2026年6月8日月曜日

敗血症の空間軸

 
敗血症はどの科で、どのような場所で勤務していても、出会う超重要疾患である。

適切なマネージメントで予後が変わるため、 研修医であっても

少なくとも初期対応については精通している必要がある。


敗血症診療は研究が盛んであり、数年前の知識が時代遅れになりかねない。

常にアンテナを立て、時代と共に知識をupdateしていく必要がある。


本項では敗血症及び敗血症性ショック2026年版国際ガイドラインに沿って、

敗血症を空間軸(感染症としての視点)と

時間軸(フェーズによる視点)で解説する。    


(ちなみに文章や図は全てAI未使用です 笑)



(1)敗血症の総論と早期発見  

(2)敗血症の空間軸  

(3)敗血症の時間軸      



(1)敗血症の総論と早期発見  

敗血症とは「感染に対する反応の調節不全による、生命を脅かす急性臓器不全」と定義されている。


世界中で年間1300万人が敗血症で命を落としており、

早期の診断と治療が予後改善には重要である。


生命予後だけでなく、身体的・認知的・精神的な後遺症を引き起こす可能性があり、

単一臓器だけでなく多臓器・全身管理(リハビリ、栄養)が求められ、

医師だけでなく多職種との連携も非常に重要になる。   


 敗血症の診断はあくまでも臨床診断であり、

「発熱があるから、CRPが上がっているから」という単純なものではない。


早期診断のために様々なツールが開発されてきた。

SIRSに始まり、qSOFA(quick Sequential OrganFailure Assessment)、

NEWSなどがある。


院内の急性疾患患者に対してのスクリーニングツールとしては、

qSOFA単独ではなくNEWS、NEWS2、MEWS、SIRSを組み合わせて

使用することが推奨されている。


また2026年のSSCGからは「コード・セプシス」または「セプシス・ハドル」

という言葉も加わり、スクリーニングが陽性となった後、

多職種がチームを組んで敗血症への対応を迅速に進めるための

プロトコルが提案された。  


敗血症治療はガイドラインに沿って治療を行えば大きな間違いはないが、

ガイドラインはあくまで「レシピ」であり、

一人一人味の好みが分かれるように敗血症の治療も

症例ごとにアレンジさせる必要がある。


初期輸液後の輸液をどうするか、MAPの目標はどうするか、

ステロイドはいつ入れるか、いつ水をひくか、

など個別の症例によって最適解は異なる。


昨今、敗血症だけでなくどの分野でも、

同じ病名・病態であっても患者毎に治療を変える個別化医療や

精密医療が提唱されている


俺流治療に固執するのではなく、

患者毎に治療を変える柔軟性が求められている。  




  (2)敗血症の空間軸  

敗血症は言うまでもなく、感染症が原因である。

そのため、感染症の5原則に則って考えていく。  


感染症の5原則とは 

 1 患者背景  2 感染臓器・部位  3 原因微生物  

 4 治療  5 適切な経過観察    の5つである。  




1 患者背景  

感染症、ここでは敗血症を疑った場合、まずは患者背景を確認する。


5原則の中でも最も重要なのが患者背景である。

患者背景が大事と言われても漠然としているため、

免疫・曝露・余力の3要素を考えると良いであろう。   


 (1) 免疫

局所免疫(皮膚バリア、粘膜、線毛機能、管の流れ、解剖学的な破綻など)、 

薬による免疫低下(ステロイド、免疫抑制剤、抗がん剤、Jak阻害薬、生物製剤など) 

 疾患による免疫低下(血液腫瘍、糖尿病、透析患者、肝硬変、AIDSなど)  

細胞性免疫、液性免疫、自然免疫など  


(2) 曝露

人(シックコンタクト:空気感染、気道感染、性行為、接触感染)  

動物(ペット、ネズミ、鳥、魚類、爬虫類など)

食物、職業  環境(長期入院、施設、透析、刑務所)、海外渡航  


(3)余力

バイタル、背景疾患、PS、ADL、年齢、栄養状態、SOFA、qSOFA   


 患者背景ではこれら3つの情報収集を行うことで今後の感染部位や微生物の推定につながり、治療をどうするかにも関わってくる。


逆にこれらの情報が全くない場合、

感染症診療は格段に難しくなる。  



2 感染臓器・部位   

次に考えるのは、感染している臓器や部位、いわゆるフォーカスである。


敗血症の原因となりやすい臓器や部位は、5+1で覚えると良い。


中枢神経(髄膜炎)、肺(炎)、腹部(胆管炎、消化管穿孔)、

尿路(腎盂腎炎、前立腺炎)、皮膚軟部組織感染症の5つと、

感染性心内膜炎の1つである。


感染性心内膜炎(Infective Endocarditis:IE)はIEと略されることが多く、

IEのIが1に似ているため、このように覚えておく。


そして、フォーカスはないが、いきなり血流感染を起こすことが

小児や高齢者では珍しくなく、血流感染として0.5として覚えておく。


この概念は臨床で非常に有用であり、高熱・悪寒戦慄があり、

菌血症を疑う状況でフォーカスがなければ、逆に鑑別は絞られる。

いきなり菌血症パターンである。


その場合、原因微生物は連鎖球菌やブドウ球菌、

消化管からのGNRであることが多い。


感染部位の探し方は、まずは5+1を検索する。


中枢神経感染症(髄膜炎)は頻度は低いが、早期治療が重要であり、

ステロイド投与や抗菌薬の選択や投与量にも注意が必要なため、

一番最初に想起すべきである。


qSOFAの1項目である意識障害が当てはまった時点で、

ただ点数1点が加わっただけと思わず、

髄膜炎の可能性はないかを常に考える必要がある。


しかし、意識障害は他の感染症や敗血症でもみられ、

意識障害の患者全員に髄膜炎として対応するのは現実的ではない。


実際は髄膜炎対応をしないのであれば、

どうして髄膜炎対応しないのかの理由を説明でき、

どうなったら髄膜炎を再検討し直さなければならないか、を考えておく必要はある。

5+1の感染臓器でなかった場合は、さらなる検索が必要になる。


5+1が突破された時は・・・

①一手間かかる診察

(頭の先からつま先までチェック、穴のチェック:特に直腸診、叩く:脊椎、季肋部、歯、副鼻腔)


②検査に頼る

(造影CTで膿瘍探し、迅速キット、フィルムアレイ、培養、画像など)


③時間に頼る(時間が経つと病気が進行し、感染部位が明らかになることが多い、例:キャンピロバクター腸炎、椎間板炎、感染性心内膜炎)    


このようにまずは、疫学を利用し5+1で考え、

5+1が突破されたら次の3ステップで感染部位を探す道筋があれば、

感染臓器が判明しなくてもパニックにならずに済む。  



  3 原因微生物  

患者背景と感染部位がわかっていれば、原因微生物の推定は容易である。


感染症の原則は1→2→3→4→5の順に、しっかりした情報があればあるほど、

次のステップが容易になる。  


病歴や疫学情報(国、地域、生活範囲)を駆使し、

迅速キットやグラム染色を用いて原因微生物を推定する。


敗血症を疑った場合、血液培養2セットを出来るだけ早く採取し、

いつでも抗菌薬を入れておける準備をしておく。


血液培養の他に感染源と思われる部位からの検体採取を行う。

関節炎であれば関節穿刺を行い、褥瘡からの皮下の膿瘍があれば膿瘍を採取し、

肺炎であれば痰をとる努力を惜しまない。


常に血液の他に取れる検体はないか、という精神が重要である。


経過が早すぎる病歴でも原因微生物を推定できる。


「昨日元気で今日、ショック症候群」

という青木眞先生が注意喚起している病態である。


TSS:toxic shock syndrome, STSS:streptococcal toxic shock syndrome

髄膜炎菌敗血症、感染性心内膜炎(特に黄色ブドウ球菌)

リケッチア感染症

肝硬変症患者での劇症感染症(Vibrio vulnificus、Edwardsiella tarda、aeromonas hydrophila)

overwhelming postsplenectomy infection:opsi(脾機能低下患者の髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、Capnocytophaga)

劇症型Clostridium perfringens(ガス壊疽菌)感染症などである。


あまりにも急激な経過で悪化していることが判明した場合は

これらの病態を想起する。


これらがどれくらい早いかというと、

CRPが上がっていなくてもショックになるくらいの早さである。    


4 治療

敗血症に限らず、感染症の治療の一番は抗菌薬・・・ではない


ドレナージやデブリードマンといった

外科的に感染源のソースコントロールを行うことである。


抗菌薬の投与と同時並行にドレナージや除去するべきデバイスはないか、

緊急手術が必要な病態(下部消化管穿孔、心不全を伴うIE)ではないか、

確認しておく。


ドレナージは早ければ早いほど良いが、6時間以内が推奨されている。


抗菌薬は敗血症性ショックや敗血症(ショックなし)の可能性が高ければ

1時間以内に投与することが推奨されている。


抗菌薬の選択は患者背景や感染臓器、微生物が推定できていれば容易であるが、

攻め過ぎも良くない。


抗菌薬の選択ミスは患者の予後不良因子であり、

「narrow is beautiful」と言っていられない時もある。

勝つことよりも絶対に負けないことの方を優先させる。


同じ病態であっても患者背景や重症度によっては、

エンピリックにいかざるを得ない時もある。


バイタルが不安定で感染臓器が不明な場合や検体採取が困難な場合でも

血液培養さえとってあれば、エンピリックな抗菌薬の投与は許容される。


血液培養の結果を確認し、後でde-escalationすれば良い。


エンピリックといっても、どこまで広げるかは、

患者背景(免疫、曝露、余力)、感染臓器、感染部位による。


最初から嫌気性菌やMRSA、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌、

細胞内寄生菌、抗酸菌、真菌をカバーするかどうかは症例ごとに考える必要がある。


そして抗菌薬を開始した際には、

どの菌を外しているかを確認しておく。 


 2026のSSCGではβラクタム系抗菌薬の持続投与が強く推奨に変わった。


18のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析により、

持続投与は短期間の死亡率を有意に低下させることが示されたが、

全例で行うかは検討が必要である。


個人的には実装されるにはしばらく時間がかかると思われる。


持続投与の研究はカルバペネムやタゾバクタム・ピペラシリン、セフェピムなどの

半減期の短いβラクタム系抗菌薬がメインである。


何でもかんでも持続投与が良いというわけではなく、

投与している抗菌薬の持続投与の研究があるかは見直した方が良い。


バンコマイシンは一見良さそうではあるが、

『日本版敗血症診療ガイドライン2024 (J-SSCG 2024)』では、

バンコマイシンを含むグリコペプチド系抗菌薬の持続投与

(または投与時間の延長)については、「行わないことを弱く推奨」されている。


2026のSSCGでは言及はなかった。  


持続投与でなくても、extended(投与間隔の半分以上かけて投与、

例:8時間毎の投与であれば4時間以上かけて投与)でもよいので、

まずはextendedで投与するのが良いだろう。


有害事象としてはルートを占領することや他の薬剤との配合変化、

せん妄のリスクがある。


注意点としては、持続投与の前にローディングとして初期負荷を行うこと、

投与期間が長くなることで効果が減弱する薬(特にメロペネム)がある。


実際は施設ごとに薬剤師・看護師ともに持続投与の方法を確認してから行う。    



5 適切な経過観察  


それぞれの項目(患者、感染部位、微生物、治療)を経過観察していく。


患者背景ではバイタル、食欲、臓器障害を確認する。


感染部位では診断する根拠となったもの

(例:肺炎であればcrackleや湿性咳嗽、頻呼吸、CXR)を追っていく。


微生物ではグラム染色で菌は減量・消失しているかを確認し、

黄色ブドウ球菌やStaphylococcus lugdunensis、カンジダであれば、

血培の陰性化を確認するため、血培を再検する必要がある。


血培再検のタイミングは初回血液培養から24時間以上経過後、

通常は2〜7日以内に実施される。


GNRでは血培の陰性化の確認のための血培再検は必須ではないが、

ケースバイケース(状態が改善しない、デバイスが入っている、除去できてない膿瘍がある、感染性心内膜炎疑いなど)で検討する。


それぞれの感染症ごとに治癒過程はある程度決まっているが、

その治癒過程に沿わない経過を辿る場合には、再評価が必要になる。


敗血症性ショックであれば、輸液のフェーズのROSDが逆戻りした場合や

先に進まない場合は合併症(デバイス感染、膿瘍)や薬の副作用、

他のトラブル(心筋梗塞、肺塞栓、出血、副腎不全)を考慮する。


感染症が治っていく過程は実際の臨床現場でしか学べないので、

しっかり患者さんから学ばせていただく。


(3)敗血症の時間軸









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