カレーが原因っぽいが、当たったものとはなんだったのか・・・
僕は全く思いつきませんでしたが、現場ではgoogle先生にコンサルトして、
ナツメグ中毒の可能性を考慮されたようです
ナツメグ中毒????
カレーにそもそもたくさんナツメグ入れないんじゃないか?
普通に毒素性の食中毒じゃないの?
・・・などなど総ツッコミがなされましたが、
正直、聞いたことありませんでしたので勉強して見ました
ナツメグ中毒
ナツメグはスーパーにも普通に売っており、非常にアクセスしやすい香辛料です
ハンバーグをはじめとした肉料理などの香辛料として使用されます
ただ、分量を間違えたり、子供が誤って大量に摂取してしまうと中毒症状を引き起こします
近年では、TV番組でもとりあげられており、一般の人の方が認知度は高いかもしれません
ナツメグの中のミリスチシンやエリミシンの代謝産物が、
MAD阻害作用や覚醒剤様作用を引き起こし、中毒症状が出現します
トキシドロームの中では、抗コリン作動性クリーゼの症状に類似することもあるようです
精神症状も多く、幻覚や興奮、不安といった症状が見られることもあります
中毒症例は、興味本位で幻覚作用を求めて使用した例や自殺目的で使用した例など、
中毒になる理由は様々です
意図していない人と、意図して摂取した人では、
重症度は意図して摂取した人の方が重いです
興奮作用や幻覚作用を求めたり、自殺しようとしているので、
摂取量が多いためと思われます
世界的には2例死亡例がありますが、一例は子供で、
もう一例はフルニトラゼパムも一緒に内服している症例で、どこまでナツメグ中毒が死因に影響しているかは不明確です
現在までに、1世紀に1人の割合でナツメグ中毒で死亡しています
難しいのは、ナツメグ中毒を疑うことと、確定診断することです
①トキシドロームの視点から疑う
救急外来にいつもと様子が変な人が来たら、何か薬の中毒ではないか?もしくは離脱か?
と疑うことは非常に重要です
その後はトキシドロームの観点から、
抗コリン性か、コリン作動性か、交感神経賦活系かを見極めます
場合によっては、トライエージを行うこともあるかもしれません
その時に、どれとも言えないトキシドロームで、トライエージでも何も引っ掛からず、
食事以外に何も摂取していないというアリバイがある時は、
ナツメグ中毒を疑って、食事の内容を確認してください
手作りハンバーグやスパイスましましカレーなどは、注意が必要です
このパターンの場合は、意図していない摂取ですので、
こちらからしっかりと病歴を聴取する必要があります
②自殺企図や興味本位で大量に摂取した場合
本人が申告してくるパターンです
この場合は、診断が容易なので不整脈に注意しながら、輸液して経過観察していれば、
自然に改善してくると思われます
問題は他の薬を一緒に摂取していないかです
ナツメグはレクリエーショナルドラッグとしての側面があるため、
同時に大麻や覚醒剤、危険ドラッグなどを摂取している可能性を考慮します
前述したトキシドロームという概念は中毒診療において、非常に重要ですが、
落とし穴があります
それは、同時に他の薬剤や農薬、違法薬物などを摂取している可能性があるということです
いろんな作用のある物質を同時に摂取することで、既存のトキシドロームにスッキリ分類できないことがあります
③毒素性の食中毒やスコンブロイド中毒、食後のアナフィラキシーと、
診断しそうになった時に考える
これらの共通点は、
食後数時間で嘔吐や皮膚紅潮、頻脈などの症状で発症し、自然軽快するというところです
アナフィラキシーも軽いものは自然に良くなります
この場合も食事内容の問診が重要になります
魚の場合は、スコンブロイド中毒やアニサキスによるアナフィラキシー
ハンバーグなどの肉料理やカレーの場合は、ナツメグ中毒
おにぎりの場合は、ブドウ球菌の毒素性の食中毒
作り置きのパスタやチャーハンは、バシラスセレウスによる毒素性の食中毒
どれも症状は類似しているので、食べたもので鑑別の優先順位をつけていく必要があります
そのため、報告例が多くありませんが、実際は見逃し例が多そうです
確定診断のゴールデンスタンダードはなく、
血清もしくは尿のミリスチン濃度測定によって、傍証になる可能性はありますが、
日本では行われていません
やっぱり、病歴が大事ですね
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今回の症例の結論はわかりませんでしたが、輸液で自然軽快していますので、
③のパターンでした
トキシドローム的には、
縮瞳や身の置き所のなさや顔面紅潮は、抗コリン性の症状だったのかもしれません
カレーにナツメグがどれくらい入っていたかわかりませんでしたが、
これまで食べたことのないくらいスパイスがきいていたとのことでした
あながち、身近に潜んでいるのかもしれませんね、ナツメグ中毒
隠し味にご注意です
まとめ
・ナツメグ中毒は見逃されている可能性が高い
→ナツメグ中毒を疑う3パターンを知っておく
・食事後の嘔吐や具合が悪い人の場合、食事の内容をより詳しく聞く必要がある
→どこで買ってきたものか、手作りか、料理に香辛料としてナツメグを入れていないか、まで聞かないと診断できない
・自分が知らない病気だからといって、すぐに否定しない
→「無知の知」を知る機会を与えてくれた研修医の先生に感謝です
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