の痛みの訴えが強く、トラムセットを入院後から開始している


入院の初めは食事がとれていたが、入院後食事量が減っていった


さあ、食べられない高齢者に対して、

どのようにアプローチしていけばよいでしょうか?


解説動画





入院中のトラブルはいつもの3つを考えます

入院中の発熱で使われますが、何でもいけます
意識障害でも食欲低下でも何でもOKです


つまり、

①入院のきっかけとなった原疾患に関連したもの
→今回であれば、転倒をきっかけに腰椎の圧迫骨折をきたしています
そのため、転倒によるCSDHが心配になります

また診断間違いというのもここで考えます
圧迫骨折だと思っていたら、化膿性椎間板炎や骨転移だったとかです


②入院中に行った介入(足したもの、引いたもの)
→入院すると、点滴したり、尿カテが入ったり、モニターがついたり、何かしらの薬が加わりますよね

それらの有害事象を考えます


足してないのに足しているということもあります

例えば認知症の人が自宅で自分で薬を管理していた場合、
出されていたアリセプトを全く飲んでいなかったが、
入院後からしっかり飲むようになってしまって、吐き気が出ているとか・・・です


逆に引いたものもあります

消化管出血や腸閉塞の人で抗精神薬が止まってしまった
もともと飲んでいた市販の薬を飲まないようになった・・・などです


入院後に実は足していないのに、足していることや
引き算されていることがあるので、ここは盲点になります


③その他の偶発的な事象
→入院中の病棟のコロナクラスターに巻き込まれた
たまたま鼠径ヘルニアになってしまったとかです








食べられない高齢者に出会ったら


①誰が何に困っているかを確認する

医者や周りのスタッフが食べてくれない患者さんに困っている
家族やケアマネが困っている
栄養士やSTさんが困っている

だが、本人は何も困っていない

ということはよくあります


食べられないことは、果たして何か問題なのでしょうか?


まずは、誰が何に困っているかを再確認しましょう




②食べられないのは、illness trajectoryの自然な流れかを確認する

自然な認知症や老衰の場合、食べさせる必要はないかもしれません
食べてもらいたくても、残念ながら不可逆なことが多いです

ACPが進んでいれば、そのまま自然な最期を迎えることもあります



一方、今までしっかり食べていた人がある時から急に食べなくなってしまった場合は、
急性期疾患が合併している可能性が高く、可逆性のことが多いです


この場合、原因検索が重要です



最も難しいのはacute on chronicな場合です

この場合も可逆性の要素があるので、原因を探しますが、
ACPを進めていく必要があります



③原因探し〜どうして食べられないのか?〜

むしろ今までどれくらい食べていたのか?から情報収集します
家族からの情報だけでなく、体重や血液データをいった客観的な指標も参考にします



食べられなくなった日の直前や数日前に原因があることが多いので、
年表を作ってみて、因果関係のある事象を検討します


病棟が変わった、食形態が変わった、
転倒した、点滴が始まった・・・など

何かしらのきっかけを探ります


そして、診察や検査で急性期疾患が起こっていないかを探します


検査は盲目的に上部・下部消化管内視鏡をすればよいわけではなく、
疾患を狙う必要があります


血液検査で高カルシウムや甲状腺、コルチゾールを狙います

腹部CTではいつの間にか、(大腿・鼠径)ヘルニアはたまにあります
頭部CTではいつの間にか、CSDHや小脳出血もよくあります
骨盤CTではいつの間にか、恥骨や圧迫骨折もよくあります
頭部MRIではいつの間にか、視床梗塞や小脳梗塞もよくあります


高齢者や認知症の方の診察には限界があります

画像に頼らざるを得ない部分がありますので、診察の限界は知っておきましょう



正直、何でもありなので、ICUのカルテのように「by system」で考えることが重要です


検査については、侵襲性が低いものからやっていきます




そして、ここからの話は器質的な原因が見当たらなかった場合の話です



まず、何をやるか?です



まずやることは、自分の目で食事風景を見ることです

そして、食事介助をしてください


そうすれば、半分くらい原因がわかります



電子カルテの温度板を見たり、看護師さんから情報を聞くのではなく、
直接見にいきましょう

百聞は一見にしかずです



食事がとれなくなった高齢者は、
パズルの1ピースが欠けているような状態だと思ってください


何かが足りない(もしくはいらない)状態なのです


目の前の患者さんに食事をとってもらいたいのであれば、

その何かをひたすら探し続けることが、求められます

それはとても根気と労力がいる作業です



そのため、多くの医師はパズルのピースを探すことを諦めて、
胃瘻を作るかどうか?という選択肢を提示し始めます


胃瘻を作った方が楽だからです


誰が楽なのでしょうか?


もちろん、医者です




なので、最初の質問に戻る必要があります


誰が何に困っているか?です


医者が食べられない患者さんに困っているから、その解決策として胃瘻を作りました

という事態が日本中で起きています


胃瘻を作る前にやれることはたくさんあります

患者さんが求めているのは、胃瘻というピースではありません




食事がとれない原因がはっきりしない場合の治療法


どんな症状の治療も同じですが、提案するのは薬だけではありません


必ず非薬物療法についても提案します


そして薬物療法の場合は、西洋薬と漢方の両方を提示できるとよいです



非薬物療法


①環境調整

人:介助者を変えてみる、家族や知り合いなら食べる人もいる

もの:スプーンや食器を変えてみる

場所:人がたくさんいる場所、スタッフのいる場所など

時間:覚醒がいい時間にしてみる、2時間くらいゆっくり時間をかける


参考:食事場面における認知症ケアの考え方


最終手段であり、最も効果が高いと感じている切り札は、

自宅(施設)への退院です


病院では全く食べなかった人が、自宅に帰ったら食べられるようになる

というのは、誰もが経験していることではないでしょうか?


もちろん、そのまま食べられない可能性もあるので、

Plan Bも考えておく必要があります


②食事の変更

栄養士さんと相談して、本人の嗜好に合わせた食事を提供してみます

見た目や盛り付け、匂い、味などに気を配ります


③運動

ずっと寝たきりで食欲が出るわけがありません

リハビリの方と協力が必要です

体を動かすことで、消化管も動き始めます


朝の太陽の光に当たるとセロトニンが分泌されたり、睡眠の質の向上にもなるので、

窓の光に当たる場所に変更するのも一つです



④時間

何をしても食べなかったけれど、

いつの間にか食べられるようになってきた・・・


何が原因かはわかりませんが、時間が解決してくれたと感じる人もいます


中腰の姿勢で待つ意味はあると思います



薬物療法


非薬物療法はどちらかというと、

医師よりも他のコメディカルのスタッフの腕の見せ所です


医師の腕の見せ所は薬物療法になります


薬はここでも足し算と引き算を考えます

まずは引き算から考えることが重要です


吐き気や食思不振につながる薬をやめます

意識状態を落としたり、うつやせん妄を惹起するような薬もやめます


とことん、減らすことが重要です



引き算しても、やっぱり食べられないという時は足し算の出番です


薬の足し算の考え方は

①副作用が少ないものから順々に使う

②使うなら一つずつにする

③効果判定を必ず行う


闇雲に薬を出すのではなく、目の前の患者さんに当てはまる状態に応じて、

薬を選択します


日内変動がある意識障害があれば、せん妄かもしれないので、

クエチアピンを入れてみるとか


認知症が進行し、アパシーのような状態であれば、

アリセプトを入れてみるとか


CTで便秘がしっかりある場合は、

まずは排便コントロールをしっかり行うとか


食べると気持ち悪くなってしまって食べられない人は、

FDや消化管の動きの問題と考え、ガスモチンを入れてみるとか


うつ傾向が強い人にはリフレックスを入れみるとか



最も効果がありそうなところから順番に使っていくイメージです

治療に関しては、トライアンドエラーをするしかありません





まとめ
・食事がとれない高齢者に出会ったら、誰が何に困っているかを把握する
→問題でないこともある

・食事摂取不良を問題点としてあげるのであれば、これまでのillnes trajectoryを考える
→acuteなのか、Acute on chronicなのか、Chronicなのか

・食事がとれない理由を考える前にまずやること
→食事風景を見にいく

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