2025年5月7日水曜日

長大な脊髄病変に出会ったら

40代女性 主訴:左下肢の痺れ、歩行困難  ※症例は架空です

生来健康な会社勤めの方


現病歴:
来院の2週間前から背部痛や腰痛、季肋部周囲の痛みが出現

腹筋を始めたので、そのせいだと思っていた

その後も痛みが続き、夜間も眠れない程になった
だんだん、左足に痺れや感覚鈍麻が出てきた

近医整形外科受診し、ヘルニア疑いと言われ、
ロキソニン、リリカを処方された

痛みは改善したが、尿が出なくなった

リリカのせいと言われリリカを中止し、尿カテが留置された

リリカ中止した後も尿意を感じず、
歩くのも困難になってきたため、精査目的で来院


診察では四肢の腱反射が全て亢進しており、
バビンスキー・チャドック反射も見られた

下肢三重屈曲現象もあった

MMTは左腸腰筋が4、
他の左下肢のMMTは5-であった

感覚ではサービカルラインを認め、
Th1以下で痛覚・冷覚・触覚が低下していた

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緊急で撮像した単純MRIにて、
頸髄と胸髄に長大な脊髄病変が見つかりました

腰椎には病変はありませんでした


上記症状以外にヒントはありません

既往もなく、家族歴はありません
アルコール飲酒はなく、内服は何もありません

SLEやSS、RAを想起させるようなROSはありません
視覚や視野の異常もありません

皮疹もありません
血液では炎症反応上昇はなく、梅毒・HIVは陰性です

全身のCTでも特記すべきことはありません


この後、どのように診断を詰めていきますか?
治療はどうしますか?


ミエロパチーを疑った場合、
緊急で手術が必要になるような脊髄を圧迫している病変
(血腫・膿瘍・骨折・椎間板ヘルニア)がないかの確認が必要です


そのため、MRIが撮像されますが、
今回は圧迫病変はなく、脊髄内に病変を認めました



ミエロパチーの鑑別のためには

①発症様式と時間経過:超急性、急性、亜急性、慢性

②脊髄内の分布(短軸)

③病変の長さ(長軸)

が重要になります


脊髄の生検ができないため、
MRIでの画像所見と脊髄以外の病変、自己抗体から詰めていく必要があります




病歴の中でも時間経過は非常に重要です

いつも以上に詳細な病歴をとりましょう



脊髄病変は、原因が特定できないことも多々あります

その場合、病名は特発性横断性脊髄炎になりますが
特発性というためには、とことん調べる必要があります


さらに、最初に診断がつかなくても、
治療経過中に判明することもあり、診断の見直しが必要です


長大な脊髄病変の場合、まず想起する疾患はNMOSDです

NMOSDの診断には、抗アクアポリン4抗体が重要です

1週間くらいで結果が判明します


抗アクアポリン4抗体のELISA法は
コマーシャルベースで測定できるようになったことはありがたいのですが、
CBA法に比べると感度が低いという問題があります


そのため、ELISA法で陰性の場合は、CBA法で提出する必要があります


CBA法も陰性の場合、抗MOG抗体や抗GFAP抗体を提出するか検討します



MRIはできれば造影も行います

造影効果の有無でも鑑別が絞ることができます


各疾患ごとに分布や造影の特徴がありますので、
それぞれの疾患で見られる〇〇サインがないか確認します










脊髄サルコイドーシスの診断は非常に難しいです

ポイントは脊髄以外の部分のヒントを見逃さないことです

そして、診断のためには、
ヒントがなくても積極的にサルコイドーシスらしさを探しにいく必要があります

NCSや生検、ブロンコで診断がつくことがあります


まとめ
・長大な脊髄病変は、病歴、画像、抗体で鑑別していく
→特に造影MRIの読影が大事
 ステロイド前に血液と髄液をたくさんとっておく

・最初に診断がつかなくても、治療経過や時間が経てば診断がつくことがある
→常に診断の見直しを

・炎症性脊髄症と非炎症性脊髄症の鑑別は難しい
→特にdural AVFやサルコイドーシスは診断を間違いやすい


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長大な脊髄病変に出会ったら

40代女性 主訴:左下肢の痺れ、歩行困難   ※症例は架空です 生来健康な会社勤めの方 現病歴: 来院の2週間前から背部痛や腰痛、季肋部周囲の痛みが出現 腹筋を始めたので、そのせいだと思っていた その後も痛みが続き、夜間も眠れない程になった だんだん、左足に痺れや感覚鈍麻が出てき...

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