2021年5月1日土曜日

腹水 〜原因不明になりやすいもの〜

腹水のアプローチ

まずは疫学を知っておくことが有用です

ほとんどが肝硬変です
そして、癌、心不全、結核と続きます


胸水と同様に性状を見てみないと原因がわからないことが多いので、
腹水の原因精査のためには、腹腔穿刺が必要になります


腹水は胸水とは違って漏出性と滲出性で区別するというよりは、
門脈圧が亢進しているか、していないかで大別されます


血清のAlbと腹水のAlbを引いたSAAGと呼ばれる値で分けることができます





腹腔穿刺は基本的な手技であり、しっかりと身につけておく必要があります

超音波で安全に穿刺できる部位を探して、穿刺を行います

垂直に刺してしまうと、刺した部分から腹水が漏出してしまうことが多いので、
角度をつけるか、皮膚を尾側に引っ張りながら穿刺を行います



原因不明の腹水

上記のように腹腔穿刺を行い腹水の検査を行います
Alb、TP、培養、細胞数、などなど・・・


ですが、これらの検査でも原因がわからないことがあります

そのような腹水のことをascites of unknown originと呼びます


それでも時間が経てば原因がわかることもあります

当初は原因不明でしたが、最終的に判明した原因は、
腹膜癌腫症(癌性腹膜炎)が半分以上を占めていました
次に多かったのは結核性腹膜炎です


癌が原因であった場合、なんの癌を探すのが効率的かというと
卵巣、子宮、乳がん、大腸癌、胃癌、膵癌です

つまり多くは消化器系か婦人科系の癌です


悪性腫瘍関連腹水における細胞診の診断感度は58~75%とされており、
細胞診で問題ないから、癌が原因ではないとは言えません
Acta Cytol 1966;10:455-60. 30.
Acta Cytol 1993;37: 483-8. 


細胞診でわからない場合の次の一手は、腹膜生検です





原因不明になりやすい腹水

不明熱と同じようなカテゴリーです
感染症、腫瘍、自己免疫・炎症性疾患にわけられ、
原因も不明熱とほぼ一緒です


結核、リンパ腫、TAFRO、SLEなどです


それぞれ疑うきっかけとピットフォールがあるので注意が必要です



結核


結核性腹膜炎は
原因不明の腹水でリンパ球優位であり、SAAGが1未満の時は全例で疑ってください


さらにADAが高値であれば、可能性はUPします


培養は感度が低く、結核菌を証明することが非常に難しいため、
最終的に腹膜生検が必要になることもあります

腹膜生検が難しい場合は、診断的治療も考慮されます


血清や腹水中のCA125は高値になることが報告されています
CA125が上がっていたからといって、卵巣がんや腹膜がんという診断にはなりません


uptodateにもこう書かれています

Testing serum for CA125 is not helpful in the differential diagnosis of ascites. 
 Its use is not recommended in patients with ascites of any type.」


CA125が上がっていると、誤診につながる恐れがあり、
著者らはCA125を測定すべきではないと言っています




腫瘍関連


腫瘍関連の腹水は6つの機序があります (by up to date)

・腹膜癌腫症 (peritoneal carcinomatosis:日本では癌性腹膜炎と訳される) 53%
・門脈圧亢進症を引き起こすほど広範囲な肝転移  13% 
・腹膜癌腫症と大量の肝転移  13% 
・肝細胞癌と肝硬変  13%
・悪性腫瘍(通常はリンパ腫)による乳び腹水  7%
・肝静脈を閉塞する悪性腫瘍によるバッド・キアリ症候群  稀



細胞診が陽性になるのは、腹膜癌腫症(癌性腹膜炎)の場合です
腹膜癌腫症だけに限れば、細胞診の感度は100%とともいわれます



ですが、他の機序があるため、腫瘍関連の腹水の細胞診は感度は100%ではありません
他の原因の場合は、細胞診が陰性になります


HCCの場合、腹膜播種は稀で、腹水の細胞診ではHCCは診断できません


腫瘍の中でも診断が難しいのが、腹膜中皮腫、腹膜がん、リンパ腫です



中皮腫

アスベストの暴露歴がない場合もあり、非常に診断が難しいです

特に腹膜中皮腫の腹水細胞診は正診率5-13%と非常に低く、
細胞診の形態評価だけでは、腺癌や卵巣がんなどと区別が難しいです


そのため、フロサイトメトリーや免疫染色が追加で必要なこともあり、
最終的には腹膜生検が必要なことがあります



腹膜癌

腹膜がんは、腹部の一部または全体を覆っている腹膜と呼ばれる組織から発生する腫瘍と考えられています
最近では、卵管上皮から発生する上皮内がんがもととなっているという見方がされています

卵巣や卵管に原発がない場合にのみ、腹膜原発と診断されます


卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版 第5版



腫瘍の性質は卵巣がんに類似しており、腫瘍細胞の組織学的診断では、
ほとんどが卵巣がん同様に漿液性腺がんに分類されます


治療も卵巣がんに準じて行われます

他の腹膜癌腫症は予後が非常に悪いですが、腹膜癌の場合、寛解すれば長期生存が見込めます


頑張って診断・治療する価値のある腫瘍です



悪性リンパ腫


悪性リンパ腫は通常、塊を作る腫瘍ですが、
primary effusion lymphoma(PEL)は腫瘍細胞が体腔内に貯留した滲出液内で浮遊し、増殖するタイプのリンパ腫です


HHV8が発生に関与しているといわれておりましたが、
日本ではHHV8陰性で、高齢発症のPELが増えております

腹腔内だけでなく、胸腔や心嚢腔内にも発生します



高齢者に多いので、ケモができない可能性もありますが、
ステロイド単剤でも治療効果が出ることもあるようです





日呼吸会誌 49(12),2011




自己免疫・炎症性疾患


SLEはどんなプレゼンテーションもあり得るので、とりあえず考えますが、
腹水だけというのは流石に稀です

POEMSやTAFROも腹水は出ますが、他の症状もガンガンにありますので、
あまり原因不明になること少ないと思います


ここに属する疾患群は、腹水以外に注目することが必要です


腹水は所詮パズルの1ピースに過ぎないことが多いです


まとめ
・腹水の鑑別はSAAGからはじめよ
→門脈圧亢進しているのか、していないのか


・原因不明になりやすい腹水を知っておく
→行き着く先は、結核性腹膜炎や腹膜癌腫症
 悪性腫瘍関連では、中皮腫やPEL、腹膜癌に注意


・最終的には腹膜生検が切り札

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