Profile:神経内科で右手のジストニアでフォロー中、ドパコール内服している
現病歴:もともとジストニアの影響で右手が動かしにくい
いつからかは不明だが、左下肢が動かしにくかった
来院当日、朝5時に動けなくなっている本人を息子が発見
トイレの中で尿失禁しており、動けなくなっていた
その後は、自分で歩行でき、walk inで救急受診
既往・既存:右手のジストニア
内服:ドパコール
生活:ADL フル、仕事もしている、喫煙:1箱/日、息子と生活
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ディスカッション①:他に聞きたいことは?
司会「はい、ありがとうございます。
この症例は早朝に息子さんに連れられて、歩いて救急外来を受診されたのですね?」
発表者「はい、救急車ではなく、普通に歩いてこられました」
司会「わかりました。では何か病歴でとりたいことはありますか?」
学生「意識状態はどうでしたか?」
司会「意識はずっとあったみたいです。意識を失ったりはしていません。」
学生「話す感じはどうでしたか?」
発表者「それは何を意図しているのですか?構音障害ですか?失語ですか?」
学生「う・・・」
聴衆「学生さんに厳しいな(笑)」
発表者「だって、質問の意図が分からなかったんです」
司会「僕にもこんな感じなので、気にしないでください(笑)
まあ、ここでは呂律不良があったかどうかでしょうか?」
発表者「呂律不良はなかったです」
司会「ありがとうございます。他にはどうですか?」
研修医「吐き気はありましたか?」
発表者「ありませんでした」
研修医「これまでに転んだり、外傷歴はありますか?」
発表者「ありませんでした」
司会「はい。ありがとうございます。
この病歴の中でとても気になることがあります。
この症例のkeyになるところですね。
それはどこかわかりますか?」
シーン
専攻医「いつからか不明というフレーズですか?」
司会「その通りです!
いつからか不明というのは、
患者さんが「いつからかって言われても、よくわからないなあ・・・」
といったのかもしれません。
自分の体の異変を正確に記憶している人の方が珍しいので、
本当に分からないのだと思います。
その時に我々は
じゃあ、しょうがないか、とあきらめてはいけません
聞き方を変えれば、いつが発症か分かる可能性があります。
さて、どうやって聞きますか?」
研修医「仕事をしている人であれば、仕事は出来ていたかとかですか?」
司会「そうですね、仕事している人であれば、その聞き方はいいですね。
もちろん仕事の内容の含めて聞きましょう。
発表者「仕事はしていたようですが、今はしているかは聞いていませんでした」
司会「わかりました。他にはどうですか?」
専攻医「新聞とか見ていたりする人なら、新聞をしっかり取りに行けていたかとかはどうですか?」
司会「なるほど、いいですね。新聞に限らず生活リズムに合わせて聞くのが大事です。
まとめると、
今までやってきたことやできていたことがあれば、
それが出来なくなったタイミングがないかを探るような質問をすることで、
発症時期が分かる可能性があります。
例えば、日課にしていた散歩とか、運転とか、趣味の体操とかです。
何かずっと続けていたことが終わったタイミングは、
もしかしたら体調の変化があったからかもしれません。
それらの時期が重なっているのであれば、それが発症時期なのでしょう。
病歴聴取において最も大事なことは、
いつまで元気であったかを明確にすることです。
なぜなら、時間経過が病態に直結するからです。
そして、上手な病歴聴取の方法は
今から遡って、症状が始まった時期を聞くのではなく、
もっとさかのぼって、元気だったときから聴取するのです。
つまり逆行性ではなく、前向性に聞きましょう!」
発表者「そういう風には聞けていませんでした。
ただこれまでに日常生活で困ってはいなかったようで、
本人に聞いても今も困っていないようです。」
司会「なるほど、
ということは日常生活はいつもどおり送れるくらい軽い症状だったのかもしれませんね。
では診察にいきましょう」
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身体所見
BP200/90、P94(reg/reg)、T 37.0、SPO2 97%
意識 清明
見た目 歩いて入室 少し左足をひきずるような歩き方をしている
心雑音なし 呼吸音 清
脳神経 問題なし
運動
MMT 腸腰筋 5/4
大腿四頭筋 5/4
他 5/5
ミンガツィーニ 左でやや下垂するが保持はできる
小脳 左手で指鼻指や回内回外がやや稚拙
不随運動なし
感覚 痺れなし 問題なし
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ディスカッション②:さて診断は?
司会「さあ、皆さん何を考えますか?」
学生「脳梗塞」
司会「はい、ありがとうございます。では他にはありますか?」
学生「脳梗塞」
司会「はい、ありがとうございます。脳梗塞に2票入りました(笑)」
研修医「脳梗塞」
専攻医「脳梗塞」
専攻医「脳梗塞」
・
・
・
司会「はい、ありがとうございます。脳梗塞に9票入りました(笑)
皆さん脳梗塞でいいですか?」
研修医「うーん、脊柱管狭窄症とか?」
司会「はい、ありがとうございます。他にはどうですか?」
専攻医「末梢のどこか」
司会「末梢のどこか!ってざっくりですね。
まあいいでしょう。10票分くらいですかね。」
専攻医「もともと右手のジストニアがあったので、それが左足にもきたとか?」
司会「なるほど。3票分ですね」
外科医「CO中毒」
司会「そうきましたか(笑)まあ、あるかもしれませんね。5票あげます。
他にはどうですか?ちなみに僕の票は100票です(笑)」
専攻医「慢性硬膜下血腫とか?」
司会「その通り!はい、僕の100票はCSDHです(笑)
このプレゼンテーションはCSDHです。
高齢者が最近なんとなく歩きにくくて、
麻痺といえないくらいの下肢の脱力で来ます。
そして脳梗塞にしては、部位がよくわからない。
こんな時はCSDHのことが多いです。
さて最後にスタッフの先生に聞いてみましょう」
スタッフ「これは頚損ですね。
もともと首が狭くて、軽い外傷契機に脊髄がやられたのだと思います。
なのでCTとっても骨折はなく、MRIで脊髄がやられているパターンの
非骨症性の脊髄損傷だと思います。」
司会「確かに!なるほど。それは大事な鑑別ですね。
頸椎損傷に1万票あげます。
頚髄損傷は忘れがちな疾患ですが、後々悪化することもあり、見逃したくはない疾患です。
この前も入院中の患者さんが転倒して、前額部をきって出血した人がいました。
その人はもともとある手の痺れ以外に、
意識障害や麻痺、頸部痛、頭痛はありませんでしたが、
一応、外傷機転もよくわからなかったので頸椎のCTをとりました。
CTでは頸椎の骨折はありませんでしたが、
もともと頸椎症の影響で脊柱管が狭くて、MRIにて中心性脊髄損傷がありました。
転倒した人全員に、頸椎のCTを撮れという意味ではありません
ですが、頸部痛がないからとか、麻痺がないからだけでは除外は出来ません
高齢者は上手に訴えることができないので、
頭部CTをとる時は必ず、
頸椎CTもとるかどうかを思い出す癖をつけた方がいいですね。
さて、実際はどうでしたか?」
発表者「なるほど。実際は左上肢の小脳失調を疑わせる所見があり、
血圧が高かったので、小脳梗塞や出血だと思って、CTをとりました。」
司会「なるほど、でもですね。
左手の小脳失調の所見ほど難しい神経診察はありません
左手の小脳失調の所見ほど難しい神経診察はありません
右利きの人の場合、左手が少し不器用なのはなんとなくみんなわかりますよね
特に高齢者はそれが顕著に出ることもあります
なので左手の小脳所見の異常には注意した方がいいです
左利きなのに、右手より不器用そうに動いたりするのであれば、異常としてもよいでしょう。
なので利き手の確認も重要です」
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経過
頭部CTにて、両側(右>左)の慢性硬膜下血腫が見つかった
脳外科コンサルト後、手術が行われ、すたすたと歩行できるようになった
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司会「はい、ありがとうございます。
やっぱりCSDHでしたか。
でも頸椎損傷は合併していてもいいので、気を付けたほうがいいですね。
CSDHを起こしているということは軽微な外傷はあったかもしれないということですから」
脳外科Dr「実はこの症例は後々聞くと、数日前から車の左側をぶつける自損事故を起こしていたみたい。
そして代車が来たんだけど、それもまた左側をぶつけてしまっていたらしいよ」
司会「なるほど、その病歴が最初に分かっていれば、左の半側空間無視とうことがわかり、病歴の時点で診断に近づけたかもしれませんね。
その病歴は、左下肢の脱力を逆行性に聞いても出できませんが、
いつまでいつも通り元気だったかという視点で、
運転という動作を前向性に聞いていくと、拾えたかもしれませんね
非常に勉強になる症例でした。ありがとうございました。」
脱力(力が入らない)時に考えるのは、
全身の問題か、局所の問題か、急性か、慢性かです
これにより、病態×解剖を絞れます
診察を追加し解剖がよくわからなければ、神経や筋に関わらない可能性があります
一番多いのは、高熱(敗血症、インフルエンザ)でぐったりしている場合です
冬であればインフルエンザで動けなくなる高齢者は非常に多いです
下肢の脱力と聞くと思い浮かべるのは、ミエロパチーです
ミエロパチーは落とし穴がいっぱいです
よくある間違いは、両下肢の脱力だからそこを支配している神経根や脊髄の病変だと思い、腰椎の検索だけ行ってしまう事です
脊髄の病変の場合は、脊髄内を走行している線維の解剖の特徴により、
頚髄や胸髄の病変でも下肢だけに症状がでることがありますので、
疑われるレベルの病変より上位は、病変部位として全て可能性が残ります
ミエロパチーを疑ったらやることは、
氷を使って、温痛覚の評価を詳細に行うことです
手でちょんちょんの触覚だけの評価ではダメです
まとめ
・病歴は逆行性ではなく、前向性に聞く
→いつまで元気だったのかを聞くことは、病態が何であるかに直結している
・高齢者のよくわからない下肢の脱力や歩けなくなったというプレゼンは、CSDHを想起する
→同時に頚髄は大丈夫?という思考の癖を身に付ける
・ミエロパチーを疑ったら、レベル形成の感覚障害を氷を使ってチェック
→手でちょんちょん触覚チェックではだめ
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