2020年9月24日木曜日

肝蛭症 〜出会いそうで、なかなか出会えない疾患〜

 肝蛭吸虫症は聞いたことはあるけど、

実際に患者さんをみたことがある人は少ないのではないでしょうか


今年の5月のNEJMのclinical problem solvingに肝蛭症の症例があったので、

まとめてみました


症例を読むと、いつでも出会う可能性がある疾患だということがわかりました

これからはアンテナを張っていようと思います



寄生虫といえば、川のかにを食べたり、生肉を食べたりして、

発症するイメージがありますが、それだけではありません

肝蛭はクレソンにくっついており、
生のクレソンを経口摂取することで感染します





もともと肝蛭は、牛や羊といった哺乳動物の肝臓の中にいます
そこから虫卵が胆管を通り、消化管から排泄されます

排泄された虫卵は川の中でミラジウムに発育し、
中間宿主である貝の中に侵入します

中間宿主の貝は、欧米と日本で異なります
欧米の貝は水陸両棲であり、陸地でも大雨の際には大繁殖するため、
肝蛭症が流行することがあります


貝の中で発育しセルアリアになって、水草にメタセルカリアの状態で付着します
with メタセルカリアのクレソンを生で経口摂取することで感染します


肝蛭症は日本では稀ですが、ヨーロッパやオーストリア、南アメリカではコモンな感染症です
毎年1700万人が感染しており、ほとんどがヨーロッパでの発生です

ヨーロッパでの発生の多くがクレソンのサラダが原因です
肝蛭症を疑った場合は、数ヶ月前の渡航歴も大事になります


日本でもクレソン摂取で発症した症例の報告はありますので、
クレソンを生で摂取する習慣があるかも聴取する必要があります


感染牛の飼育によって虫卵に汚染された藁から感染する例もありますので、
職業も重要になります



肝蛭が経口摂取された場合、小腸に到達した時に脱嚢して腸管壁を貫いて、
腹腔内に迷入します(その時に激痛が走るそうです)


そして肝臓を目指して移動します
時に肝臓にたどり着かず、変な場所で見つかる例もあります


肝臓が居心地がいいようで、肝臓にたどり着くと肝表面から肝臓の実質に侵入していきます
そして肝実質を根城にして、住み着きます


体も黙ってはおらず、好酸球を動員して、やっつけようとします
すると肝膿瘍のような状態になりますが、肝蛭は逃げ出します

そうすると肝膿瘍が移動するように見えるので、
移動する肝膿瘍をみたら肝蛭症を疑います




感染が成立して3ヶ月ほどすると、肝蛭は成長して虫卵を産むことができるようになります

胆管まで浸潤していくと、胆管に虫卵が排泄され便にも虫卵が確認されます


そのため、肝蛭を疑って便の虫卵検査を行っても陰性になってしまうことのは当然です

虫卵検査で証明することは難しく、今は抗体検査で証明することが多くなっています


治療はトリクラベンダゾールを使用します


まとめ

・肝蛭症が見つかる際には、発熱や右季肋部痛、体重減少といった非特異的な症状で発症してくることが多い


・好酸球が著明に上昇することもあり、原因不明の好酸球増多で見つかることもある


・肝蛭症はヨーロッパやオーストラリアへの海外渡航歴やクレソンの摂取歴があればより疑わしい







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