2023年8月12日土曜日

肺がんの鑑別で大事な真菌感染症とは?

今週のNEJMは偶然見つかった肺結節の鑑別疾患とそのアプローチ法について学びました


与えられた情報は、

ウエイトリフティングや自転車が趣味で金融業界で勤務している43歳男性
内服はなく、GERD以外に基礎疾患なし、喫煙歴あり
北米〜中南米までの旅行歴が濃厚なこと、家族に癌の人が多いこと
無症状であること、肺の結節影と縦隔・肺門部リンパ節腫脹(CT,PETにて)
3年前の検診ではCXRや腹部USは問題なし、です


システム1で考えると、肺がん?となりますが、

システム2のVINDICATEで考えると、たくさん鑑別疾患が出てきますね





鑑別は膨大に上がりましたが、なかなか狭めることが難しかったです


他に症状がなかったので、渡航歴から考えると、
クリプトか、ヒストか、コクシジオイデスか・・・


この辺の解像度が低くて、全然わかりませんでしたが、
クリプトコッカスでもよいかな?と思いました




クリプトコッカスは神出鬼没です







コロナ感染後で増えていると言われていますので、
コロナ明けの人は注意が必要です


COVID-19 Associated Invasive Fungal Infection(CAIFI)
COVID-19後侵襲性真菌感染症と呼ばれています








アスペルギルス(CAPA)やムコール(CAM)、カンジダ(CAC)が有名ですが、
クリプトコッカス(CACI)やニューモシスチスもあり得ます



COVID-19 Associated  Cryptococcus Infection : CACI



                                       Mycoses . 2022 Aug;65(8):815-823.  



CACIは、COVID-19軽症患者でも発症します

もちろん、重症なICUで治療されたり、
人工呼吸器をつけられた方はもっとリスクが高くなります


基礎疾患(HIV、腫瘍、移植後、心不全、CKD、DM、肝硬変)や
免疫抑制剤(ステロイド、タクロリムス、トシリズマブ、バリシチニブ)の使用がリスクになります





COVID罹患からCACI発症までの期間は様々ですが、
ほとんどはCOVIDで入院後10日以内に発症しています



感染臓器も様々で
肺単独が28%、半数以上が播種性感染症です





NEJMの症例に戻ると・・・


結局、ヒストプラズマでした 笑


鑑別ポイントの一つは縦隔や肺門部のリンパ節腫脹でした

クリプトは腫れませんが、ヒストは腫れることが多いのだそうです


真菌とダニ媒介感染症と蚊媒介感染症は、
地域の風土病が多くて覚えるのが大変ですが、

真菌は風土病が多いと知っておけばよいです



あとは調べればいいだけですので、
全部を詳細に覚えておく必要はないと思います


ヒストプラズマは日本では稀な真菌感染ですが、
アメリカでは非常にcommonな感染症です


米国中央部のミシシッピー渓谷からオハイオ渓谷を中心に毎年50万人余りが
感染する米国最大の真菌性風土病です
中南米、東南アジア、オーストラリア、ヨーロッパ、アフリカなどでも発生します


ヒストプラズマ以外にも考えるべき輸入真菌感染症があります



  1. 亀井克彦. 輸入真菌症と問題点. Med Mycol J 2012;53:103-8.

  2. によくまとまっています
 今回学んだことは、

・偶然見つかった肺結節の人に、海外渡航歴を聞いたことがなかったので、ちゃんと海外渡航歴を聞こうと思いました

・無症状で偶然肺結節が見つかった場合、
 肺がんとの鑑別が非常に難しいのが、ヒストプラズマのゲシュタルトであるということを学べたのも良かったです



あとは、Multidisciplinary Pulmonary Nodule clinicというものがあって、
こういった悩ましいケースはみんなで相談しあって、
マネージメントを進めていくのがよいのだということを再認識しました


日本では検診で肺結節が見つかっても、全例、呼吸器内科に紹介することはなく、
初診外来の医師がフォローすることも多々あると思いますが、
悩ましい症例の場合は、こういった専門集団にコンサルトするのが大事ですね


ヒストプラスマ症について

Review Pulmonary Histoplasmosis: A Clinical Update 

Nicolas Barros et al: J. Fungi 2023, 9(2), 236; 4  にまとまっています


ヒストプラズマは、環境中では菌糸状として、
ヒトの組織中では酵母として増殖する二形性真菌である

ヒトのヒストプラスマ症は2つの異なる菌によって引き起こされる
 H. capsulatum var. capsulatumとHistoplasma capsulatum var. duboisiiである

H. capsulatum var.duboisiiがアフリカのみに生息するのに対し、
H. capsulatum var.capsulatumは南極大陸を除くすべての大陸で確認されている

北米では、米国中東部のミシシッピ川とオハイオ川の流域が最も流行性の高い地域である
これらの地域では、罹患率は10万人当たり6.1人と推定され、人口の80~90%が一生の間にヒストプラスマ症に曝されることになる 

ここ数十年の間に、環境の破壊、気候変動、旅行や人とのつながりの増加、免疫抑制状態の増加が、ヒストプラズマ症の疫学に変化をもたらしている 

最近の研究では、歴史的な地理的分布の外でヒストプラスマ症と診断される患者がかなり多い

ヒストプラスマ症は中南米の風土病でもあり、感染有病率は30%を超えることもある 

地域差が大きく、チリでは0.1%、ペルーでは20%、アルゼンチンでは35~40%、ブラジルの特定地域ではほぼ90%の血清反応率がある 



最近、日本でも国内感染例があるようです

輸入感染症だけ考えておけばいい時代は終わったのかもしれません




環境中には鳥類やコウモリの糞などを含んだ土壌中に存在します

胞子を肺から吸入することで感染します


感染後の経過は宿主の免疫状態、菌の曝露量によって異なります


喀痰からの培養には数週間を要し、検出率も高くありません

海外では抗原や抗体の検査ができますが、日本では限られた施設でしかできないので、疑ったとしても診断が難しいです




グロコット染色ではクリプトコッカスと見分けはつきません



治療はそれぞれのプレゼンテーションで異なります
結節だけの場合は不要のようです

今回も治療はせず、軽快していました

(本文解説)

ヒストプラスマ症はさまざまな肺症状を伴う

患者の約10%が急性肺ヒストプラズマ症を呈し、発熱、咳嗽、呼吸困難などの肺症状がみられる

これらの患者のうち5%は、関節痛、関節炎、結節性紅斑、多形紅斑などの皮膚や関節の症状も認める


急性肺ヒストプラスマ症では、画像診断でびまん性の斑状影が認められ、

縦隔および肺門リンパ節腫脹が非常に多い


ヒストプラスマ症の他の肺症状には、慢性閉塞性肺疾患の高齢患者に多くみられる慢性空洞性肺ヒストプラスマ症、縦隔肉芽腫および縦隔線維症がある


ヒストプラスマ症は肺結節の原因として非常に一般的である
肺癌を模倣する感染症に焦点を当てたある症例シリーズでは、
ヒストプラスマ症が最も一般的な真菌の原因であった

ヒストプラスマが存在する領域の肺結節の評価におけるPET-CTの特異度は約61%であることから、PET-CT画像診断は特に有用ではない

培養で菌が増殖する可能性は低い


尿、血清、気管支肺胞洗浄液のヒストプラズマ抗原検査は、播種性ヒストプラズマ症や急性肺ヒストプラズマ症の患者には有効である

補体固定やイムノジフュージョンアッセイなどの抗体検査は、初感染後何年も陽性であることが多いので、有用である


この患者の年齢、一般的に良好な健康状態、疫学的危険因子を考慮すると、
肺結節はヒストプラズマ症などの無症候性真菌感染による可能性が高いと思われる

しかし、他の診断と次の評価ステップを検討するために、呼吸器内科医、放射線科医、胸部外科医に相談する



肺の偶発結節について

胸部CTの偶発所見はよくあることです。偶発的な結節の最大の関心事は癌の可能性である
癌の可能性のある結節を評価する際には、以下の因子を考慮することが重要である

・大きさ、密度(固形、亜固形、混合)
・時間経過に伴う大きさと密度の変化率
・形状(円形、卵形、不規則、境界が平滑、小葉状、棘状)
・位置(末梢、中枢)
・患者の癌リスク(年齢、環境曝露、検診)

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