症例は超高齢で寝たきり、
施設入所中の女性の発熱、意識障害、下血、嘔吐の症例でした
来院時は意識障害やショックバイタルがあり、鑑別疾患が絞りきれず、
ショックのアプローチをしていく流れになりました
ショックの診療には3つの世界があります
①病歴をとる人
②診察する人
③検査・治療をする人
この3つの世界が同時並行で進み、時間経過とともにその世界が重なってくるイメージです
そのため、最初は情報がない中で診察しないといけないこともあります
②の世界にいる人は、
ショックの原因を探すために見た目、末梢、JVP、CRT、mottling sign、心音、直腸診を行います
③の人は「サルも聴診器」を行います
②と③だけでもショックの原因は分かります
ショックの原因は、
SHOCKの語呂(septic,spianal,Hypovolemic,Obstructive,Cardiac,アナフィラキシーショックK)で覚えています
病態的には血液分布異常、循環血漿量減少、心原性、閉塞性に分けられます
ここでピットフォールがあります
ショックの原因は一つではないということです
合わせ技一本がいかに多いことか
合わせ技になると、末梢は暖かいけど、頸静脈は虚脱している・・・ような感じで、
身体所見だけでは教科書通りにならないこともあります
バイタルや身体所見だけでショックを診断することは難しい理由の一つは、
ショックの原因が複数あること、
もう一つは薬の関与があることです
オッカムとヒッカムは診断の時によく言われますが、病態を考える時も同じです
高齢者の場合、心臓も弱っているし、敗血症もあるし、出血もあった・・・
みたいなことはよくあります
そのため、ショックの原因かは何か?という
「あり」「なし」ではなく、
血液分布:循環器血液量減少:心臓:閉塞=7:2:1:0みたいな感覚で、
どの要素が強いかを考える必要があります
忘れがちなのは、心臓です
敗血症性ショックだと思って治療していたが、実はたこつぼ心筋症が合併していた
吐血とショックで来院したが、実は心筋梗塞からのストレス性の胃潰瘍からの出血だった
という感じで、ショックの原因が実は心臓だったということはよくあります
ショックの原因を一つ見つけて満足してはいけません、他の原因を見逃さないことが大事です
全ての要素(血液分布、循環血漿量、心臓、閉塞)がどれくらい寄与しているかを見積もる癖をつけましょう
今回の症例では敗血症性ショック+循環血液量減少(脱水+出血)がありそうでした
どの要素が強いかは、その場でわかることは稀です
治療しながら判断することになります
治療する前に予想しながら治療を開始し予想通りに動けば、
見積もりが正しかったことになります
今回であれば循環血漿量減少がメインであれば、輸液のみで改善することが見込まれます
ですが、輸液だけでは血圧が維持できない状態であれば、
敗血症性ショックとしてNAを開始したり、出血メインであれば輸血も考慮することになります
このように「治療」自体が、「診断」に寄与することがあります
大事なことなので繰り返しますが、
ショックの治療は「一点買いをしないこと」です
全ての可能性を同時並行で考えて早期に治療に踏み切ることが重要です
具体的に言うと、敗血症性ショックの抗生剤投与です
血液培養さえとっておけば、抗生剤投与で失うものはありません
本症例も熱があり、下血があり、食事もとれておらず、複数のショックの原因が考えられました
敗血症のfocus探しも重要ですが、同じくらい治療も重要です
どの抗生剤を入れるかよりも、いかに早く抗生剤を入れるか、の方が大事な時もあります
Door to baloon timeと同じで、敗血症の場合、Door to ABx timeを意識しましょう
今回の症例は結局、CTにて腸管気腫症と門脈血液ガスが見られました
門脈血液ガスの原因として、最悪なのは腸管壊死です
さらに最悪なのは、クロストリジウム・パーファリンゲンスによるものです
クロストリジウム・パーファリンゲンスによるガス壊疽は激症型血管内溶血をきたします
激症型血管内溶血を来たした場合、死亡率は74%で高率に亡くなります
さらに入院から死亡までが、なんと9.7時間!という急激な経過を辿ることが知られています。
診断は末梢血の塗抹標本を見ることです
Buffy coatのグラム染色を行うことで、菌体が見えることがあります
積み木のような四角のGPRの菌体が見えたら、診断は確定です
参考:J septic クイズ
診断をつける意味は、治療のためでもありますが、家族への説明のためです
数時間以内に亡くなる可能性が高い超重篤な病態であることを伝える必要があります
幸い今回の症例は血管内溶血はなさそうであり、違いそうでした
腸管気腫や門脈血ガスはNOMIが原因のようでした
広域抗生剤を投与し、輸液やNA投与にて蘇生された症例でした
発熱、嘔吐、意識障害、下血、ショックとどこから手をつければよいか、迷いそうですが、
困ったら、ABCの順番でよくしていきましょう
今回であれば、Cの異常がメインだったので、ショックの鑑別や治療を進めていき、
診断にたどり着いた症例でした
まとめ
・ショックの原因は一つではないことも多い
→全ての要因がどれくらい寄与しているか見積もる
血液分布異常:循環血漿量減少(脱水・出血):心臓:閉塞=7:2:1:0
・見積もった上での治療介入は診断の補助にもなる
→見積もりを立てると、治療反応性で見積もりがあっているか、間違っているかわかる
・腸管気腫や門脈血ガスを見たらクロストリジウム・パーファリンゲンスを考える
→Buffy coatのグラム染色を行うと診断できるかもしれないが、
救命は難しいかもしれない
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