2022年8月24日水曜日

慢性〇〇の考え方

 慢性に続く病態は色々ありますが、急性に比べて鑑別が膨大であり、

系統だって鑑別をあげるのが苦手な人もいるのではないでしょうか?


例えば、不明熱は慢性炎症ですし、慢性髄膜炎、慢性関節炎、慢性下痢など

慢性と名のつく症候群は、鑑別から診断に辿り着くのが難しいことが多いです



慢性に続く病態に出会った時の考え方について、自分の頭の中を開示します

あくまで一例ですので、参考にできるところだけ参考にしていただければ幸いです


解説動画


慢性に続く病態で多いのは、感染症、免疫異常、腫瘍の3つです



①感染症のカテゴリー

ここではいつもの感染症の原則が大事になってきます


(1)患者背景:さらにここで3つ、免疫状態・曝露・余力

(2)感染部位

(3)原因微生物

(4)治療

(5)適切な経過観察





慢性〇〇であっても感染症が鑑別になるのであれば、

この5つから逃れることはできません


慢性に続く感染症といえば、

(1)患者背景:DMの人、HIVの人、免疫抑制剤使用中 

       →こういった背景の方は、普通の感染症が長引くことがあります


(2)感染部位:中枢神経感染症はCRPが0のこともあり、発見が遅れることがあります

        全ての臓器の膿瘍、筋骨格系感染症、

                         感染性心内膜炎、大動脈など

      フォーカスがはっきりしない部位が慢性になりやすいです


       →熱源が不明の感染症の熱源探しの方法を参考にしてください


                     

                  



(3)原因微生物:なんと言っても結核です 

         結核はどこまでいっても除外が難しいので、頭の片隅に常に置いておきます


         結核を鑑別に考えた場合、

         NTMや真菌もクラスターとして一緒に考える必要があります

         クリプトコッカス、カンジダ、アスペルギルス、ムコール、コクシジオイデスなど


         あとは血管が好きな梅毒やサルモネラなんかもあり得ます


         IEになってしまった場合は、どんな微生物でもありです


         ウイルスでいえば、EBVが代表的です

         寄生虫ももちろん、鑑別になってきます



慢性病態では、感染症をとことん考えることが重要になります


特に感染性心内膜炎は慢性に続く感染症の入り口のような病気で、行き着く先は結核です


その中に多くの鑑別疾患があるというイメージを持っています





②免疫異常のカテゴリー


免疫といえば、

局所免疫や自然免疫、細胞性免疫、液性免疫、補体、サイトカインなど

免疫に関わるものは、色々ありますが、ここでは「ざっくり」で考えます


(1)自然免疫系の病気(自己炎症性疾患)

(2)獲得免疫系の病気(自己免疫性疾患)

(3)リンパ節腫脹+α


この3つに分けると、頭の中が整理されます


(1)自然免疫系の病気(自己炎症性疾患)


好中球やマクロファージが活性化して、燃え上がるようなイメージの病態です

結晶誘発性の関節炎やAOSD、ベーチェット、家族性地中海熱といった疾患です


血液検査でマーカーとなるような抗体は見られず、

病歴や診察が診断根拠になることが多い疾患群です



(2)獲得免疫系の病気(自己免疫性疾患)


抗核抗体を測定すると、ヒントになることが多い病態です

ANA関連疾患と呼ばれ、SLE、SS、PM/DM、SSc、MCTDなどがあります


もちろん、獲得免疫系の病気も自然免疫の異常もきたしているので、

クリアカットに分けることができませんが、あくまでメイン病態がどこか?という分け方です



(1.5)中間に位置する疾患

関節リウマチはACPAやRFといった項目を測定できます

ANCA関連血管炎やRAはやや獲得免疫よりに位置しています


脊椎関節炎や大血管炎、PMRは診断につながるような血液検査で測定するものがなく、自然免疫よりに位置しています


(3)リンパ節腫脹+α


非腫瘍性のリンパ増殖性疾患とサルコイドーシスと
IgG4関連疾患がメインになります


非腫瘍性のリンパ増殖性疾患では、
菊池病、キャッスルマン病、POEMS、TAFRO、MTX-LPDといった疾患が挙げられます



免疫異常の場合も感染症の原則と同じように考えることができます

違うのは、原因が微生物ではなく、自分の免疫であるということです


(1)患者背景:年齢や性別が免疫異常には重要になります

(2)障害部位:各疾患ごとに障害されやすい臓器があります

(3)原因の免疫異常:どの細胞、悪さしている抗体、何のサイトカイン、補体の関与

(4)治療:(2)と(3)がわかれば、使う薬も決まってきます

(5)適切な経過観察:これはどの病態の治療でも大事です



③腫瘍のカテゴリー


(1)リンパ腫

(2)MDS/白血病

(3)その他


の3つを考えます


(1)リンパ腫

リンパ腫の場合、原因となった細胞や遺伝子異常などで分類が細かくされています


臨床で重要なのは、

塊を作っているか、作らないタイプかに分けることです(國松先生より)


塊を作るタイプの普通のリンパ腫であれば、画像や診察で見えていますので、

生検すれば診断がつくことが多いです


問題は塊を作らないタイプです

有名どころでは、IVLです


「砂」をイメージしてもらえれば良いと思いますが、

腫瘍細胞がサラサラの砂のように、血液中を移動していきます


そして、狭い血管で詰まって症状を出したり、出さなかったりします


狭い血管に潜んでいるリンパ腫細胞を探しますので、

IVLを疑った場合は、ランダム皮膚生検が行われることが多いです


ただ、IVLが有名になってきたため、

不明熱→IVL疑い→ランダム皮膚生検の流れが、閾値低く行われすぎている印象です


不明熱に手当たり次第、皮膚生検を行うのはナンセンスです


そこで、「どんな人にランダム皮膚生検をすべきかどうか」という臨床的疑問を

解決しようとしてくれた素晴らしい研究があります


 2019 Mar 14; 133(11): 1257–1259.




これは亀田の先生方が出されたスコアで、更なる検証が必要ではありますが

ランダム皮膚生検をするか迷った時につけてみると、参考になります




IVL以外の塊を作らないリンパ腫は、

他の実質臓器に潜れこんだり、画像で見落としやすい部位に隠れるタイプです


肝脾原発のリンパ腫や皮膚T細胞性リンパ腫、鼻型NK/T、咽頭、中枢神経原発などです



(2)MDS/白血病


MDSやHTLV1は白血病へ移行することがあり、

さらには免疫異常もきたすことがあり、注意が必要です


MDSの場合は、トリソミー8症候群が重要であり、

トリソミー8があるだけで、免疫異常をきたすことがあります


(3)その他

腎癌が有名ですが、炎症や熱だけではなく、

さまざまな症状(皮疹、関節痛など)をきたすことがあります


腫瘍による骨転移や播種性骨髄癌腫症があると、

まるで血液疾患のように白赤芽球症をきたしたり、汎血球減少をきたすこともあります


                  


この図のいいところは、
それぞれのカテゴリーから漏れてしまうところをカバーしてくれることです


例えば
①感染+②免疫異常
①感染+③腫瘍
②免疫異常+③腫瘍

というように、それぞれが合わさった病態があります


例えば、
①感染+②免疫異常=
反応性関節炎、リウマチ熱、パルボウイルス感染、COVID19、MIC-S、GBS(ギランバレー)など


①感染+③腫瘍=CAEBV、HIV/AIDS/リンパ腫など


②免疫異常+③腫瘍=
MDS関連(血管炎、ベーチェットlike、VEXAS)、トリソミー8症候群、
血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma :AITL)に伴う自己免疫疾患
HTLV1関連疾患(HAM、関節炎)
paraneoplastic syndrome(傍腫瘍症候群)など



まとめ
・慢性病態の時には、①感染症、②免疫異常、③腫瘍の3つのカテゴリーと、
①+②、①+③、②+③のカテゴリーで考えてみる

・感染症の原則は、全てのカテゴリーでも応用できる

<感染症>

(1)患者背景:免疫状態・曝露・余力

(2)感染部位

(3)原因微生物

(4)治療

(5)適切な経過観察


<免疫異常>

(1)患者背景:年齢や性別が免疫異常の疫学には重要

(2)障害部位

(3)原因の免疫異常:どの細胞、悪さしている抗体、何のサイトカイン、補体の関与

(4)治療:(2)と(3)がわかれば、使う薬も決まってきます

(5)適切な経過観察



<腫瘍>

(1)患者背景:年齢や性別が腫瘍の疫学には重要

(2)発生部位と転移部位:いわゆるstage

(3)原因の細胞:どの細胞が腫瘍化したのか、遺伝子異常の有無、EBVの関与、ホルモンの関与

(4)治療:(2)と(3)がわかれば、治療法が決まってきます

(5)適切な経過観察




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