2025年12月2日火曜日

國松の内科学 〜片頭痛〜

今回の國松の内科学は「片頭痛」でした


片頭痛診療で最重要と強調されていたことが、「発症年齢が若い」 ことです


具体的には40代以上の発症の初めての頭痛患者さんの場合、

片頭痛の診断をしない方が健全です

 


今回の片頭痛は筆が走っていて、

教科書では得られない血の通った片頭痛診療を知ることができます


これだけ解像度高く、具体的な対応を教えてくれる本はなかなかありません

ぜひ、ご一読ください


〜ここからは自分の片頭痛診療の私見です〜


緊張性頭痛と片頭痛


簡単にいうと、風邪とインフルエンザみたいな関係です


緊張性頭痛では救急外来に来ませんし、普通に仕事しています


片頭痛は我慢すれば、なんとか仕事できますが、

できれば休みたいですし、強い場合は仕事も行けません

本当にひどい時は救急外来にきます


片頭痛も肩こりはでますので、緊張性頭痛と片頭痛を明確に分けることは難しく、

程度問題と考えておけば良いです


肩こりが強いと、後頭神経痛を合併することがあります


緊張性・片頭痛・後頭神経痛は、

緊張性は曇り☁️、片頭痛は雨☔️、後頭神経痛は雷⚡️みたいなイメージです


肩こりが全くない人がいきなり、

後頭神経痛になった時は帯状疱疹を疑った方が良いです



ほとんど緊張性頭痛レベルで、月1で片頭痛発作みたいな人もいますが、

月の半分以上片頭痛レベルで痛い人もいます


片頭痛が慢性化してしまうとQOLが下がり治療が圧倒的に難しくなるので、

こじられせないことが大事です



慢性化してしまう人は、必ずどこかで時点で片頭痛の診断を受けたり、

治療されていますが、うまく治療されてこなかった人たちです


それまで関わった医者の責任も大きいと思います



ポイントは救急外来で片頭痛と診断した場合に、

必ずどこかの外来(できれば片頭痛診療が得意な先生)に

繋げてください


外来希望がなかった場合はせめて、

片頭痛は予防可能な頭痛であることを伝えてあげてください


患者さんの多くは、片頭痛を予防できることを知りません

予防したくなったら、外来に来ます



救急外来で片頭痛を診断・治療する際に大事なことは

・SAHや脳出血を見逃さない

→若年者であっても血管奇形やIEからの動脈瘤、

 モヤモヤ病で頭蓋内出血は起こり得ます

 痛みは片頭痛と病歴では区別がつかないこともあり、

 どうしても画像評価が必要な場面があります

 ここは閾値低めで良いと思っています



・RCVSに注意する

→典型的な片頭痛の病歴がとれたからといって、

 容易にトリプタンを使うと、RCVSの場合悪化してしまうことがあります

 RCVSは血管が攣縮しているので、

 さらに血管を収縮させて梗塞や出血を起こすことがあります


 片頭痛は光や音、振動で増悪するため、

 雨に耐えてじっとしているイメージです☔️

 

 一方、RCVSは嵐で荒れ狂っています🌀

 人目を憚らず泣き叫んで、痛がっている人もいます


 痛がり方が大袈裟すぎてRCVSかもしれないとよぎった場合は、

 プリンペランIVやボルタレン坐薬、アセリオ点滴で何とか対処しつつ、

 効果のほどは不明ですが、カルシウム拮抗薬を使ったりします

 本当に疑った場合はMRIまで行います

 


一方、普段の外来の片頭痛診療で大事なのは、

薬を処方することではなく、片頭痛を知ってもらうことです



まずは一緒に誘引探しを始めます


誘引には2種類あって、

①患者さん自身が知っている誘引と、

②知らない誘引があります


生理や天気、仕事はわかっている人が多いですが、

寝過ぎたり、お酒はわかっていない人がいます


まずは、本人が気がついていない誘引を引っ張り出すことが大事です


本気で探そうとすると、頭痛ダイアリーをつけないと難しいこともありますが、

なんとなくで大丈夫です

(自分の場合は、それをつけるだけで頭が痛くなってきそうです・・・)


そして、誘引は避けられないものと避けられるものに分かれます


天気とか仕事のストレスは避けられませんが、

飲酒や過眠、不眠、特定の食事は避けることができます


月経関連片頭痛の場合、低容量ピルで頭痛を抑えることもできます


ただ、誘引を聞くのではなく、

本人が誘引に気がついているか、気がついていないか

そしてその誘引は避けられるものか、避けられないかで考えると、

治療や予防につながります



國松先生の本にも書いてありますが、

片頭痛前には予感や予兆みたいなものがあります


雨が降る前の曇った雲みたいな感じで、「あー今日きそう・・・」という感覚です


それはいわゆるauraみたいな前兆とはまた別です


その予兆くらいからカロナールやロキソニンをのんで火消し作業を行います

放っておくと、大火事になるので先手必勝です


我慢してからのんでも焼石に水状態で効果が乏しくなります

ちょっとでも今日、おかしいかも・・・と思ったらのんでもらいます


これまで「カロナールは効きません、ロキソニンください」と何人にも言われました

それは、飲むタイミングや量が少ないことが原因のこともあり、

カロナールを諦めないことが大事だと個人的には思っています


小さな発作も中等度の発作も全てロキソニン一択になってしまうと、

薬剤乱用性頭痛につながってしまうため、

できれば発作の大きさによって薬を使い分けたりローテーションしてほしいのです


なので、本人にもこれくらいの頭痛だったら、

この薬で大丈夫、というのをわかっていただく必要があります



一番良くないのは、市販の痛み止め(特にナロンエースは本当にやばい)だけで、

自己流に対処している人です




片頭痛診療で一番大事なことは、

こういった片頭痛の自然経過を患者さん自身が知ることです


漠然とした「片頭痛」ではなく、解像度高く片頭痛を知ることが、

治療の第一ステップです


片頭痛の治療がうまくいっていいない人は第一ステップを踏まずに、

いきなり薬を処方しているためです


痛み止めを使って治療をするのは、患者さん自身です

タイミングよく薬を使うことが何よりも大事です


患者さん自身が片頭痛のプロでないと、片頭痛はうまく治療ができません

患者さんが片頭痛発作を起こした時に、医者はいないのですから



というわけで、自分の場合は片頭痛の説明をじっくり紙に書いて行います

口頭では話している方は気分良いですが、聞いている方は全然わかっていません


必ずこんな感じの絵を書いて説明しています


例えば自分も片頭痛なので、自分がカルテにのるとしたらこんな感じです


# 片頭痛[20歳〜]

 誘引:過眠、不眠、ストレス、アルコール

 前兆:なし

 症状:肩こりあり、吐き気はひどい時だけ

 強さ:ひどい時は仕事早退するほど

 頻度:ひどい頭痛は3ヶ月に一度くらい、軽いのは週に1回くらい

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(S)

頭痛はそこまで強くなかった

カロナールは半分くらい使った

ロキソニンも同じくらい

カロナールは2つのむときく時もあったけど、効かないこともあった

ロキソニンの方が切れ味がいい

イミグランは使わなかった 全部余っている

五苓散は効いているのかよくわからない


仕事は休まず行けた

なるべく、睡眠時間は増えたり減ったりしないようにしている


(A)

治療

小発作:アセトアミノフェン→効果あり

    500mg1Tで効果なければ2T内服すると効果あり

    五苓散→天気が悪い日に飲むと多少効果あり

中発作:ロキソニン→効果あり

大発作:トリプタン製剤→イミグランで肩こり増悪、眠気あり

            マクサルトの方が肩こり少ない、切れ味良かった

    レイボー→希望なし


予防:

βブロッカー:試したことあるが、安定しており現在中止中

ロメリジン(ミグシス):試したことない

呉茱萸湯:時折服用、効果微妙

VPA:試したことない

TCA:試したことない

CGRP 製剤:希望なし


注意事項:喘息なし、妊娠の可能性なし



最近はCGRP製剤があって片頭痛の予防の幅が増えました

値段が高いことだけがネックですが、情報提供はしましょう












まとめ
・救急外来で片頭痛を診断したら、
 必ず「片頭痛は予防できる頭痛であること」
 を伝え、外来診療に繋ぐ
→たったこれだけでその人の未来を変えるかもしれない

・片頭痛診療の第一ステップは図に描いて
 片頭痛の流れを知ってもらう
→片頭痛を治すのは、医者ではなく患者さん自身の行動!

・片頭痛の治療の第二ステップは
 避けられそうな誘引を避け、
 薬のタイミングを覚えてもらう
→先手必勝!我慢してからのんでも焼石に水!

・第三ステップは発作薬と
 予防薬の使い分けを探る
→患者さんの背景と合う合わないの問題、
 いろいろ試してみるしかない




2025年11月15日土曜日

不易流行 〜another story〜

毎年恒例のK先生との症例対決にて


不易流行の症例は、マイコプラズマの髄膜炎だったのではないか?
と鋭い指摘をいただきました


確かに肺炎はマイコプラズマでよいとは思いますが、
髄膜炎がマイコプラズマでよいかは、なんとも言えません・・・


K先生が診療していたら、マイコプラズマ抗体のペア血清を出して、
上昇していることを証明し、マイコプラズマによる肺外症状として
ステロイド投与して治癒していた可能性もあります

その場合は、フィルムアレイも提出していなかったでしょう・・・



と言うわけで、マイコプラズマの中枢神経病変について調べてみました


そもそもマイコプラズマはとは?

第二次世界大戦の頃、軍隊を中心に謎の肺炎が流行しました
当初は謎のウイルス性肺炎と考えられていたものが、マイコプラズマだったのです


マイコプラズマは培養が難しく、
細菌の濾過フィルターであるseitz filterを通り抜けてしまうほど小さく、
当初はウイルスと考えられていました

1944年 Eatonはこの謎の肺炎(原発性異型肺炎)患者から得られた呼吸器検体を鶏卵に培養し、ラットやハムスターに接種させ同様の肺炎になることを証明しました

これをEaton agentと名付けていました


その後、Eaton agentがヒトのボランティアに下気道炎を起こすことが証明され、
1961年に米国National Institutesof Healthのカンファレンスで謎のウイルス肺炎が
細菌感染症であり、病原菌として認められました

そして、1963年にようやくMycoplasma pnumoniaeと命名されました

                        IASR Vol.45 p5-6;2024年1月



マイコプラズマはウイルスとは異なり、自己増殖が可能です

細胞壁を持たず、なめくじ?みたいな形の特徴的な菌です
βラクタム系は効果ありません

それにしても形が普通の菌っぽくないですね・・・



マイコプラズマと聞くと肺炎を想起しますが、
実は肺炎にならずに、風邪や咽頭炎、気管支炎レベルで
自然治癒していることが多いです


マイコプラズマはウイルスのような挙動を示し、
自然軽快することもあり、抗生剤での治療が必要かどうかは背景や病状次第です


呼吸器外症状には3つの機序が考えられています
①直接型、②間接型、③血管閉塞型 です




呼吸器外症状では皮疹や神経病変が多いです

神経病変は脳炎やGBSが多く、無菌性髄膜炎もまれではありますが、
起こりえます


ざっくりしたイメージですが、

直接型の場合は菌が悪さをしていると考えられ、
抗菌薬の効果が高いです

間接型の場合はすでに菌はおらず、
免疫反応によって起きていると考えられています

そのため、治療は免疫調整薬(ステロイドやIVIG)がメインとなります


マイコプラズマは針のように突き刺さり、細胞に侵入していきます

最近は肺炎も気道上皮細胞とマイコプラズマの免疫的な応答で
引き起こされている可能性が指摘されています




肺外症状の内訳です

間接型の疾患を見ると何でもありな感じです

これらの疾患を診断する時にマイコプラズマの抗体をチェックしていなかったので、
今度から閾値低めにチェックしてみようと思います



脳炎はどちらも起こりえますが、無菌性髄膜炎は直接型と考えられています

ただ、「いつから発症したか?」「途中で治療が入ったか?」
「NSAIDsの内服で症状が緩和された」などで修飾されると、
どちらかにすっきり分類することは難しい気がします・・・




臨床像は多彩です

まるでコロナです


コロナとの違いは潜伏期です
潜伏期が2-3週間と長いので、誰からもらったかわからないことが多いです



軽症の場合、自然に軽快し
他のウイルスによる上気道炎と見分けはつきません


マイコプラズマは細菌ではありますが、自然に治ってしまうので、

「細菌感染症=抗生剤が必要な病態」ではない
ことを覚えておきましょう


ただ、10人に1人は肺炎に至ることもあります

健康な若い人の軽症の肺炎といえば、マイコプラズマを疑います
「walking pneumonia」とも呼ばれます


K先生に教えてもらいましたが、
最近ではマイコプラズマ肺炎の症状を早期に改善させる目的に
吸入ステロイドをアジスロマイシンに併用するのが良いようです


Medicine (Baltimore). 2024 Jun 14;103(24):e38332.




The combination of budesonide and azithromycin demonstrates enhanced therapeutic effectiveness, promotes improved pulmonary function, shortens the duration of symptoms, and effectively mitigates the overexpression of inflammatory factors like c-reactive protein, TNF-α, and IL-6, all without an associated increase in adverse reactions in pediatric mycoplasma pneumonia.

5. 結論

ブデソニドとアジスロマイシンの併用は、小児マイコプラズマ肺炎において、治療効果の向上、肺機能の改善、症状の持続期間の短縮、CRP、TNF‐α、IL‐6などの炎症因子の過剰発現の効果的な緩和を示し、副作用の増加は伴わないことが示唆されています。これらの結果は、小児マイコプラズマ肺炎の治療レジメンとしてこの併用療法の採用を推進する上で、潜在的な価値を持つものです。



細菌感染症にステロイドは良くないと刷り込まれてきた世代にとっては、
衝撃的ですね


ステロイドの治療を行う点もコロナに似ていますが、
マイコプラズマ肺炎の誰に、どの重症度で吸入ステロイドを使うべきか
といったコンセンサスまではなく、前向きのRCTの研究が必要なのでしょう




マイコプラズマの診断は主に抗原と抗体でなされます
発症早期は抗原検査でされますが、感度が高くないので否定にはなりません


確定診断はペア血清でのPA法の抗体検査やPCRでなされることが多いです



マイコプラズマの肺炎が治ってきた頃に起こるのが、間接型の肺外症状です

この時期にはマイコプラズマはおらず(PCRでも見つからない)、
免疫反応が問題を引き起こしていると考えられています


ただ、治療が入ったかどうか?診断がつかず遅れて顕在化しただけ?
といった感じで、直接型と間接型の白黒をつけるのは難しい症例もあります




マイコプラズマが脳炎/髄膜炎に至るパターンは3つです


肺炎と同時に発症
肺炎後に発症
肺炎なく、いきなり中枢神経パターン



肺炎がなく、いきなり中枢神経症状で来た場合は、
マイコプラズマを想起するのは難しいです


前駆症状がないからといって除外できません
小児や若年者の脳炎ではルーチンで検査するしかない気がします




呼吸器症状の発症後7日以内の発症を早期発症型と呼び、
7日以降を晩期発症型と呼ばれます


早期は直接型、晩期は間接型の機序が考えられています





無菌性髄膜炎は早期発症(直接型)の報告が多く、
晩期発症の症例報告は見つけられませんでした


一方、脳炎(髄膜脳炎の報告が多い)の場合は、
早期も晩期もどちらもあり得ます

横断性脊髄炎やADEMもどちらも起こりえます



今回の症例はVZVが検出されず、マイコプラズマ抗体が陽性であれば、
晩期発症型のマイコプラズマの無菌性髄膜炎だったのかもしれません


ただ、発症時から頭痛を認めており、
NSAIDsやAZMがpartialに効いていた可能性もあります

その場合は、早期発症のマイコプラズマの無菌性髄膜炎が、
診断が遅くなって晩期にみえただけかもしれません



マイコプラズマ脳炎は報告が多いのですが、
マイコプラズマによる無菌性髄膜炎だけの報告はほとんどありませんでした


ほとんどが、髄膜脳炎の報告でした


なので脳炎について調べてみました



この報告ではマイコプラズマ脳炎の予後不良因子は、

11〜18歳での発症
血液でのLDH上昇
髄液の蛋白上昇
画像で基底核の障害 

となっていました




この報告では全ての症例でAZMが投与されていました

AZMは髄液移行が悪いですが、脳細胞への移行は良好です

マイコプラズマによる髄膜脳炎の抗生剤治療は、
AZMが1stで良いと思われますが、
耐性が多い地域の場合、LVFXの併用がありえます


抗生剤治療に関しては、耐性がどれほど占めているか?
病状がどれほど重いか?小児か成人か?といった要素を考えなければなりません


加えてステロイドやIVIGを併用するかということを考える必要があります

ステロイドやIVIGを併用した方が、症状や入院期間が短縮される傾向がありました

ステロイドとIVIGを併用した群ではその傾向はありませんでしたが、
どちらも投与されたということは、おそらく重症例であったためでしょう


いまだに、マイコプラズマの中枢神経病変に対する治療はケースバイケースです


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あとがき

K先生からのツッコミでマイコプラズマについての知見が深まり感謝です

本症例を最初からマイコプラズマの肺外症状を想起できなかったことは反省でした

國松の内科学 〜片頭痛〜

今回の國松の内科学は「片頭痛」でした 片頭痛診療で最重要と強調されていたことが、 「発症年齢が若い」 ことです 具体的には 40代以上 の発症の初めての頭痛患者さんの場合、 片頭痛の診断をしない方が健全です   今回の片頭痛は筆が走っていて、 教科書では得られない血の通った片頭痛...

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