2022年4月30日土曜日

中年男性の長引く発熱と徐脈 〜NEJMのcaseで伝えたいこと〜


 



今回のNEJMも勉強になりました

NEJMのcase  recordsの使い方は、実際に同じような症例に出会ってからが一番活きます

今回のケースは殿堂入りしました


かなり難しいですが、曝露があった時の鑑別の広げ方が勉強になります




最初はインフルエンザlikeの症状があり、発熱が続く中年男性という情報です


インフルエンザlikeの症状を出す疾患は、
キャンピロが有名です

季節外れのインフルエンザと呼んでいます




この症例は4週間、発熱が持続しており、

「外来不明熱」といってもいい状況です


外来で不明熱化してくるということは、比較的元気で若者であるという状況が多いです


外来不明熱といえば、CMVと亜急性甲状腺炎とIEです

この辺は当たり前のようにチェックしていきます




発熱やインフルエンザ症状に加えて、徐脈や背部痛があるようです
血液では炎症が見られます

やはり、なんらかの感染症を疑いたくなりますね



怪しげな既往が目立ちますね・・・



この既往歴みただけで、アフリカから移住してきた人なんだな・・・ということがわかります



社会がグローバル化し、移民の受け入れも今後、日本で増えてくることが予想されます


そうなると、海外で有病率の高い疾患(鎌状赤血球症など)や
海外で流行している感染症(マラリア、寄生虫症、真菌症)の知識も身につけていく必要があります



NEJMのcaseは、ただの臨床検討会用の稀な症例提示ではなく、
国際的な社会情勢を反映した症例を提示してくれることが多いです



前回は戦争に行った軍人さんの症例でした


今のウクライナ情勢を意識しての症例提示だと思います


NEJMは症例を通じて、
その時々で、世界中の医師に知っておいてほしいような内容や
メッセージを伝えていることに感動します



そういった真のメッセージを読み解くことも、
NEJMを読む楽しみの一つです



さて・・・


症例に戻ると

徐々に徐脈が目立つようになってきました

ということで、徐脈の機序について考えてみます






この症例に関しては、まだ洞性徐脈か、AV ブロックかわかりませんが、
解剖学的なトラブルがありそうです


長引く発熱であれば、IEを考えます
そして、弁周囲膿瘍からのブロックを考えます



おそらく、感染症が原因であると思われますので、
感染症を疑ったら、いつもの三角形に入れ込みます


今回は曝露が多いので、鑑別が膨大です





大事なのは、野山や動物の曝露があった場合は、
芋づる的に全部考えることです

STIと似た感じです


例えば、猫の場合




猫引っ掻き病は奥が深いです

今回の症例も猫ひっかき病でも全くおかしくありません





ダニの場合


蚊の場合


海外渡航歴があった場合



この症例は感染臓器・部位の検索と病原微生物の検索の2つの道のりがあります


感染臓器は心臓の伝導系にまたがる心筋で良さそうです
ですが、なぜそんなところに・・・ということが問題です


普通に考えると、IEかなと思ってしまうので、
TTEとTEEの流れになるでしょう


ただし、TEEが問題なかった時にどうするかですね


病原微生物に関しては、血液培養はもちろん提出しますが、
この流れは血液培養陰性のIEを疑う流れになりそうです






この症例ではTEEで疣贅や目立った弁膜症はありませんでした


ですが、確実に心筋に問題がありそうです


次のステップとしてはCT、MRI、PETの流れのようです

これは今まで考えたことがなかったので、勉強になりました





結局、CTやMRI、PETで限局性の心筋炎が発覚しました

あとは、病原微生物が問題です



どうやって診断するか?ですが、
この症例はCTRXで効果がなく、DOXYで少し効果があったようです


そうなると・・・


レジオネラやリケッチア、マイコプラズマなどが鑑別です


「ラ行の問題」というテーマがありまして、

ライム、リケッチア、レプト、レジオネラのどこに軸足を置くかという問題です


詳しくはレプトスピラ




これらは血清学的にしか診断がつかないことが多く、
すぐに結果が判明しないものばかりです


そのため、診断がつかずに、MINOやDOXYで治療されている症例が実はたくさんあります






先ほどの動物や野山の曝露も同じような問題があります


長引く発熱や原因不明の肺炎、皮疹、リンパ節腫脹など
プレゼンテーションが似ており、もはや鑑別ができないこともあります


それぞれの疾患で、少しずつ治療が異なります


こんな時は、いつもどの感染に軸足を置くか悩みます







結局、この症例のアプローチ法としては、

血液培養陰性のIEの鑑別になりました


さらに、曝露歴から疑わしい病原微生物を片っ端から調べ、

最終的にはDNAシークエンスにて、リステリアの診断にたどり着きました


最終診断:リステリアによる限局性心筋炎



この症例の使い所


・動物や野山の曝露歴があった場合に

 どのような鑑別疾患を挙げれば良いか参考になる


・血液培養陰性のIEを疑った場合の

 病原微生物の詰め方を教えてくれる


・IEを疑って行ったTEEが陰性だった時、

 それでも心筋の異常を疑っている場合のアプローチの方法がわかる




2022年4月11日月曜日

慢性便秘 〜下痢なのに便秘!?〜

症例 85歳女性 主訴:便が出ない、食欲がない(※一部修正・加筆を加えてあります)



もともと慢性便秘のため、緩下剤や刺激性下剤を乱用している

大腸内視鏡検査は何度もされており、弛緩結腸の状態で大腸メラノーシスあり
生検も何度もされており、アミロイドーシスや顕微鏡的腸炎なし


バイタルは安定 意識も清明 

腹部は全体的に膨満しており、軽度圧痛あり
腸蠕動音は亢進している


CTでは巨大に拡張した結腸があるが、閉塞起点はなし
結腸内部には大量に液体貯留あり

血液検査でKがなんと1.7と低下していた

尿中K排泄の亢進はみられず

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診断は?


腸管内容物は水様性の下痢であり、Kは消化管からの喪失と診断

低K血症が更なる便秘を招くという悪循環を形成していた


弛緩した巨大結腸内に腸液が貯留し、便として体の外には出てこなかったため、
本人は便秘だと思ってひたすら、アミティーザや刺激性下剤を使っていた症例でした



巨大結腸症や慢性偽性腸閉塞(CIPO)の状態であり、入院にてK補充を行い、
排便コントロールを実施し退院となりました




今回の症例のように巨大結腸症や慢性偽性腸閉塞をみたらとても悩みます

CIPOがもともとあって刺激性下剤が乱用されたのか、
刺激性下剤の乱用によって腸管機能不全になったのか、



鶏と卵のような感じがしますね・・・



巨大結腸をみつけた時の考え方は、

安易に刺激性下剤乱用のせいにせず、他に原因がないか探す努力が必要です



CIPOの原因検索を上司に相談したら、ALSが見つかった症例もありました


ALSはCIPOの教科書的な原因ではありませんが、
腹筋の筋力が低下し、慢性便秘・刺激性下剤乱用に繋がっていたようです



原因疾患を探しても何も見つからなかった場合は、刺激性下剤乱用が原因のことも確かにあります



今回の症例で学んだことは、刺激性下剤はBZと同じ匂いがするということです


刺激性下剤のような短期的には効果のある薬に依存してしまうと、後々大変なことになる・・・

BZ依存と同じ構図です



問題はそれを医師が作り上げていることです

そして作り上げた医師にはこの問題が見えないことも問題です



安易に刺激性下剤に頼ると、本症例のような未来が待っているのだと改めて気付かされました





便秘は奥が深いですね・・・





便秘の薬は昨今いろいろ出てきました


治療に関しては病態で考えるのが一般的です

リンゼスはもともとIBSとしての薬のため、腹痛が強い症例には向いています



ですが、このように病態をいくら考えても、うまくいかないこともあります


病態を細かく分類する検査も現実的ではないので、
便秘治療の実際は、患者さんに合う薬を探すイメージです



     



そこで、病態ではなく、あえて経済面から治療を考えてみました

毎日使う薬だからこそ、お財布に優しい方がよいのではないでしょうか



安くて問題なく排便がコントロールできれば、それでいいじゃん と正直思います



なんでもかんでも新薬に飛びつくのは、どうなんだろうと・・・


新しい薬には未知なる副作用があるかもしれないことを忘れてはいけないと思います




ポイントはコントローラーとリリーバーという考え方です

リリーバーをコントローラーとして使ってはいけません




     




今回の症例のように便秘と下痢が混在する状態もあります



高齢者の宿便では、下痢便の失禁を伴うことがあります

直腸内に長期間停留した便塊が直腸粘膜下層内を走行する静脈やリンパ管を圧迫し、
腸管の吸収障害または腸壁 から多量の水分の排出が起こり、
停留している便の一部が粥状 / 液体状になるためです 


加えて直腸-肛門反射により内肛門括約筋が弛緩し、
肛門の閉鎖が緩むことで下痢便を失禁してしまいます(溢流性便失禁)



便秘なのに下痢なのです


奇異ですよね・・・


そのため、宿便性下痢は奇異性下痢:paradoxical diarrheaと呼ばれます



 直腸糞便塞栓のアセスメント 34   2020/1 Vol.8 No.1  2020/1 Vol.8 No.1 35 






まとめ

・便秘に刺激性下剤を出し続けることは、不眠にBZ薬を出し続けることと同じ

→その場しのぎの治療は将来に影を落とすことになる


・便秘の治療はコントローラーとリリーバーを考える

→リリーバーをコントローラーとして使ってはいけない


・便秘と下痢が混在した状態はたまにある

→paradoxical diarrheaにご注意



2022年4月10日日曜日

ショックのアプローチ 〜「サルも聴診器」の先へ〜


症例は超高齢で寝たきり、

施設入所中の女性の発熱、意識障害、下血、嘔吐の症例でした


来院時は意識障害やショックバイタルがあり、鑑別疾患が絞りきれず、

ショックのアプローチをしていく流れになりました



ショックの診療には3つの世界があります


①病歴をとる人

②診察する人

③検査・治療をする人


この3つの世界が同時並行で進み、時間経過とともにその世界が重なってくるイメージです

そのため、最初は情報がない中で診察しないといけないこともあります


②の世界にいる人は、

ショックの原因を探すために見た目、末梢、JVP、CRT、mottling sign、心音、直腸診を行います


③の人は「サルも聴診器」を行います


②と③だけでもショックの原因は分かります





ショックの原因は、

SHOCKの語呂(septic,spianal,Hypovolemic,Obstructive,Cardiac,アナフィラキシーショックK)で覚えています

病態的には血液分布異常、循環血漿量減少、心原性、閉塞性に分けられます


ここでピットフォールがあります


ショックの原因は一つではないということです


合わせ技一本がいかに多いことか



合わせ技になると、末梢は暖かいけど、頸静脈は虚脱している・・・ような感じで、

身体所見だけでは教科書通りにならないこともあります


バイタルや身体所見だけでショックを診断することは難しい理由の一つは、

ショックの原因が複数あること、

もう一つは薬の関与があることです



オッカムとヒッカムは診断の時によく言われますが、病態を考える時も同じです


高齢者の場合、心臓も弱っているし、敗血症もあるし、出血もあった・・・

みたいなことはよくあります


そのため、ショックの原因かは何か?という

「あり」「なし」ではなく、

血液分布:循環器血液量減少:心臓:閉塞=7:2:1:0みたいな感覚で、

どの要素が強いかを考える必要があります


忘れがちなのは、心臓です


敗血症性ショックだと思って治療していたが、実はたこつぼ心筋症が合併していた

吐血とショックで来院したが、実は心筋梗塞からのストレス性の胃潰瘍からの出血だった


という感じで、ショックの原因が実は心臓だったということはよくあります



ショックの原因を一つ見つけて満足してはいけません、他の原因を見逃さないことが大事です


全ての要素(血液分布、循環血漿量、心臓、閉塞)がどれくらい寄与しているかを見積もる癖をつけましょう



今回の症例では敗血症性ショック+循環血液量減少(脱水+出血)がありそうでした


どの要素が強いかは、その場でわかることは稀です

治療しながら判断することになります



治療する前に予想しながら治療を開始し予想通りに動けば、

見積もりが正しかったことになります


今回であれば循環血漿量減少がメインであれば、輸液のみで改善することが見込まれます


ですが、輸液だけでは血圧が維持できない状態であれば、

敗血症性ショックとしてNAを開始したり、出血メインであれば輸血も考慮することになります



このように「治療」自体が、「診断」に寄与することがあります


大事なことなので繰り返しますが、

ショックの治療は「一点買いをしないこと」です



全ての可能性を同時並行で考えて早期に治療に踏み切ることが重要です


具体的に言うと、敗血症性ショックの抗生剤投与です

血液培養さえとっておけば、抗生剤投与で失うものはありません


本症例も熱があり、下血があり、食事もとれておらず、複数のショックの原因が考えられました


敗血症のfocus探しも重要ですが、同じくらい治療も重要です


どの抗生剤を入れるかよりも、いかに早く抗生剤を入れるか、の方が大事な時もあります


Door to baloon timeと同じで、敗血症の場合、Door to ABx timeを意識しましょう







今回の症例は結局、CTにて腸管気腫症と門脈血液ガスが見られました


門脈血液ガスの原因として、最悪なのは腸管壊死です

さらに最悪なのは、クロストリジウム・パーファリンゲンスによるものです


クロストリジウム・パーファリンゲンスによるガス壊疽は激症型血管内溶血をきたします


激症型血管内溶血を来たした場合、死亡率は74%で高率に亡くなります

さらに入院から死亡までが、なんと9.7時間!という急激な経過を辿ることが知られています。


診断は末梢血の塗抹標本を見ることです

Buffy coatのグラム染色を行うことで、菌体が見えることがあります




積み木のような四角のGPRの菌体が見えたら、診断は確定です




参考:J septic クイズ





診断をつける意味は、治療のためでもありますが、家族への説明のためです

数時間以内に亡くなる可能性が高い超重篤な病態であることを伝える必要があります





幸い今回の症例は血管内溶血はなさそうであり、違いそうでした

腸管気腫や門脈血ガスはNOMIが原因のようでした


広域抗生剤を投与し、輸液やNA投与にて蘇生された症例でした




発熱、嘔吐、意識障害、下血、ショックとどこから手をつければよいか、迷いそうですが、

困ったら、ABCの順番でよくしていきましょう


今回であれば、Cの異常がメインだったので、ショックの鑑別や治療を進めていき、

診断にたどり着いた症例でした



まとめ 

・ショックの原因は一つではないことも多い

→全ての要因がどれくらい寄与しているか見積もる

 血液分布異常:循環血漿量減少(脱水・出血):心臓:閉塞=7:2:1:0


・見積もった上での治療介入は診断の補助にもなる

→見積もりを立てると、治療反応性で見積もりがあっているか、間違っているかわかる


・腸管気腫や門脈血ガスを見たらクロストリジウム・パーファリンゲンスを考える

→Buffy coatのグラム染色を行うと診断できるかもしれないが、

 救命は難しいかもしれない


2022年4月9日土曜日

主治医交代①

主治医交代


スポーツの世界なら試合の途中で選手が交代することは当然ですが、医療の世界で主治医が交代するときは、引き継ぎを除いては稀ではないでしょうか


医療者側の申し出の交代ならまだしも、

患者さん側から申し出があることは、

何かトラブルがあった可能性が高いと思います


みなさんはこれまでに何度、担当医や主治医を交代することになりましたか?


私はこれまでに二度経験しました


その経験は私の医師人生において忘れ難い事件になっており、もはやトラウマになっています。


ですが、医師としての自分を形成する重要な出来事だったと今では思います。


1回目の主治医交代劇は、初期研修医になって3ヶ月目のことでした。



ある大学病院の血液内科で研修医としてスタートした私は、

充実した日々を過ごしていました。



血液内科の患者さんは採血が非常に難しく、

毎朝早朝から苦戦しながら採血をしていました。


採取した血液を自分でスライドガラスにうつして塗抹標本を作り、グラム染色のように顕微鏡を覗く毎日でした。



ある日、悪性リンパ腫疑いで入院した患者さんの血液を顕微鏡でみると異型リンパ球がたくさんおり、

結局EBV感染による伝染性単核症だったこともありました。



病棟業務にも慣れ始めた頃、

悪性リンパ腫の高齢女性の担当になりました。



その患者さんは明るく非常に元気でしたが、

中枢神経浸潤が疑われたため、

メソトレキセートの髄注を行うことになりました。



すでに髄注は何度か経験していたため、

いつものように髄注を行いました。



手技中は特にバイタル変化もなく、滞りなく終了しましたが、問題はその後でした。



患者さんが、髄注の数時間後に急に頭を痛がり始めました。



やや錯乱したような痛がり方であり、

只事ではないと思いすぐに上級医に一報を入れつつ、

クモ膜出血疑いでCTを撮影しました。



しかし、出血はありませんでした。


続いてMRIを撮影しましたが、出血や血管攣縮はありませんでした。



ほっと一安心しつつも、原因不明の頭痛であり、

頭を悩ませました。



頭痛が少し治ったところで診察を行うと、

眼球運動障害や複視、めまい、吐き気が見られました。



自分が投与した髄注に何か問題があったのではないか、と非常に不安でした。




患者さんは頭痛の訴えが強く、食事摂取が低下しADLが落ちていきました。


そんな中、弱っていく母の姿を見ていた娘さんが医療事故ではないかと憤慨されておりました。




髄液注射に何か問題があったのではないか?と疑われ、

実際に現場にいたスタッフや物を用意して現場検証が行われました。




当時は、自分の医師人生はこれで終わった・・・と本気で思いました。



そんな状態で仕事を続けるのは、

とても辛かったですが、なんとか仕事は続けました。



ですが、毎日、上司や同僚のもとで泣いていた気がします。



もちろん、その患者さんの担当は外されましたが、

毎日、患者さんのもとには行きました。



よくよく病歴を聴取すると、

座位や立位で増悪する頭痛であり、

症状からは硬膜穿刺後頭痛(もしくは低髄液圧症候群)であろうと目星はついていました。



「硬膜穿刺後頭痛は腰椎穿刺後の合併症であり、どれだけ予防策(細い針にする、抜く時には内筒を入れて抜くなど)を講じたところで発症してしまうことはあります」


と伝えた所で患者さんやご家族には言い訳のようにしか聞こえません。



今さら診断名を患者さんに伝えるより、

もっと大事なことは患者さんをよくすることだと考えました。




数日が経過し、頭痛や他の脳神経症状は改善していきましたが、


「抗がん剤を打って治療するはずだったのに、病院にきてもっと具合が悪くなってしまった」と


明らかに精神的に落ち込んでいました。



抑うつ傾向であった患者さんを励ます方法はないかと考えました。





医師になって間もない自分に何ができるだろう・・・




そこで考えたのは、

患者さんの経過を記録する日記を病室に置き、

毎日の様子を書き込むことでした。



自分だけでなく、病棟のスタッフやリハビリスタッフの方にもお願いし、

介入したことやできるようになったことをノートに書き込んでいただくことにしました。



自分の中で1時間は患者さんと話すことを業務の一環として毎日、病室に通いました。



正直、病室に入るのは怖かったですが、

自分にできることをやろうと思い、毎日、患者さんの顔を見にいきました。




そこにいた自分は初期研修医ではなく、

患者さんを心配する一人の人間だったのだと思います。



幸い患者さんは後遺症もなく、1ヶ月後に退院されました。





最後に患者さんは、



「今度、入院するときもあなたが担当になってね」と声をかけてくれました。





この事例で学んだことは、


「医師としてできることがなくても、

 一人の人としてできることはある」ということです。





医療の世界は時に残酷で、

患者さんを良くしようと思って行った行為が

逆に患者さんを苦しめてしまうことがあります。




私たちは合併症や副作用を避ける努力や事前の説明は行いますが、

もっと重要なことは、その後の対応です。



「責任は自分にはなく、ある一定数起こる副作用であり仕方なかった」


「事前に説明したのだから、後で文句を言われても困る」



という態度は、誠実な対応とはいえないでしょう。







研修医のみなさん




医師としての勤務が始まり、辛いことの連続だと思います。

今はただ辛いだけかもしれませんが、数年後にその意味が分かります。



大事なことはいつも後にしか分かりません。



今はただ、目の前の患者さんをよくすることだけを目指して頑張ってください。




みなさんは医師としては微力かもしれませんが、

一人の人としてできることはたくさんあります。


それを忘れないで下さい。


2022年4月3日日曜日

高齢者の「既往なし、内服なし」にはご注意

 86歳 女性 主訴:意識障害

(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)



到着まで

救急隊との会話は非常に重要です
直接現場を見ているので、そこには言語化できないたくさんの情報が詰まっています


今後、現場に到着した様子を動画で見せてもらえるようなシステムになると、
もっと診断がスムーズなのに・・・と思います



現場に着いた救急隊は早く搬送したいので、いくつも質問はできません


多くても3つくらいで、質問は厳選しなければなりません


HOTで聞く質問はとてもセンスが要求されます
今後の方針を決める必要があるからです

多分、一番難しいですが、誰も教えてくれません
なるべくカンファで練習してもらいたいと思っています

実際の現場では練習できませんから



自分が目指しているのは、
初診外来であれば、問診票で診断をつけること
救急であれば、HOTの病歴だけで診断をつけることです


診断は正確さも重要ですが、速さも大事です
時間短縮になり、治療介入が早くなるからです



とはいっても、HOTだけではもちろん診断はつきません

HOTの時点で大事なことは
診断名を想定すること、大まかな方針を立てることが目標になります


今回であれば「意識障害」が主訴なので、
tPA対応するかどうか、髄膜炎対応するかどうか
が大きな分かれ目になります



tPAを意識するのであれば、片側の手足の動きが悪いか
顔面の表情筋の左右差があるかどうか、を確認します
家族が同乗してもらうことも重要です


今回は粗大な麻痺はなさそうですので、tPA対応はきてから考えればよいかと思います



この時点でもう一つ大事なことは、救急隊の到着時バイタルです
それをカルテ記載しておくことも大事です


HOTを受け取った時点で、救急隊のバイタルはカルテに書いておきましょう


バイタルは非常に重要であることは言うまでもありません

だからこそ・・・
バイタルは「点」ではなく、「線」で考えます


病気はどんどん進行していきます
それにつられてバイタルも変わっていきます


ワンポイントのバイタルよりも、2ポイント、3ポイントのバイタルがあれば、
経時的な変化がわかります

バイタルの経時的な変化は、とても大きな客観的な情報です

変化がないことも情報になります


今回は酸素化が低いことが注目ポイントです
一時的なのか、来院時も低いのかが気になりますね


酸素化が低く、意識を失っているのであれば、肺塞栓を考えます

教科書的には失神の鑑別に肺塞栓と書いてありますが、実際に診断はしたことはありません
失神の人、全例に造影CTをするのは、やりすぎな気がします

ただ、今回のように酸素化が低ければ、積極的に調べるべきでしょう



もう一つ気になるバイタルは、血圧が高くないことです
意識障害で血圧が高くなければ、まず疑うのは大動脈解離です


研修病院で有名な沖縄の病院では、
「年齢性別+主訴+バイタル」で疾患が浮かぶようにトレーニングしていますね



救急外来で見逃したくないのは、血管病態、神経、感染症の3つと言われています
この3つのカテゴリーを意識しながら、到着を待ちます




到着後


本人からはうまく病歴が取れない
意識障害ではなさそう
夫からみるといつも通りとのこと

病歴をとりつつ、身体所見や検査が同時並行に進んでいった


気になっていた酸素化は、やはり低めであった
頻脈もあった


追加の病歴は、どうやら数ヶ月前から調子が悪くなってきたようであった


①acute on chronic の経過か:例えばPism、がん、ALSなど

②シンプルにacuteな疾患か:PE、大動脈解離、痙攣、脳梗塞

両方が考えられる状況であった



高齢者の「既往なし、内服なし」は安心か?

この方はかかりつけもなく、既往や内服がありません

元気な人でよかった〜 と悠長に考えている場合ではありません


言い過ぎかもしれませんが・・・

高齢者の「既往なし、内服なし」という人が具合が悪くなって病院に来た場合、
「悪性腫瘍ターミナル」という文脈に置き換えても差し支えないくらいです


先日も「既往なし、内服なし」の高齢者が具合が悪くて精査すると「大腸癌stage4」でした
病気が発覚することを恐れて、限界まで我慢する人が多いです



ポイントは「既往なし、内服なし」の人の検査の前に、
「がんが隠れている可能性が十分あること」
「検査をすると、見つけたくないものも見つけてしまうこと」を事前に伝えておくと、その後の結果説明がスムーズになります


高齢者に安易な画像検査は、禁物です




何を考えますか?

身体所見では下肢浮腫が目立ちました
シェロングや直腸診は陰性でした


夫からみる、といつも通りでありフルリカバリーしました
どうやら意識障害よりは、失神のカテゴリーに入るようです


今回の病歴からは、acute on chrnicな経過のため、
神経診察は気になります

歩けない原因もよくわかりません


ですが、ここは救急外来です

救急では命に関わる疾患を想起し、早期に診断することが求められます


この状況(失神、低酸素、頻脈、下腿浮腫)では、
肺塞栓の可能性がかなり高くなってきました


肺塞栓が思い浮かんだ時点でぱぱっと検査へ進むでしょう


ただし、なぜこのタイミングで肺塞栓になったかは考えなければなりません

病気にはなるべくしてなります


このタイミングで病気が起こった理由があるはずです


そこまでADLが悪くなかった人にDVTがあるということは、
背景に悪性腫瘍や過凝固病態がある可能性が高いです

物理的な静脈の圧排でもよいです


PE探しだけでなく、造影CTはmalignancy surveyも兼ねているので有用です


結論・・・

DVT-USにてDVTあり
造影CTにてPEを認めた

骨盤内に腫瘤あり
左総腸骨静脈を圧排している所見を認めた


診断:大腸癌、DVT、肺塞栓による失神


参考:肺塞栓



今回の症例は、既往や内服のない高齢者の失神で見つかったDVT-PEでした

その背景に悪性腫瘍が見つかりました


治療に関しては、色々ディスカッションがあります


自分ならヘパリンIV→ヘパリン持続で治療するかと思います


理由は

・ヘパリンなら出血した時に拮抗薬がある

・ヘパリンなら効果を調整しやすい

・ヘパリンの方が早く効果が出る

・トルーソーならヘパリンにエビデンス的な分配がある


今回はDOACで治療が開始となりました



まとめ

・高齢者の「既往なし、内服なし」は安心できない

→むしろ「悪性腫瘍ターミナル」と考えると色々辻褄があうことが多い


・救急隊からの情報収集で大まかな方針を立てられるような質問をする

→なんらかの鑑別疾患を想起できるように


・失神でくる肺塞栓は有名だが、実際は診断が難しい

→失神+α(低酸素、頻脈、胸痛、下肢浮腫)で造影CTへ



今さらきけない疑問に答える 学び直し風邪診療

風邪の本といえば、岸田直樹先生や山本舜悟先生の名著があります 自分もこれらの本を何回も読み、臨床に生かしてきた一人です そんな名著がある中で、具先生が風邪の本(自分も末席に加わらせていただきました)を出されるとのことで、とても楽しみにしておりました その反面、何を書くべきか非常に...

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