2025年5月28日水曜日

「國松の内科学」の正しい読み方

 最近、当院で流行りの勉強会があります


それは・・・


「國松の内科学を読んでツッコミを入れる会」です 笑



今、巷を賑わせている話題の本ですが、

この本を一番、味わえる読み方をお伝えします


「國松の内科学」は一人で黙々と読んではいけません



一人で読むのは本来の読み方ではなく、

みんなでワイワイ議論したり、ツッコミを入れながら読むのが、

この本の正しい読み方だと思います


映画を見終わった後に感想を言い合う、あの感じに似ています


「國松の内科学を読んでツッコミを入れる会」では

学生さんから初期、専攻医、7〜20年目、院長!?まで年代関係なく参加しており、

30分の間で一つの章をその場で読み、途中でツッコミを入れていきます


例えば、原発性アルドステロン症の章では、

スクリーニングを積極的にやる派とやらない派の意見が繰り広げられたり、


ACTH単独欠損の章では、

ACTHの検査の取り方の記載をして欲しかったという意見がありました


ACTHは室温で保存すると、測定値が低値になることがあり、

意外に知られていないけど重要なので、それを書いて欲しかった・・・



といった感じで、自分がこの章を書くなら、

これは記載する!みたいな感じで自分でさらに作り上げていきます


辞書のように分厚いですが、辞書のように使わずに、

叩き台として使うのが良いかと思います



この本は「國松の内科学」ではなく、

「自分の内科学」にブラッシュアップしていく本だと思います




外来ベースの疾患が多く、

ブラックボックスになりがちな外来診療を知る機会にもなり、

ディスカッションが盛り上がります



「國松の内科学」は内科を10周くらいしたベテランや中堅に特に刺さります

研修医や専攻医には刺さるところもあれば、ピンとこない部分もあると思います


学生さんにとっては、いきなりRPGの攻略本を読むような感じになるかもしれません 笑


初学者の方は教科書も読みつつ、

比べてみると一番勉強になると思います


「國松の内科学」は王道の教科書ではなく、アンチテーゼ的な内容もあり、

教科書には載っていないことも書かれています

(ほとんど参考文献がありません 笑)


あえて議論を巻き起こそうとしか思えない記述もあり、とても議論しやすい本です


國松先生は、この病気をこんな風に捉えているのか〜

と知ることができるだけでも、ありがたいです


読んでいて、笑ってしまうこともあります(特に「上部消化管出血」)



個人的には、毎週、この勉強会が楽しみです

週間ジャンプを読むような待ち遠しさがあります



一人で読んでいるみなさん、

仲間と一緒にツッコミあう会を試してみてはいかがでしょうか?






2025年5月7日水曜日

長大な脊髄病変に出会ったら

40代女性 主訴:左下肢の痺れ、歩行困難  ※症例は架空です

生来健康な会社勤めの方


現病歴:
来院の2週間前から背部痛や腰痛、季肋部周囲の痛みが出現

腹筋を始めたので、そのせいだと思っていた

その後も痛みが続き、夜間も眠れない程になった
だんだん、左足に痺れや感覚鈍麻が出てきた

近医整形外科受診し、ヘルニア疑いと言われ、
ロキソニン、リリカを処方された

痛みは改善したが、尿が出なくなった

リリカのせいと言われリリカを中止し、尿カテが留置された

リリカ中止した後も尿意を感じず、
歩くのも困難になってきたため、精査目的で来院


診察では四肢の腱反射が全て亢進しており、
バビンスキー・チャドック反射も見られた

下肢三重屈曲現象もあった

MMTは左腸腰筋が4、
他の左下肢のMMTは5-であった

感覚ではサービカルラインを認め、
Th1以下で痛覚・冷覚・触覚が低下していた

--------------------------------------------------------------------------------------
緊急で撮像した単純MRIにて、
頸髄と胸髄に長大な脊髄病変が見つかりました

腰椎には病変はありませんでした


上記症状以外にヒントはありません

既往もなく、家族歴はありません
アルコール飲酒はなく、内服は何もありません

SLEやSS、RAを想起させるようなROSはありません
視覚や視野の異常もありません

皮疹もありません
血液では炎症反応上昇はなく、梅毒・HIVは陰性です

全身のCTでも特記すべきことはありません


この後、どのように診断を詰めていきますか?
治療はどうしますか?


ミエロパチーを疑った場合、
緊急で手術が必要になるような脊髄を圧迫している病変
(血腫・膿瘍・骨折・椎間板ヘルニア)がないかの確認が必要です


そのため、MRIが撮像されますが、
今回は圧迫病変はなく、脊髄内に病変を認めました



ミエロパチーの鑑別のためには

①発症様式と時間経過:超急性、急性、亜急性、慢性

②脊髄内の分布(短軸)

③病変の長さ(長軸)

が重要になります


脊髄の生検ができないため、
MRIでの画像所見と脊髄以外の病変、自己抗体から詰めていく必要があります




病歴の中でも時間経過は非常に重要です

いつも以上に詳細な病歴をとりましょう



脊髄病変は、原因が特定できないことも多々あります

その場合、病名は特発性横断性脊髄炎になりますが
特発性というためには、とことん調べる必要があります


さらに、最初に診断がつかなくても、
治療経過中に判明することもあり、診断の見直しが必要です


長大な脊髄病変の場合、まず想起する疾患はNMOSDです

NMOSDの診断には、抗アクアポリン4抗体が重要です

1週間くらいで結果が判明します


抗アクアポリン4抗体のELISA法は
コマーシャルベースで測定できるようになったことはありがたいのですが、
CBA法に比べると感度が低いという問題があります


そのため、ELISA法で陰性の場合は、CBA法で提出する必要があります


CBA法も陰性の場合、抗MOG抗体や抗GFAP抗体を提出するか検討します



MRIはできれば造影も行います

造影効果の有無でも鑑別が絞ることができます


各疾患ごとに分布や造影の特徴がありますので、
それぞれの疾患で見られる〇〇サインがないか確認します










脊髄サルコイドーシスの診断は非常に難しいです

ポイントは脊髄以外の部分のヒントを見逃さないことです

そして、診断のためには、
ヒントがなくても積極的にサルコイドーシスらしさを探しにいく必要があります

NCSや生検、ブロンコで診断がつくことがあります


まとめ
・長大な脊髄病変は、病歴、画像、抗体で鑑別していく
→特に造影MRIの読影が大事
 ステロイド前に血液と髄液をたくさんとっておく

・最初に診断がつかなくても、治療経過や時間が経てば診断がつくことがある
→常に診断の見直しを

・炎症性脊髄症と非炎症性脊髄症の鑑別は難しい
→特にdural AVFやサルコイドーシスは診断を間違いやすい


2025年5月6日火曜日

青は藍より出でて藍より青し

 山中克郎先生が編集され、新進気鋭の若手医師が書かれた

「見逃されているかもしれない重要疾患の診療」を読みました




最近、強く思うのは若手医師から学ぶ機会が増えたことです

嬉しいことですね


「Mgの排泄を防ぐために、SGLT2がいいらしいですよ」

「フェジンの点滴で、低リンになるらしいです」



知らないことばかりで、いつも教わってばかりです

自分の常識で医療をしてはいけませんね・・・



そして、さらに嬉しいことは、自分の意見を鵜呑みにしなくなった医師が増えたことです


「それって本当ですか?」「それってどこに書いてあるんですか?」と臆せず聞いてくれます


そうなると


「あれ?ずっと当たり前だと思っていたが、確かに・・・これって本当か?」



CTRXは1g or 2g? q12hr or q24?


PICCは持続にしないと閉塞する?ヘパリンロック?生食でもいい?


もともとDOACのんでいる人は、ICUのDVT予防は不要?


アルコール離脱にfixed がいい?symptom triggeredがいい?



という疑問が湧いてきます


一人で医療をしていた時は、当たり前ようのようにしていた事が、
本当に正しいのか、考えさせてくれます



健全なコンフリクトはチームの成長に欠かせません


チームを作るなら、

必ず自分に反対意見や批判をしてくれる人を置くことが鉄則です



耳障りのいい言葉ばかりを言ってくれるメンバーだけでは、

自分の気持ちは良くなりますが、チームとしての成長はありません





屋根瓦式が良い教育であるという風潮がありますが、自分はあまり賛成できません


指導医が専攻医へ、専攻医が研修医へ、研修医が学生へ教えるという一方向ではなく、

学びは双方向性であるべきです



どんな人からも学ぶことはあります

置かれている立場によらず、学び合う姿勢が大事です



指導医も研修医や学生さんから学ぶことはたくさんあり、

指導医という名前自体が古いですね



理想の指導医は、自分の知らない知識や技術を教えてくれる医師ではなく、

共にunlearn(学びほぐし)してくれる医師です



unlearn(学びほぐし)とは、

これまで学んできた知識や価値観、思考の癖を意識的に捨てることで、

新たな学びや成長を促すプロセスを指します



本当にそうなのか?一緒に考えてみよう


自分はこれを「一周回る」と呼んでいます

結論は同じでも、一周回って考えることが大事な作業です



自分の周りには、一緒に一周回ってくれる仲間がたくさんいます


そんな仲間が書かれた本が、

「見逃されているかもしれない重要疾患の診療」です


知識だけでなく、大事なメッセージが溢れた学びの多い本でした



この本に出てくる疾患たちを診断することができれば、

患者さんの人生を変える事ができると思います



事実、この本の中の患者さんの人生は良い方向に変わっていったようです



初診外来は、患者さんの人生が変わる場所です


そう思うと、明日からも初診外来頑張ろうっていう気持ちになりますね





「國松の内科学」の正しい読み方

 最近、当院で流行りの勉強会があります それは・・・ 「國松の内科学を読んでツッコミを入れる会」 です 笑 今、巷を賑わせている話題の本ですが、 この本を一番、味わえる読み方をお伝えします 「國松の内科学」は一人で黙々と読んではいけません 一人で読むのは本来の読み方ではなく、 み...

人気の投稿