86歳 女性 主訴:意識障害
(※症例は一部修正・加筆を加えてあります)
到着まで
救急隊との会話は非常に重要です
直接現場を見ているので、そこには言語化できないたくさんの情報が詰まっています
今後、現場に到着した様子を動画で見せてもらえるようなシステムになると、
もっと診断がスムーズなのに・・・と思います
現場に着いた救急隊は早く搬送したいので、いくつも質問はできません
多くても3つくらいで、質問は厳選しなければなりません
HOTで聞く質問はとてもセンスが要求されます
今後の方針を決める必要があるからです
多分、一番難しいですが、誰も教えてくれません
なるべくカンファで練習してもらいたいと思っています
実際の現場では練習できませんから
自分が目指しているのは、
初診外来であれば、問診票で診断をつけること
救急であれば、HOTの病歴だけで診断をつけることです
診断は正確さも重要ですが、速さも大事です
時間短縮になり、治療介入が早くなるからです
とはいっても、HOTだけではもちろん診断はつきません
HOTの時点で大事なことは
診断名を想定すること、大まかな方針を立てることが目標になります
今回であれば「意識障害」が主訴なので、
tPA対応するかどうか、髄膜炎対応するかどうか
が大きな分かれ目になります
tPAを意識するのであれば、片側の手足の動きが悪いか
顔面の表情筋の左右差があるかどうか、を確認します
家族が同乗してもらうことも重要です
今回は粗大な麻痺はなさそうですので、tPA対応はきてから考えればよいかと思います
この時点でもう一つ大事なことは、救急隊の到着時バイタルです
それをカルテ記載しておくことも大事です
HOTを受け取った時点で、救急隊のバイタルはカルテに書いておきましょう
バイタルは非常に重要であることは言うまでもありません
だからこそ・・・
バイタルは「点」ではなく、「線」で考えます
病気はどんどん進行していきます
それにつられてバイタルも変わっていきます
ワンポイントのバイタルよりも、2ポイント、3ポイントのバイタルがあれば、
経時的な変化がわかります
バイタルの経時的な変化は、とても大きな客観的な情報です
変化がないことも情報になります
今回は酸素化が低いことが注目ポイントです
一時的なのか、来院時も低いのかが気になりますね
酸素化が低く、意識を失っているのであれば、肺塞栓を考えます
教科書的には失神の鑑別に肺塞栓と書いてありますが、実際に診断はしたことはありません
失神の人、全例に造影CTをするのは、やりすぎな気がします
ただ、今回のように酸素化が低ければ、積極的に調べるべきでしょう
もう一つ気になるバイタルは、血圧が高くないことです
意識障害で血圧が高くなければ、まず疑うのは大動脈解離です
研修病院で有名な沖縄の病院では、
「年齢性別+主訴+バイタル」で疾患が浮かぶようにトレーニングしていますね
救急外来で見逃したくないのは、血管病態、神経、感染症の3つと言われています
この3つのカテゴリーを意識しながら、到着を待ちます
到着後
本人からはうまく病歴が取れない
意識障害ではなさそう
夫からみるといつも通りとのこと
病歴をとりつつ、身体所見や検査が同時並行に進んでいった
気になっていた酸素化は、やはり低めであった
頻脈もあった
追加の病歴は、どうやら数ヶ月前から調子が悪くなってきたようであった
①acute on chronic の経過か:例えばPism、がん、ALSなど
②シンプルにacuteな疾患か:PE、大動脈解離、痙攣、脳梗塞
両方が考えられる状況であった
高齢者の「既往なし、内服なし」は安心か?
この方はかかりつけもなく、既往や内服がありません
元気な人でよかった〜 と悠長に考えている場合ではありません
言い過ぎかもしれませんが・・・
高齢者の「既往なし、内服なし」という人が具合が悪くなって病院に来た場合、
「悪性腫瘍ターミナル」という文脈に置き換えても差し支えないくらいです
先日も「既往なし、内服なし」の高齢者が具合が悪くて精査すると「大腸癌stage4」でした
病気が発覚することを恐れて、限界まで我慢する人が多いです
ポイントは「既往なし、内服なし」の人の検査の前に、
「がんが隠れている可能性が十分あること」
「検査をすると、見つけたくないものも見つけてしまうこと」を事前に伝えておくと、その後の結果説明がスムーズになります
高齢者に安易な画像検査は、禁物です
何を考えますか?
身体所見では下肢浮腫が目立ちました
シェロングや直腸診は陰性でした
夫からみる、といつも通りでありフルリカバリーしました
どうやら意識障害よりは、失神のカテゴリーに入るようです
今回の病歴からは、acute on chrnicな経過のため、
神経診察は気になります
歩けない原因もよくわかりません
ですが、ここは救急外来です
救急では命に関わる疾患を想起し、早期に診断することが求められます
この状況(失神、低酸素、頻脈、下腿浮腫)では、
肺塞栓の可能性がかなり高くなってきました
肺塞栓が思い浮かんだ時点でぱぱっと検査へ進むでしょう
ただし、なぜこのタイミングで肺塞栓になったかは考えなければなりません
病気にはなるべくしてなります
このタイミングで病気が起こった理由があるはずです
そこまでADLが悪くなかった人にDVTがあるということは、
背景に悪性腫瘍や過凝固病態がある可能性が高いです
物理的な静脈の圧排でもよいです
PE探しだけでなく、造影CTはmalignancy surveyも兼ねているので有用です
結論・・・
今回の症例は、既往や内服のない高齢者の失神で見つかったDVT-PEでした
その背景に悪性腫瘍が見つかりました
治療に関しては、色々ディスカッションがあります
自分ならヘパリンIV→ヘパリン持続で治療するかと思います
理由は
・ヘパリンなら出血した時に拮抗薬がある
・ヘパリンなら効果を調整しやすい
・ヘパリンの方が早く効果が出る
・トルーソーならヘパリンにエビデンス的な分配がある
今回はDOACで治療が開始となりました
まとめ
・高齢者の「既往なし、内服なし」は安心できない
→むしろ「悪性腫瘍ターミナル」と考えると色々辻褄があうことが多い
・救急隊からの情報収集で大まかな方針を立てられるような質問をする
→なんらかの鑑別疾患を想起できるように
・失神でくる肺塞栓は有名だが、実際は診断が難しい
→失神+α(低酸素、頻脈、胸痛、下肢浮腫)で造影CTへ
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