Profile:DM・DL・HTで治療中、OAによる膝の痛みはあるがADLフル
現病歴:来院の3日前から徐々に後頚部痛が出現した
特にきっかけはなかった
頸部痛はあったが、普通に生活できていた
徐々に後頭部にも痛みが出現してきた
左右差はなかった
頸部痛が改善せず、救急外来受診
ROS:発熱なし、嚥下時痛なし
既存症:DM・DL・HTで治療中、OAあるが無治療
内服:メトグルコ、ジャヌビア、カンデサルタン、アトルバスタチン
生活:ADLフル
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ディスカッション①:ここまでで何を思い浮かべる?
ボス「ここまででどう考える?」
学生「後頚部痛や頭痛なので、SAHや髄膜炎、crowned dense syndromeを考えるかと思います」
ボス「そうだね。
それも鑑別にはなるけど、もう一つは後頭神経痛だね
後頭神経痛はとってもコモンな疾患なんだ
後頭神経痛は外来やってるとたくさんいるよね?」
T「そうですね。
後頭部や後頚部の筋肉の緊張が強いと、そこを貫通する後頭神経の絞扼が生じて、
後頭神経痛に至っている人はたくさんいますね。
後頭神経痛は筋緊張性頭痛と兄弟みたいな感じの疾患です。
出世魚的な感じの疾患と言っていもいいかもしれません。
筋緊張性頭痛→後頭神経痛合併→眼痛までくる(三叉神経痛:CTRを介して)」
→CTRに関してはこちら参照
ボス「後頭神経痛と筋緊張性頭痛はいとこみたいってことだね。
じゃあ、フィジカル聞こうか。」
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バイタル 体温36.8度、血圧140/80、脈88、SPO2 96%
見た目 痛みのため、ややつらそう
頭部や顔面は正中に固定されている
話しかけると眼球を動かして、応対される
普通にコミュニケーションとれて、意識は清明
少しでも頸部を回旋させようとすると痛みが生じる
後屈や前屈は回旋よりは可能だが、痛みはある
項部硬直やケルニッヒ徴候みられず
両側の後頭部から後頚部にかけて広い範囲で自発痛と圧痛あり
右の大後頭神経のトリガーポイントにも圧痛点あり
肩甲挙筋にそった圧痛もあり
頸椎正中に圧痛は目立たず
皮疹なし
心雑音なし
下腿浮腫なし
脳神経学的に異常所見なし
血液検査 WBC12000, CRP4
Cr0.9, 他、肝酵素上昇なし、CK上昇なし、電解質異常なし、Mg正常
CT 頭蓋内出血なし 環椎軸椎関節に石灰化あり
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経過①
血培採取の上、CDS(Crowned dense syndrome)疑いにてNSAIDsとPPIが開始となった
痛みが強かったため、入院で経過観察となった
翌日には頸部痛は改善傾向であり、少しずつ回旋できるようになってきたが、
後頭部痛や後頚部痛は残存していた
同部位に皮疹の出現はみられず
入院3日目、回旋はほぼできるようになってきた
だが、やはり右優位に後頚部痛が残存していた
血液検査で炎症反応は改善傾向
ただし腎機能が軽度悪化したため、NSAIDsは中止
カロナールで対応
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チーム内ディスカッション②:次の一手は?
T「CDSの診断は難しいよね。
画像で石灰化があったからといって、まったく確定診断にはならない
穿刺もできないしね
CDSは除外の上になりたつ疾患
だから、最初は化膿性の脊椎炎や椎間板炎も考えないといけない
それに硬膜外血腫や膿瘍も鑑別にあがる
でも経過をみるとやっぱりCDSでよさそうだけどね
さて、CDSとしてNSAIDsいれて改善傾向ではあるけど、まだ後頚部痛が残っている
どうしようか?何が起きていると思う?」
学生「うーん
やっぱりMRIとかで他の疾患を探しに行くべきでしょうか?」
T「それも一つの案だね
経過が悪ければさらなる精査が必要だと思ったけど、経過からはCDSでよさそうだけどね
CDSとしてまだ治療不十分の可能性があるから、NSIADsの代わりにステロイドを入れるかを考えないといけないね
でも診察では、明らかに筋肉の圧痛点があって筋膜疼痛っぽい痛みなんだけどなあ」
膠原病科Dr(リリースの達人)
「この人は、今回CDSになったことで後頚部の筋肉を動かすことができず、
筋肉が緊張状態にあって筋膜疼痛症候群と後頭神経痛を引き起こしたんだろうね
リリースしてみるのが一番効果あるんじゃないかな?」
T「そうしましょう」
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経過②
ということで・・・
僧帽筋と肩甲挙筋の間、肩甲挙筋と第一肋骨のファッシアが厚い部分にリリース
→頸部の回旋域がUP
まだ回旋Max時に痛みあり
胸鎖乳突筋の後面にもリリース
→多少改善
下頭斜筋や頭半棘筋にリリース
→多少改善
注射にて明らかに可動域は上がった、痛みも軽減された
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ディスカッション③:ボスの回診
学生「・・・・という経過になります」
ボス「へえ、リリース凄いね。
じゃあ見に行こう」
・・・回診・・・
患者さん「だいぶよぐなりまじた。ありがとうございます」
ボス「・・・??
あれ、粗造性の嗄声があるね。
嗄声に気が付いていた?」
研修医「え?嗄声なんですか?
気が付いていませんでした」
ボス「でも声が明らかにがらがらだよね。
僕の美しい声と比べてごらん(笑)」
T「(先生の声はうつくしいのではなく、うるさいだけですが・・・)
確かに粗造性の嗄声ですね・・・
気が付きませんでした。。。」
ボス「それに下腿の浮腫あるでしょ?non pitting edemaだよね?」
学生「・・・そうですね」
ボス「打腱器ある?
ほら、腱反射の弛緩相の遅延があるでしょ?
甲状腺機能低下症が偽痛風の背景にあるんじゃない?」
T「確かに・・・」
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ディスカッション④:レセプター
ボス「甲状腺はどうだったんだっけ?」
研修医「測っていません、明日チェックします」
ボス「見たでしょ?腱反射の弛緩?
僕が外来やっていると、甲状腺機能低下症だなあって思う人にであうと、
研修医の先生をよんで、これが腱反射の弛緩だよって伝えるんだ
そして、この人は甲状腺機能低下があるに違いない!
っていって採血するんだけど、
今まで全員、甲状腺機能低下症じゃなかったんだ(笑)」
T「??? え??
何の自慢ですか?」
ボス「なにが言いたいかというと、一つの所見だけじゃ診断できないんだ
甲状腺機能低下症ってBillewiczスコアっていうのがあるんだけど、
正直、ぜんぜんいけてない(笑)
臨床の場面で○○スコアが出てきた時って、
診断が難しいんだな・・・くらいに思っておけばいい
そんなことより、この文脈において、
あの患者さんの嗄声に気が付けるかどうかが大事なんだ
明日の甲状腺の結果もどうでもいい
診断力をあげるには、後出しじゃんけんでは絶対にだめ
前向きに想定することが大事
検査ばかりで診断していても、絶対に伸びない」
検査ばかりで診断していても、絶対に伸びない」
T「結局は身体所見って、レセプターの有り無しですよね
先生はもちろん、偽痛風の背景疾患の一つに甲状腺機能低下症があるというのを知識で知っています
だから、この患者さんのプレゼンを聞いた時点で考えなくても、
無意識に自動的に体から甲状腺機能低下症の
フィジカルをキャッチするレセプターが
にょきにょき生まれているんだと思います
無意識に自動的に体から甲状腺機能低下症の
フィジカルをキャッチするレセプターが
にょきにょき生まれているんだと思います
僕らにはそのレセプターがなかった
だから、嗄声に気が付けなかった
この症例の嗄声に気が付けないということは、
本当の甲状腺機能低下症の嗄声も見逃すという事です」
専攻医「診断が上手な人は、たくさんレセプターをもっていて、
患者さんに出会った瞬間に、僕らにはキャッチできない
いろんな情報をキャッチしている
いろんな情報をキャッチしている
僕らはまだまだ無意識でレセプターは生まれないから、
意識的にレセプターを作ってフィジカルを取りに行くしかないんでしょうね」
意識的にレセプターを作ってフィジカルを取りに行くしかないんでしょうね」
T「そうだね、一歩一歩だね。
はあ・・・でも魂抜けるほどショックだったね(笑)」
はあ・・・でも魂抜けるほどショックだったね(笑)」
・筋膜疼痛症候群は他の疾患に合併することがよくある
→今回はCDSに筋膜疼痛症候群が合併し、後頭神経痛まで至っていた
・身体所見のコツは全神経をすべての感覚に集中させること
→視覚だけではなく、聴覚も使う
・フィジカルレセプターをにょきにょき生やしてから、診察しよう
→最初は意識的に、だんだん無意識にいろいろ生えてくる
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