2021年8月1日日曜日

朝カンファレンス 〜大動脈解離じゃなかった時に考えること〜

 80歳女性 背部痛を主訴にwalk inで来院された方です

(一部、症例は加筆・修正を加えてあります)



病歴までのポイントとしては、

・就寝中に発症していること

・安静時にも痛いこと

・動作で悪化すること

・嘔吐や吐き気を伴っていること

・血圧が高いこと

・冷や汗を伴っていること


ですね


明らかに血管イベントを疑います

ですが、体動で悪化するというのは、筋骨格系の特徴ですね

吐き気や嘔吐は消化器病変を匂わせます


ただし、

吐き気や嘔吐は自律神経の問題や感染症、迷走神経刺激などでも起こるため、

直接、消化器病変と結びつけることはできません


冷や汗や吐き気は重症病態であるという認識でいましょう


病歴で鑑別は何になりますか?どんな身体診察をしたいですか?



鑑別はたくさん出てきますね
中でも大動脈解離と心筋梗塞は絶対に除外したいです

血圧の左右差や心雑音を聴取します

一方で筋骨格系の病変も鑑別であり、脊椎の巧打痛や神経診察も重要になります

研修医の先生の脊椎巧打痛をみていると、みなさん優しいので、
巧打が甘い人が多いです

がっつり脊椎に響かせるように叩いてOKです
(骨粗鬆症が強いおばあちゃんの場合は優しくしてください)


脊椎巧打痛で痛みがあれば、次は打腱器を使って脊椎を一本一本叩きます




身体所見や血液検査、USでは原因がわかりません


造影CTを撮るしかありませんが、読影依頼になんて書きますか?

ここでセンスが出ます

放射線科の先生に怒られないように、しっかり書きましょう



書き方としては、症状の発症様式、経過、痛みの部位、
狙っている疾患は最低限記載することが重要です

病態を予想できる書き方を心がけましょう




造影CTでは、大動脈解離はありませんでした

膵炎、胆石、腎梗塞、尿路結石もありませんでした


造影CTをとっても原因不明です

どうしましょうか?話し合ってみましょう





はい、症例の経過としては、痛みは軽快したため、帰宅となっております
その後、再診となり、MRIが撮影されC5-6の脊髄硬膜外血腫と診断されました

幸い麻痺は出現せず、保存的加療で軽快し退院となりました


今回の症例を通じて、みなさんと考えたTake home messageです


great mimicker

脊髄の硬膜外血腫は診断が難しく、他の疾患を真似るgreat mimickerです

ある報告では、一度目の外来受診で診断されたのは、半分だったようです

特に、麻痺がなく痛みだけの場合は診断が遅れることが多いです



治療の反対側

他にも脊髄硬膜外血腫はピットフォールがいっぱいあります

麻痺があった場合、脳梗塞と誤診されやすく、
tPAやヘパリンが投与されてしまったという報告が多々あります


このように治療が反対側にある疾患は常に意識することが重要です

PMRを疑った時は、IEが治療の反対側にいます
脳梗塞を疑った時は、頸髄硬膜外血腫が治療の反対側にいます

治療の反対側の疾患は何か?を意識していると、見落としが減ります


徐々に悪化する疾患群でもある

脊髄硬膜外血腫は、時間とともに神経症状が出てきます

帰宅後に悪化した場合、家族からすると「病院に行ったのに!?なぜ??」となります
訴訟になりやすいのが、後々悪化する疾患群です


椎骨動脈解離:頸部痛→神経症状
くも膜下出血:軽い頭痛→ひどい頭痛

稀な疾患ではありますが、大動脈解離を疑った場合は、
いつも脊髄硬膜外血腫を思い出しましょう



そういえば、もう一つ、やばい疾患があったな・・・と

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