2022年10月8日土曜日

心臓の外側を考える


 

タイトルもう少し頑張ろうよ 笑


という結論で終わりましたね 


ですが、まさに途中で考えを切り替えるが大事な症例でした


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50歳 女性  主訴:呼吸苦、胸痛(胸膜痛)


Profile:1年前に喘息と診断されICS/LABAの吸入薬を使用中

    アレルギー性鼻炎、肥満、DL、うつ病があり、抗ヒスタミン剤、抗うつ薬内服中


現病歴:最近、コロナワクチン3回目のワクチンを接種した

    1週間前から胸膜痛と呼吸苦が出現

    喘息の悪化と思い、吸入薬で対応したが、悪化傾向

    胸痛は背部に放散する痛み

    体動では悪化見られず

    胸痛と呼吸苦の悪化で救急外来を受診


ROS:体重減少なし、発熱なし、寝汗なし、関節痛なし、嗅覚障害なし、味覚障害なし

起坐呼吸なし、夜間発作性呼吸困難なし、皮疹なし

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(私的コメント)

1年前から間欠的に胸部違和感と呼吸苦が出現し、喘息と診断された50歳女性


 

・やや高齢発症の喘息?


→何もないかもしれないが、

「実は背景に何かある」と思って構える



間質性肺炎、COPD、アレルギー(アスペル、真菌、きのこ)、過敏性肺臓炎、PE、心不全、薬、EGPA

RP、腫瘍、気管支結核、カルチノイド症候群・・・



喘息の鑑別は多岐に渡ります



考え方としては、


①喘息っぽいプレゼンテーションや音だけど、

 普通の気管支喘息ではないもの



心不全の喘鳴は「心臓喘息」と言われるくらい喘息と鑑別がつかないことがあります



肺塞栓も気管支喘息様のプレゼンテーションで来ることもあります





急性の肺塞栓はまれに喘鳴がする場合があり、喘息と間違えられますが、

慢性の肺塞栓も喘息と間違えられます





肺塞栓は命に関わるので、見落としたくはありませんね



一方、感染対策としては結核も見逃したくはありません



気管支結核は難治性の喘息として、

治療されてしまい診断が遅れることがしばしばです










何かがおかしい喘息を見たら、
まずは気管支結核を思い浮かべることが重要です




難治性の喘息といえば、vorcal cord dysfunctionですね


喘息を合併することもあり、時に診断が難しいです






突然死することもある再発性多発軟骨炎も注意が必要ですね






②本当に気管支喘息だが、喘息を引き起こす背景疾患があるもの



有名どころでは、EGPAやABPM(特にアスペルギルス)ですね



まれなところだと、カルチノイド症候群とかも喘息発作を引き起こします






トリビア的なものだと、きのこ(スエヒロタケ)ですね






 


とまあ・・・



喘息にみえるけれど、喘息じゃなかったー!という症例報告は枚挙にいとまがありません



全てをはじめから検索する必要はないと思いますが、

「何かおかしい・・・」と感じたら、色々鑑別を広げて考えていきましょう




今回の症例に戻ると、

49歳で初めて喘息と診断された50歳女性の1週間から呼吸苦と胸痛です


# 呼吸苦


喘息でよいのかは、音を聞いたりしないとわかりません

胸膜痛もあることから第一印象は肺塞栓ですね




# 胸膜痛・背部への放散 


胸膜痛ということは心膜炎や胸膜炎が起きているのでしょう


胸膜痛の鑑別は肺塞栓、septic emoli、肺炎・胸膜炎、肺がん、胸皮腫、結核性胸膜炎、気胸・・・


心膜炎・心嚢水(タンポ)の鑑別は、ワクチン後、心筋梗塞後、ウイルス性、薬剤性、リウマチ、ANA関連疾患、AOSD、悪性腫瘍、結核・・・



まだこれだけでは絞りきれませんが、

肺塞栓を自分なら真っ先に疑うと思います


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身体所見


体温37.2℃,心拍数101回/分,血圧133/68mmHg,呼吸数20回/分,酸素飽和度95%(室外気)


鼻ポリープなし 

→ アスピリン喘息の時にみられやすいです


触知可能なリンパ節腫脹はなし 

→結核性リンパ節炎や腫瘍の転移などを意識?



聴診では、喘鳴やラ音はなし 

→喘息の可能性や肺炎は下がりました


心雑音や摩擦音、ギャロップはなし 

→心膜炎は心嚢水が少量の時は摩擦音が聞こえますが、多くなると聞こえなくなってきます


頸静脈圧は約7cm →緊張性気胸や肺塞栓、心タンポぽくはないと言っていますね



他、異常なし


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コメント


貧血の所見は見たかった・・・


まだ鑑別は肺塞栓が上位

JVP の所見だけでは除外は難しい


ECGUCGを早めに行いたい

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血液検査

 

Dダイマー陽性、トロポニン強陽性、CRP高値、好酸球著明高値(5820)


心電図異常なし・・・


# トロポニン上昇

# 縦隔リンパ節腫脹

# 好酸球高値 


 EGPAhyper eosinophilic syndromeHES)、Loffler(心膜炎心筋炎)

寄生虫、ABPA、結核、急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎、肺塞栓、肺がん、ドレスラー症候群が鑑別



EGPAかHESによる心筋炎でしょう


HESに伴う心筋障害はLöffler 心内膜心筋炎と呼ばれます




Löffler 心内膜心筋炎は脳梗塞を発症しやすいので注意が必要です








臨床では時折みられるピットフォールを一つ紹介します



派手な異常に引っ張られて、その原因をひたすら考えてしまうことです



好酸球増多の原因は何か???


と躍起になっている間に心筋障害が出現しまった・・・




逆もあります




心筋障害に引っ張られて、好酸球増多を見逃してしまった・・・


(今回のケースは若干、そのような印象を受けました

 だからこそ、あのようなタイトルなのでしょう)




好酸球増多以外の例では、


食思不振、低栄養の人の原因精査に躍起になっていると、

結果として起きているビタミン欠乏(wernicke脳症、ペラグラなど)を忘れてしまうこともよくあります





原因と結果の両方に目を向けることが重要です




イメージはドミノ倒しです



たくさんの症状を持った患者さんは、

倒れたドミノが散らばっているような状態です



頭の中では「いくつの病態ドミノが倒れているのか?」を考え、

「どの順番にドミノが倒れていったのか」を考えています



診断と治療はこのドミノを巻き戻す作業に似ています



自分は「ドミノ理論」と言っていますが、

志水先生はHorizontal-Vertical Tracing(HVT)と仰っていますね




今回の病態ドミノは


①好酸球増多の何らかの原因がある:EGPA、HES、寄生虫、薬剤、腫瘍など


②喘息発作が出現した


③好酸球増多が悪化:ワクチンも誘引だった可能性は否定できない


④好酸球増多に伴う心筋障害が起きた:HESであればLöffler 心内膜心筋炎


⑤心筋炎の結果、胸痛や心不全徴候によって呼吸苦が出現した





という仮説を立てました




いつも口を酸っぱくして言っていますが、

「この患者さんは、

 このタイミングで、

 この病気になるべくして、なっている」と考えるようにします



大事なのは、間違っていていもいいので仮説を立てることです


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症例に戻ると・・・



トロポニンが上昇しており、何らかの心筋障害が疑われました


まずは、冠動脈疾患が疑われ、冠動脈CTが撮影されましたが、

冠動脈CTでは閉塞起点はありませんでした



→いわゆるMINOCAですね




MINOCAの場合、冠動脈攣縮か心筋炎が2大鑑別になります



今回は造影MRIにて心膜炎・心筋炎の可能性が高いという結論になりました


こうなると、先ほどの病態仮説の通り、好酸球が心筋炎の原因と考えるのが妥当です



心筋生検を行い好酸球性の心筋炎を証明したいですね




原因としてのEGPAの関与が疑われますので、ANCAをチェックしたり、

副鼻腔炎をチェックして生検を耳鼻科にお願いすることも重要になります




最近でたEGPAの分類基準もあります




Arthritis & Rheumatology Vol. 74, No. 3, March 2022, pp 386–392




新しい分類基準で6点以上をEGPAとしています



ただこの基準は分類基準で、 診断を目的としたものではありません


Vasculitis mimics (SSやRA)が除外され、小~中血管炎が診断された群に適用される基準です



HESや好酸球増多疾患からEGPAを分別するものでもありません




なので、この基準は小〜中血管炎が診断ついている症例で、

他の血管炎と区別するときに用います



血管炎の診断がない状態では、この分類基準に当てはまったからEGPA!

とはならないことに注意が必要です




診断のためには、どこかを生検して血管炎の証明を病理で行う必要があります




本症例では副鼻腔炎はありそうでしたが、生検できるような部位はなく、

他に生検すべき部位がなかったため、心筋生検が行われました









心筋生検にて小血管周囲の炎症、好酸球浸潤、肉芽腫が確認され、EGPAの診断がつきました


その後はステロイドが導入され、エンドキサンの治療も行われました

ですが、心嚢水が溜まってしまい、再度ステロイドが使われたり、
心嚢穿刺や開窓術が行われ、イムランやアナキンラを使って維持療法を行った


という症例でした


劇レアケースというわけでもなく、最初から鑑別にあげられるような疾患でしたね
最終診断よりも途中の頭の切り替えが大事な症例でした

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まとめ
・高齢発症の喘息は「何か基礎疾患があるかもしれない」というスタンスが大事
→本当に喘息の可能性と実は喘息じゃない可能性を考慮

・派手な異常に目を奪われない
→原因(EGPA)と結果(心筋障害)は目の前で同時に起きている






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