2021年10月13日水曜日

造影CTがnegativeだった時の背部痛の鑑別疾患 

 症例 80歳 女性 主訴:背部から脇腹の痛み(※症例は修正・加筆を加えてあります)

Profile:ADLフルで認知症もない80歳女性

現病歴:来院の2週間前に頸部痛があり、整形外科受診 

    血液検査にて炎症反応上昇あり

    フロモックス、セレコックス、レバミピド、ミオナールが処方された


    来院2日前、背部から右頸部の痛みを主訴に来院 

    血液検査で炎症なし

    大動脈解離やACS疑いにて、造影CTや心電図が施行されたが、問題なし

    筋骨格系の非特異的な痛みとして、カロナールが追加となり帰宅となった


    来院当日、背部痛が持続し両側の脇腹(両側の肋骨下)の痛みがあり受診



既往:高血圧、骨粗鬆症

内服:アムロジピン、アクトネル

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ディスカッション①1stインプレッションは?


T「はい、高齢女性の背部痛と両側脇腹の痛みですね。

  片側の脇腹の痛みだったら、帯状疱疹ですね〜で終わってしまいそうですが、

  今回は両側です。

  他に聞きたいことある人いますか?」


学「痛みはどんな始まりましたか?」


R「2日前の朝起きた時からのようです」


学「ありがとうございます。」


T「いい質問だね。痛みのonsetを聞いてくれた質問です。

  ただ、ここはもう少し突っ込んで聞いてみようか。

  例えば、朝起きた時っていっても色々あるよね。


  朝、布団で目が開いた時に痛かったのか、 

  起き上がった時に痛かったのか、

  起きてトイレに行った時に痛かったのか、

  朝食後に痛かったのか、

 

  全部、朝起きた時に痛みがありました。になってしまうよ。」


学「確かにそうですね。」


R「朝、着替えをしているくらいから痛みが出てきたようです。」


T「わかりました。ありがとうございます。

  痛みの問診の型はみなさん持っていますか?

  なんでもいいですけど、教えてくれた師匠の先生の型でいいです。(笑)

  自分はOPQRST2派なので、それでやってきました。

  あとは痛みの図を描けるように問診をしなさいと言い続けています。


  さて、今回は・・・」


T「こんな感じですね。

 痛みは2日前の朝起きた時からあって、

 基本的にはずっと続いているようです。


 あんまり増悪寛解因子はないようですね。

 他に随伴する症状もないみたいです。


 痛みはつっぱったような、チリチリするような感じらしいです。

 痛みの部位は両側の季肋部?肋骨弓下くらいのようですね。


 あんまりみなさん重要視していない気がしますが、

 その症状のせいでどれくらい日常生活が妨げられているか?

 というのは、非常に大事な質問です。

  

 この人はどうでしたか?」


R「痛みのせいで、布団から出られないそうです」


T「それはやばいね。重症だ。

  Disabilityといったりしますが、その症状の重症度の参考にもなります。


  さて、では診察をするのですが、鑑別は何が上がりますか?」


学「えっと、帯状疱疹とかですか・・・

  あとは、神経根が圧迫された症状とか・・・

  他には思いつきません。」


T「そうだね。

  問診っていうのは、自分から取りに行くものなんだけど、

  診察っていうのは、どちらかというと受け取る力の方が大事だと思っているんだ。

  

  受け取る力はつまり、自分にレセプターをどれくらいつけておけるかってことで、

  そのレセプターが鑑別疾患をどれくらい考えられているか?ってことなんだ。


  ある人はレセプター生やしまくりだけど、ある人はレセプターなしかもしれない。

  そうすると、その患者さんから受け取る情報って全然違ってくるんだよね。

  

  じゃあ、N先生どう?」


N「そうですね。

  大動脈解離は外せないです。

  ただ、もう造影CT撮られているので、違うかもしれませんが、

  それでも、もう一回自分で造影CTを見直したいです。

  あとは膵炎とか、胆嚢炎とか、圧迫骨折とかですかね。」



T「いいですね。たくさん鑑別があがりますね。

 たくさん鑑別をあげられるようになったら、次にすることは、

 優先順位をつけることです。どうですか?」


N「must r/oは大動脈解離ですね。

  most liklyは膵炎や胆嚢炎ですかね・・・

  possibleは圧迫骨折とか・・・」


T「less likelyはシマウマ探しでもいいよ」


N「じゃあ、両側の帯状疱疹で」


T「なるほどね。

  自分ならmust r/oは大動脈解離と共に急性硬膜外血腫を挙げます。

  なぜなら、造影CTで実は見えているのに見落とされることが多い疾患だからです。

  みなさん、背部痛の時に大動脈解離は思いついて、造影CT撮りますよね。

  大動脈解離がなかったら安心してしまいがちですが、

  実はよく見ると硬膜外血腫は写っていることがあります。


  もちろん、他のSMAが裂けていないか、腎梗塞がないか、を見ることも大事ですが、

  硬膜外血腫については、見るべき範囲が狭いので、狙っていないと絶対に見落とします。


  なので、大動脈解離を鑑別にあげたら、一緒に急性硬膜外血腫も鑑別にあげる癖をつけましょう。


  most liklyは圧迫骨折です。

  骨折によって神経根が潰されたりして、神経根症状がでる人がいます。

  possibleはありません。


  じゃあ、診察してみましょう。」









診察では自発痛は両側の肋骨弓下にあるが、圧痛はどこにもなし

背部痛なし 腹痛なし

脊椎巧打痛なし

動作で痛みの増強なし

皮疹なし


ディスカッションポイント②さあ、どうしましょう?


T「困りましたね。痛がっているところを押しても所見がないようです。

  動作でも痛みは悪化しないみたいですね。

  これでは、筋骨格系の痛みとも言い難いですね・・・


  みなさんならどうしますか?」


学「血液検査でアミラーゼとかみたいです。」


R「上がっていませんでした。」


学「うーん、そしたらロキソニン出して帰宅にしてしまいそうです。」


S「USを当てて、胆嚢や膵臓のところを確認したいです。」


T「わかりました。では質問を変えます。

  みなさんなら、この状況で何と仮定して動きますか?


 〇〇と仮定して△△する。っていうのを考えてください。


 こうやって何かに仮定することって非常に大事です。

 何も仮定しないと、時間がたった時に自分の思考があっているのか、

 間違っているのかがわからないですし、

 自分の思っていた経過と違った時にもう一度、考え直すことができます。」


S「自分なら急性硬膜外血腫と仮定して、入院してMRIを撮ります」


T「なるほど、いい答えですね。

 自分ならMRIの前に神経診察を追加して、

 氷を使って冷覚の左右差やラインが引けるような感覚障害がないかを確認します。


 他はどうですか?」


聴衆 シーン・・・


T「まあ、難しいですよね・・・


 自分の仮定はこうです。

  

 セレコックスによる消化性潰瘍と仮定して、PPIを処方します。

 セレコックスは中止します。改善がなければ胃カメラを予約します。

 もしくは本人にこの場で説明して、胃カメラの予約をとります。



 さあ、実際はどうでしたか?」


R「はい。

  この状況では両側というのが変でしたが、

  帯状疱疹と仮定して様子を見てもらうことにしました。

  カロナールが頓用だったので、提示内服にしてみたり、

  帯状疱疹であれば温めると和らぐので、温めてみては?と提案しました。」


T「なるほど。ありですね。 

  大事なのは、その仮説があっているかではありません。

  もちろん、仮説があっていれば素晴らしいのですが、

  臨床の現場では、100発100中で当てるのは難しいです。


  何より大事なことは、自分の中で仮定を立てることです。

  

  結局、どうなりましたか?」


R「結局、数日後に吐血して救急搬送されてきました。  

  内視鏡検査て胃内に多発する潰瘍がありました。

  セレコックスによる消化性潰瘍と診断されました。」


T「何と・・・そうでしたか・・・

  やっぱりセレコックス怖いですね。」


N「どうして先生はこの仮説にたどり着いたのですか?」


T「自分がなぜこの仮定にたどり着いたかというと、

  最初は筋骨格系の痛みかと思っていましたが、

  どこを押しても痛くないこと、

  動かしても痛みが誘発されないことから、筋骨格系の可能性が下がりました。 

  

  そして、造影CTでnegativeだった時の背部痛として、

  消化性潰瘍と急性硬膜外血腫(や脊髄炎)があがります。

  

  急性硬膜外血腫を一番に仮定するかは悩みますが、ここは文脈が大事です。

  この人は2週間、セレコックスを内服していました。

  そして予防としてPPIではなく、レバミピドを内服していました。


  これでは予防がイマイチです。

  

  そして、自分も全く同じ経験をしたことがあります。


  50歳代の女性の圧迫骨折に対して、セレコックスを1ヶ月処方したら、

  吐血して出血性胃潰瘍で入院となってしまいました。


  その時はセレコックスは消化性潰瘍リスクが少ないから、

  PPIはいらないだろうと思っていましたが、

  セレコックスでも(当たり前ですが)消化性潰瘍は起きるのだ、

  と改めて反省しました。


  そういう経験があったからこそ、この症例ではセレコックスによる潰瘍の仮定を立てられたのだと思います。」



R「今回はセレコックスだし、潰瘍のリスクは少ないよな・・・

  しかもレバミピドも入っているし、大丈夫だよな・・・と思ってしました。


  さらに造影CTまで事前に撮られているので、あとは筋骨格系しかないかな・・・

  というバイアスがはじめからあったのが、いけなかったと思います。」


T「そうですね。

  こういう症例を経験すると・・・


  やっぱりセレコックスも消化性潰瘍のリスクはあること

  レバミピドでは何の役にも立たないことが、改めて認識できたかと思います。


  とても勉強になる貴重な症例ありがとうございました。」


まとめ

・造影CTがnegativeだった時の背部痛は?

→急性硬膜外血腫と消化性潰瘍!


・セレコックスでも消化性潰瘍のリスクはある

→特に潰瘍の既往や高齢者では特に。PPIを併用するべし


・診断がわからない時は仮定を立てることが大事

→迷ったら現病歴に戻る



〜おまけ〜

セレコックスにPPI追加したほうがよいのか?に関連した論文


Athritis Rheum . 2007 Jun 15;57(5):748-55.  doi: 10.1002/art.22764.

Do proton-pump inhibitors confer additional gastrointestinal protection in patients given celecoxib?

→セレコキシブ単独(1161508名)より、セレコキシブ+PPI(360799名)の方が上部消化管疾患による入院は有意に少なかった(HR:0.69)  

サブグループ解析では、PPI併用は75歳以上で利益があったが、66-74歳では有意差なかった。  結論:75歳以上ではセレコキシブにPPI併用した方がよい。 66-74歳では必ずしも必要ない


Chan FKL et al. Combination of a cyclo-oxygenase-2 inhibitor and a proton-pump inhibitor for prevention of recurrent ulcer bleeding in patients at very high risk: A double-blind, randomised trial. Lancet 2007 May 12; 369:1621-6.

→PPPI併用療法は、リスクの高い患者の潰瘍出血の予防にセレコキシブ単独よりも効果的。主要評価項目の13か月の累積発生率は、併用治療群で0%、対照群で12(8・9%)

Arthritis Res Ther. 2013; 15(Suppl 3): S5.

Chan FK, Hung LC, Suen BY, Wu JC, Lee KC, Leung VK, Hui AJ, To KF, Leung WK, Chung SC, Sung JJ. Celecoxib versus diclofenac and omeprazole in reducing the risk of recurrent ulcer bleeding in patients with arthritis. N Engl J Med. 2002;15:2104–2110

Lai KC, Chu KM, Hui WM, Wong BCY, Hu HC, Wong WM, Chan AOO, Wong J, Lam SK. Celecoxib compared to lansoprazole and naproxen to prevent gastrointestinal ulcer complications. Am J Med. 2005;15:1271–1278


まとめ

・セレコックスは他のNSIDsよりは消化性潰瘍のリスクは低いが、

 高齢者や消化性潰瘍の既往があれば、消化性潰瘍のリスクはある

 →そういった人はPPIを追加することを検討


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