2019年9月10日火曜日

昼カンファレンス〜急にブルブル、本当に振戦?〜

発表者:お願いします、症例は84歳 女性で主訴は震えと高血圧です
    高血圧緊急症疑いにて、近医より紹介状持参で救急車で来院されました

    Profileは独居で、ADLフルで、毎日、日本酒1合ほど飲酒しています

司会:はい、ありがとうございます
   Profileというのは、よくも悪くも聴衆を誘導します
   アルコール多飲歴をここで入れてくるということは、
   アルコールがらみか!?って思ってしまいますよね

   ではまず、紹介状があるようなので、簡単に教えてもらっていいですか


発表者:はい
    もともと不眠や心窩部痛、頭痛の訴えはよくあったような人です
    今回は前日の夕方にいつもの頭痛と心窩部痛があり、よく眠れませんでした

    来院当日の朝、起きたら四肢の震えがあり、かかりつけを受診されました
    受診時、血圧が200/120と高く、高血圧緊急症疑いにて、
    救急車で当院搬送となりました

司会:では、来院時のバイタルを教えてください


発表者:意識はE4V5M6です
    血圧は193/97、脈は87、体温は36.7度、SPO2 は94%、呼吸数は22回でした
  

司会:はい、ありがとうございます
   では意識はしっかりしているようなので、何か聞きたいことがあればどうぞ


学生:頭痛はずっとあるんですか?

発表者:前日の時だけで、今はないです
    頭痛は毎晩あるそうです


司会:毎晩、ある頭痛ってちょっと変わってますよね
   何を思い浮かべますか

学生:えー、なんですかね。。。内分泌系とかですか
   
司会:そうですね、内分泌の中でも褐色細胞腫のspellとよばれる発作の可能性は
   少しは思い浮かべますね
   血圧も高いですしね
   ですが、実際はそこまで褐色細胞腫は疑いません
    
   他には、定期的に出現する頭痛といえば??


学生:・・・

司会:あとは、環境要因ですね
   例えば、豆炭こたつといってこの辺ではこたつの中に、
   豆炭という石炭みたいなものをいれて、暖をとります

   夜寒いので、こたつで眠ってしまうと、
   知らない間に一酸化炭素中毒になっているという、恐ろしい状況です

   まあ、今は暖かいのでさすがにないでしょう
  
   はい、では他に聞きたいことはありますか?


研修医Y:お酒はいつまで飲んでいたのですか?

発表者:2日前まで飲んでいました
    ですが、体調不良になって飲めなくなったようです
    昨日は飲んでいません


T先生:既往と薬を教えて下さい

発表者:高血圧、腰の圧迫骨折、ASO、不眠、便秘があり、近医通院中です
    薬はブロプレス、プレタール、アローゼン、芍薬甘草湯、ブロチゾラムです

    薬は自己管理で、しっかり内服していたとのことです
    あまり認知症がある感じはなく、しっかりしている方でした



司会:はい、ありがとうございます
   それでは皆さん、この時点でどう考えますか?

   高血圧緊急症でしょうか?
   早めに降圧しますか?
   そもそも高血圧緊急症って何ですか?


専攻医I:高血圧の異常高値と臓器障害がみられ、緊急で降圧しないと、 
    命に関わる病態です
    
司会:そうですね、有名なのは、脳症で意識障害を伴うことが多いです

   おそらく、近医の先生は血圧が高いので震えが起きていると
   考えて高血圧緊急症を疑ったのかもしれません


T先生:ここで難しいのは、高血圧が結果かもしれないという事です
    例えば、解離だったり、SAHだったり、脳梗塞だったりです
    なので高血圧緊急症を疑ったら、なぜ血圧が高いのかを考える必要があります
    
    高血圧緊急症として意識障害が起きているのか、
    脳梗塞で起きているのか、SAHで起きているのか、
    考えなければなりません

司会:いわゆる、にわとりと卵問題ですね

    
T先生:今回は血圧が高いことはあまり問題ではなく、震えを止めてしまえば、
    血圧も下がりそうなので、自分だったら早々にリボトリールを飲んでもらいます
    
    また意識に関してですが、EVMで表現されるとよくわかりません
    なので、見た目の感じがどうかということや文章で書くことをお勧めします

    EVMでは、実際のニュアンスを伝えきれません


    「振戦」の言葉の表現と一緒です
    「振戦」というと、その場の空気間や雰囲気が全て消し飛びます


    研修医の先生が振戦といって、見に行くとミオクローヌスのこともあります
    ミオクローヌスと振戦は実は非常に見分けにくいです

 




司会:その通りですね
   ミオクローヌスが連続すると、振戦に見えます
   実際はどんな感じでしたか?


発表者:口では難しいので、実演しますね

聴衆:(笑)

発表者:こんな感じで、四肢がぶるぶると震えていました
    時折、肩もびくっとなっていました

司会:はい、ありがとうございます


神経内科医:アジテーションはありましたか?

発表者:あまり興奮したり、そわそわしている感じはありませんでした
    意識状態としては、家族に聞いても同じとのことでした


司会:はい、ありがとうございます
   こういった不随運動系は実際にグラフにして、可視化することをお勧めします
   もしくは同意をもらって、ビデオをとらせてもらうことが確実です

   今回は震えの中に、どうやらミオクローヌス成分が入っているようですね




司会:では震えている人を見た時の考え方は皆さんの頭にありますか?
   
研修医Y:まずは悪寒戦慄じゃないかを確認したいです

司会:いいですね、その通りです!
   寒気があれば、悪寒戦慄の可能性が高く、
   血培必須になり、熱源を探して抗生剤を投与しないといけないですよね

   全然進む方向が異なります
   これがフローチャートの落とし穴で、進む報告をいったん間違えると、
   全然違う場所に行ってしまいます

   
   悪寒戦慄は救急隊から痙攣です!といって運ばれてくることもあります
   それくらい悪寒戦慄と見分けが難しい時もあります

   今回は寒気とかありましたか?

発表者:ありませんでした




司会:はい、ではこれらのことを踏まえて診察してみましょう
   一個だけしか診察できないとしたら、何を診察しますか?

学生:え・・・
   腹部の聴診をしたいです

司会:ほう
   それはどうしてですか?

学生:高血圧緊急症ということで、腎血管雑音を聞きたいです

司会:なるほど、そっちですね
   聞いてますか?

発表者:はい、特にありませんでした


司会:他に何かしたい診察はありますか


学生:脳神経系の診察をしたいです

発表者:脳神経は大丈夫でした


司会:ざっくりした質問に、ざっくりで帰ってきましたね(笑)
   他にはどうですか?

   ではわれらが部長、どんな診察をすればいいですか?


M先生:瞳孔や発汗の有無を見たいですね
 
司会:はい、ありがとうございます
   いわゆるトキシドロームで考えたいですよね
   (→トキシドローム参照)

   アルコールを中断しているので、離脱を考えます
   交感神経賦活もあれば、血圧もあがるでしょう

   ということで、どうでした?


発表者:瞳孔は3/3 対光+/+でした
    皮膚の発汗もありませんでした
    腸蠕動音も普通でした


神経内科医:パーキンソニズムを示唆するrigidityや小脳失調の所見はどうでしたか
     振戦の場合、ないことはないといっておいた方がよいので、
     他の神経診察も重要です

発表者:手足の動きは良好で、パーキンソニズムや小脳失調はありませんでした




司会:他の交感神経賦活している所見はないようですね
   ですが、まだアルコール離脱は否定はできません
   さて、実際、この後はどう対応しますか?

   ①高血圧緊急症として、降圧するか  
   ②よくわからないけど、とりあえずミオクローヌスが起きているので、
    リボトリール®いれてみるか
   ③アルコール離脱と考え、ワイパックスいれてみるか

   ですかね。  

T先生:この症例はミオクローヌスが起きていることが非常に重い

   振戦の鑑別だと、甲状腺とかになるけど、
   そういうのはミオクローヌスはあまり来ない
   一応はとるとは思うけど、ミオクローヌスとしての鑑別をすすめたほうがよい
   
   ということで、リボトリールを入れて、何が残るかを確認したいですね

司会:ありがとうございます、では実際はどうしました?

発表者:はい、実際はアルコールに伴う離脱と考え、
    ワイパックスをいれて様子みたところ、
    夕方には震えはおさまり、翌日もいつも通りお元気な姿になりました

    その後も入眠は良好で、今までの体調不良もなくなりました
    アルコールはもうやめるとお話しされていました


司会:ありがとうございます
   ではアルコール離脱?にともなう
   ミオクローヌスや振戦だったと考えているということでしょうか


発表者:おそらく・・・
    ですが、この症例は実は以前にもお酒をやめていないのに、
    同じ震えが2回あったようです
    いずれも、薬をつかってすぐにおさまったとのことでした


司会:ありがとうございます
   うーん、離脱にしても何か変ですね
   離脱だったら、見たら何か伝わるものがあります
   
   もしかしたら、ちょっと違いそうですが、
   高齢者の身震い様ミオクローヌスなのかもしれませんね



司会:はい、ありがとうございました
   震えと一言でいっても、もしかしたら悪寒戦慄?と考えたり、
   実はミオクローヌス?ということもありうるということを覚えておきましょう

   教科書をよむと、震え・振戦となるとすぐに
   安静時や姿勢時、企図時になったり、震えの早さはどうか
   という分け方になってしまい、ちょっと実臨床にあわないですよね

   現実のリアルなアプローチを知りましょう

   振戦は急性と慢性でアプローチが全然違います
   急性の場合は薬剤が圧倒的に多いです

   前医からの紹介や受診がある場合、プリンペラン®の投与をとことん確認しましょう


司会:知っておくとよいのが、口蓋振戦です
   ミオクローヌスとも呼ばれていました
   
   羽ばたき振戦も実は陰性ミオクローヌスです

   このようにミオクローヌスと振戦は本当に見分けることができるのか!?
   というくらい難しいです

   用語も混乱しています





まとめ
・血圧が異常に高くて何か症状がある人は、高血圧緊急症というより、他の疾患の検索が大事
→鶏と卵問題


・急に震え出した人をみたら、まずは悪寒戦慄ではないか確認


・震えは振戦とミオクローヌスの区別が難しい
→急に出現した場合、どちらも薬剤や物質(アルコール)を疑い、トキシドロームにあてはめて考える




尿崩症

昨日、コンサルトを受けました
尿崩症の人なんですけど、どうやって治療すればいいですかね?

ということでした

どんな患者さんかというと、もともと肺癌に対してキイトルーダ®を使用し、
その後、下垂体機能不全となり、コートリル®とチラージン®を服用している元気な
70歳男性でした

肺癌のフォローでとったCTにて、胆嚢結石と胆管結石が無症候性にみつかり、
予約入院でERCPを予定されていました

しかし予約入院より前に右季肋部痛と発熱があり、外来を受診され、
結果、胆管炎+敗血症性ショックでした

緊急で処置が行われ、NAやピトレシンを使って、循環動態を支えました
ステロイドはストレスドーズで増やしていました
幸い、経過は良好で、NAやピトレシンもday3には中止できました


しかし・・・

day3より急に尿が大量に出始めました
なんと、7000ml/日・・・


案の定、day4には、Naが180になっているではありませんか!
前日は140だったのに・・・


こういう時はラボエラーを疑いますが、Na180meq/mlも入っている補液は普通はないので、
やはり本物なのでしょう

一応、再検しますが、やはり180台


口渇も激しく、尿比重も低く、尿浸透圧も低く、
明らかに尿崩症になっています

さて、原因はなんでしょうか?



①キイトルーダ®による下垂体炎
②もともと服用していたステロイドが少なく、実は仮面尿崩症
③ピトレシン中止に伴うもの
④敗血症に伴うもの

といった鑑別が上がります


①でもいいのですが、このタイミングで!?って感じですよね
②はありえますが、もともとステロイド内服しているので、ちょっと変ですよね

③は病態考えるとありそうですが、実際はそんな報告知りません
④はありそうですが、やはりそんな報告知りません


ということで、③と④を調べるわけです


優秀な専攻医の先生が調べてくれました

③に関しては、ここ数年で症例報告があるではありませんか!
残念ながら日本からの報告はないので、本症例が本邦初でしょう


ピトレシンは敗血症性ショックで早期から使おうというムードになっているので、
今後注意すべき副作用で、知らないとかなりびっくりします

ピトレシンを使用した1896人のうち、中止後に尿崩症を来したのは、
1.53%だったという報告もあります
(Am J Respir Crit Care Med 2019;199:A3395)

他の報告では、2.6%というものもありました

ということで、何らかのショックや脳外科的な問題(SAHなど)に対して、
ピトレシンを使用し、ピトレシンを中止した後に、
100人いたら、1~2人は尿崩症を合併するようです


まあまあ多いですね


どうして報告例が全然ないのでしょうか
今後増える可能性大です

機序は中枢性であろうということは分かっていますが、正確な機序は分かりません
ステロイドの内服を突然中止したら、副腎不全になってしまうような機序が働いているのかと想像はしますが・・・


尿崩症になってしまった場合、再度ピトレシンの点滴をしたり、
点鼻のデスモプレシンを使用します
ただ症例数が少なすぎて、
これが一過性なのか、永続的に必要になるのかは分かりません




ちなみに④の症例報告もありました
(日集中医誌 2017;24:49-50.)


この症例はピトレシンの使用はありませんでした

なので、敗血症で尿崩症が惹起されたのか、ピトレシンの中断のせいなのかは、
まだ議論が残るところです


今後の症例報告を待ちたいと思います

バソプレシン中止後尿崩症まとめ
・知らないとびっくりする
→知っていると慌てない


・バソプレシン使用後、1-2%の頻度で尿崩症が起こる
→中止後はNaや尿量に注意を


・尿崩症に対しては、ピトレシン点滴や点鼻のデスモプレシンが必要
→一過性か、永続性か分からない

参考文献:J Clin Pharm Ther.2017;1-4.
        日集中医誌 2017;24:49-50.
     Am J Respir Crit Care Med 2019;199:A3395

敗血症の空間軸

  敗血症はどの科で、どのような場所で勤務していても、出会う超重要疾患である。 適切なマネージメントで予後が変わるため、 研修医であっても 少なくとも初期対応については精通している必要がある。 敗血症診療は研究が盛んであり、数年前の知識が時代遅れになりかねない。 常にアンテナを立...

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